前回投稿時に書いていた新作を半ばもったいない精神で投稿します。
雪宮春夏です。
今回は一度に四話分まとめて投稿するのでどうぞご注意下さい。
しかしながら、律儀に全話の前書きを読んでいる読者は何人いるのだろうか。
とりあえずV編開始までは頑張りたいと思います。
次回の投稿までどれくらい時間が空くのかは考えないでください。(切実)
第二位王位継承者。
そんな存在が地球国にいたとは聞いたことがないと訴えれば隠されていたからなと返された。
王族を何故隠す必要があったのかと問えば、重臣達の考えなど分からないと返される。
本来の名を封じられていた事も、結局は、兄王子であるエンディミオン王子を格上とたてるための処置の一つだったのだろう。
別に敵対する気も、反逆する気も無いのになと嘯く彼には悪いが、然もありなんとこちらは納得してしまった。
本人には悪いが、その当時の重臣達の気持ちが理解できてしまったのだ。
本人の意志と、周囲の思惑は、当然異なるものだ。
本人にその気が無くても、その当時からこの気配を纏っていたのなら、祭り上げられる可能性は十分にあっただろう。
その見目が良ければ、尚のこと。
(いや、あの方が実の兄君ならば、間違いなく醜男ではない)
前世で何度も対面することとなったかの王子を思い起こし、一人頷く。
そんなアルテミスの内心など知る由もないかの人物は、それでと、いきなり核心を突いてきた。
「ヴィーナスは、見つかってるのか?」
思わず固まったアルテミスを誰が責められよう。
この御方が知らないのは自明であったが、それでもアルテミスは言いたかった。
覚醒直後に、強力なエナジーを感知してあなたと関わっていたこちらに、そんな余裕は未だ無いと。
そう、先だっての彼の発言通り、彼を襲撃した相手を放置するとしても、片付けなければならない問題はあるのである。
彼自身が自覚していない可能性が高いものの、現状彼の肉体の代わりとなっている宝石……否、彼の
幸か不幸か、彼のスターシードは現時点においては、常時、こちらが発見した時のような莫大なエナジーを放出している訳ではないようだ。
未だ状況把握だけでは安心が出来ないのは、この現状が彼自身が意図的に制御した結果か、否かが判別出来ないからだ。
彼が自覚する事で更に力を抑えられる可能性も十分にあるのだが、その逆も十分に考慮しなければならない。
そこでアルテミスは先だっての彼の状況、エーギルという名を出してまで彼を落ち着かせたあの一時を思い出した。
意識を失っていた本人には自覚がなかったのだろうが、アルテミスが彼の守護を任されていると名乗った、エーギルなる人物から彼の身柄を預かってから既に半日以上がたっていた。
彼のエナジーを始めに察知した地点、何らかの建築物があったと思われる場所は、今も何かが焼けた独特の匂いを放っているが、炎自体は鎮火されたのか、黄色いテープ……現代では規制線と呼ばれると後に知る代物が張られ、ちらほらと人が彷徨いていたので、遠目に見るだけに済ませた。
エーギルの話した敵対勢力にしろ、自分達と因縁のあるクイン・メタリアの一派にしろ、これほどの強力なエナジーを放つ存在を見つければ直ぐさま自らの力にしようとするのは自明の理だろう。
そしてそれは、まだ王女も、そして王女を護る戦士も誰一人見つけられていないアルテミスからすれば、絶対に防がなければならない事態であった。
だからこそまず、アルテミスがしなければならないことは、自分の、ひいてはそのエナジーを放つ彼の安全を確保することだったのだ。
そんな考えの結果から、アルテミスは一人、宝石状態の彼を首から提げたハンカチに隠したまま、右も左も分からず土地勘もない土地を彷徨っていた。
あわよくば、意識を覚醒させた彼が少しでも安全な場所に対する心当たりがあればという打算もあったのだが……現実は非情である。
こちらの落胆は幸か不幸か、五感の殆どを失った相手には悟られなかったようで、それでも、彼の情報を得ようとするこちらからの一方的なやりとりが続いた。
そんなこちらの態度に、彼は不満の一つも零すことなく、次々と情報を開示していく。
その警戒心の無さは、身内ならば眉をひそめるだろうが、なんの事情もつかめていないこちらとしてはただ有難かった。
しかし事態の核心を突くために、アルテミスが昨日のことを問いかけた直後、今まで静止状態だった彼のクリスタル……スター・シードに変化が生じたのだ。
最初は僅かな震えだった。
次いで、彼が思考に深く沈もうとすればするほどに僅かな光を……おそらくは漏れ出たエナジーを放出しながら、スターシードそのものも、大きく震え始める。
だが、変化はそれだけでは終わらなかった。
アルテミスが一番に焦燥に駆られたのは、それに呼応するかのように、地面が突然僅かな震動を始めたからだ。
無論、直ぐさま人が騒ぎ出すほどの震動ではない。
アルテミスはまだ知る由もないだろうが、現代の地震の規模で言えば震度一にも達するかどうかという微々たるものだった。
それを彼が感知したのは偏に何が起きても良いように、彼が自身の周囲の探知能力を上げていたからに他ならない。
「ちょっと……一体何が……!?」
しかし、それ以上にアルテミスの度肝を抜く光景は、直ぐさま起こった。
空気が変わった。
一言で表すのならばまさにそれだろう。
まるで思考に沈む彼に応えようとするように、地中から地表へ、何かの流れのようなものが、動きつつある。
それをアルテミスの探知能力が察したのだ。
それが何か、アルテミスには理解出来なかったが、同時に分かった事があった。
(まずい……この状態が続いて、更にあのスターシードからエナジーが漏れ出るようなことになれば……っ!)
無意識にでも、彼が求めようとした何かに、応えようとするように。
彼のスターシードはまるで蛇口の壊れた水道のように、無尽蔵にエナジーを放出する危険性があった。
(……なんとか、なんとかしないと!!)
アルテミスはすぐに思考を切り替えた。
敵に見つかる云々の前に、何が起こるか分からないからこそ、これ以上の事態の変化は望むべきではない。
見れば当人は、五感が働いていないことも相成り、完全に周りが見えなくなっているように見えた。
(なんとかして、彼を正気に戻さないと)
なんと声をかければよいのか。
逡巡も僅か。
選んだ言葉があれであったのだ。
さて、本題に戻ろう。
これほどの力を行使して起きながら、五感がまともに働いていないばかりに、当の本人は自分が何を起こしたのかも全く理解できていないのが現状である。
ここで下手に起きたことを打ち明けたとて、制御できるようになるかは定かでなく、寧ろ更に思考のドツボにはまり、悪化させる可能性の方が高いように思える。
(見たところこの人は、感覚で動くよりも思考を重ねるタイプのようだから尚更だ)
疑問符を浮かべているだろう本人を誤魔化しながら、アルテミスはこの現象に関してはしばらく口をつぐむことを決意したのである。