GATE 狩人 彼の地へと、 導かれし   作:虚無の魔術師

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渓谷の中での会合

「─────ここがロルドム渓谷。ダークエルフたちはここにいるのか?」

 

「そうだ、今は洞窟の中に過ごしている…………到着を報せてくるから待っててくれ」

 

 

数日の旅路を経て、ヤオの同族たちが移り住んだとされる渓谷に辿り着く。岩場だけが広がる景色には、人の住む痕跡すら見られない。炎龍に狙われ続けた彼等からすれば岩場の影、穴の中に潜むことでしか生き永らえることが出来ないのだ。

 

皆に伝えてくると、険しい崖を降りながら渓谷の下へと姿を消す。炎龍ほどの怪物から逃げるには、より深い場所である必要があるのだろう。装甲車から降りたタスクは渓谷を見渡しながら、全員に呼び掛ける。

 

 

「気を付けてくれ。ヤオの話の通りなら、ここは炎龍のテリトリーでもある」

 

「────初瀬、敵影は?」

 

「………周囲にはないです。見つけ次第、報告します!」

 

 

リュックから取り出した双眼鏡で周囲を確認する初瀬三曹。狙撃兵でもあるため、索敵能力も随一であるため、炎龍に奇襲される心配はない。

 

 

「なぁ、伊丹。テュカの事だけど………お前のこと、パパって呼んでのは───」

 

「───お前が寝ている間に、少し大変なことが起きたんだよ」

 

 

タスクが傷の負傷で気を失っている合間、テュカは伊丹たちの話し合い────炎龍のことを、父親が炎龍に殺された旨を聞いてしまったらしい。そのことで過去がフラッシュバックした彼女は錯乱し、意識を失った。

 

皆が尽力したが、半ば手遅れだった。テュカは父親の死を受け止めきれず、伊丹を父親と幻視するようになったらしい。恐らく伊丹がテュカと共に炎龍退治に出向こうとした理由がそれだ。

 

 

「…………必ず、炎龍を倒そうな」

 

「───そう、だな」

 

 

二人で決意を改めていると、テュカが目を覚ましたらしい。オイルの匂いに顔をしかめながら、外へと飛び出し、相変わらず笑顔を浮かべている。普段とは変わらぬ姿とはいえ、彼女の心は既に限界に近付いている。

 

渓谷全体に視線を移した彼女は足元の崖を覗き込みながら、不安そうな顔をする。ここにダークエルフ達が住んでいることを聞いていた彼女は、ある疑問を口にした。

 

 

「────緑がほとんどない…………なんでこんなところにわざわざ住んでるの?」

 

 

全員が言葉に詰まる。炎龍から逃げてきたからだ、なんて言ったら彼女のショックも再発するかもしれない。誰もが戸惑っている中、タスクが背中の大剣とヘビィボウガンを手に取り、構えた。

 

 

「動くなっ!!」

 

 

背後の岩肌から響いた怒声に皆が反応した時には、タスクは己の武器を声の主へと向けていた。岩影から姿を乗り出し、弓矢をつがえたダークエルフの若者たち。殺気立った彼等は臨戦態勢に近い雰囲気であった。

 

 

「お前達は何者だ!?この谷に何の用だ!?」

 

(数は少ない…………だが、ここで事を起こす訳にはいかない)

 

 

相手に話を聞く勢いがあるようには見えない。此方への敵意に染まった視線と不安と疑心から、いつ弓を引くか分からない。正面から堂々と事実を伝えようか、と考えていたその瞬間─────ダークエルフたちの弓が、突如として宙を舞った。

 

 

「ッ!?」

 

「な、なんだ!か、影が────俺達の武器を!?」

 

 

無論、伊丹たちもタスクも何かをしたわけではない。戸惑うダークエルフ達の目の前では、足元の影が空高くへと伸び、彼等の弓を全て回収していた。全員が、理解不能の出来事に困惑する最中、ロゥリィだけが静かに、笑みを含んでいる。

