お待たせして、申し訳ありませんでした……!!!
他の作品も書けそうなものから順々に上げていきたいと思いますので、こんな私でもよければこれからもどうかよろしくお願いします。
どうやらヴィーナスが生まれ変わった少女、愛野美奈子には、好いた相手がいるらしい。
「信じられません。自覚が足りなすぎるんです。美の女神たる化身が……確かに昔からまぁ……あのような性格ではありましたけど……」
「なら問題ないんじゃないか?」
ブツブツとまるで何かに取り憑かれたのかのように愚痴を漏らし続けるアルテミスに対して、流石に呆れを隠しきれない。
だいたい記憶を失っているヴィーナスに対して、戦士の心得を説くのもどうかと思うし、それを元から戦士でもない俺に同調しろと言うのも支離滅裂だろう。
腑に落ちないというか、気に入らないと言うか……とにかく納得がいかなかった。
自分でも何故そこまで不満を抱いているのかがよく分からないまま、俺は苛立っていたのだ。
ヴィーナスが戦士であることは変わらない事実であるし、敵の脅威が迫りつつある今、彼女の記憶の有無に関わらず、戦士としての自覚を持たせ、戦場に立たせようとするアルテミスは正しい。
戦う力が無ければ殺されてしまうだけなのだから。
(分かっているのに、なんでこんな、気持ちになるんだ……)
その理由が分からないままに、ただ流されるしか、今の俺に出来ることはなかった。
戦士としての自覚はなく、前世の記憶も持たない愛野美奈子には、当然戦士として戦うための力も失われている。
そもそも、太陽系と呼ばれる惑星には、今自分達が立っている地球以外、生命が存在する環境下に無いというのが現在の常識だ。
大昔、まだ月の王国があった時には、月を守護する四守護神の戦士の守護星である惑星にも、多くの命や戦士達の眷属が存在していた。
それが死に絶えたのは、月の王国が滅び、地球国もまた滅亡したあの時と、無関係とは言えないだろう。
クイン・メタリアが原因なのか、守護戦士でありその惑星に存在するそれぞれの
とにかく、今重要なのは彼女が戦士としての力を持てないという事実だ。
しかしこれに関しては、既にアルテミスが解決策を用意していた。
「ア、アルテミス……それって……」
それに俺が気づいたのは、当然の事だった。
なぜなら
しかしそれを所持していたアルテミスは作り手に関する情報までは知らなかったらしい。
驚愕を隠せない俺の声音から何を勘違いしたのか鼻高々にそれが何なのかを解説してくれた。
曰く、先代の月の女王、クイーン・セレニティがコールド・スリープに入る直前にアルテミスに託した、セーラーヴィーナスが覚醒するまで、彼女が戦士として不自由なく戦えるようにするための道具らしい。
完全に覚醒する前のセーラー戦士達は自力でのコスチュームへの変身はかなりの力を消耗する可能性がある。
かといって、コスチュームを纏わない、単なる人間の体では力も使えなく、戦い…たとえ実践ではなく、訓練だったとしても、そこで積み上げてきた経験なども無くしている上に、敵の持つ能力によっては洗脳などにかかる危険性も否定できない。
それらを防ぐ為にも、セーラー戦士としての戦闘服、コスチュームへの変身の補助は必要であり、そのためにこの変身ペンには「月」の力が込められているのだそうだ。
正確には、金星の力を受信するためのクッションとして「月」の力が込められているのだが、おそらくわかりやすいようにクイーンがそうアルテミスに解説したのだろう。
相棒であるアルテミスがたとえ原理を知らなくても、変身ペン自体に必要な過程が組み込まれてさえいれば変身は出来るのだからそこは問題ないと言える。
次いでアルテミスが取り出したのは三日月を模した形をしたコンパクトミラーだった。
このコンパクトミラーは、クイーン曰く映したものの真実を映す鏡であり、同時に月の力をためることで悪しきものや穢れた力を浄化する特別な力を秘めているのだという。
本来、浄化や癒しの力を仕えるのは銀河に存在する数多のセーラー戦士の中でもほんの一握りであり、中でもその中で最上位と言われるのが月の王国を治める一族であり、その一族の持つ聖石、幻の銀水晶だった。
しかし現在における「幻の銀水晶」の正当なる所有者、プリンセス・セレニティには強固な封印が施されている。その力が狙われる危険性をなくすためだ。
そこでプリンセスがいない現状でも、悪しきものや穢れた力を浄化出来るようにするために、ヴィーナスにこの道具を与えて、戦士として戦わせるらしい。
(クイーンに頼まれて地球人でも扱えるセーラー戦士としての戦闘服、コスチュームへの変身を可能にする道具は前世に作ったことはあったけど、まさかこんな使い方をされるなんて……これ、他の守護神戦士達の分の道具も、同じように使われているのかな……)
そこでふと、俺は俺自身の脳裏の琴線が何かに引っかかるような感覚を覚えた。
(クイーンに頼まれて、作った道具がここで使われている? まさかクイーンは俺に頼んだ当初からここまでの未来を知っていて…………?)
まさかなと、否定を胸中で続ける内に、どうやら事態は動いていたらしい。
俺とアルテミスがのんきに話し込んでいる間に、愛野美奈子が受けていた学者の講義は終わり、彼女は現在の居住地へ戻ってしまったようだ。
彼女はどうやら今はひとりで何かをしているらしく、そこにアルテミスは介入の機会を見いだしたらしい。
この時代では記憶を失っているであろう主人との初めての邂逅になるだろうアルテミスは泰然とした様子で彼女に近づき……。
それを見守っていたはずの俺は気付けば再び強い衝撃に襲われた。
「起きて……起きてくださいっ!!」
語尾を荒いアルテミスの声に、俺は小さく声を上げた。
切羽詰まった様子で説明する彼の話しによれば、ヴィーナスが惚れた相手は妖魔なのだという。
「……それはまた」
あまりの状況に、二の句が継げない俺を半ば放置して、アルテミスは行動を開始するようだった。
そういえば、あの衝撃は一体何だったのか、とか。
相手が妖魔で戦いになると分かっているのに、身動きの出来ない俺をどうするつもりだとか……そんな口を挟む余裕は、無かったとだけいっておこう。
結果だけ話すとしたら、事件は解決したと言えるだろう。
自身の部屋に駆け込み、そこにあった寝台に倒れ、寝具に顔を埋める少女の、心に出来たであろう傷さえ顧みないならば、これ以上無いほど上々な結果だった。
「……僕のやり方は、強引すぎたかな?」
未だ記憶が戻らない主に、忘れられているままとは言え、従者として長く仕えているアルテミスにも思うところはあったのだろう。
まだ悠長にしているには時間の余裕がなかった事は間違いではなかったし、ゆっくりと全てを呑み込ませた上で、何の躊躇いも無く、敵を葬るには、今の少女にはあまりにも色々なものがかけていたと思う。
「アルテミス、君は彼女のパートナーとして、これからやっていくんだろう?」
彼の行動の正誤には触れずに、言葉をかける事が、今の精一杯だと、俺は思った。
「彼女は混乱している……これからが、君の腕の見せどころだろう?」
そろそろと近寄る白猫を、俺は無言で見守ることしか出来なかった。
「コードネームはセーラーV」第一話編、これにて決着となりました。
これから原作と比べて彼らがどのような道を辿るのか、ゆっくりとでも描いていけたらいいなと思います。