GATE 狩人 彼の地へと、 導かれし   作:虚無の魔術師

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不倶戴天

「─────タスクが『竜人(ドラグノート)』に強襲されてる!?」

 

 

現場の自衛官からの連絡を受け、アルヌスの自衛隊基地は即座に動き出していた。だが、当初の混乱も事実。無理はない、何事もない日常のはずが、敵による攻撃を受けるとは思いもよらなかった。

 

よりによって、相手は『竜人(ドラグノート)』。竜の力を有した強化人間だ。自衛隊と言えど、生半可な装備では太刀打ち出来る相手ではない。戦車等の兵器の用意の必要もあるかもしれない。

 

 

「…………不味いな」

 

「何が不味いんですか?隊長」

 

「こんなことしてる場合じゃない。今すぐにでもタスクの援護に向かわないと…………」

 

「そうは言っても………急いでも五分は掛かりますよ。その間に、もう終わっちゃうじゃないんですか?」

 

 

不安そうにしている伊丹だが、他の隊員たちは違うようだった。誰もがタスクが勝つことを疑っていない。それだけ見れば信用が強いと言えるだろう。しかし、その信用こそが油断に繋がることを、理解しているのだろうか。

 

 

「…………栗林(クリ)、分かってないな」

 

「はぁ!?隊長何偉そうに言ってんですか!?実際に事実でしょ!あの人が負けるわけ────」

 

「────帝国で暗躍しているような奴等が、無策でアイツに挑むと思うか?」

 

 

いつも不真面目でだらしない伊丹だが、特地の部隊の指揮を任されるだけの頭脳はある。何より漫画やアニメ、オタクとして得てきた知識が、面倒くさがり屋の伊丹に強い警鐘を鳴らし続けていた。

 

帝国に数年も潜み、皇帝の信用を得たというハイルダインと名乗る黒幕。ピニャから聞いた話が正しければ、彼等はそれだけ用意周到かつ慎重、計算高い相手だ。

 

そんな相手がたった一人の改造人間一人を、龍すら倒すタスクに差し向けるなど、到底思えない。罠も仕掛けずに正面から挑ませるということは、

 

 

「恐らく、奴等にはタスクと接触する必要がある。或いは─────タスクを倒せる自信が、勝算があるってわけだ」

 

 

◇◆◇

 

 

一方、アルヌス共同組合のすぐ近く。

 

 

「─────ッ!」

 

「クハッ!クハハァ!!」

 

 

タスク・アイアスとノワール。超人と竜人、人の姿をしていながらも人の力を超えた二人が、真夜中の草原で衝突していた。

 

大剣を勢いよく振るい、周囲の物体ごと切り払っていくタスク。地面すらも切断していく風のような斬撃を、ノワールは身軽すぎる動きで回避していく。

 

そして、筋肉を膨張させた腕を振り上げ、爪で切り裂くように叩き付ける。金属の衝突音。大剣によって防いでいたタスクは全身の力を以て弾き返し、ノワールの腹部に向けて鋭い蹴りを滑り込ませた。

 

ッッッッドッ!!! と、吹き飛ばされたノワール。しかし、黒い竜人はダメージすら受けていないように即座に飛び上がり、再び距離を縮めて接近戦を繰り返す。

 

 

 

「─────すげぇ、これが英雄の戦い方………!」

 

「本当に同じ人間かよ…………圧倒的じゃねぇかッ」

 

 

戦闘に巻き込まれないように離れた場所にいる民衆、見学している者たちは目の前に広がる光景に呆気に取られていた。剣を振るうだけで地面が吹き飛び、風が吹き荒れる。アレだけの威力の斬撃を、タスクは片手で引き起こしているのだ。両手で握られた一撃が、どれだけの破壊力を有することだろうか、筆舌に尽くし難いことだろう。

 

 

「……………やっぱり、凄いや。タスクの旦那」

 

 

