GATE 狩人 彼の地へと、 導かれし   作:虚無の魔術師

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合間の出来事

帝都内で暗躍を繰り返すハイルダイン。徐々に帝国内で力を蓄えてきた彼だが、多大なストレスも蓄えていた。

 

理由としては、策謀の数々。神経質かつ計画を優先する彼にとって、今現在の状況は腹立たしいことこの上ない。

 

 

帝国を使った銀座事件の虐殺、炎龍の調査、皇女ピニャの暗殺、タスクや自衛隊を排除するために積み重ねた計画(プラン)。それは全ては失敗に終わった。タスク・アイアスや自衛隊、そして欲に走った三大国の独断専行によって。

 

彼にとって、一番許せないのはアメリカを主とした大国の身勝手な行動だった。タスク・アイアスは自分が排除するから邪魔をするな、と仲間に釘を刺すように言っておいたのに、彼等はその力が欲しい余りに、余計な真似をして折角用意したプランを台無しにしてくれた。

 

敵であるタスクや自衛隊は仕方ないとして、アメリカ、中国、ロシアの勝手な行動にはハイルダインも怒り狂うかと思った。アメリカの大統領に「次余計なことをすれば、銀座事件以上の虐殺をお前たちの国で起こす」と留めておいたから、当分余計なことはしないだろう。

 

 

「────どいつもこいつも、腹立たしい………!何故俺の邪魔ばかりしてくれる…………ッ!」

 

 

何より不愉快なのが、今から会いに行く相手だ。皇帝以上に協力者として密約を結び、暗躍を共にしているが、ハイルダインはその協力者が嫌いなのだ。

 

────扉越しに聞こえてくる、女の苦しそうな喘ぎ声に、ハイルダインの怒りが沸点を超え掛ける。あらゆる感情を押し殺し、皇帝への振る舞いとなる仮面を剥がし、部屋の中へと入る。

 

 

「入るぞ、ゾルザル」

 

「…………むっ、ハイルダインか。折角盛り上がっていたんだがな」

 

「俺には関係ないことだ。さっさと着替えろ、お前の全裸を見ながら話をする気はない」

 

「────そうだな。…………何をしている、テューレ。さっさと下がれ」

 

 

ゾルザル・エル・カエサル。

帝国の第一皇子にして、ピニャの腹違いの兄。そして、ハイルダインの協力者。帝国で暗躍する過程で、ハイルダインと結託し、帝国の支配を企む野心家でもある男だ。

 

先程までいたぶり、苦しめながら行為をしていたであろう奴隷─────ヴォーリアバニーの女性が「………はい」と、布で裸を隠しながら、そそくさと部屋から立ち去っていく。

 

 

その瞬間、ハイルダインとテューレの視線が合う。互いに見合う二人の瞳には、彼等にしか分からぬ意志があったらしい。しかしそれも一瞬、部屋から出ていくテューレをハイルダインは眼中にもないと言わんばかりに無視していた。

 

だが、ハイルダインがテューレを見たことに気付いたゾルザル。部屋着を着崩したままソファに腰掛けた彼は、興見なさそうなハイルダインに声をかけた。

 

 

「珍しいか? やはりお前のような堅物でも、中々良いモノだろう?────最近、飽きてきたがな」

 

「………話に聞いていたヴォーリアバニーの女王か。お前が滅ぼした国の」

 

 

ヴォーリアバニーは大陸東北の平原で国を構え、部族同士の争いを繰り返しながらも存続し続けてきた。しかし、それも三年前までの話。

 

ゾルザルが率いる帝国の軍団によるヴォーリアバニーの国の征服。いや、その景色を見ていたハイルダインからすれば、奴隷狩りのそれであった。

 

必死に抵抗を続けるヴォーリアバニーたち。しかし数には劣勢となり、女王であったテューレは己の身をゾルザルに捧げることで、一族の安全を約束された。誇り高い女王である彼女が、今も尚大人しくゾルザルに従っているのは、他ならぬ一族のためだ。

 

────しかし、ハイルダインは知っている。ゾルザルが、テューレとの約束を守る気などなかったことを。既に彼女の国を滅ぼし、一族の殆どを奴隷として売り捌いたことを。

 

─────生き残ったヴォーリアバニーの心を折る為に、テューレが一族を見放した、という嘘をゾルザルが作り上げたことも。女王に裏切られたと勘違いしている同族が、彼女に見当違いの憎悪を向けていることも────全て、理解していた。

 

 

「テューレもそれを知らずに、必死に乞うていたな。お慈悲を、とな─────同族から憎まれているのも知らず、馬鹿なヤツだ」

 

「…………悪趣味だな。反吐が出る」

 

