GATE 狩人 彼の地へと、 導かれし   作:虚無の魔術師

19 / 34
滅人龍

「─────ガあッ!?」

 

 

最初にタスクの放ったヘビィボウガンの砲撃が、ノワールの顔に炸裂する。徹甲弾に眼を抉られたであろう『竜人(ドラグノート)』の狼狽に、タスクは配慮もしない。

 

タン、タンッ! と前へと踏み込んだタスクは躊躇なくノワールを大剣で叩き斬る。片眼を撃ち抜かれたノワールは瞬間的に接近してきたタスクを迎撃するように、筋肉を膨張させた右腕を振り上げた。

 

 

─────ダォン!!! と、彼の右腕が千切れ飛んだ。遠距離からの対物ライフルによる狙撃。初瀬の放ったその一撃は、タスクの真横をギリギリ通り抜け────ノワールの右腕に見事命中した。

 

 

「──────クカッ!カカカカッッ!!!!」

 

 

しかし、ノワールの腕は一瞬で再生する。同時に覆うように展開した無数のトゲで覆われた、彼の右腕。腕自体を隠す程のトゲと龍の身体能力を適用させたその腕は、敵を圧殺するためだけのものとして振るわれる。

 

 

飛び退いたタスクの前で、地面が一瞬で砕かれる。腕が叩きつけられた衝撃により飛び散った棘の弾丸を、タスクは銀竜の鎧によって弾き返す。

 

 

「────!」

 

 

棘の弾幕を防いだタスクの背中から、栗林と富田の二人が左右へと飛び出す。身を投げるようにタスクの後ろから姿を見せた二人は、M4カービンによる掃射を浴びせる。

 

全身に銃弾を受けたノワール。防御すら出来ず、身体を覆う棘ごと砕かれ、肉を貫通して直撃する。顔に銃弾を浴びたことで視界が遮られた彼に追撃を加えるのは、同行していたダークエルフの歴戦の戦士たち。

 

 

「はァ────ッ!」

 

 

ザシュッ!! と、ノワールの腹を切り裂く一閃。鍛え上げられたであろう斬撃に肉が裂かれ、足を取られる『竜人(ドラグノート)』。その隙を逃さず、戦士の一人が長剣でノワールの顔へと斬りかかる。

 

油断もなく、命を奪うことに迷いのない一撃。だからこそ、ノワールはそれを殺気として敏感に感じ取ることが出来た。

 

 

 

─────ダークエルフの男が長剣を振るった時には、刀身が折れた。顔面へと滑り込んでくる刀剣に、ノワールはあろうことか噛みついた。そして、歯と顎の力で男の剣をへし折ったのだ。

 

 

「────なッ!?」

 

 

これには経験のある戦士であっても、思考が停止してしまう。そんな荒業を出来る人間など、いるはずがない。しかし、相手は『竜人(ドラグノート)』。人間でも竜でもない、二つの狭間にいる強化人間なのだ。

 

 

ノワールは歯で噛んだままの刀剣の断片を離さない。彼は目の前で呆気に取られていたダークエルフの男の胸に、心臓を抉るために突き立てようとする。

 

だが、いち早く動いたタスクがダークエルフの男の襟首を強引に引き寄せる。距離を縮めて胸に刃を突き立てようとしたノワールの攻撃は、ギリギリで届かない。

 

それでも、ノワールは本能で動いた。歯の力を緩め、口を使って折れた刀剣の先を、器用にも吹いて飛ばした。その刃の先が、タスクの頬を裂く形で通り過ぎる。

 

バックリと皮膚が裂けるのを感じ取るが、痛みを認識するよりも先に全身の神経と筋肉を最優先で動かす。一歩踏み込み、此方への攻撃を行ったノワールの顔に一太刀を浴びせた。

 

 

「頭が痛ェ…………イライラする─────それ以上に、テメェ等にもムカムカしてきた」

 

 

顔に受けた傷も、腹を裂かれた傷、自身の受けた攻撃を再生させることなく、起き上がったノワール。笑みのようでありながら、殺意に近い苛立ちを生じさせた彼は頭をかきむしり、吐き捨てた。

 

 

