GATE 狩人 彼の地へと、 導かれし   作:虚無の魔術師

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激震の夜

「ノワールの撃破と炎龍討伐、この二つは痛手だったが………連中の目が彼処に集まった、お陰で計画は手早く進んだな」

 

 

炎龍討伐の報せを聞いたハイルダインは、それだけで同胞────ノワールの敗北を理解する。パタン、と倒したのは一本の棒。しかし、彼の目の前には複数の棒が用意されている。

 

同じように机の上に配置されたのは、特殊な形の無線機。そこから相手と思われる男性の声だけが響き渡る。

 

 

『────随分と余裕だな。「滅尽龍」の『竜人(ドラグノート)』と炎龍、この二つは君の計画に必要だったはずだが』

 

「俺とて愚かではない。計画は常に修正できるように、予備案を用意しておく。確かにお前の言う通り、ノワールを今失ったのは口惜しいがな」

 

 

それでも、止まるわけにはいかない。永年を掛けて用意した計画なのだ。やり直しは出来ない。確実に成功させねば、ノワールの犠牲も無意味となる。ハイルダインなりの、仲間の敗北に報いるための方法は、それしかなかった。

 

 

『それで?もう一つのプランは?』

 

「────地脈からエネルギーを吸い出す。その為に、事前に『企業』から買った『炉心』へと繋げる必要がある。………お前の力なら、不可能ではないはずだ」

 

『────無論、不可能ではない。だが、反動も大きいぞ』

 

 

相手の声は平坦で、感情の起伏が見られない。淡々とした声は静かに、ハイルダインへの告げる。

 

 

『「炉心」の融合は、莫大な反動を地脈に行き渡る。私が推測するだけでも、類を見ない程の大地震を起こす。奴等がそれに気付く可能性は?』

 

「ゼロだ。冷花、いや『セレーティア』曰く、日本は地震の多い国と聞く。奴等からすれば疑いはすれど、地盤の問題と認識することだろう─────地下で俺達の計画が行われているとは、そう簡単には思い付かない」

 

 

炎龍を倒し、ノワールを退けた伊丹とタスク達。しかし、ハイルダインは全て予想していたことだった。現に、彼はその合間を利用する形で、自分の計画を別軌道へと切り替えたのだ。

 

誰にもバレることない場所での────大規模な作戦を。

 

 

「思う存分に行え。元より計画の進捗の為に必要不可欠。今せずに好機は他ない」

 

『────分かった。奴等に気付かれても文句は聞かないぞ』

 

 

協力者の声は、そこで途絶えた。通信の切れた無線機を指で倒し、電源を切るハイルダイン。冷徹に、机の上に立つ棒を指で揺らす彼の背後の扉が────突然、ノックされた。

 

 

入れ、と告げた扉から姿を現したのはゾルザルの奴隷であっる 元ヴォーリアバニーの女王 テューレだった。布きれで身を隠した彼女は、いつもよりも世話しなく周りをキョロキョロと見ながら扉を閉める。

 

 

「────ゾルザル様からお世話を任されたテューレです。この度は何卒─────」

 

「………………似合わないな、お前にそんな態度は」

 

呆れたような物言いに、テューレを肩を震わせる。相変わらず周りへの警戒を緩めない彼女に、ハイルダインはヤケに馴れ馴れしく語りかけた。

 

 

「この空間には結界を張ってある。外部からの監視の心配はない─────あの馬鹿が、そんなこと考えるような有能でもないから安心しろ」

 

「……………はぁ」

 

 

ヴォーリアバニーの元女王が一息つく。ふと、彼女は己の身体を隠す布から手を離し、裸体を露にする。そのまま歩み寄った彼女には、ハイルダインの座るソファーへと飛び込んだ。

 

即座にクッションを膝に置いた直後に、テューレが顔からクッションにダイブする。自分の顔を保護した柔らかいクッションを払い除け、彼女は堂々と座るハイルダインの膝の上に頭を乗せて、溜め息を盛らした。

 

 

