今月から連続で別作品を投稿しながらちまちま書いていました。
彼女のような移り気ながらも、途切れずに続けていけたらと思います。
それでもよければよろしくお願いします。
それではどうぞご覧下さい。
「いっそのこと、拾われてみるか?」
「はぁ?!」
突然落とされた言葉に、アルテミスは思わず声を荒らげた。
現状、アルテミスには行く当てがない。
彼の庇護下にある当人に心当たりになる場所も無い以上、目覚めたばかりのアルテミスに土地勘等というものは夢のまた夢の話である。
「拾われるって……誰にですか?」
そんな八方塞がりの状況下で対話していた相手から放たれた発言に、とりあえず問い返せば、本人はどこか気の抜けた声音で。
「誰って……ヴィーナスに」
そう……未だ在所の分からない筈のアルテミスのパートナーの称号を口にした。
ヴィーナスは見つかっているのかと問いかけたこちらに対して、アルテミスは返答をしなかった。それはこちらに伝える必要を感じていないともとれるし、関わるなという拒絶でもあるだろう。だがその一方でアルテミスには、明確な目的地を定めて動いているようには見えなかった。
身を寄せる心当たりが無いのでないかと思い至ったのはこの時だ。
だからこそ出過ぎた真似となるかもしれないと思いながらも提示した選択肢に、何故かアルテミスは目を丸くした。
「……ヴィーナスの居場所が、分かるんですか?」
「え?……アルテミスは分からないのか?」
もしや、おかしいのは自分の方なのかもしれない。
どうやってと問いかけに返ってきたのは、なんとなくという何とも頼りないもので。
よくよく聞くと方角や距離が漠然と分かるだけで、そこに辿り着く為の具体的な方法は分からないらしい。
歩けばその内着くだろうと何とも有難い言葉をいただいた。
「は?! 前世で会った事があるんですか!?」
「いや……会ってはいない。チラリと見ただけだ」
はっきりとそこにいるのがヴィーナスだと分かる理由は、前世で会った……基、見た彼女と「輝き」が同じらしい。
おかしな言い回しに違和感を覚え、微妙な表情を浮かべるが、視力の無いあちらには気づかれる事なく、その話題は流された。
無言で歩を進めるアルテミスに合わせて……と言っても、何も見えない、アルテミスが喋らなければ何も聞こえない状況ではここがどこで今が時間としては朝、昼、夜のどれかも分からないが、喋らないでいることには直ぐさま限界が来た。
嘗ての俺はそんなにおしゃべりだっただろうかと考えるが前世とは現在の状況が違いすぎて比較することすら出来ないだろう。
(どうしたもんかな……)
そっと声に出さないように意識しながら考える。
意識を取り戻した直後は混乱状態からかあらゆる思考を垂れ流していたがどうやら思考と話したい内容の選別程度は俺にも出来たらしい。
らしいというのはまだ完全に確信を持てないからだ。思考している内容も、しょうもない事が多いので、もしやアルテミスが敢えて相槌を打つ事なく流しているだけの可能性も否定出来ない。
だからこそ、零れても良いように小声を(心情的には)心がけているのだが。
(本当にどうなっているんだろう、俺の体……)
聞いた方が良いのではと言う予感はするものの、同時に聞きたくないという不安もある。
アルテミスが会話にあげないのを良いことにこちらも会話の種にしていなかったが、そろそろ議題としてあげるべきかもしれない。
しかし口を開く切欠もないまま、アルテミスの尋ねる言葉に合わせて大まかな方向を伝えていたらいきなりアルテミスの悲鳴があがって……次の瞬間、まるで大きな何かに押しつぶされるような圧力が襲った。
「わーっ! どいてどいてっっっ!!」
それは、紛れもなく前方不注意と言うものだった。
思わず悲鳴を上げて仰け反った物の、アルテミスが回避するよりもそれが落ちてくる方が早かったのだ。
どしゃっと音を立てて尻に敷かれたアルテミスは思わず悲鳴を上げて逃げ出した。近くの草むらに入り、漸く首にかけていたもう一人の……この場合一つのと言うべきか、同行者の存在を思い出してその無事を確認する。
見たところ、破損や欠損の類いは無い。
最も、これがスターシードであるなるば、人間の体で下敷きにされた程度の衝撃で、早々壊れるとも思えないが。
器であるスターシードが無事だとしても、心構え一つ無しに襲ってきた衝撃に対しては、ダメージを受けきれなかったのか、微かな呻き声のようなものがこちらに届く。
「ご無事ですか?」
「なん……とか」
おざなりなこちらの生存確認に、合わせるように、向こうも口数少なく答える。
ほっと息をついたこちらに、「何が起きたんだ……」と、呟きが漏らされたのは、それからすぐの事だった。
接触しようとしていたヴィーナス……その現在の姿は、確かに見た目だけならば嘗ての彼女とうり二つだった。
だが……。
(中身が……問題だ)
アルテミスは誰もみる人間がいないのを良いことに、ガクッと首を項垂れた。
幻想を抱いていたと言われても、こうなってしまっては否定は出来ない。
月の王国の王女を守るための四守護神のリーダー。
誰よりも気高く、美しい美の女神の化身。
その輝きは記憶を持たずとも変わることのないものと思い込んでいたが。
「真面目さが足りない……頼りない……ちょっと、先行き不安だな……」
(……いや、ちょっとではすまないかもしれない)
ガミガミと、この施設で勉学を教えているのであろう学者に怒られ、しょんぼりと肩を落としている少女の姿を外から窓越しに見つめながら、思わず呟いていた。
「………? だが、彼女で間違いないだろう? アルテミス」
遠方から認識できていた時点で、この近距離から分かっていても不思議はない。
分かっているが、周囲の状況が分からないばかりに少しばかりずれている応答をされて、更にアルテミスは肩を落とした。
「分かってますよ……分かってますけど」
双方の現状に改めて思いを向けて、涙を禁じ得なくなったアルテミスであった。