GATE 狩人 彼の地へと、 導かれし   作:虚無の魔術師

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冥王の使徒

爆破によって崩落した巣から抜け出した伊丹たちは、兎に角疲弊しきっていた。あの炎龍との死闘を繰り広げ、全速力で逃げ出したのだ。疲れるなんてものではない。

 

炎龍は、もう死んだ。伊丹は素直にそう確信していた。あの時、がむしゃらだった伊丹の叫びにタスクが応えたのだ。それだけで、彼が炎龍を倒したことは明白、疑いようもない。

 

テュカ、レレイ、ヤオが無事であることを確認した伊丹はホッと安堵する─────だがすぐに、巣の近くで待機していたロゥリィの存在を思い出した。

 

無線も通じず、何があったのかと思っていた伊丹の目の前に、彼女はいた。全身をズタボロに傷つけられ、手足も千切られかけた状態で。

 

 

「ロゥリィ!? しっかりしろ!」

 

「うっ………ん」

 

「っ、一体何が──────」

 

 

千切れた腕を繋げ、再生を手伝った伊丹がそう聞こうとした瞬間、複数の気配と共に二つの声が響き渡る。

 

 

 

「────お姉サマったら、ヒトなんか心配されて随分と軟弱になったんではなくて?」

 

「────何人か増えたな。しかし、増援にしては心許ない。気にするだけ無駄だろう」

 

 

二人組の男女。

 

一人は、龍人のような女性。背中から龍の翼を、腰から尻尾を伸ばし、額から二本の角を生やすその姿は龍の特徴だけを引き継いでいる。

 

青い肌に露出度の高いフリル付きの白いドレスを着込んだ彼女は、自身と同じサイズの鎌を肩に乗せて戦意に満ちた笑みを浮かべる。

 

もう一人は、普通の人間と大差のない男性。白い法衣に身を纏い、分厚い本を手に持った無機質な雰囲気の漂う人物。

 

 

その二人の背後に、新たに二つの影が現れる。ワイバーンとは違う、炎龍のようなドラゴン。話に聞いていた、新生龍が二体。二人組の隣に並び、此方を睥睨していた。

 

傷だらけのロゥリィに寄り添う伊丹。それを見た青い龍人が眉をひそめ、露骨に反応する。

 

 

「─────お姉サマ。主上(しゅじょう)さんの奥サマになろうってお人が気安くにヒトになんか肌を触れさせるなんて不調法が過ぎ───まッ」

 

 

丁寧な口調の言葉は、彼女が舌を噛んだことで途切れた。苛立たしそうに尻尾を振り回した彼女は、伊丹を睨むや否や、先程までの雰囲気をかなぐり捨て、口を開いた。

 

 

「そこのヒトのオス! お姉サマに触んなってんだよっ!主上さんの大事な人なんだぞ!」

 

「────口調」

 

粗暴な口ぶりを咎めるように、一緒にいた男が一言。それだけで息巻いていた龍人の女性は即座に口を閉ざした。ヤッベ、と手で口を塞いだ彼女と男性に、ロゥリィが怒鳴る。

 

 

「────うるさい! わたしぃの主神はエムロイ、死と断罪と狂気、戦いの神! あんな女の嫁にぃ、だぁれがなるもんですか!」

 

 

不愉快そうに、怒りを剥き出しに叫ぶロゥリィ。二人組の反応は各々だった。それはそうだ、と納得したように本を読む男性。しかしロゥリィを姉と慕う龍人の女性は、それで納得するようなタチでは無いらしい。

 

 

「はぁ………せっかく主上さんに見初められたのに。やっぱ、動けなくして連れていくしかねぇかなぁ」

 

「───その前に、やることを忘れているな。ジゼル」

 

 

ああ?と振り向いた女性に、男性は本から目を離すこと無く言葉を続ける。

 

 

「知らん奴等がいる。その男も、私達のことを分かってはいない────ならば、名乗りくらいは必要だろう」

 

「はぁ? お姉サマ以外のヤツに名乗る必要なんてあるかよ?」

 