人込みの上から見上げていたデリラは、タスクの圧倒的な強さに目を輝かせていた。自分もあのように強くあれば───誰しもがそう考えることだろう。そんな可能性を頭に浮かべていたデリラだが、

 

 

「…………あれ?」

 

 

ふと、ある違和感に気付いた。実を言うと彼女はただの亜人ではない。ある程度戦いに慣れている、というよりも戦争を繰り返してきた経験故に、彼女はタスクの動きにある『ズレ』を理解した。

 

 

そして、次の瞬間。そのズレが、明確なものとなる。

 

 

 

「────ッ!!」

 

 

ザシュッ!! と、タスクの顔に掠り傷が入る。トゲによって切られた傷は深くはない。だが、それがもたらす事実を、敵であるノワールにも悟られたのが問題だ。

 

大剣の大振りを飛び退いて回避したノワール。無数のトゲを生やした腕を回しながら、彼はニヤリと歯を見せて嗤う。タスクの動きに微かに出る『ズレ』を、確信しながら。

 

 

「………やっぱりだ。戦ってからずっと気になってたんだ」

 

「…………」

 

「────オマエ、人間と戦うの慣れてないだろ」

 

 

図星だった。タスク・アイアスはハンターであり、軍人ではない。彼が狩るのはモンスターであり、本来であれば人ではないのだ。故に、モンスター相手に洗練された戦闘技術は、対人相手に適したものではない。

 

今まで彼が人間相手に以上なまでの無双を示したのは、屈強な肉体と龍に対抗できる程の膂力があったからである。タスク本人が人間の相手を意識していようと、本人の認識では覆せないズレが────モンスターの戦いで最適化された本能が、僅かなタイムラグや隙を作ってしまう。

 

 

「オマエみたいな化物ならそこらの人間なんぞ瞬殺だろうな。だからこそ、オマエは人間との戦い方が分からねェ。そもそも、オマエみたいなヤツには必要ねぇもんな。───けど、俺は違う」

 

 

そして、最悪なことに────『竜人』は異形と言えど、人間の姿をしている。人間と同じサイズでありながら、その身体能力はハンターにすら匹敵する。彼と適合した龍────肉弾戦に特化したその個体の能力を、より精密に反映させた『竜人』としての力は、異能なしのシンプルなフィジカルと破壊力。

 

 

「パワーとスピード!俺の戦闘スタイルは、肉弾戦に特化したもの!オマエみたいなヤツの相手は初めてだが、少しずつ慣れてきたぜェ!!」

 

 

接近戦と俊敏さに優れたヒト型。その存在こそ、タスク・アイアスにとって致命的なまでに天敵と呼ぶべきものであった。

 

 

「今度は傷だけじゃ済まさねぇ!テメェの腹、ブチ抜いてやる─────ッ!!!」

 

 

瞬間、ノワールが姿が消え、風だけが周囲を駆け巡る。凄まじい速度で動き回る黒い影。跳躍と疾走を繰り返し、タスクを包囲しながら追い詰めていく。本来であれば視覚化出来ない程の高速移動を、タスクは目視によって対応していく。

 

獣のように飛びかり、爪やトゲによる斬撃を繰り返すノワールに、タスクは手出しが出来ない。両目で影の動きを捉えながら、瞬間の変化を感じ取って避けきる。

 

しかし、度重なる回避にも限度がある。呼吸のために足を止めようとしたタスクを狙い討つように、ノワールが加速していく。

 

 

─────カウンターのように、迫るノワールへ直撃するように斬撃を放つタスク。しかし黒い影は直感的に飛び退いて回避を行った。姿を消したかと思われた竜人は、攻撃の隙を見せたタスクを再び狙う。

 

 

「─────ッ!?」

 

 

爪を立てたノワールの一撃が、脇腹に突き刺さる。ドスッ!! という音と共に肉を抉るような感覚に、露骨に顔をしかめるタスク。取った、そう思いながら腹を抉ろうとしたノワールは様子が可笑しいことに気付いた。