 

 

「ふぅん。あたしぃたちの事も助けてくれるのねぇ────フェルノート」

 

「─────冥府神(ハーディ)を信仰するダークエルフを助けるのは正直気乗りせぬ。だが、貴様の歩む道を、炎龍討伐を円滑に行わせよ、と聖下の御言葉である。聖下の慈悲深さに感涙するがいい」

 

 

ズズズ、と影から姿を現すは────黒装束隻眼の死神 フェルノート。大鎌を地面に立てたエムロイの右眼は影の触手を緩ませ、奪っていた弓を地面へと落とす。しかし、ダークエルフたちは萎縮した様子を隠せず、弓を拾うことすら出来ない。

 

エムロイ神の側近たる亜神。目の前にいる怪物の重圧に、誰もが死を直感している。此方に攻撃すら出来ないダークエルフ達から眼を離し、フェルノートはロゥリィと視線を交わす。

 

 

「ずっと影に潜んでたのねぇ。道理で、分からないけどぉ何処かムカムカしたわけぇ…………」

 

「聖下からの意志だ。異論は許さぬ──────それと、ふむ」

 

ギロリ、と周りを見渡すフェルノートの眼光が一人を捉えた。唖然とする伊丹が何事かと理解する前に、フェルノートが彼の眼前まで近付く。

 

 

「眷属を作るとは、特殊な心掛けだ。───人よ、名を何と言う」

 

「へ、俺?………伊丹耀司っすけど」

 

「イタミ、ヨウジ。聖下は貴様に興味関心を持っておられる。此度の炎龍討伐も、貴様に全てが掛かっていると言っても過言はない。──────聖下の期待を裏切らぬよう、心身尽くすがいい」

 

 

此方を見下ろす隻眼に、生きた心地がしなかった。カク、カクと静かに頷いた伊丹の様子に満足したらしく、フェルノートは影の中へと溶けて消えていった。彼の姿が消えた後に、ロゥリィはフェルノートの居た場所に向けて舌を出して威嚇している。自分を無視して伊丹に手出ししようとした事が、余程遺憾だったのだろう。

 

 

一瞬で現れ、一瞬で姿を消したフェルノートの介入。そのお陰もあり、敵意の揺らいだダークエルフたちとの話し合いはアッサリと終わった。自分達が炎龍の退治に来たと伝えると、彼等は各々喜びを見せながら、仲間たちの元へと迎え入れようとする。

 

そんな最中、周囲を見渡していた初瀬三曹が声を漏らす。

 

 

「…………?なんだ、あれ?」

 

 

雲が所々に広がった青空。その雲と雲の合間に、一瞬赤い光が生じた。双眼鏡越しに確認しようとした初瀬三曹だったが、その光は既に雲の中へと消えていく。既にこの場から離れようとしていた伊丹たちに呼び掛けられ、慌てた様子で彼はリュックを背負いながら追いかけていった。

 

 

◇◆◇

 

 

初瀬三軍が見つけた赤い光。それは単なる流星、等ではなかった。

 

 

 

─────キィィィィィィィンッ!!!!

 

 

銀に覆われた装甲に身を纏う、飛龍。いや、戦闘機に近い姿。翼から真紅の光を放出しながら、音速で飛翔する銀の龍に近いナニカ。

 

それは雲を突き抜け、近くの山肌へと勢いよく激突────否、着地した。地面を大きく削り取りながら不時着した銀色の飛行物体は砂煙の中で姿を変え始める。

 

メキ、パキパキ───ガチャッ! と、複雑な音と共に翼が折り畳まれていく。変形のように小さくなり始めた影は、一人の青年へと変化を終えた。

 

 

「─────今のは、ダークエルフ達…………自衛隊とタスク・アイアスか」

 

 