「────礼儀作法」

 

 

指摘され、ジゼルと呼ばれた女性は言葉に詰まっていた。少しでも時間を稼ごうと思った伊丹は、その好機を無駄にしないように食い付いた。

 

 

「あ、ども。自分は、日本国自衛隊特地派遣隊第三偵察隊隊長 伊丹耀司二等陸尉ですけど………」

 

「────ほら見ろ。彼はちゃんと自己紹介しているぞ。お前も少しは見習って挨拶ぐらいはしろ」

 

 

味方であるはずの女性に注意し、あろうことか伊丹のことを援護する男性。半ば諦めたらしい彼女は、すぐさま名乗り始めた。

 

 

「オレはジゼル。主上 ハーディに仕える使徒だ」

 

「───私はアイン。彼女と同じくハーディに仕える使徒、謂わば亜神だ」

 

「アイン…………まさか、『黄金錬成』のアイン?」

 

 

声をあげたのは、唖然としたレレイであった。知っているのか、という視線を受け、彼女は無表情のまま説明を始める。

 

 

「数百年前、とある王国で名を馳せた錬金術師。万物を造り出し、黄金すらと造ったとされる天才。死んだと聞いていた…………亜神に成ったなんて知らなかった」

 

「黄金錬成…………全く、懐かしい名前だ」

 

 

否定せず、懐かしむアイン。龍人と錬金術師の亜神。ロゥリィ一人を連れてきただけにしては、戦力が過剰だ。それにも龍二体も厄介だ。

 

 

「じゃあとっとと、お姉サマを連れていこうぜ」

 

「いや待て─────確かめることがある」

 

 

出鼻を挫かれ、不満そうなジゼルを無視して、アインが本を開く。分厚い頁の数々を捲り、頁全体に刻み込まれた魔方陣と術式を掌に重ね、発動させる。

 

その瞬間、アインの足元の地面が────金属へと錬成される。それらは瞬時に槍へと形を変え、伊丹へと狙いを定め、解き放たれた。

 

 

「───わたしぃの伊丹にぃ、手ぇ出すんじゃないわよぉ!!」

 

 

飛び出したロゥリィが、伊丹に迫る無数の槍をハルバードで弾き落とす。怒れる死神の怒号に、アインは顔色も変えずに片手で錬成した巨大な鉄塊をロゥリィへと打ち込む。

 

それを切り払ったロゥリィは、直後彼女の顔に傷が走った。当然、彼女は攻撃なんて受けてない。むしろ攻撃を受けたのは、顔に破片が掠ったはずの伊丹であった。

 

だが、伊丹の顔には傷一つない。その様子を見たアインは、成程と感心しながら、ロゥリィに向けて無数の剣や槍を放つ。

 

だが、それらの剣と槍はロゥリィに届く前に、剣の一振りによって薙ぎ払われた。振るわれた大剣を軽く回したのは、炎龍にトドメを差したタスクであった。

 

 

「遅くなったな伊丹!─────早速だが、コイツは?」

 

「えーっと、ロゥリィの追っかけ。ハーディって神様の使徒らしい」

 

「…………ハーディ。冥王の手下か」

 

 

ジゼルは言い方に不満タラタラだったが、アインは文句すら無しだった。伊丹の言い分で全てを理解したタスクは、臨戦態勢を崩さない。

 

邪魔を受けたにも関わらず、アインの顔は変わらない。彼は伊丹の足の掠り傷が一瞬にして塞がったのを目視し、己の考えを改める。

 

 

「成程、眷属としたか。傷を引き受けていたとは、道理で弱っているはずだ」

 

「おい! お姉サマに乱暴するなよ! 主上さんの嫁さんなんだぜ!」

 

「────どうせ動けなくする必要がある。亜神なんだ、死ぬ心配も不要だ」

 

 

憤慨するジゼルに、アインはあっさりとそう告げる。それもそうか、と大人しく理解を示した彼女に、アインは本を開きながら淡々と告げた。

 

 