 

 

(なんだコイツ、腹をブチ抜けねェ────)

 

「────ようやく隙を見せたな」

 

 

鋼鉄のような感触を受ける肉体。爪を食い込ませたのに、内側の肉を抉ることすら出来ない。そのことを理解したノワールの腕が、突如掴まれる。

 

視線を上げると、片手で大剣を振り上げているタスクの姿があった。ノワールの竜としての本能が、離れろと叫ぶ。彼は自らの本能を疑うことはなかった。

 

しかし、手首を掴むタスクの力は凄まじい。骨すら砕きかねない力で圧迫しながらも、引き剥がすことすら出来ない程に締め上げている。逃げられない、そう判断したノワールが動いた直後、

 

地面を割るほどの斬撃が、ノワールを巻き込む。相手に一発浴びせられたはずのタスクの顔に、笑みはない。彼は自分が掴んでいたノワールの腕を一度見て、放り捨てた。

 

 

「────斬られたことで咄嗟に回避したか。人間に出来る芸当じゃないな」

 

「ほざけ………ッ!この、化物がッ!!」

 

 

笑みを深めながら、ノワールの切断された腕の断面から手を離す。血の滴る傷口が一瞬膨れ上がると共に────腕が生えてきた。その光景を目の当たりにしたタスクは驚くことなく、淡々としている。

 

 

「自己再生か。どっちが化物だか」

 

「その分には余裕そうだなァ、オマエが人間の相手は慣れてないってのを忘れたかよ?」

 

「…………そうだったな─────安心しろ、もう慣れた」

 

 

は? と何を言っているのかと怪訝そうなノワール。その言葉の意味を、直後に理解することになった。

 

 

ふと、タスクの姿が消える。何処に消えたと周囲を探そうと動いたノワールは─────第六感に従い、勢いよく全身を転がした。

 

 

そんなノワールのいた場所を、タスクが大剣で突き立てる。一撃で地面にヒビが伝わっていき、見学していた者達にすら風圧が届く。フィジカルのまま体勢を立て直そうとしたノワールであったが、タスクが彼に向かって大剣で何度も斬りかかる。

 

 

(軽ッ! いや、速ェ! なんだコイツ、急に動きが────)

 

 

速度の増した攻撃。先程より重みがないが、その代わりに連撃を繰り出せる程に身軽な攻撃と成っていた。今までは己の身体能力で容易く回避できていた攻撃も、手数が増えたことで危うくなる。この威力であれば一撃必殺とはなり得ないだろうが、此方にダメージを与える数が増えるのが恐ろしい。

 

 

「────こんのッ、調子に乗るなハンターがァッ!!!」

 

 

全身のトゲを逆立たせたノワールが、逆に吼える。殺気と敵意を増幅させた勢いで牙を剥くノワールに、タスクは攻める手を緩めない。一気に戦況を覆すはずであったノワールは背中や腕のトゲを切り落とされ、焦りのままに跳躍する。

 

何十回転を繰り返した黒い影から、無数のトゲが放出される。機関銃のような砲弾の雨を、タスクは大剣一つで弾き返し、全て凌いでみせた。

 

 

「…………クソッ」

 

着地した後に吐き捨てたノワールの胴体から血が吹き出す。肩から胴体を一閃するように切り裂かれた彼は、傷口に軽く触れて膝をついた。

 

それだけで、誰もがタスクの勝利を確信する。アレだけの傷を受けたノワールが傷を治さないのは、治せないのが道理。ここままタスクの圧勝で全てが終わる。誰もがそう信じている中─────タスクは気付いた。

 

夜闇に隠れたノワールの口元が、微かに笑みを刻むのを。密かに見出だした、勝利を確信する笑みだ。

 

 

◇◆◇

 

 