感情の欠落したような無表情の、銀髪紅瞳の青年。黒い外套を羽織った彼は無機質に渓谷の方を見据える。厳密には、渓谷の奥へと消える一同を。

 

 

「炎龍の討伐に来たのか。ならばオレは彼等の足止めをするべきなのか……………」

 

 

冷静に考えた上で、青年は頭を振った。

 

 

「────駄目だな。オレの性能では奴等の足止めは厳しい。ここは大人しく静観する、それ以外はないな」

 

 

『緋天彗星』 クロム。セルドラやディーンとは違い、ノワールのように古龍種に適合した新世代の『竜人(ドラグノート)』。命令に忠実であり、ハイルダインからは実力と人格も含め、強い信頼を預かっている人物でもあった。

 

ふと、渓谷の奥を見据えていたクロムの視線が別の場所を捉える。大森林の一帯の何処かで、何かが暴れているようだった。その何かの正体は、既に分かりきっている。

 

 

「……………ノワール」

 

仲間であり同志だったもの。

錯乱したように暴れ続ける彼に、クロムも何度か呼び掛けた。しかし、何度も掛けた言葉は届かなかった。

 

理性も意識もまだ残っているが、敵味方の区別ができてなかった。目に留まる全てを敵と視認して、破壊の限りを尽くす。ノワールを案じたクロムは、少し前のハイルダインとの対話を思い出した。

 

 

『────ハイルダイン、ノワールは』

 

『手遅れだ。既にアイツの意識は取り込まれかけている。下手したら、龍化暴走体になる可能性もある────あの時点で、アイツを戻すことは出来ない』

 

『…………』

 

『俺の責任だ。ノワールを無理に扱いすぎた。計画のために、アイツを消費する以外に他ない。重ねて言うが、全ての責任は俺にある。お前達は気にすることはない』

 

暴走したノワールを、ハイルダインは最後まで利用することにした。その選択をクロムは非難することは出来ない。己の恩人であるハイルダイン本人も、苦渋の決断に違いない。

 

目的のために使い潰すことになるであろう、仲間の姿を遠くから見つめる。無機質ながら、感情の希薄なクロムは、静かに呟いた。

 

 

「────すまない」

 

 

◇◆◇

 

 

渓谷の下へと降りた伊丹たちとタスク。彼等を歓迎したのは、近辺から集まったであろうダークエルフ達だった。自分達にとっての希望を前に、彼等は強い歓喜に打ち震えている様子だった。

 

 

「緑の人────イタミ殿、『銀の英雄』────タスク殿。明日の朝、炎龍退治には炎龍の巣を知る者と戦士達をお供させまする」

 

 

ダークエルフ達を束ねる老人の一人が、話し合いの場でそう告げる。伊丹としては巣を教えて貰えれば良かったのだが、彼等の好意を無視するわけにもいかない。

 

既に炎龍退治の作戦は出来ている。巣に爆薬を仕掛け、炎龍が帰還した直後に至近距離から爆破する。それで倒せれば良し、倒せなかった場合はLAM────110mm個人携帯対戦車弾を集中砲火で浴びせる。それでも健在であった場合、そこはタスクに任せる。

 

腹の傷の痛みがあるタスクであれど、弱り果てた炎龍を倒すことは容易い。この作戦においてタスクは切り札であるが、同時にもう一つの脅威を止める必要不可欠の戦力でもある。

 

 

「────炎龍のことは今のところオーケー。次はノワール、か」

 

「皆さん。ノワールについて知ってることを教えて貰って宜しいですか?」

 

「知ってるも何も…………男達が炎龍の強襲を受けた際に、突然炎龍に襲いかかったのです。味方というわけではなく、我々にも攻撃し──────戦士達の数人が、奴の魔法を受けて殺されました」

 

 

そういう事情らしい。渓谷でダークエルフ達があそこまで殺気立っていたのは、同じ人の姿をした者からの攻撃で仲間を失ったからなのだろう。

 