「フッ、真面目なお前には納得できんだろうな。────それより計画の進捗はどうだ?」

 

 

露骨に顔を歪めるハイルダイン。しかしゾルザルの様子を問われると、顔色を隠すことなく淡々と告げる。

 

 

「順調だ。時が来れば、『混乱』を起こす予定に代わりはない。その時約束を─────『次期皇帝』の座はくれてやる。俺の計画の為に動くことを忘れるなよ」

 

「分かっている。その為の協力関係だからな」

 

 

皇帝に取り入り、力を強めたハイルダイン。だが、あの皇帝が自分を心から信用しているとも思っていない。下手すれば、いずれ此方を排除しに来ることだろう。

 

帝国は、まだ必要だ。だからこそ無理に敵対する気も、反抗されるわけにもいかない。故に、皇帝を変えておきたい、自分達の協力者であるゾルザルと。彼によって帝国を支配させ、その裏で計画の成就を全うする必要があるのだから。

 

 

「どうだ、ハイルダイン。貴様にもテューレを譲ってやろうか」

 

「………奴隷の管理など時間に割く気はない。だが、まぁ」

 

 

切って捨てようとしたハイルダインだが、珍しく考え込んだ。短い沈黙の中で何かを考えたのか、微笑を含んだ彼はゾルザルを見据え、口を開いた。

 

 

「────気が向いたら、相手でもさせて貰おう。最近、色々とやることが多くてな………少し気晴らしをしたい」

 

「相当疲れてるみたいだな。俺が手を貸してやろうか?」

 

「…………お前はお前のことをしていろ。勝手な真似をされると、此方が面倒になる」

 

「相変わらず神経質な男だ。お前は」

 

 

それだけの会話の後、ハイルダインはゾルザルの私室を後にする。相も変わらず表情を変えることなく、ハイルダインは鼻で笑う。

 

 

(馬鹿な男だ。大方、自分が利用しているとでも思っているのだろうが、それは此方も同じだ。自分がどんな末路を辿るか、精々期待していろ)

 

 

ゾルザルは、ハイルダインが協力者としては認めるに十分であった。傲慢かつ幼稚だが、政治の才覚は随一だ。上手く使えば、その才覚をより良く活かせることだろう。

 

だが、所詮は馬鹿だ。本人は己が馬鹿を演じている切れ者とでも考えているようだが、見え透いている。それどころか日本、タスク・アイアスと戦争を望む主戦派の最たる一人だ。

 

 

────何より、ゾルザルは彼等の地雷となることを仕出かしている。それを知った時、ハイルダインは人知れず頭を抱えた。彼等が怒り狂う未来を想像したハイルダインは、ゾルザルを助けることはしないと密かに決意していたまである。

 

 

「───王族は、やはり馬鹿ばかりだ。後先を考えず欲望に突き動かされる馬鹿のもたらした罪禍は当人だけではなく、家族までも巻き込む。それで国が滅びたら、世話ない」

 

 

────ハイル、我が忌むべき息子よ。我等の為に、この血を受け入れよ。死ぬ最後まで、我等の役に立つのだ

 

 

誰かの声が脳裏に響き渡った瞬間、ハイルダインは怒りの余りに近くのガラスを拳で砕いた。散乱する透明の破片。足元に転がるガラスの欠片は一瞬にして、燃え始めた。

 

それ程の熱が、ハイルダインを起点として強さを増している。周囲の空気に伝わった膨大な熱が、ガラスが熔解し発火する程の状況を引き起こしていた。

 

 

「────父上よ。確かに俺は忌むべき子であった。だが、貴方は俺以上に、愚かで罪深い王だ。貴方が禁忌を犯さなければ、あの日国が災厄に滅ぼされることはなかった」

 

 

胸に、身体に刻まれた焔を、忘れたことはない。今もこの身に宿り続ける劫火。人間の罪を浄化する為の、地獄の炎。その炎の熱に焼かれながら、ハイルダインは生き延びた。

 

滅び行く王国、己を縛る呪いと謂れのない罪を焼き尽くす炎に蝕まれてから、ハイルダインの意思は変わらない。彼の憎悪は、過去と現在に向けられている。

 

 

「そして、地獄で見ているがいい。─────災厄に滅ぼされた貴方とは違い、貴方の望んだ支配者となった俺の計画、人類には為せぬ大業を果たす俺の姿を」

 

 

炎に焼かれ溶け始めた廊下を、ハイルダインは後にする。風に吹かれ、冷えきった夜中に在る炎は自然に消えていく。だが、ハイルダインを包む熱は、彼の身を焼く炎は、今も尚消えることはない。

 

 

◇◆◇

 

 