「─────『竜人(ドラグノート)』は、俺の世界の竜と人間を融合させた強化人間だ」

 

 

ある施設で、ハイルダインは空のグラスを弄っていた。遠くからタスクとノワールの戦いを観測していた青年は、己が作り出した存在について語っていていく。それは単なる独り言に過ぎない。

 

 

「だが、融合した竜やモンスターは全て『新大陸』や別地方のものばかりだ。その理由は二つ、ハンターズギルドに感知されないように竜やモンスターを回収するため。もう一つは、タスク・アイアスにとって未知の脅威とするため」

 

 

タスク・アイアスも自衛隊も、完全に誤解している。『竜人(ドラグノート)』は竜と人の融合体とも呼べる強化人間だ。だが、組み合わせたものはその二種だけではない。

 

 

「だが、竜と人と言えど、完全に融合できるわけではない。あくまでも竜本来の強さには至れない────だからこそ、俺は全ての技術を注ぎ込んで、奴等の力を強めた。同じ竜の細胞、異世界から得た機械という技術。この世界で得た多くのシステム──────魔法というものも」

 

 

他の要素で補われているからこそ、彼等は『竜人(ドラグノート)』として機能した。魔法の一つでは自衛隊やタスク・アイアスに勝てるはずがない。それが普通であるなら、の話。

 

この世界の人間達が作った負の遺産────凶悪とされた魔法ならば、英雄の生命に届く狂刃と成り得る。

 

 

「数百年かけて、俺が見つけ出した魔法。それをヤツの中に埋め込んである。情報の欠如、無知の上での戦い、それこそが貴様らハンターが、生物であれば最も苦手とする戦いだ」

 

 

相手が何か知らない。相手の力が分からない。その恐ろしさはハンターが誰よりも理解している。だからこそ狩猟の前に敵を調べ、学び、安全に狩猟する。相手の手数が分かれば、生態が分かれば、対処は容易い。それ故に、情報というものは戦いに於いて必要不可欠な要素となる。

 

それが欠如した今、タスク・アイアスはその未知数に足をすくわれることになる。

 

 

 

◇◆◇

 

 

「─────『ヴァシュトラグ・ヘルン』」

 

 

ボソッと、笑みを深めたノワールが告げる。たったそれだけの言葉。風に流されるような短い言葉には、普通ではない力が込められていた。

 

それを証明するように─────赤が、周囲に舞う。

 

 

「なッ────」

 

驚きの声が、漏れた。観戦していた誰かの声だろうか、或いはタスク本人か。彼ですら目を疑うような光景が、現実に起きていた。

 

一撃が、一太刀を受けた。タスクの胴体に出来た斬撃の傷から赤色の血が溢れ出す。傷口を手で抑え、指の合間から溢れ落ちる血液に濡れながら、タスクは思考を働かせていた。

 

 

(…………なんだ、今のは。攻撃?違う、見えなかった。ヤツが動かした口だけだ。俺に一太刀を浴びせるほどの攻撃力が、それを実現する動作は、何一つなかった!)

 

 

混乱。未知に対して、彼の思考は忙しなく動き続けていた。しかし、どれだけ考えても答えは見つからない。自分が何を受けたのか、それを理解することはできなかった。

 

 

「っ!旦那がヤベェ!行くぞお前ら!」

 

「────おう!俺達でヤツを止めるぞ!」

 

 

一撃を浴びたタスクが追い詰められてる可能性に気付いた数人が飛び出した。力仕事や戦いのために駆り出された傭兵団、ある者は元帝国軍であり、ある者は別国の敗残兵。十人程度の部隊が、タスクの援護のために武器を取って立ち向かう。

 

そんな彼等の勇気に、タスクは張り裂けんばかりに叫んだ。

 

 

「─────駄目だ!来るなッ!!」

 

「…………クヒッ」

 

 