炎龍と殺し合ったとされるノワール。恐らく、炎龍討伐が目標であるこの作戦にも奴は大きな障害となることに違いない。

 

「魔法、か………タスク、何か心当たりはあるか?」

 

「────奴は自分の受けた傷、ほぼ同一のものを相手に与える魔法を扱う。それだけは分かっているが、詳しくは何も……………」

 

「─────禁忌の魔法」

 

 

全員の意識が向いた先にいたのは、独り言のように呟いたレレイだった。彼女はいつもと変わらず無表情のまま、平然としている。その雰囲気からして、恐らく彼女はその魔法を知っているのだろう。

 

 

「禁忌の、魔法? それって────」

 

「人類の歴史数百年の中に於いて、禁忌と区分された魔法の呼称。存在だけは魔導士なら誰でも知っている、同時に畏怖の対象。タスクの戦いの内容を聞いて、その一つだと分かった」

 

 

淡々と、レレイは己の記憶にある情報を語る。ノワールの扱った、禁忌の魔法の詳細について。

 

 

「────ヴァシュトラグ、『復讐の魔法』。大魔導士 メルクリウスの弟子、『弱小』のドラッドが編み出した魔法。力の無かった彼が、理不尽に殺された家族の復讐をする為の力」

 

「……………」

 

「その真髄は、傷を相手に確実に与えること。魔法による防御も意味を為さない。マーキングした相手に必中必殺。掠り傷なら掠り傷を、致命傷なら致命傷を与える」

 

 

一度マーキングすれば絶対に傷を与えるということ、それは遠くにいようとも、確実に相手を傷付けることも出来る。下手すれば、暗殺にも代用できる技術だ。

 

しかし、この魔法の真の恐ろしさはそれだけではなかった。

 

 

「これの恐ろしいところは、この魔法は一対一という訳ではない。多数の人間に作用することも出来る。あの時のように、十人全員のダメージをタスクに与えたように────その逆。たった一人が受けた致命傷を、その他多数に適用することも」

 

 

下手すれば、一人を殺すだけで敵の全ての戦力を減らすことも容易い。それ程までに洗礼された魔法、それこそがヴァシュトラグ。数百年前の過去、人類に猛威を振るったこの世界の禁忌の一端であった。

 

 

「待ってくれ。存在だけはと言ったよな?じゃあ、その魔法は密かに受け継がれたということか?それがノワールへと渡ったと?」

 

「───それは有り得ない。ヴァシュトラグは解析できないように、抹消された。知らされてるのは存在だけ」

 

「抹消されたって…………」

 

「それは事実よぉ─────ヴァシュトラグを消したのはぁ、わたしぃだからぁ」

 

 

今になって、また新しい事実が出てきた。ヴァシュトラグが、禁忌の魔法がこの時代に広まっていないのは、ロゥリィが直接抹消したらしい。それも力ずくで。

 

彼女だけではない、他の亜神も禁忌の魔法全てを封印、及び抹消したらしい。開発した人間や扱っていた国を滅ぼしてまで。

 

 

「どうして、抹消したんだ?」

 

「普通に考えたらぁ、抹消しなきゃいけないものでしょお?ヴァシュトラグが禁忌魔法と呼ばれた所以はぁ短い詠唱で発動できるからぁ─────術式さえ把握すれば、誰でも使えるのよぉ。数百年前は最悪だったわぁ、相手の国の王に致命傷を与えたり、兵士達だけに致命傷を適用させたりと、たった一人を生け贄にした戦争が繰り返されてた────だからぁ、神託を受けたあたしぃが、国ごと魔法を消し去ったはずなのよねぇ………」

 

 

人類同士が殺し合う、まるで呪詛のような力。戦いの冒涜と憤ったエムロイの神託を受け、ロゥリィはヴァシュトラグの全てを消し去った。その魔法を開発した張本人、復讐に狂い、力に魅了された憐れな老獪すらも。