「死に損なったゴミクズが────くたばり損ないの分際でェ、舐めた真似しやがって──────今度こそ、ブチ殺してやるよ」

 

 

傷口を撫でるように、指で触れたノワールは告げる。咄嗟に一同に合図を送ったタスクの反応に気付くことなく、己の魔法を発動した。

 

 

「─────『ヴァシュトラグ・ヘルン』」

 

 

瞬間、否、数秒後。一拍遅れ、肉が弾けた。魔法の効果を受け、同等の傷を受ける形でノワールの肉体に裂傷が生じる。

 

 

「………………は、ァ………?」

 

 

タスク達ではなく、自分に傷が発生したことに戸惑うノワール。魔法は問題なく発動していた。その効果が、自分に及んだことは一回も在りはしなかった。彼は全身の傷を再生させながら、タスクたちを睨む。

 

 

「テメェ等─────何しやがった」

 

「────貴方の魔法を反射した。それだけのこと」

 

静かに、後方にいたレレイが短く告げる。彼女の言葉を聞いたノワールは不機嫌そうに、鼻で笑った。

 

 

「バカ言えよ、カス。神話時代の魔法だぜ、テメエらみたいな人間にどうにか出来るもんでもねェだろ」

 

「そうでもない。貴方の魔法は詠唱が短い、膨大な短縮術式で詠唱を簡略化している────それなら、発動条件も簡略化されている」

 

 

カトー老師から魔法を学んだ彼女は、俗に言う天才の部類である。そんなレレイからすれば、既に過去のものであり多くの賢者や魔導士に解析されたであろう魔法の構造も容易く把握できる。

 

 

「恐らく、発動条件は範囲内にいる自分に敵意を向けられること、若しくは範囲内の人間から傷を受けること。このどちらか、或いはその両方」

 

「─────」

 

 

静かに、ノワールは首を捻る。思考すらせず呆然としているようだった彼は、一瞬にしてレレイへと距離を詰める。己の魔法を無力化できる彼女を殺そうと爪で引き裂こうとするが、手首を掴み捉えたタスクにヘビィボウガンを直に撃ち込まれた。

 

 

「ゴッ────が、アアアアアアアアッッ!!!!」

 

 

怒号を響かせ、突貫しようとするノワール。しかし死角から栗林と富田の銃撃を浴び、動きを中断する。再生を行いながら暴れまわろうとしたノワールであったが、一瞬歩みを止めた直後を─────狙撃された。

 

 

凄まじい音と共に、ノワールの頭部が撃ち抜かれる。対物ライフルの一撃を受けた彼の頭は容易く貫通し、展開されていたバイザーをも穿ち抉った。

 

 

フラフラと、頭部を抉られたノワールの身体が揺れる。しかしすぐさま膝をついてその場に座り込むように、倒れ込む。己の頭から溢れた血溜まりに倒れたノワールは、完全に呼吸すらしていなかった。

 

 

『────すみません!タスク殿!自分の判断で敵を…………』

 

「いや、悪くない判断だった」

 

 

自分達の目的はノワールの撃破であり、保護ではない。炎龍討伐に乱入するであろうノワールを倒すことこそが、自分達の役目なのだ。生け捕りにして情報を得たかったが、無理は言ってられない。

 

 

「………終わったのか?」

 

「────まだ警戒を。敵はノワールだけとは限りません。安全が確認されるまでは油断しないでください」

 

「分かった。すまない、トミタ」

 

 

警戒を緩めない彼等の前で、タスクが無線機を繋げる。別行動している伊丹たちの様子を知ろうと繋げた無線から、轟音と悲鳴が聞こえてくる。

 

 

『────メト!畜生っ!』

 

「伊丹!?どうした!?………オイ!」

 

 

激しい戦闘音。悪態を付く伊丹の焦った様子、そして龍の咆哮らしき声。それだけで、伊丹たちに起きていることが最悪の事態だと判断できた。

 

急いで救援に向かおうと振り向いたタスク。皆に声をかけようとした彼は、瞬時に大剣を構える。彼の視線の先で、倒れていたはずのノワールが、跳ね起きた瞬間だった。

 

 

◇◆◇

 

 

────頭が────耳鳴り、が────

 

 

頭を抉られた直後、ノワールの意識は最大級の激痛に襲われていた。ズキズキと響き渡る不協和音のような耳鳴り。頭をかき乱す声は、再生を忘れる程に彼を苦しませていた。

 

 

怒りと憎悪が、彼の意識を蝕む。思えば、ずっとそうだった。この世界で彼が学んだのは、自分の大切なものを踏みにじった者達への消えることのない憤怒と怨嗟であった。

 

 

────いやっ!■■!助けてッ!