歯を見せて嗤ったノワールは、堂々と立ち尽くし彼等を迎え入れる。まず、先陣切って突撃してきた男を、腕に展開したトゲによって切り払う。

 

普通の金属にすら傷を与えるほど強固かつ鋭利なトゲの一撃を受け、男の一人はアッサリと切断された。次は二人、三人。同じように向かってきた者達を、ノワールはトゲで傷付けたり、身体能力を生かして蹂躙する。

 

 

「────クカカ、カハハハハハハハハハッッ!!!」

 

 

一瞬で、十人の男達が惨殺された。彼等の実力はタスクに劣らずとも、多くの戦場を経験し、生き延びてきただけの強さは有していた。それすらも、この戦いで足手まといに過ぎない。竜人 ノワールを前にしては、ただの小動物と大差ない。

 

周囲に飛び散った血の海の中で、ノワールは掌に滴る血を舐め取る。恍惚と、狂喜に震える竜人の凶行に、タスクの理性が弾け飛ぶ。

 

 

「お前─────ッ!!」

 

「…………『ヴァシュトラグ・ゼーレ・ヘルン』!!」

 

 

瞬間、タスクの全身に多数の傷が生じる。不可避かつ防御不可能な斬撃を浴び、大量の血を撒き散らしたタスクはやはり戸惑う。

 

さっきも油断はしたが、意識は集中させていた。ノワールの一挙手一投足全てを監視していたが、怪しい動きもなく全身を切り裂かれた。

 

どんな刃で、どんな動きで、どんな風に自分を斬ったのか。タスクは理解できずに、ただひたすらに思考を巡らせていく。そうするごとに全身の血が抜けていくのを感じるが、タスクにはそれを止めることは出来ない。

 

倒せない敵がいた場合、その力を知らねばならない。そうでもしなければ、満足に戦うことも出来ないのだから。

 

 

考えて考えて、考え抜いて─────気付いた。

ノワールの攻撃の正体、それは竜としての能力ではない。彼が常識から抜けていた、この世界の技術の一つ。

 

 

「────魔法、かッ」

 

「大正解ッ!ハイルダインが回収した数百年前の古代の魔法さ!この時代の人間じゃあ理解も出来ねぇ神秘なら、オマエを殺せる刃にもなるだろォ!」

 

 

魔法なら避けられないのも納得だ。だが、何の魔法かまだ分からない。相手に斬撃を与えるだけなら、その場でやっているはずだ。ノータイムで防御不可能の斬撃、それは何らかの仕込みが────発動条件があるはずだ。

 

 

その発動条件、周囲を見渡してあらゆる要素を頭に浮かべたタスク。必死に考えを繰り返し、彼はたった一つの正解を見出だした。

 

その一瞬の隙、本来であれば見せることのない致命的なまでの好機を、ノワールは逃さなかった。

 

 

「─────スキ、あり」

 

 

変色したトゲに覆われた腕が、タスクの腹を抉った。ゾッ!! と爪と共に引き裂かれた彼の肉体は脇腹を欠損する形で、存在している。

 

ゴフッ、と口から大量の血を吹き出して倒れそうになる。大剣を地面に突き立て、バランスを保とうとするタスクだが、それは明らかに無意味な行動であった。

 

 

「ヘッ、中々いいザマじゃねぇか─────英雄さんよ」

 

「────っ、─────!」

 

「マトモに声も出せねぇか!イイ気味だぜ、オイ。…………オマエみたいなヤツをただ殺すのもつまらねェ。俺をここまで追い込んだんだ。

 

 

 

 

────どうせなら、俺が喰ってやるよ」

 

 

ガバッ、と口を大きく開くノワール。尖った歯を立てながら、瀕死に近いタスクの首を齧ろうとする。だが、彼が首元に顔を近付けた瞬間──────バッ! と、タスクの両手がノワールの首を掴んだ。

 

 