「疑問は解消した。もう用はない、無力化するか────ジゼル、お前はトワトとモゥトを使え。私はあの男の動きを止めておく」

 

「そうだな。この二頭なら、弱っていようとお姉サマの相手には充分だからな。わざわざ炎龍を起こしてまで産ませた甲斐あったわけだ─────じゃあ、そろそろいくぜ」

 

 

 

「─────お待ちくださいッ!!」

 

 

戦いを始めようとした使徒二人を、ヤオが呼び止める。やる気を削がれた様子のジゼルと彼女の存在を改めて理解したアインは、先の話に耳を疑いながらも、信じようとしているヤオの話に耳を傾けた。

 

 

「猊下が、炎龍を………? 何故、何故ですか!? 此の身らはハーディの信徒、主神に支えてきた同胞たちへの代償が────炎龍という名の災厄とは!?」

 

「……………あ?何言ってんだ?」

 

「───災厄、炎龍…………ああ成程。襲われたのか、それは運が悪かったな」

 

 

必死に叫ぶヤオの言葉に、ジゼルは分かってない様子だった。しかしアインだけは、彼女の言葉で全てを理解したらしい。その上で、運がないと告げたのだ。

 

 

「運が悪かったとは、どういうことですか!?」

 

「私達は炎龍の自由にさせていたからな。子のために餌を集めていた炎龍が深傷を負ったのは心外だったが、また餌を集めて来たので安堵した。…………まさか、腕を奪われた炎龍が集めてきた餌がお前達だったとは─────だからこそ、運が悪いと言っている」

 

「…………そっか。アレお前らだったのかよ。まぁ、災難だったな」

 

 

事実を知った使徒二人の反応は、あまりにも淡白だった。頭を軽くかいたジゼルは憐れみを向けているが、少なくとも悪かったとすら感じていない。

 

自分達を襲った炎龍による蹂躙。仲間達が喰われたことが、ただ不幸だったという理由で片付けられたヤオは、血涙を流してまで、理不尽を糾弾した。

 

 

「災難………運が、悪かった? 何度祈り、泣き悲しみ、何度救いを求め絶望したことか────その度に主神を想い、希望を求めて旅に出て────

 

 

 

 

 

─────それなのに………!此の身の祈りに、神々は応えてくれないばかりか! 耳すら貸してくれなかったと!?」

 

 

信仰の証である首飾りを引きちぎり、ヤオは必死に叫んだ。しかし、話を聞いたジゼルは苛立たしそうに首を鳴らすだけ。黙って話を聞いていたアインは、短く告げた。

 

 

「────では聞こう。お前達は神に何をした?」

 

「………は?」

 

「祈りを捧げた、聞こえはいいが………そんなことは誰にでも出来る、簡単なことだ。たったそれだけのことで、神に救われると?─────思い上がるな。成果を求めるなら、それ相応の対価が必要だ。誰にでも出来る、たったそれだけの行為で救いを求めるなど、烏滸がましいにも程がある。

 

 

 

それに、だ。世の中は弱肉強食、炎龍に喰われたのはお前達が弱かったからだろう。襲われても反撃できるほど、生き残れるほどに強ければ良かっただけのことだ。………理不尽と思うか?嗤わせる、お前達こそ生き物を殺し、その肉を喰らって生きてきたのだろう。自分達だけ特別だと思うのは傲慢だ──────自分達が生きているだけ幸福だったと、身の丈にあった幸せを噛み締めていろ。有象無象の一種が」

 

「アインの言う通りだ。神にすがることしか出来ねぇ信徒なんざ、喰われただけ幸せだろ。死んで主上さんの役に立ったんだしさぁ」

 

 

ヤオの叫びに、二人はそう吐き捨てた。彼等にとってダークエルフたちの犠牲はそんなものでしかない。同胞たちの死を嘲笑うような言葉に、ヤオの思考は激しい怒りに支配された。

 

腰に備えたサーベルを抜き放とうとした彼女の手に、タスクの手が添えられる。

 

 

「タスク殿っ!?何故────!」

 