 

 

無理矢理連れてこられ、誰かに引き離されていく誰か。ノワールにとって大切な誰か。服を破かれ、一人の男とその手下に連れていかれる誰かを、必死に呼び止める記憶。理不尽に痛め付けられながら、彼は■■という誰かを助けるために必死に動いた。

 

だが、許されなかった。自分を奴隷として買い取った商人たちは、余程反抗が許せなかったのか一方的に殴打を繰り返した。言葉も分からない彼には、彼等が怒っているのは■■を連れていったのが偉い身分の人間だったらしい。

 

 

────奴隷がふざけた真似を!貴様には相応の罰を与えてやる!

 

 

彼には男たちが捲し立てる言葉の意味が理解できなかった。しかし目の前に持ってこられた道具を見て、何をする気かは理解できた。片眼を抉り抜かれ、今までにない激痛の中で、彼は全てを呪った。

 

 

────殺す、殺してやるッ! お前ら全員! ■■を連れてった奴等も! 俺が全員ッ!!!

 

 

呪い、怨嗟し、憎悪した。その感情こそが、ノワールにとっての全て。彼にとって、この地獄を生き永らえてきた動力源だったのだ。そんなドス黒い感情が増幅を繰り返し、ふと耳鳴りが唐突に途絶える。

 

 

────? なん、だ

 

彼の目の前に、黒い影があった。悪魔のような、異形。全身に鋭利な棘を生やした、四足歩行の生物。背中に棘の生えた翼、腰から伸びた尻尾を有したソレを─────彼は本能で『龍』と認識した。己と同化した力の根源、力を与えていたモノだと。

 

 

自然と、恐怖はない。同じ眼をしていた。あらゆるものを破壊しなければ気が済まない、破壊衝動に満ちたその眼光が。憎悪と憤怒でしか生きられないノワールにとって、何よりも信頼に足るものだった。

 

 

────オマエが、ネルギガンテか

 

耳鳴りの、己を蝕んでいた殺意と破壊衝動の正体。それを理解し、満足に笑ったノワールに漆黒の暴龍─────ネルギガンテが食らい付いた。

 

 

グシャリ、と生々しい音がノワールの意識を断絶させた。いや、同化したのだ。二つの意識が、完全に。

 

 

◇◆◇

 

 

「────そ、ォだ」

 

 

ピクリ、と全身が震える。最初にそれに気付いたのは遠距離からスコープで覗いていた初瀬三曹だった。彼はその変化を察知し、言葉に詰まる。全身に伝わる怖じ気が薄ら寒い感覚となり、反応して動くことが出来ない。

 

 

「全部、壊す────全部、殺ス────俺たち以外の全てをッ」

 

 

血の池の上で立ち上がったノワール。突如目覚めた彼に身構えるタスク達だが、一瞬で凍りつく。ノワールは、貫通して開いた穴を再生させながら、言葉を紡いでいた。

 

 

「何もかも────オマエら全員ッ!(ほろ)ぼしてやるよォッ!!」

 

 

そう叫んだノワールの瞳が、変貌する。濁りきった殺意の宿る瞳から、黄色に縦の黒目が目立つ人間からかけ離れた眼光であった。それに呼応するように、ノワールの肉体に大きな変化が現れる。

 

 

背中から、二つの突起物が強引に生える。大きく広がったそれは、翼膜のない翼であった。爪のような五指に伸びたソレは、無数の棘で覆われ黒く染まっていく。

 

全身の筋肉が膨張し、獣のように成り果てたノワール。尻尾を生やし、翼を有したその姿は『竜人(ドラグノート)』としてではなく、より龍に近付いた異容だった。

 