「ホンッットに疲れたわ…………アレの相手をするのも」

 

「その馬鹿はどうした?勝手に放ってきた訳ではないだろう?」

 

「薬を盛ったから、当分寝てるわ。─────今夜はゆっくり、邪魔されずに一緒に居られるわね」

 

 

言うや否や、ゆっくりと身体を上げ絡みつくテューレ。ゾルザルの時とは違う、心から本当の彼女の意志。ハイルダインもそれを不愉快そうに思うことなく、優しく彼女の頬を撫でる。

 

二人は互いの口を重ね、長い接吻を行う。唇を離した二人は相手の顔を見据えながら、静かに言葉を紡ぐ。

 

 

「誰も私を愛さない─────ハイルダイン、貴方以外は」

 

「そうだ。俺を心から愛する者はいない────テューレ、お前以外は」

 

 

ハイルダインとテューレ。この二人はある時から恋に落ちていた。始まりは、奴隷として扱われていた彼女と対面した時。全てを憎むようなテューレの瞳を見たハイルダインは、彼女の境遇と生い立ちから、己の共犯者として利用することを決意した。

 

ゾルザルを都合よく動かすために利用していたはずだったが、二人はいつしか互いに好意を覚えていた。同じ境遇を、国を失い、全てを失い、絶望の中に生きていた二人だからこそ、誰よりも心を許すことが出来た。

 

 

「────故郷と血は常に俺達を縛る。理不尽にも、俺達は因縁から逃れることは出来ない─────全てを滅ぼすまでは」

 

 

最初は復讐だけの為に計画を進めていたハイルダインだったが、テューレという拠り所を得た彼の考えは大きく変わった。

 

過去と現在に憎悪を抱くハイルダインは、未だ過去に縛られている。永劫の罪を、償うことも出来ない贖罪を受け、彼が許される時はない──────己を蝕む呪いと、肉体を焼き続ける劫火を、断たぬ限りは。

 

愛し合った二人は、計画を進めた。互いの復讐を、互いの過去を精算する為の通行儀礼を。

 

 

「俺はお前の復讐に手を貸す。ゾルザルを、お前から全てを奪ったヤツを殺させる。そして────」

 

「私も、貴方の計画に手を貸す。貴方を縛る因縁を、『黒き龍』を殺すという計画に」

 

 

己の手で過去の呪縛を断ちきる。自由を奪う、忌まわしきモノを殺すことで、二人を縛るものは失くなる。そうして、ようやく。

 

 

「その時こそ、俺達は過去の因縁から解放される。ただのハイルダインに、ただのテューレに成れる」

 

 

過去でも現在でもなく、未来を見て生きることが出来る。たとえ多くの犠牲を生み出してでも、自由になる。その為にハイルダインは、テューレは暗躍を続けてきた。ただ一つ、自分達を捕え続けるしがらみから解き放たれ────二人はようやく、幸せになれる。

 

他者から全てを奪われた彼等は、そうすることでしか幸せになれない。恨みを晴らし、大勢の命を奪うことでしか、彼等は明るい未来を歩めない。奪われてきた彼等には、奪う以外の方法が見えないのだ。

 

 

「待ち遠しい、貴方と共に在る日が。この幸福にも等しい時間が、永劫に続く日が」

 

「俺もだ───今は共に、この幸せを謳歌しよう」

 

 

全てを失い、破滅と絶望から這い上がった二人は、互いの温もりを求め合う。ハイルダインは愛するヒトの温もりを、テューレは彼の肉体に眠る焔の熱を、肌に感じ取った暖かさ以上の互いの好意と愛を噛み締めながら、二人は一夜を共にするのだった。

 

 

◇◆◇

 

 

帝国帝都南東門界隈────通称『悪所』。帝国との講和交渉を行うため、帝都での拠点としてそこを選んだ特地派遣隊。

 

帝都にて一番低所にあり、唯一帝国の目が行き届いていないスラム街と呼べるエリア。紆余曲折あれど、その一帯に自衛隊の事務所を設立したことで、炎龍討伐以降の活動が大きくなっていた。