「────堪えろ。奴等に向かっても死ぬだけだ」

 

 

現に、余裕に満ちた二人の態度がそれを示している。サーベルを向けられようと、彼等はその余裕を崩さないだろう。なんせ斬られた瞬間に殺せばそれで済むのだから。

 

 

「なんだよ、斬りかかってくると思ったのに………けどまぁ、ヒトのオスにしては覚悟がねぇのも仕方ねぇか」

 

「あらぁ。舐めたこと言ってていいのぉ?タスクはねぇ、わたしぃよりも強いのよぉ。炎龍の腕を斬ったのも、トドメを差したのも、タスクなんだからぁ」

 

「な、なんだとっ!?────いや、なんですって!?」

 

「─────どうやら、嘘ではなさそうだ」

 

 

愕然としたジゼルと、冷静沈着なアイン。そして二頭の新生龍は直後に気付いた。タスクに漂う濃い血の匂い。別のものの血も混じっているが、彼の大剣に染み付いた血は炎龍のものと同じだった。

 

 

「───マジかよ、炎龍を倒したってか? 人間が?」

 

「俺だけじゃない、炎龍に傷を与えたのは伊丹達だ。伊丹達がいなかったら、俺も少しは苦戦したかもな」

 

(お願いだから俺を巻き込むなよ………!俺はただ逃げてただけだから!)

 

 

タスクとしては伊丹を認めた上での発言だが、自己評価が割りと低い方にある伊丹は炎龍討伐は他の皆とタスクのお陰であり、自分は役に立ってないと考えている。これをロゥリィ達が聞けば「本気で言ってるのか」と呆れ果てるだろうが、伊丹はそれを知ることはない。

 

 

「信じられないなら、それを証明してやる─────俺一人で、お前らを倒す」

 

「────ハッ!出鱈目を!此方とら亜神二人に新生龍二頭だぜ!全力のお姉サマだって圧倒できるオレ達を、人間が一人で相手出来るとでも!?」

 

「──────俺が嘘を言うように見えるのか?」

 

 

それだけで、ジゼルは冗談ではないと理解した。と同時に、本気で挑むに相応しい相手だと。大鎌を振るい、身構える。

 

 

「いいぜ。お望み通り、一緒に相手してやるよ」

 

「………タスク・アイアス。あの御方が興味を持っていただけの存在足るか、試してみようか」

 

 

二人と二頭の龍が戦闘態勢を取る。合計四つの戦意を受けてるにも関わらず、タスクは淡々と言葉を紡ぐ。

 

 

「始める前に、一つ────さっき、弱肉強食が何とかと言ってたな?」

 

「はぁ?それがどうしたよ」

 

「────確かに、その通りだ。返す言葉もない。ダークエルフ達は無意味に殺されたのではなく、喰らうために炎龍に殺された。それは自然の摂理としては当然のこと。生きるために殺してきたのなら、生きるために殺されるのは仕方のないことだ。炎龍にも、お前達にも罪を追求する道理はない」

 

 

その言葉に、ヤオや伊丹達も耳を疑う。だが、自分達が思っているような冷酷な発言ではない、と直後に察することになった。

 

 

「─────だが、弱肉強食を唱えたのなら覚悟は出来ているだろう。自分達より強い強者に狩られる覚悟は」

 

 

大剣の剣先を向け、淡々と告げるタスク。今の彼は『ハンター』としてのゾーンに入っている。思考も意識も肉体も、完全な戦闘態勢に昇華されている。

 

 

「罪を追求する道理はなくとも、危険を排除する道理はある。生きるために、自然の行為だ。炎龍を従え、罪のない人を襲ったお前達を復讐ではなく─────脅威を生むものとして、討伐する」

 

 

ゾワッ! と敵意を向けられたジゼルとアイン、新生龍が怖じ気づく。僅かな恐怖は、初めて二人と二頭に金縛りを植えつけた。

 

だからこそ、反応が遅れた。彼等が気付いた時にはタスクの姿がその場から消え、二人の隣にまで歩み寄っていた。

 

 