顔を上げたノワール、彼の顔を覆うようにバイザーが展開される。漆黒のフォルムに、白い光のラインが眼光のように刻まれたバイザーヘルム。それの姿に変わったノワールは、両手で地面を這う─────四足獣のようにノワールは唸り声を漏らす。

 

 

「あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛アアアアァァァァァアアアアアアッッ!!!!」

 

 

悪魔のような、おぞましい咆哮。それを響かせたノワールは地面を蹴り、タスク目掛けて腕を振り下ろした。先程の戦いよりも膨張した、歪な悪魔の剛腕を。

 

 

「────ッ!」

 

 

咄嗟に回避したタスクは、その速度がさっきよりも早くなっていることに気付いた。洗礼された、というわけではなく、がむしゃらな攻撃だ。しかも、己の肉体を投げ出すような勢いである。

 

(コイツの戦い方────モンスターそのものだ)

 

 

冷静に、タスクは確信した。あの戦闘によって、ノワールの中にあった龍を目覚めさせてしまったらしい。その龍が、ノワールの意識を乗っ取ったのか。

 

だが、完全に意識を奪われたかは分からない。今でも暴れ続けるノワールは、うわ言のように何かを口にしている。痛い、だの、助けて、だの─────まるで誰かの言葉を永久に流し続けるレコーダーのように。

 

確実なのは、理性が喪失しているということ。アレには最早、この戦闘に裂く知性は存在しない。

 

 

「────レレイ!俺達はいい!伊丹たちの所に行け!」

 

 

銀髪の少女は一瞬躊躇した様子だった。この状況下で自分が離れることの可能性を考え────すぐに無表情ながら頷いて、炎龍の巣の方へと向かっていく。

 

彼女の後ろ姿を尻目に、再び戦場に意識を戻す。暴れ続けるノワールの標的は栗林や富田、ダークエルフの壮年戦士二人に移り変わっていた。

 

だが、人間離れし始めたノワールの動きに徐々に翻弄され始める。ダークエルフの戦士に狙いを定め執拗に追撃を繰り返すノワールに、耐え兼ねた戦士が急所を晒した瞬間────タスクが割り込む。

 

 

「────オマエ! オマエだ!ハンター!いつもいつも、俺の邪魔をしてくれた!!」

 

「………いつも?」

 

「あの時もだ!!何度も何度も、俺の前に現れては邪魔をしやがって─────オマエらも絶対殺すと決めてあるんだよォ!!」

 

 

理解不能な言語。タスクに、いやハンターに恨みがあるような言葉。ノワール本人ではない、ノワールの意識を乗っ取った『龍』の憎悪。

 

邪魔をした、と恨まれるほどに『龍』にとってハンターの存在は疎ましかったのだろう。弱っていた獲物を無視してタスクに襲いかかるまでに。

 

 

言葉にならない声を響かせながら、ノワールは全てをもってタスクに牙を剥く。背中の翼が、十本の槍翼がタスクを狙い、地面ごと穿ち抜いた。全ての槍を潜り抜け、ヘビィボウガンに装填した徹甲弾を数発彼の顔と腹に命中させる。

 

 

「グギャッ」

 

 

口と腹の中央に弾を受けたはずのノワールは、猛々しく嗤う。傷口は瞬時に再生し、彼は喉の奥から数発の徹甲弾を吐き出し、その場に吐き捨てた。

 

そのまま突貫するノワールに、栗林と富田がM4カービンを向ける。無防備なノワールを覆う棘を銃弾で弾き飛ばし、少しでもタスクの援護を行うために動く。

 

それを、ノワールは一瞥すらしない。背中の翼を操り、周囲の地面に槍翼を突き立てる。不思議な音が響いたかと思えば、突如として地面が抉れ、岩石が彼等に向かって飛ばされた。

 

(なんだ今のは─────アレもヤツの能力か!?)