伊丹たちによって最近建設された病院へと搬送されたタスク。ノワールが姿を消したことで、迅速に移送した彼等の手によって、タスクは何とか一命を取り留めた。

 

だが、医者たちの話では、予想外のことがあったらしい。

 

 

「────腹の傷が塞がった!?本当か!?」

 

「わ、我々の力ではありません!手術をしていると、血が突然動き出したんです!我々の前で、自我を持ったように動いた血が肉になって、欠損を補ったのを─────私以外に、何人も見ていました!」

 

 

手術の最中、タスクの中に流れていた血────とは違う、別の色をした血液が突如蠢いたとのこと。まるで細胞に働きかけるように、傷口が一瞬にして塞がったらしい。

 

その現象を医師の一人は、細胞の活性化による傷口の修復と見ていた。あの血が細胞の数々を強制的に操り、肉や臓器の代わりを補強した、とのことだ。

 

そのことから、医療に携わる者達が血を採取しようとしたが、駄目だった。血の採取を行おうとした者の一人は、何かに当てられたように卒倒し、他の数人も頭痛や吐き気を催した。血自体に、本能的な恐怖を覚えたのか、誰も血の採取が不可能だった。

 

 

結果的に、タスクは助かり、今は安静な状態で眠っているが、自衛隊や組合の雰囲気はあまりにも落ち込んでいた。彼が、英雄と称されるまでの実力者のタスクが殺されかけた。その事実が、自衛官たちにも大きな不安となっている。

 

 

「……………」

 

 

その例外であるロゥリィも、何時になく冷たい雰囲気を纏っていた。タスクの件が心残り、というわけではない。彼女は亜神であるが、人としての情も欠けてはいない。

 

あるのは、タスク・アイアスという戦士への信頼。炎龍に立ち向かい、多くの災厄を討ち果たしたという男が、そう簡単に死ぬはずはない。故にロゥリィは、タスクの心配など欠片もなかった。

 

彼女が気にしているのは、タスクの戦いを静観していた存在についてだ。

 

 

「…………いるでしょお、出てきなさい」

 

「──────」

 

 

人の気配もしない路地裏でそう呼び掛けたロゥリィ。彼女の前の影から、ヌルリと一人の男が姿を現す。口元を布で隠し、黒い装束に身を包んだ大鎌使いの男。片眼はなく、瞼を糸で縫ったように閉ざし─────額に眼球のような結晶を埋め込んだその姿は、異質と言わざるを言えない。

 

 

「聖下の右眼、『執行』のフェルノート。貴方が表舞台に出てくるなんて、何時ぶりかしらぁ」

 

「───ロゥリィ・マーキュリー。私は聖下の命の元にこの場に参った。先の戦闘の観測は我が神の意志、此度姿を現したのは貴様に神託を伝えるためである」

 

「…………聖下からの神託、フェルノートが直接伝えてくるなんて、ただ事じゃないみたいねぇ」

 

 

聖下─────エムロイ神の眷属 フェルノート。

ロゥリィと同じ亜神でありながら、エムロイの右腕ならぬ右眼の名を与えられたモノ。常にエムロイの元に在り、俗世に姿を現すことすら滅多にない。

 

そのフェルノートが直接ロゥリィに伝える神託、それは彼女にとっても無視できるはずのない内容であった。

 

 

「────『炎龍を滅ぼせ、貴様の類する異世界の者達が殺される前に』との事だ」

 

「炎龍を滅ぼせ?…………異世界の者たちって、まさか!」

 

 

驚きを隠せず顔を上げたロゥリィ。しかし、彼女の眼前からフェルノートは消え去っていた。影の照らす路地裏には、彼女以外の気配はない。ロゥリィ以上の亜神に怯えるように静まっていた一帯は、途端に音が戻り始める。

 

己の神からの直接的な介入。今までこんな時はなかった。彼女がエムロイと対面するのはいつも祈りの最中。殺した敵の生命を啜った神からの言葉を受ける時くらいだ。

 

 

「…………何を考えているのぉ? 聖下は」

 

 

一度たりとも信仰を疑ったことはなかった。しかし、今現在ロゥリィ・マーキュリーは自らが支える神に疑問を覚えていた。神が何を視て、何を判断したか、分かる術はない。

 

だが、彼女には分かっていた。自分が何をすべきか。心中の迷いを払い除け、ロゥリィは街中へと戻っていくのだった。

 

 

◇◆◇

 

 

賑わいがいつもより落ち込んだ酒屋。何人かチラホラ食事や飲み物を飲んでいる中、テュカは溜め息を漏らした。

 

 

「…………お父さん、こんな大変な時に何処行ったの?」

 

 

いつも彼女の近くにいた父親。だが、最近姿が見えなくて時間があれば探し回っていた。それでも見つからないまま日が過ぎていき、今日も探し疲れた夕食を取ろうとしていた頃合いだった。

