GATE 狩人 彼の地へと、 導かれし   作:虚無の魔術師

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束の間の休息

国会が終わり、移動しようとしていた伊丹とタスクたち一行だが、一つの問題が確認された。国会の前に出会った駒門という人から連絡が来たのだ。

 

────予定していたバスは、狙われているとのことだ。わざわざ襲われると分かっている交通手段を使うはずもなく、彼等は地下鉄によって移動することにした。

 

 

「こうやって五人で行動するのはいいな…………タスク?どうしたんだ?」

 

「…………周りを警戒しているんだ。何が起こるか分からない」

 

 

地下鉄の通路を歩きながら周囲への警戒を緩めないタスク・アイアス。背中に装備した布で包んだ大剣を握り、ソワソワとしている様子も彼は珍しい。

 

 

「ふふっ、タスクもロゥリィみたいに暗闇が怖いの?」

 

「………そうじゃない。俺が気にしているのは人数だ、五人なのが怖いんだ」

 

「…………?五人に何か問題が?」

 

 

確かに、今は伊丹とロゥリィ、テュカ、レレイにタスクの五人である。五人であることに忌避、というよりも不安に感じているタスクに疑問を覚えるレレイ。彼女の問いに、タスクは近くの柱に背中を預けながら話し始める。

 

 

「前に話しただろ。俺達ハンターが同じ依頼を受ける場合は、最大で四人だけだって」

 

「ああ!あの話ね!私も何で四人だけなのって聞いたこと思い出した!」

 

「…………その昔、五人のハンターがクエストを受けたことがあった。名を馳せていたハンターと仲間の三人、一人の婚約者が一緒にドラゴンの討伐に出向いた。

 

 

 

 

────その際、ある一人が命を落とした。それは依頼を受けた一人と仲間三人でもなく、五人目だった婚約者だ」

 

 

いつ行動している四人ではなく、後から行動するようになった五人目が死んだ。他の四人が大した重傷ではないのに対し、婚約者は致命傷によって亡くなった。何の偶然か、彼女が死んだのは不運が重なったことらしい。まるで、運命付けられたかのように。

 

 

「そのことに傷心したハンターは、すぐに引退して故郷に帰っていった。この話を期に、ハンターたちの中では『五人でクエストに出向くと五人目が死ぬ』、というジンクスが出来た」

 

話を聞いていた伊丹もテュカもゾッとしたように震えている。感心したように話に聞き入っていたレレイや相変わらず何かに怯えているロゥリィはそこまでのようだ。

 

 

「で、でも!ただの偶然でしょ!?五人目だけが死ぬなんて、普通に有り得ないわ!」

 

「────遠い地方のクエストの際、一人で来ていたハンターがモンスターに襲われ、仲間を呼んで五人で戦っていたらしい。その四人のリーダーが、仲間を撤退させた後に致命傷で亡くなったという話を聞いたことがある」

 

 

何とか不安にならないように切り出したテュカだったが、返しの手で更に恐怖に震えることになった。無論、タスクだって怖い。怖いからこそ、警戒しなければいけないのだ。

 

 

「他にも幾つか、似たような事例があったりもする。だからギルドは公式に四人以上での狩猟を禁止することにした。彼等も、そのジンクスを無視しようにも出来なかったからだ」

 

 

その結果、一つのクエストには四人が原則となった。しかし、これはあくまでも普通のクエストの場合である。大勢が必要な作戦、古龍討伐戦などでは十人以上動員されるため、五人以上が駄目なのではなく、五人になるのが恐れられているということになる。

 

 

この話をしている合間に、向こうから地下鉄が走ってきた。おお、とテュカとタスクも驚きながら、現れた地下鉄を興味深そうに見る。これが人を乗せている走るのは車と同じ原理だというのは分かるが、相変わらずどうやって走っているかは難しい話だった。この世界の技術はすごいな、と感心しながらタスクたちは地下鉄へと足を踏み入れる。

 

 

「や、栗林さんに富田さん…………それと、皇女様とボーゼスさん」

 

 

地下鉄内では、別行動していた四人が待っていた。全く別の会合場所で話し合いを終えた所らしい。ロゥリィ同様、半ば不安そうなピニャとボーゼス。どうやら自分達が地下墓地(カタコルーベ)や魔物の巣に連れていくのか、と慌てていたらしい。

 

そこでようやく、伊丹がロゥリィの様子が可笑しいことを聞き出せた。どうやら、地下はハーディという冥府の神の領域らしい。ロゥリィの信仰するエムロイと敵対する神であり、ロゥリィを嫁にしようとしつこかったらしい。彼女がここまで辟易し、嫌がる仕草を見せる相手など初めてだ。

 

伊丹にくっついている理由は、ハーディは男が嫌いだからこうすれば近寄ってこないとのこと。伊丹は何か言いたそうだったが、実際に口走ることはなくもどかしそうにしている。

 

 

何駅か通っていくと、ある駅で駒門という人が一緒に乗ってきた。軽く伊丹に状況を話し、このまま地下鉄で数駅向かっていく予定だったが、ロゥリィが辛そうな様子だった。

 

 

(………伊丹、本気で辛いじゃないのか?)