 

 

タスク達は知る止しもない。先程の攻撃は『滅尽龍』の本来の能力ではない。では何の力なのか、と言われるとある話になる。

 

ノワールと同化した『滅尽龍』、それがかつて喰らった古龍。『地啼龍』、新大陸と呼ばれる地にて騒動の元凶である古龍の地肉を喰らった滅尽龍の細胞の中には、何の因果か『地啼龍』の因子が残存していた。

 

完全ではないが、あくまでも似たような力の再現は出来る。そうやって『地啼龍』の能力────超振動波の力は、微弱ながら扱えたのだ。

 

 

そして、他二人を岩石の砲弾によって無力化したノワール。無機質なバイザー越しの視線が、タスクを補足する。相変わらず、タスクだけを狙ったものである。

 

 

(……………やり合う気か。好都合だ、お陰で仕込みが上手くいく)

 

己の策が悟られぬように、タスクは先手を切る。脚の筋肉に込めた力を爆発させ、突貫したタスクの拳がノワールの顔を打ち抜く。

 

 

「ガギャルァァァアアアアアアアア────ッ!!」

 

 

グルンッ! と首を回したノワールの爪がタスクの首筋を切り裂こうと迫る。銀の鎧の籠手で即座に防いだタスクが数回に及ぶ斬撃を放つ。

 

何回も切り裂かれたところでノワール、もとい『龍』が同化した意識は本能で疑問を覚えた。

 

 

軽い、あまりにも軽すぎる。手数だけで、大した威力も籠ってない。速さだけを優先した攻撃ばかり繰り返すタスクに、ソレは純粋な殺意をもって応じた。

 

全身の棘を、最高度の棘に覆われた身で突撃する。モンスターが、『滅尽龍』が何より信頼する原始的な攻撃。体躯と棘に任せた圧倒的な破壊により、タスクを殺す。そう決意した本気の突進に──────余裕を崩さないタスクは、大剣を一振り。

 

 

たったそれだけで、圧倒的な斬撃がノワールに炸裂した。棘や肉体をも切り裂き、腕を含めた半身が断絶される。今までとは違う、桁外れの一撃に『ソレ』は目を白黒させた。

 

 

 

 

絶対的な実力を有するタスク・アイアス。彼は、普通とは違う手段を一つ隠し持っている。ギルド内のハンターでも、数少ない者が許された手段。

 

 

────『狂竜症・新蝕』

狂竜結晶の欠片を食い、自発的に狂竜ウイルスに感染する。相手の攻撃を繰り返し、一時的に克服することで『覚醒状態』へと─────更に強靭な力を得るというタスクの切り札。

 

克服に失敗すれば逆に体力を消耗し、本来の力が発揮出来なくなる諸刃の刃。何より狂竜ウイルスの結晶化したものを口に含むことは、本来であれば危険極まりない行為だ。

 

度重なる狂竜ウイルスの感染と克服を繰り返した結果、身に付いた強力な免疫と抗体のお陰でタスクは狂竜ウイルスに誰よりも順応、適合したのだ。

 

それ故に克服に掛かる時間も早ければ、それによる力の活性化も尋常ではない。数分の間、タスク・アイアスは禁忌の古龍をも追い詰める程の最強へと成る。

 

正真正銘、タスクだけしか知り得ない未知数の切り札。彼が迅速で勝負を決める場合など、必要と認識したのみしか使わない奥の手であった。

 

 

「─────ぎ、ギギ」

 

 

一撃で半身を切り捨てられたノワールが再生を始める。ズズズ、と断面から腕や身体を生やそうとする『竜人(ドラグノート)』だが、再生力は衰えているようだ。

 

ふらつきながらも再生を続けた『竜人(ドラグノート)』だったが、彼の首元から何かが外れ落ちた。ネックレスだろうか、地面を跳ねたそれは崖を滑るように落下していく。

 

 

空中に投げ出されたネックレスを視界に収めたノワール。光を放つ銀色のアクセサリーを目視した『竜人(ドラグノート)』、その思考に一つの記憶が過る。

 

 

 

─────■■、誕生日おめでとう! 私からのプレゼントだよ

 

 

「───────、あ」

 

 

瞬間、ソレの意識が大きくブレた。『龍』でもなく、ノワールでもない誰かが─────ネックレスを掴む為に身を投げ出した。崖の向こう側へと、構築された龍としての肉体を分解させながら。

 

落下する中でネックレスを手にした青年は、狂気と破壊衝動から解放されたように、抜け落ちたような笑みを浮かべた。

 

 

