「─────『
暗闇の空間にて、ハイルダインはそう告げた。彼の言葉が暗闇の世界に響き渡ると共に、数人の男女の姿が浮かび上がる。
『────此方アリシア。「機竜」シリーズは順調に開発中、試作段階の「機刃竜」も最終調整を終えています』
『────此方ユーステクス。「新・竜機兵」の開発に着手。多少の妨害や証拠の隠滅もあり、未だ途中の段階だ』
『────此方ぁ、ヒガン。「複合竜」の開発はまずまず。順調と言えばまぁ順調やねぇ』
ハイルダインを含む、モンスターを利用し、禁忌の技術を利用する者達。彼等は異世界という影に隠れ、陰謀を限りを働かせていた。ハイルダインも、この世界で暗躍を繰り広げている真っ最中だ。だが、一つの問題が彼の頭を悩ませていた。
「三人とも、計画は問題無さそうだな………さて、俺から一つ本題に入ろう」
ギルドナイトに扮していた己が、殺し損ねたハンター。今も尚、自分の邪魔をし続ける彼の存在が目の上のたんこぶとなっていた。
「諸君もよく知る男────タスク・アイアスだが、奴を仕留め損ねた。その結果、奴はこの世界ともう一つの世界にも移動して来ている」
『仕留め損ねた、ねぇ。無理もないやない?あのタスク・アイアスやしぃ?』
『笑い事じゃない、あの男が動くなんて…………奴は俺達の存在には?』
「気付いているとしても、俺だけだ。お前達の存在は、絶対に漏らすことはない」
『…………良かった。お陰で気にすることなく、計画を進めることが出来ます』
「────俺の懸念がもう一つ。お前らが利用している国が、タスク・アイアスに接触を企んでいることだが」
三人の同胞から事前に聞かされた情報、彼等三人が利用している三つの大国が、タスクを欲しがろうと動いていることだ。『
それは、ハイルダインや彼等すら忌々しく思う程の欲深さだった。
「───奴等にはよく言い聞かせておけ。タスク・アイアスと『門』には手を出すな、と。破った国は、町一つ消し飛ぶと思え、とな」
此方が引き込んだ問題は、此方で対処する。部外者の奴等が美味しい思いをしたいが為に自分達の事情に割って入るのであれば、容赦はしない。そうだけ言い残し、黒幕達の定例会義は幕を下ろした。
「……………どいつもこいつも、俺の計画の邪魔をしてくれる」
タスクに、自衛隊。そして、異世界の住民。オマケ程度の大国の奴等。どれもが計算高いハイルダインの野望を引っ掻き回してくる。
皇女ピニャの暗殺も、タスクと自衛隊によって失敗した。帰還したセルドラやディーンに怒りはない。全てはアイツらが原因だ。どうやって彼等を処理し、計画を進展させていくか。
「帝国を利用するのも、厳しくなってきたな。ここは内部を撹乱させて掌握しておきたい。それならば、
「─────苛立ってるようだな、ハイルダイン」
突如、暗い影の指す部屋に別の声が響く。ソファに腰を掛けて頭を回していたハイルダインはその存在に気付いた。自身の目の前の影に隠れるように立つ、黒衣の青年に。
「……………話を聞いていたのか?居るなら返事をしろ」
「────タスク・アイアスって奴を殺すって?それは本気なのか」
「本気も本気。絶対にやり通さねば、計画の成就は為されない」
「なら、俺にやらせてくれよ」
ピクリ、と眉を動かすハイルダイン。彼の言わんとすることを理解しながら、青年は余裕と自信に満ち溢れた声を弾ませる。
「俺達の計画の邪魔になるタスク・アイアスも、ジエイタイも、全員俺が殺してやるから」
「─────お前が思っている程、楽な相手ではないぞ」
「大丈夫だよ。俺はお前が作った最高傑作の『
ギチギチ、と全身を膨らませる黒衣の青年。滾りを抑え切れない様子に、ハイルダインは溜め息を漏らしながら制止を促す。
「やるにしても今はダメだ。少し後になってから、お前に任せたい」
「────なんかあるわけ?」
「仲間からの情報だ。俺達の忠告を守らず、勝手に動く奴等がいるらしい。その中でも、最も俺達を甘く見ている奴等に痛い目を見せる……………お前には、それをして貰いたい」