 

(そうだな、皆にも伝えてくれ。ここで降りよう)

 

「────てなわけで、駒門さん降りるよー」

 

「え!?ちょっ、ちょっと待てよ!こっちにも段取りってもんが─────」

 

 

銀座に着いた直後、自然な動きで駅の外に出る伊丹。続けて出ていくタスクたちに、駒門は一瞬だけ遅れてしまう。その一瞬の合間に、地下鉄に入り込んだ人混みに巻き込まれて奥へと締め出されていく。

 

あー、知らね、と呑気な調子で駅から出ようとする伊丹たち。改札口を通り終えた時、何とか人混みを抜けてきた駒門が伊丹を睨んでいた。相変わらずのマイペースでやり通した伊丹たちは、大通りへと出ていく。

 

 

「駒門さん、敵の狙いは?」

 

「威力偵察、示威行為。いつでもお客さんに手を出せるという警告だ」

 

「……………」

 

 

先行する二人の会話を聞き流し、タスクはチラリと周りを見る。彼が敵を見抜く方法は、殺気や視線だ。此方を注視する好奇の視線─────それに隠れるように紛れる嫌な気。敵や相手への攻撃の際に放つ、誤魔化すことのできない敵意。

 

度重なる死闘の果てに、敵意に機敏となったタスクは静かに、自然な動きで指を動かす。

 

 

「だが、どれも失敗している。そろそろ直接仕掛けてきて─────」

 

駒門がそう言った瞬間、四、五人の男が一気に駆け出した。フードを被って顔を隠しながら走り出す彼等に、タスクは即座に動く。

 

テュカにいる方へと走る男の顔に、振り向き様に振るった石ころを投擲する。ゴッ!! と、顔を殴打した小さな一撃に、男の一人は完全に失神した。

 

いち早く此方へと距離を縮めた男がタスクの背中の大剣を掠め取ろうとする。それだけに専念した男の足を絡め、横転しようとした男の胸ぐらを掴む。無論、転けようとしたのを助けたわけではない。

 

 

「─────ふんッ」

 

 

そのままタスクは、掴んだ男を────振り回した。比喩はない。軽々と布切れで振るうように、男の体が宙を舞う。そして、レレイやピニャたちを狙おうとした男三人を薙ぎ払った。

 

たったそれだけの動作で数秒。自衛官である伊丹たちですら、その動きを追うのがやっと。駒門に関しては何が起こったのか理解が遅れているらしい。

 

 

これで全員制圧したか、と考えていたタスクだが、すぐに思考を切り替えた。何故なら一人、フードにマスクという、顔を完全に隠した男が飛び出してきたからだ。

 

 

「─────っ」

 

 

男が何らかの注射器を突き立てようとする。しかし、タスクは正面からその注射器を腕で払う。パキッ! と砕け散った液体が辺りに飛び散る中、タスクは更に凄まじい速度で拳を横から叩きつけようとする。

 

しかし、その男はギリギリで避けた。さっきまでの男たちは全然違う。鍛えられた兵士だと、直感で判断したタスク。すぐさま此方に距離を詰める男を蹴り飛ばそうとするが、それすら掻い潜った男が取り出した黒い物体────スタンガンをタスクへと炸裂する。

 

 

バチッ!! と、強い電気が彼の全身に伝わる。言葉にならない声を漏らすことしか出来ないタスク。身体の動かないであろうタスクから意識を離し、男は腰から取り出した拳銃を伊丹たちに向ける。

 

 

だが、その瞬間────スタンガンを押し当てた男の手首を、タスクが掴んだ。

 

 

「っ!?」

 

「────武器を、向けたな? 覚悟はあるよな」

 

 

直後、タスクの放った掌底が腹部に直撃する。信じられないような、何かが粉砕する音と共に、男は数十メートル吹き飛ばされた。その後、何度か跳ねた男は遠くにあったトラックへと激突して、ようやく停止する。人間が吹き飛んだとは思えない光景に、全員が唖然としていた。

 

 

「………ふぅん、瞬間的に電気を炸裂させる武器か。使いやすさを重視したんだろうけど、もう少し強力な武器にしないのかな」

 

 

一方で、タスクは嘆息しながら手にしたスタンガンを見つめていた。半ば興味深そうに吟味している彼に、ようやく正気に戻った伊丹が第一声を放つ。

 

 

「な、何やってんだ………お前ッ」

 

「心配しなくても、殺してないから大丈夫」

 

「いや!?いやいや!あんなの普通に即死だろ!」

 

 

あんな風に吹き飛ばされて、死んでないわけがない。多分、全身の骨がグシャグシャに骨折したのかもしれない。こんな場で襲ってきた相手を殺してたら、また何かを言われるかもしれない、と伊丹は彼への心配からしつこく言うが、タスクは別のことを言っていた。

 

 

「砕いたのは骨じゃない。アイツの装備だ」

 

「………何だって?」

 