 

それだけ話したところで、ふとロゥリィは溜め息を漏らす。彼女はずっと考えてある疑問を口走った。

 

 

「なのにぃ、どうしてノワールってヤツはヴァシュトラグを使えるのかしらぁ」

 

「?術式さえ知ってたら誰でも使えるなら、ノワールが使っても可笑しく無いですけど………」

 

「その術式の記された文献はぁ、全て燃やしたのよぉ?あたしぃがぁ、しらみ潰しに探し出したからぁ、間違いないわぁ。ドラッド本人も始末したわけだしぃ─────それなのにぃ、どうやってヴァシュトラグを手に入れたのかしらぁ」

 

 

それこそ、数百年も前からヴァシュトラグを手に入れてなければ不可能だ。そもそも、太古の文献を回収していたとしても、燃え残った術式を解析するのは賢者といえど厳しい。開発者本人─────ドラッドの師であるメルクリウスなどの超人を除けばの話だが。

 

それ以上の進展はなかった。何故ヴァシュトラグが扱えるのか、何処からそれを手に入れたのか。話題を変えようと、伊丹は咄嗟に考えたことを口にする。

 

 

「そ、それにしても、炎龍は同じ場所ばかり襲うんだ? ヤツは頭が悪いのか?」

 

「────オマケに洞窟の穴にいる奴すら探し出すんだろ?流石に普通じゃない。腹が空いているように見えな…………いや、待てよ」

 

ハッ、とタスクは顔色を変える。厳しい表情を浮かべる彼の様子に、皆が不安を覚える。だが、そんな心配も無視して、タスクは自分の考えが間違っていないかレレイに確認する。

 

 

「レレイ。炎龍は普通の生き物と変わらない生態だよな?」

 

「…………そう。炎龍も休眠期と活動期があるけど、活動期は普通の動物と大差ない。縄張り争い、巣作り────あ」

 

 

聡明な彼女も、それに気付く。

彼女の反応にその場の全員が悟る。空気が凍り付いたように硬直し、何秒も静止する。

 

静かに、淡々と口を開いたタスクは、ある予想を皆に話した。

 

 

「もしかして、炎龍が人を襲ってたのは─────子を育てる為じゃないのか?」

 

 

繁殖期、彼の世界でもその為に人や動物を襲うモンスターの例はあった。子供を産む、産まれたばかりの子供を育てる。その過程でも、親は動けない子供の代わりに餌を集めてくることもある。

 

何より、炎龍は人やエルフが大好物と聞く。実際、奴がエルフの村の生存者が失くなるまで人を喰らい、殺したことは明白。積極的にダークエルフたちを襲っていたのは、己の子を育てるための餌の為だろう。

 

炎龍の子、新生龍と呼ばれる個体。炎龍ほど強くはないが、成熟した亜龍と同等、伊丹たちからすれば笑えるような話ではない。もしそれが巣の中に百匹もいたと思うと、戦慄しかない。

 

 

話を聞いて呆然とするダークエルフたち。顔をひきつらせた伊丹は、立ち上がって両手を叩いた。そして、一言。

 

 

 

「────……………よし、帰るか」

 

「い、イタミ殿!?今更…………ッ!?」

 

 

背を向けようとする伊丹を、ダークエルフ一同が必死に呼び止める。彼等からすれば気持ちは分かるが、見捨てられるわけにはいかないという気持ちが強い。

 

そんな伊丹を、富田と栗林が捕縛する。左右から彼の脇に腕を回し、引き摺るように戻ってきた。

 

 

「諦めましょう、隊長。どのみち炎龍を相手にするんですから………」

 

「そもそも!炎龍を倒すのは、テュカの為ですよね!私達に啖呵を切ったんですから、今更怖じ気付いても逃がしませんからね!!」

 

 