「殺していいの?」
「─────その為に、お前に頼んでいる」
ギギギ、と青年は裂けた笑みを刻む。高鳴りと高揚、愉悦に震える殺意。それらの感情を含んだ黒衣の青年に、ハイルダインは淡々と告げた。
「────先に行って、指示を待て。獲物は後で教えてやる」
破砕音が、窓ガラスをぶち抜いた数秒後に響き渡る。遠くに飛び去っていく黒い影を尻目に、嘆息を漏らすハイルダイン。彼はグラスに残ったワインを見つめながら、呟いた。
「確かに、お前は最高傑作だ。ノワール─────完璧過ぎる程にな。だからこそ、お前は兵器としては不完全だ」
抑えきれぬ衝動に、自我を蝕まれた青年。強力過ぎる力を代償として、兵器としては致命的な欠陥を有した存在。それ故に、あの青年の刃は─────タスク・アイアスに届き得る狂刃に等しい。
あの狂った破壊衝動を滾らせる為の生け贄となる者たちに、同情と哀れみを向ける。顔も名前も知らない、駆逐されるだけの奴等を鼻で笑い、ハイルダインは数滴のワインを飲み干すのだった。
◇◆◇
「────国会への参考人招致?」
「はい、伊丹隊長は特地の報告に行かなければ駄目なんですよ。まぁ、この部隊の隊長ですし」
「監督責任か。大変だな、伊丹も」
「いやいや、俺だけじゃなくてお前も行くんだよ」
迎えに来た自衛隊の数人と共に、日本に戻るという伊丹。そんな彼を見送ろうとしたタスクだったが、どうやら彼も出向かなければならないらしい。他でもない、銀座事件の参考人として。
元より、それに応じるつもりではあった。それを承知の上で自衛隊と行動を共にしてきたのだ。タスク自身も同行する予定であったのだが、
「────妾もアルヌスへ同行させてもらう!」
まさかのピニャ皇女が同行を求めてきたのだ。彼女として騎士団の犯した協定違反を上司に謝罪したいとのことらしい。何か考えがあるのは見え透いているが、謝罪自体は嘘ではないらしい。
タスクとしては特に言うこともなく、伊丹たちも困っていた様子だが断ることはしなかった。途中、一人で行くのは危険だとボーゼスたちが喚いたが、結果的にボーゼスだけが同行を許されていた。
装甲車に一緒に乗った二人に、タスクは軽く会釈する。ボーゼスはともかく、ピニャも冷や汗をかいたように怯えている。怒っていると不安そうだが、タスクとしては既に気にしていないので心配されても困る。
そんな空気を気にしたのか、いやそもそも彼女はマイペースだから、いつもの調子に変わりはないのだろう。対面したレレイがタスクへと声をかける。
「タスク、また話を聞きたい」
「ん、そうか。…………じゃあ今日は少し、面白い話をしよう」
自分の体験してきたモンスターについて語るのは、既に習慣のようになっていた。タスク自身も、過去を思い馳せることが出来るから、それで良いのだが。
「我らの団として旅を続けていた俺達は、自分達で作った船で海へと出た。その時────俺達は、『奴』の襲撃を受けた」
荒れ狂う大海原で、船を襲った黒い影。船上に飛び出したタスクの前に降り立ったその竜は、彼にとって長い因縁を持つ竜との会合になった。
「『黒触竜』ゴア・マガラ。奴は特殊なモンスターだった。普通の竜とは違う、特殊な力を奴は操っていた。その名も、『狂竜ウイルス』」
「い、嫌な名前………何なの、それ?」
「そう感じるのは正しい。『狂竜ウイルス』は、ゴア・マガラにとって必要不可欠なものだが、それは後に話す。重要なのは、この『狂竜ウイルス』が他の生物に害をもたらすことだ」
ゴア・マガラ。我らの団のハンターとして力をつけていたタスクの前に何度も現れ、彼に苦難を強いてきた宿敵。ある意味では、ライバルのような感情すら持つほどに、タスクはその竜を認めていた。恐らくは、あの竜も同じだったかもしれない。
「『狂竜ウイルス』に感染したのが俺達のハンターの場合、克服しなければ『狂竜症』を発症することになる。その間、傷が治らなくなり、狂竜ウイルスによる攻撃への耐性が失くなる。耐性があってもこれだけの症状が起こる」