 

 

─────見つかるはずもない。彼女の父親は、炎龍に襲われた時に死んでいる。唯一生き残ったテュカは強いショックでその事を理解できず、父親が生きていると思い込んでいるに過ぎないのだ。

 

いるはずもない父親を探すテュカに、誰もが真実を告げられなかった。特に伊丹は、現実から逃げた者の目を覚まさせようとした結果を知っているため、無闇に触れられなかったのだ。

 

だが、それも時間の問題。いずれは彼女も無理に現実を理解することになる。それが最悪になる可能性も知らずにいるテュカ、夕食を静かに食べる彼女に声をかける者があった。

 

 

「────そこな娘、溜め息を吐くと幸せが逃げるぞ」

 

「………ご親切にありがと。貴方は誰?」

 

「名前か、流浪の客に不要なものだ。気にすることなく、食事をするといい」

 

 

そう告げると、目の前の男────赤衣の男は堂々とテュカの対面に腰掛ける。初対面の相手にしては馴れ馴れしい、と思うが、此方に興味はないらしい。それならいいか、とテュカは素直にサラダを口に含む。

 

何かの料理を注文し、赤衣の男は送られてきた料理と酒を口にする。豪快にビールを呑んだ男は、ニヤリと満足そうに笑った。

 

「────旨い!やはり酒はどれも旨いが、これは格別だ!人間は時として愚かだが、こういうものを作るから嫌いになれん!そこの娘、このビールは国が作ったか!?」

 

「………日本のものよ。少なくとも、この世界のものじゃないから」

 

「日本────ほう、異世界のか。面白い、次はそこに遊びに、ゲフンゲフンッ!───旅に行くとしよう」

 

 

中々にテンションの高い男だ、と思う。彼の言葉に思うところがありながら、テュカはその疑問を素直にぶつけることにした。

 

 

「貴方、何なの?人間じゃなさそうだけど」

 

「────人間ではないと口にした記憶はないぞ?」

 

「その上から目線の態度で種族の名前を呼んでたら、誰だってそう思うわ」

 

「むっ、これは失敬────今のは忘れて貰うと助かる」

 

 

ビールの入ったジョッキを揺らしながら、赤衣の男は少し考えた後に語り始めた。

 

 

「何者、か。強いて言うなら─────監視者だな」

 

「…………監視者?」

 

「世界全体を見渡し、理から外れたものや命を弄ぶ禁忌を見つけ次第─────焼き尽くす。監視者でもあるが、執行者でもある。ルーツは我等は、『バランサー』と呼んでいたな」

 

 

ふと、赤衣の男が小皿にビールを垂らす。彼はそれを一つの世界と例えた。小皿が、人に許された理の範囲と。それを軽く揺らし、水滴が一粒机に落ちる。それを、赤衣の男は指で潰した。

 

───単なる行動だけだが、テュカには分かった。滅ぼしたのだ、人に許されざる禁忌を犯した者達を。目の前にいる男は、そんな者達を裁いたという執行者なのか、と。

 

冷や汗と悪寒に身震いしていたテュカに、赤衣の男は肩を竦め、笑いながら答えた。

 

 

「そんな顔をするな。今の我等はただの旅人に過ぎない。何より、この世界は管轄外だ。勝手な真似をする気はない………それに、バルカンのように極端でなければ、ルーツのように達観してるわけでもない。人間の味方をする時はする。──────俺は人間が好きだからな」

 

 

ビールとつまみを戴いたであろう赤衣の男が立ち上がる。席を外し立ち去ろうとした彼は、去り際に何かを放り投げた。食事に向けて投げてきたのを見て、慌ててキャッチしたテュカ。

 

流石に怒ろうとしたテュカだったが、手のなかにある何らかの薬膳のようなものに戸惑う。赤衣の男は口元に笑みを浮かべながら、告げる。

 

 

「─────いにしえの秘薬というものだ。どんな傷だろうと回復し、あっという間に動けるようになる。タスク・アイアスにでも呑ませるといい」

 

さらばだ、エルフの娘 と赤衣の男は店から出ていった。彼の後を追い掛けようとしたテュカだったが、既に間に合わなかった。食事を終えてある程度考えた後に、タスクが眠っているであろう病院へと走っていくのだった。

 

 

 

 

 




話の構成的に、此方の作品では炎龍討伐→大地震という構成になります。ゾルザルが酷い目に会うのが楽しみな方はどうかお待ちくださいませ。


〉〉赤衣の男

モンハンでは知らぬ人もいない影の有名人。いやー、何なんだろうなー。何ボレなんちゃら、なんだろうなー(棒読み)
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