「────ッ!!?」

 

 

咄嗟に、ジゼルがいち早く動く。大鎌を振り上げるや否や、全力でタスクの首を切り裂かんと振るう。無防備な首筋に迫った刃は、ガァンッ!! という音と共に受け止められた。

 

 

「…………あ?」

 

 

大鎌の刃は、首を裂くことすら出来ない。全力で振るったはずの一撃は皮一枚を切る程度で終わっていた。唖然と、信じられないものを見るような目で見つめていたジゼルは、直後タスクによって蹴り飛ばされる。

 

 

「────がッ、ば!?」

 

「硬いな。龍人みたいな姿をしてるだけある、思ったよりも頑丈だ」

 

 

砲弾のように吹き飛んだジゼルを見据え、タスクは軽く手加減しながらも力の調整を確かめる。そうしていた彼の顔に、無数の針が迫る。

 

それを、タスクは正面から受けた。皮膚に刺さることなく、容易く弾かれた針を目の当たりにしたアインは流石に表情を崩した。

 

 

「プラチナ製が通らない────ジゼルの鎌といい、どれだけ頑丈なんだ」

 

 

言いながらも、両手で本の頁に刻まれた術式を起動する。そうすると周囲の地面が変質し、巨大な鉄の竜を造り出した。軽く指示を飛ばし、巨大な鋼鉄の竜を襲わせるアイン。

 

しかし、たった数秒で、全てが終わった。

タスクはただ、突進した鉄の竜の頭部に腕を突き立てる。内側を掴み、無理矢理胴体から頭部を引き剥がし、一撃で無力化する。大剣すら使わずに、錬金術で生み出した竜が撃破されたことに、アインは戦慄を隠さなかった。

 

 

「馬鹿な!? 私の錬金術を腕1本で!? どんな化物なんだヤツは!!」

 

 

取り乱すほどに冷静さを失ったアインは、タスクが投げた鉄の竜の頭部を直に受けた。人間以上の膂力を有する投擲に、言葉にならない悲鳴をあげるアインは全身の骨の半分を砕かれていた。

 

 

「────よし、これで二人は無力化した……………後はお前らだな」

 

 

空を飛び、臨戦態勢に入った新生龍を見上げる。主二人がやられても尚、彼等からは敵意が消えることはない。親である炎龍を殺したタスクへの怒りが勝つのだろう。

 

子供の龍を殺すことは好き好むことではない。しかし、アレは既に人の味を覚えている。逃げる機会は与えた、それでも尚挑むのならば─────タスクは躊躇しない。

 

 

流石に一匹で挑むほど馬鹿ではないらしく、二体の新生龍 トワトとモゥトは左右から迫る。空中から爆炎を吐きながら、一方的にタスクへの攻撃を繰り返す。

 

 

しかし、それらの攻撃を全ていなすタスク。右手のヘビィボウガン、左手の大剣。二つの武器で火球を相殺し、切り払う。歩みを止めることなく、回避を繰り返しながらの行為。

 

二体の新生龍の攻撃のペースが重なった瞬間、タスクは足元の岩場を踏み台にして、一気に跳躍した。厳密には、操虫棍を利用したジャンプで、新生龍の一体 トワトへと距離を縮める。

 

 

此方に噛みつこうとしたトワトの頭部に踵を落とす。軽い脳震盪で意識が揺らいだ新生龍の首に大剣を突き立てた。

 

 

「──────ッ!!!?」

 

 

首を貫く刃を受け、血を混じったトワトの咆哮が響き渡る。大剣を握り締め、暴れ回る新生龍にしがみつくタスクに、兄弟への蛮行に怒りを再燃させるモゥトが牙を剥く。

 

唸り声を響かせながら火炎を溜め込む片割れ新生龍に、タスクはヘビィボウガンの銃口を定めた。放たれた一発の徹甲榴弾は爆炎を貫通し、モゥトの喉を抉り、ぶち抜いた。

 

そして、タスクは大剣に力を込め、一気に引き抜く。龍の鱗と肉を引き裂き、新生龍 トワトは兄弟と同じく一瞬で絶命した。

 

全身を両断されたトワトの死体が火口付近に墜落する。新生龍の亡骸の近くに降り立ったタスクは、自分の身体から狂竜ウイルスの覚醒状態が消えたことを理解し、大剣とヘビィボウガンを背に納める。

 

 

「─────これで粗方、全滅か」

 

 

たった数分で、冥王の使徒は無力化され彼等が従えた新生龍は生き絶えた。

 

 

◇◆◇

 

 

(う、ウソだろ────トワトとモゥトが瞬殺だって!?)