「つまりぃ、私が受けたら傷口が再生しなくなるってことかしらぁ?」
「あくまでも、『狂竜症』を発症したらな。克服さえしてしまえば、逆に強い力を得ることが出来る。問題はここからだ」
だが、それは耐性の強いハンターでの話だ。どんな傷も回復薬の接種によって回復するハンターの強靭さだからこそ、これだけで済んでいる。しかし、ハンターたちとは生物として違うモンスターたちは、全く違う変化を起こす。
「『狂竜ウイルス』に感染したのがモンスターだったら、モンスターは『狂竜ウイルス』によって激しく大暴れをするようになる。本能も理性も関係なく、がむしゃらにな。
そして、『狂竜化』を起こしたモンスターは新たな狂竜ウイルスを撒き散らす。そうやってウイルスは遠くの地域まで感染していくことになる」
そうやって、新たなモンスターが狂竜化によって狂い、死ぬまで暴れ続けることになる。最悪な光景を思い浮かべた全員が、ゴクリと唾を飲み込んだ。ただのモンスターが引き起こせる規模の話ではない。下手すれば、炎龍よりも厄介だ。
「────」
まだ話すことはあったが、どうやらもう基地に着いたらしい。タスクは少し考えるように口を閉ざし、それ以降口を開かなかった。
彼は自身の大剣、虹色に輝く鮮やかな大剣────『THE オリジン』を見つめる。何か思い馳せるように、彼は刀身を軽く撫でるのだった。
◇◆◇
アルヌスの丘の拠点に戻って翌日。
日本に帰還する伊丹たちに同行するタスクやロゥリィ達は服装を一新させていた。
「…………中々良いセンスの装備だな」
冨田達から提供された私服、ジャケットとジーンズを着こなしたタスクは肩を回す。いつものような鎧とは違い、身体が異様に軽い感覚に思うところはある。だが、これも新鮮で悪くないとも考えていた。
伊丹からすれば、スーツ姿の方が良かったのだが、タスクは気に入ったらしく譲ってくれなかった。諦めるしかないか、と伊丹の方が容易く折れた。
同じように、厚着の現代服に着替えたテュカは不満を漏らしていた。こんな暑いのに、厚着である必要はあるのか、と。タスクも同じことを思っていたが、どうやら日本では季節や気候がだいぶ違うらしい。
「……………むぅ」
「不満そうだな、ロゥリィ。武器を隠すのがそんなに嫌か?」
「こんな布で包んでたらすぐに使えないじゃないのぉ。今すぐはずしたいんだけどぉ」
ソワソワとした様子のロゥリィの言い分だが、タスクも僅かに同感だ。自身の大剣とロゥリィのハルバード、大きな武器を包むように白い布でくるまれている。今すぐにでもはずしたいと言い出すロゥリィだが、私服に着替えた栗林に怒られた。
「だめよ!あっちには色々と規則があるの!刃物剥き出しじゃ捕まるわ。…………正直、置いていって欲しいくらいよ」
「神意の徴を手放せるわけないでしょお?」
「…………俺もだ。出来ることなら、コイツを手放したくはない」
ぶーぶー!と頬を膨らませて反対するロゥリィはともかく、タスクも今回ばかりは食い下がっていた。人命が関わらぬ事態であれば、大抵は我慢するタスクであっても少し応えるのだろう。
「だったら我慢して!」 とロゥリィとタスクに、栗林は言ってのける。自分は文句は言ってないんだが、という困惑の疑問は静かに呑み込んだ。
そうしていると、上司との話し合いを済ませたピニャとボーゼスが合流した。面倒そうな顔をした伊丹だったが、陰湿そうな眼鏡の軍人に何か言われて大人しく従った様子だった。
無駄話をしている余裕もなく、タスクたちは伊丹に従って進む。彼等が着いたのは、大規模なドームのような建物だった。入り口に配置された受付らしき場所を通る伊丹たち、タスクやロゥリィ達は専用のカードで通っていった。
その先に、目的のものが鎮座していた。自分達の何倍もの大きさの建造物。向こう側が見えない扉のようなそれは、銀座で見たものと同一である。
異世界と異世界を繋ぐ『
今回は少し短めです。次回からは国会の質疑応答になると思いますので、よろしくお願いします!