────そこでようやく、『彼』は思い出した。ノワールへと成った時、彼が抱いていたのは憎しみでも怒りでもない、純粋な感情。『竜人(ドラグノート)』に成ってまで、生きたかった理由。

 

 

 

────帰りたかった。

大切な誰かと共に、自分の故郷へ。その為に、彼は力を求めたのだ。奴隷として連れ去られた恋人を助け出し、彼女と共にあの平和な日常に戻りたい、と。

 

 

それを、本来忘れるべきではなかったはずの記憶を取り戻した。己の意識を蝕む『龍』の破壊衝動も、今は何ともない。タスクによる攻撃を受け、『滅尽龍』の意識が著しく弱ったお陰だ。

 

彼にとって、感謝する暇もない。タスクへのお礼として出来ることは、自分が正気でなくなる前に命を絶つことのみ。

 

 

 

「────ごめん、■■」

 

 

君を助けられなかった。そう呟き、高所から落下した青年は一度は失った大切な記憶を胸に────地面に叩きつけられた。グチャ、と生々しい音ともに弾けた彼の意識は、狂気に蝕まれることのない、穏やかに途絶える。

 

狂気と破壊衝動に囚われたノワール。彼が本当に望んでいたのは、大切な人と故郷に帰る─────たったそれだけの、小さな願いであった。

 

 

「…………ノワール」

 

 

自ら飛び下りたノワールの最期に、タスクは静かに黙祷を示す。敵とはいえ、一度殺されかけた相手とは言えど、殺しよりも優先する何かを守った彼の姿に敬意を忘れない。

 

だが、それも一瞬。すぐさま遠くを見据えたタスクは、全身の力を込めて空高く跳躍するのだった。炎龍の巣の存在する、火口へと。

 

 

 

◇◆◇

 

 

炎龍を爆弾で仕留める作戦の最中、突如巣に帰還した炎龍の強襲を受けた伊丹たち。同行していたダークエルフたちの犠牲を出しながら、追い込まれていた彼等は────その場に加勢に来たレレイの魔法と、トラウマから再起したテュカの精霊魔法によって、炎龍に大打撃を与え、仕掛けられた爆弾を爆発させることに成功した。

 

 

全身に突き立てられた武器に伝導する雷撃と、至近距離からの爆発。流石の炎龍も大ダメージを免れない。その破壊力から崩落する巣から逃げ出す伊丹たちに、一つの苦難が降り注ぐ。

 

 

────辛うじて、瀕死ながらも生き延びた炎龍。己を殺し損ねた伊丹たちの背中を見据え、憎悪に満ちた唸り声と共に確実に殺そうと動き出す。

 

 

最早、伊丹たちには手段もない。炎龍を確実に殺し得る方法は、全て使い尽くした。巣から飛び出そうとした伊丹は無線機に向けて─────聞こえているかは分からないが、何よりも信頼できる戦友に向け、叫んだ。

 

 

「─────トドメは任せるぞぉ!!タスクぅ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「────────任せろ」

 

 

死闘を繰り広げた伊丹の声に、英雄が答えた。火口から跳躍で飛来したタスクは『覚醒』した全身の膂力を込め、大剣を両手で構える。

 

勢いよく振り上げた『THE オリジン』の斬撃が、彼の存在に気付こうとした炎龍の首を─────容易く、両断する。

 

 

伊丹たちの努力を無駄にすることなく、それを引き継いだタスクが全てを決める。疲弊し、弱りきった炎龍といえど、その鱗と体躯を斬ることは今のタスクにとって難しいことではなかった。

 

 

「────ノワール、撃退。炎龍、狩猟─────クエスト、完了」

 

 

ゆっくりと崩れ落ちる炎龍の体躯を背に、タスクは今回の戦いの決着を短く宣言した。

 

 

 

 

 

 




コイツ本気出したら全力の炎龍も一撃で殺せるくらいにはパワーアップするんだよなぁ………化物か?(錯乱)

ノワールはここで撃破、いや自滅しましたが、ここで退場ではありません。一時的なダウンみたいなものです。

因みにノワールが同化した『滅尽龍』は大いなる存在を襲った個体と同一です。いや、取り込まれた欠片の中に残る残留思念みたいな感じの、もう殺すことだけしか頭にない意識体ですね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。