「殴った時、感触が違った────多分、下に防護でもしてるんじゃないか? 多分当分動けないだろうけど、戦い馴れた感じとああいう装備からして、どっかの兵士だと思うな」

 

「ッ!少し待ってろ!アイツを回収してくる!」

 

 

他国からの工作員────恐らくは、タスクを強引に拉致するための特殊戦闘員なのだろう。そんな重要な存在を放置するわけにもいかず、駒門が何処かに連絡しながら急いで駆け出して聞く。

 

 

「………んじゃ、行くか」

 

「────置いてくのか?」

 

「あの人と行動してたら、また狙われるだろ。囮にされながら行動するなんて面倒だし…………人目のつかない場所まで隠れるか」

 

「別にいいですけど、隊長何処か当てはあるんですか?」

 

「─────まぁ、な。俺の知り合いがいる場所だけど」

 

 

◇◆◇

 

 

そう言って、伊丹が案内したのは知人のいる家だった。梨紗という、寝不足そうな女性。何らかの創作に必死な彼女と伊丹が妙に親しく接していることに、伊丹以外の全員が疑問を持った。その答えは、彼等全員を絶句させるには十分だった。

 

 

「────あー、な。俺の『元』嫁さんだ」

 

 

言葉すら、誰も出なかった。強いて言えば、唯一声に出して驚いたのは栗林。伊丹と結婚する相手が実在するのかと疑っていたが、実物を見ると納得、と。流石に失礼だよ、とタスクも苦言を呈した。

 

 

彼女の家で、全員が一夜を過ごした後の話を簡略して話す。まず、ピニャとボーゼスが変なものを見ていた。タスクも興味本位で覗いたが、即座に記憶から全てを抹消する。梨紗の所持していた同人誌らしいが、己の記憶を封印したタスクとは無縁のものであった。

 

 

ロゥリィ達は、梨紗に誘われる形で買い物へと出向いた。色々と服を紹介されたその様は、人形の着せ替えをされているみたいだった、とレレイは淡々と語っていた。

 

タスクは、伊丹同様単独行動をすることにした。最初は栗林や富田が付き添おうかと聞いたが、タスクは自分の身を護れるから、好きに遊んできてくれ、と二人を送り出した。

 

 

そうして、一人で銀座を散策したタスクは────目星をつけていた食事を、たらふく食い歩いて行った。多分、タスクにとって最高の食事の数々であった。

 

焼き肉に、ラーメン、たこ焼き、ステーキ。等々、多くの料理を味わったタスクは至福の時を過ごしているようだった。大量の食事を腹一杯まで食い終えたタスクは、時間になって集合場所に集まった。

 

 

 

「…………それくらい食べてきた。ふーっ、大満足ッ」

 

「えぇ………」

 

 

今まで食べてきた食事の内容を語った瞬間、伊丹たちはドン引きしていた。失礼である、二十品くらい完食してきただけである。普通は少ない量で我慢しているため、こうやって多く食べられる時には食べておきたいのだ。

 

 

「そんなに食っといて、何でお前は太ってないんだよ」

 

「消化も代謝も早いんだよ、ハンターは。そうでもしないと、最大限の力が発揮できないしね」

 

「…………止めましょう、二人とも。その話は、女性の前では禁句です」

 

 

富田が止めた時には、何人かが恨ましいと言わんばかりに睨みつけていた。やっぱり女性としては太るのが難題なのだろう。……………ロゥリィはヒッソリと気配を消して黙っていた。不老不死のため成長もしなければ欠損もしない彼女は太ることもない存在。我が強い彼女であっても、その議題に容易く触れてはいけないと理解できるのだろう。

 

 

そうして集まった彼等は、様々な交通手段を以て泊まる宿屋へと向かっていく。浮わついていた彼等は、気付かない。

 

 

『─────』

 

 

ボソボソと、外国語で話す不審者。無線機で何かを話ながら一同を確認していた男。とある大国から送り込まれた密偵。建物の影に隠れながら報告を行う男は伊丹たちを追尾しようとするが──────彼は、気付かなかった。

 

 

 

「…………やぁ、良い姿だね」

 

『っ!?』

 

 

真後ろから聞こえた声に、男は咄嗟に路地裏を振り向く。しかし、誰もいない。不安そうに周りをキョロキョロしていた男はその場から離れようとして─────音もなく、路地裏に引きずり込まれた。

 

咄嗟に暴れ、抵抗しようとする男。しかし、声は出ない。口をパクパクとさせているが、男の口から声が発されることはない。まるで、何かに押さえつけられているように声を出せなかった男は暗闇の向こうへと連れ込まれていき────ペキ、と響いた。

 

ズルズル、と不快な音が路地裏に木霊する。少ししてから、先程の外国人の男は静かに表に出てきた。コキ、コキ、と首を回しながら、外国人の男はニヤッと嗤う。

 

 

「ああ────やっぱり、良い姿だ」

 

 

恍惚とした様子で、男は呟く。外国語でも日本語でもなく、異世界の言語で。さっきまでとは雰囲気の違う外国人の男は賑わう人混みの中に紛れていった。

 

 

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