部下二人からの説得及び叱咤を受け、伊丹は考えを改めた。テュカの為に炎龍退治に出向いたのに、こんな所で諦めるわけにはいかない。

 

 

「────安心してくれ。もし居たとしたら危害がなければ放置でいい。此方を襲ってきたとしたら、俺が狩猟するから」

 

「そ、そうか。まぁ、すぐに子供がいるって訳でもないし…………心配しすぎか。別に俺も不運じゃないから、大丈夫か」

 

「───────」

 

 

不運、と聞いた瞬間、ダークエルフたちに緊張が走った。というより、……………あー、という半ば不安に近いものだ。何か複雑そうに目を反らすヤオの様子に違和感はあるが、余計なことを言うべきではないと考え、タスクも意識から反らすことにした。

 

 

◇◆◇

 

 

日が明け、炎龍討伐の作戦が始まった。

作戦の決行にて動く伊丹たちだが、まずは二つのチームに分かれた。

 

伊丹とロゥリィ、テュカ、ヤオを含めたダークエルフの戦士九人の巣に爆薬を仕掛けるチーム。主に炎龍討伐の要となる彼等は、既に炎龍の巣へと移動した。

 

そして、タスクや栗林、富田に初瀬、レレイとダークエルフの戦士数名。炎龍討伐の別動隊。伊丹たちが炎龍を仕留めきれなかった場合、合流し炎龍を撃破する────以外にも、彼等には重要な役割があった。

 

 

「─────タスク殿。我々もイタミ殿と同行せずに良いのですか?」

 

「………そうしたいんだが、俺達にはやるべきことがある」

 

 

そうタスクが告げると、ふと無線機が繋がった。少し離れた場所で狙撃体勢に入っている初瀬が、目標を補足したのだ。

 

 

『────皆さん!敵影を確認しました!特徴が類似、敵個体 ノワールだと思われます!』

 

「…………初瀬。ヤツは何処に向かっている?」

 

『此方に移動して来てます!────どうしますか!?撃ちますか!?』

 

「いや、その必要はない………迎え討つ余裕が出来た」

 

 

タスクたちの目的は、ノワールの足止め及び撃破。ヤツが炎龍を狙うことは既に理解できている。同時に戦うより、別々に分けて戦うのが都合がいい。

 

もし此方を無視して炎龍の巣に向かうのであれば、初瀬が狙撃で此方に引き寄せる予定であったが、その必要もなさそうだった。

 

 

「────皆、盾は大丈夫だな?」

 

「ええ、問題なく………凄い装備ですね、これ」

 

「銃を撃ちながら盾を構えられるなんて、使いやすいですね」

 

 

ガントレットのような、軽装の盾。少し前に討伐した角竜(ディアブロス)の甲殻によって作った装備。これならば、ノワールの攻撃は受け止められるぐらいのものだ。

 

一体だけの素材を使った為、数も少ないし、量は限られているが、これだけの人数────五人分で充分。鎧を着込んでいるタスクを除いた、近中距離の戦闘を行うメンバーは既に盾を装備している。

 

 

『─────3、2、1…………敵、現着します!!』

 

 

観測していた初瀬の声が響いた直後、黒い影が目の前に現れた。凄まじい勢いで飛び出してきたそれは足を止め、囲むように臨戦態勢に入った一同を静かに見据える。

 

 

「あ、がッ────ぐ、ィィィィィイイイっ!! テメ、生きてた…………かッ!!」

 

 

『不倶戴天』ノワール。滅尽龍の力と融合した『竜人(ドラグノート)』である彼は、口から涎と血を滴しながら、ギョロギョロと目を血走らせながら、殺気を放ち続けていた。

 

 

その時点で、戦う準備は完了できていた。作戦開始、タスクがそう告げた瞬間、全員が咄嗟に飛び出す。一番最初にタスクが放ったヘビィボウガンの砲撃が、『竜人(ドラグノート)』との戦いの鐘を鳴らした。

 

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