 

 

目の前で見た光景に絶句したのは、崩壊した瓦礫の中にいたジゼル。彼の蹴りで腰骨を砕かれた彼女は再生を待っていたが、その最中に彼女の従えていた新生龍二頭はタスクによって狩られていた。

 

彼女はようやく、ロゥリィの言葉が事実だと確信した。アレはロゥリィや自分達 亜神とは別物だ。普通に戦って勝てるはずがない。ジゼルの頭の中には、素直に相手をする選択肢は消え去っていた。

 

 

「…………や、ヤベェぞ、アイン。オレら本気でやられちまう。逃げられるかどうか─────────アイン?」

 

 

同じくダウンしていたはずのパートナーの存在を思い出したジゼルは、彼の姿を探した。しかし、錬金術師の亜神は何処にも見えない。彼が吹き飛ばされた場所にも、姿形は残ってなかった。

 

直後、放心したジゼルは全てを悟った。

 

 

(あのヤロ─────一人で逃げやがった!?)

 

 

勝ち目なしと判断したアインの行動は手早いものだった。ダウンしながらも再生を行っていたジゼルを見捨て、一足先に戦場から離脱したのだ。

 

疑っているのではない、確信している。アインはそういうことを平気でする。何度も問題を押し付け、平然と姿を消した経験の多い相方のことを、ジゼルはよく知っている。

 

 

いつもは奢られてたから許したが、今は本気で許せない。涙目になりながら震えるジゼルの心を、更に恐怖に陥れる声が聞こえた。

 

 

「ジぃ~ゼぇ~ルゥ~…………どぉこにいるのぉ~?」

 

「お、お姉サマ………っ」

 

「────幽閉してあげるからぁ、出てらっしゃぁ~い」

 

 

ヒッ、といつもの調子も消え去り、怯えるジゼル。彼女たち亜神は不死身だが、無力化する方法は存在している。手足を潰し、動けなくすることで封印したりも出来る。だが、彼女が知る『幽閉』はそんな生易しいものではない。

 

全身を細切れにされて埋められたり、永久に身体を獣に貪られる地獄。そうなった神を知るジゼルからすれば、幽閉なんて絶対に嫌だ。だからこそ、アインは即座に逃避したのだから。

 

 

「そ、そういやお姉サマも…………それだけは、御免だぜっ」

 

 

絶対に見つかりたくない。今までにないほどに息を潜め、ジゼルはその場から必死に離れた。強い恐怖に身を震わせながら、彼女はタスク達とは反対の方へと逃げていく。

 

 

◇◆◇

 

 

その数日後、帝国に一つの噂が広まる。人々を恐れさせた炎龍という災厄が、人間によって打ち倒されたと。討ち取ったのは、『緑の人』 伊丹耀司と『銀の英雄』 タスク・アイアスの二人。

 

帝都の民衆は、自分達と同じヒトの活躍に喜びを隠せない。二人の英雄を声高らかに支持し始める人々とは違い、帝国の中枢にある者達は全く別の反応をしていた。

 

皇帝は忌々しそうに顔を歪め、帝国貴族達は不安に陥る。日本とタスクと敵対する意味を知るピニャが率いる講和派が力を増していく中、数日後に事件が起きる。

 

 

帝国の命運を、この世界の運命を大きく動かすことになる衝撃が。

 




次回、帝国終わる(複数の意味で)前編!

地雷だらけの地震編。(首が)ポロリもあるよ!


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