「クカッ!まだヤル気かよ! でも無駄だぜ、腹を抉られて全身傷だらけのオマエにそんな余力は───────ごッ!?」

 

 

馬鹿にしながら引き剥がそうとしたノワールだが、直後喉を強く圧迫される。締め上げられるように力を込められ、呼吸が苦しくなったノワールが彼の手首を掴み、逆に引き剥がそうとする。だが、どれだけやっても尋常ではない力が、弱まることはなかった。

 

 

「が、ガ─────ッ、てめ────何で、死なね────かッ、は」

 

「──────!」

 

 

自分の傷すら諸ともせず、ノワールの首を圧迫するタスク。窒息ならば、再生は機能しない。そう考えた彼は、この隙を逃すことなく、確実にトドメを差そうとした。

 

次第に、ノワールの抵抗が弱々しくなる。喉をへし折るほどの力を受けたノワールは必死に喘ぎ、消えるような声音で小さく呟く。

 

 

「─────の、───ィこ」

 

 

それが誰かの────日本人の名前だと、タスクは理解した。記憶の中に微かに残ったものと似ているその名前に、タスクの意識は持っていかれた。その瞬間、白目を剥いたノワールは勢いよくタスクを振り回し、投げ飛ばした。

 

 

「………ゴハッ、がはッ! やってくれたな、オマエ。楽に死ねるとは思ってねぇよなァ!」

 

 

首の調子を整えながら、ノワールは転がったタスクへと歩み寄る。喰らおうなんて慢心はしない。今度こそ確実に殺す、と。そう明言したノワールは筋肉を膨張させた腕と爪によって、タスクを確実に殺すための一撃を放とうとする。

 

 

だが、しかし。

一瞬暗闇の何処かが光ったと思えば、放たれた銃弾がノワールの肩を抉り、吹き飛ばした。大きく転倒するノワールの前で、急加速で突撃してきた装甲車が足を止めた。

 

 

「クソッ!仕留め損なった!すんません隊長!」

 

「当てただけでも充分だ!────黒川!富田!担架にタスクを乗せろ!」

 

 

装甲車から飛び出した彼等は、迅速に動き出す。担架を運び出した二人と、応急箱を持ちながら伊丹たちが転がったタスクへと駆け寄る。栗林を含む何人かが、真っ青な顔で震え上がった。

 

 

「────い、いたみ………か」

 

 

全身に傷を受け、出血が激しい状態のタスク。腹部を軽く抉られた彼の身体からは、既に大量の血が溢れ出している。口からも血を吐き出し、瀕死の重体と成り果てていた。

 

その惨状に、間に合わないと誰もが思った。しかし、伊丹だけは違う。彼はタスクという男の生命力を信じた。今すぐにでも病院に連れていき、治療をすれば間に合うだろう。

 

 

そうやって担架に乗せようとした次の瞬間、近くに歩み寄っていたロゥリィがハルバードを叩きつける。それは、タスクにトドメを差そうと接近しようとしたノワールを牽制するためのものだった。

 

 

「─────止めだ、止め」

 

「止め、だと?」

 

「もうなにもしねぇよ。お前らを殺す予定はあったが、援軍まで来られちゃ俺も骨が折れる。………再生に力を使い過ぎたしなァ。だから、オマエらだけは見逃してやるよ」

 

 

そう言って、ノワールは暗闇の中へと歩いていく。自衛隊が銃口を向け、何発もの銃弾を浴びせるが、既に暗闇の奥に消え去ったのかもしれない。放たれた弾丸は、ノワールに当たることなく、夜空に響き渡るだけであった。

 




タスク、初めての敗北。設定的にもネルギガンテの、古龍の力を有した竜人(魔法つき)との初対戦だから、不意を突かれたという感じっすね。

まぁ全身ズタボロで腹もぶち抜かれてるのに、引き剥がせない程の力で首絞めて殺しにかかるのはハンターとしての力があってのことだと(普通のハンターでも無理)
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