雪宮春夏です。
今回は一度に四話分まとめて投稿するのでどうぞご注意下さい。
タグにも記載して有りますが、この作品にはオリキャラ、及びオリ主は存在していません。
前世の情報などの捏造設定はありますが、現代においては全員が主要キャラです。
それではどうぞご覧下さい。
長い、長い夢を見ている気がした。
だけど、夢の内容は思いだせなかった。
「……キリト、起きなよキリト」
誰が、俺を呼んでいる。
それが俺の名前だと分かるのに。
「待って……くれ、もう……少し」
凄く……眠い。
「何言っているんですか、貴方は」
はっきりと聞こえた声に、朧気だった意識が鮮明になる。
パチリと目を開けようとして、視界が以前真っ暗な事に気がついた。
「……あれ?」
目を開こうとした。それなのに、おそらく事実として、開いていないように感じる。
暗闇の中にいるのではない。
何故かそう直感した。
「……ここは、どこだ?」
「地球です」
答えは殆どゼロ距離で。声のする方に顔向けてみても何も見えなかった。
しかしなんとなくその声は自分よりも頭上から聞こえる気がする。
一体これはどういうことだろうか。
はて、自分はそこまで低い背丈でも無かったのだけど。そうしこうして、今し方の声が、聞き覚えのあるものだったのを思い出した。
「あんたもしかして……アルテミスか?」
「……俺を知っているんですか?」
心なしか間があったが、俺はどこか納得感と、懐かしさから、彼の言葉の空白を気にすることなく声を弾ませる。
「そりゃあな。あんたとそのパートナーと、セレニティのあれこれはクイーンから聞いてるだけで面白かったし」
「クイーンに……? 因みにそのあれこれとは……いえ、それ以前に一つお聞きたいことがあるのですが」
いやに回りくどい言い回しをするアルテミスに俺もふと、思いついたことを尋ねた。
「あぁ。俺も一つ聞きたい。なんか何も見えないけど、明かりも何もつけなくて、不便じゃないのか?」
「……残念ながら、今は太陽も出ている明るい時間ですので、薄暗くはありますが、不便という程ではありません。それ以前に、今のあなたには視力が無いので何も見えないのだと思います」
ここで、肉体がないと言わなかったのがせめてもの情けなのかは、アルテミスには、分からなかった。
それ以前に、肉体がなく、声帯もないはずなのに意思疎通が出来ているという事実がまずアルテミスには理解の外の出来事だった。
おそらくサイコメトリーか、テレパスの一種であろう力を無自覚に使っているのだろう、目の前の宝石……いや、スターシードの持ち主に対してアルテミスは既に説明を放棄したい気持ちで一杯だった。
だいたいアルテミスとて、彼を取り巻く状況がどうなっているのか、訳が分からないのだ。
少し会話を交わした時点で、アルテミスの事を知っているのは分かったが、エーギルと名乗った彼が言っていた事は何も分かっていないのだ。
視力がないと、状況にあっているが全てではない事態の説明をされた相手が次の言葉を放つよりも前に、こちらの問いを投げかける。
「あなたは何者ですか?……そして、昨日何が起きたのか、分かっていますか?」
「俺は……昨日……?」
ふと、違和感を覚えた。
アルテミスは何を言っているのだろうと。
「昨日って、そもそも俺は……」
言いかけて、ぞわりと、己の中の違和感を自覚する。
俺の目覚める前の最後の記憶は月の王国に侵略する人々を止めきれなかった時のことだ。
月の王国の方には、かの王女達の不安を和らげようと、実兄である第一王子、エンディミオンが向かっていた。
侵攻する人々を止めようと、抜け道を通って、俺も月の王国へ向かったのだ。
だけれど。
(遅かったんだ……間に合わなかった……
そうだ。
あの頃は、俺は「私」と自分を呼んでいた。
ならばいつ、俺は「俺」と自分を呼ぶようになった?
ヒクリと、喉が鳴るようだった。
自分の記憶に空白があると、自覚した。
(「俺」って……誰なんだ?)
何も見えない。それがたまらなく、恐ろしいものに感じられた。
「ちょっ……!」
グルグルと思考がまわる中、どこか慌てた様子のアルテミスの声が耳をついた。
「落ち着いてくださいっ!」
「俺は……エーギルからあなたを託されたんです!!」
エーギル。その言葉に、思い浮かんだ姿に混乱に陥っていた思考が止まる。
はっと、吐息を零すと自然と、アルテミスの言葉から思考が数珠つなぎのように纏まっていく。
「……つまりエーギルは、
なら大丈夫だと、柄にもなく思ったのは少し楽天的だろうか。後から思えばこの時の俺のこの考えは、一種の防衛本能でもあったのかもしれない。
しかし、この時の俺は何も手がかりがないよりはマシな筈だ、と済ませたのだ。
「は?……空白の記憶?」
心なしか、問いかけたアルテミスの声がどこか上擦っているように感じた。
そこを敢えて気にしないように、から笑いと共に俺は答えた。
「あぁ、うん。……おれ、記憶がないみたいだ。今世の」
そう。この時俺はようやく、自身の記憶の欠落を自覚したのだった。