 

 

「─────よし、あと三箱か」

 

 

最近やることもなくなったタスクは自衛隊の作戦の手伝い────物資の輸送の援助をしていた。力仕事なら普通の自衛官の数倍は役に立つ。大きく詰まれた食料や医薬品の詰まれた段ボールを車の中に仕舞い、彼は同じように荷物運びをしていた人物に声をかけた。

 

 

「ヤオ。無理しなくても、手伝おうか?」

 

「い、いえ! 此の身も少しはっ!お力添えしたいので…………っ!」

 

「…………無理はしないでな?」

 

 

ふらつきながらも、積み上げられた段ボールを運ぶヤオ。炎龍という脅威も失くなった現在、彼女がここにいるのには理由があった。

 

炎龍討伐後、ヤオはタスク達に相談を持ち掛けたのだ。彼女としては一族親類含めて縁を切った為、素直に帰る訳にもいかず、かと言ってタスク達への恩義も通したいが為、力になりたいと言い出した。

 

あんまり乗り気ではなかった伊丹だったが、タスクは彼女の頼みを快諾した。恩義や借りを返すということには人一倍拘るタスクだからこそ、素直に受け入れたのだろう。

 

とは言っても、今現在やることはないため、こうして手伝いをしているのだ。悪所にある自衛隊の事務所に補給を届けるという仕事を。

 

 

「よし、これでいいな。………ヤオ、助手席に」

 

「は、はっ。失礼します────」

 

 

自衛隊所有の小型トラックに物資を詰め込み、悪所へと出発する。最初は運転が出来なかったが、伊丹達から教え貰ったことで今は普通に乗り回すことが出来るようになった。

 

二人はそうやって、悪所の事務所へと向かっていくのだった。

 

 

◇◆◇

 

 

「────ご苦労様、タスク、ヤオ。物資は奥に運んでおいて」

 

 

事務所の看護師として異動していた黒川たちが物資を受け取る。夜中になってしまったが、こうでもしなければ帝国に感付かれてしまうかもしれない。車から運び出した物資を事務所内に運んでいる最中、タスクはピクリと反応した。

 

 

「………タスク?」

 

「────大勢の気配だ。この建物に近付いている」

 

「またマフィア?」

 

「でも敵意は感じない。ここの住人かもしれない───黒川、頼む」

 

 

背中に備えた大剣とヘビィボウガンに手を置きながら、他の自衛官たちと警戒するタスク。腰の拳銃に手を添えながら、扉を開けた黒川は─────誰かと小声で話す。どうやら知人らしく、素直に室内に迎え入れた。

 

ほぼ全裸に近い、薄い布切れに身を包んだ女性たち。娼婦、話に聞いていたが、ほぼ亜人ばかりで素直に感心しているとヤオから小突かれた。見惚れたわけではないと言い訳するが、納得してなさそうだ。

 

娼婦達のリーダーと思われる女性 ミザリィは何か危険を訴えていた。具体的には分からないが、何か起こるかもしれないと、助けを求めているらしい。

 

鬼気迫る様子の彼女たちに、流石の黒川たちもただ事じゃないと理解できたようだ。急いで事務所の中でも立場の大きな、新田原三佐を呼び、話を聞くことにした。

 

 

ハーピィの少女 テュワル曰く、最近妙な不安に陥るらしい。それが故郷にある火山の地揺れと似ているものであり、だからこそ彼女は逃げ出したいという気持ちに駆られているのだた。

 

 

「…………地震か。この地で何か起こってるのか?」

 

「むぅ、確かにここは異世界だ。我々の知る事実と全てが一緒とは限らない──────だが、地震が起きるという可能性は高い。他の皆にも伝えなければ」

 

 

古龍、ラオシャンロンのような巨大な龍でも来ているのかと考えたが、普通に発生する場合もあるらしい。タスクも黒川たちと共にミザリィたちを安全な場所へと避難させようとする。

 

 

 

 

─────次の瞬間。大規模な地震が、世界全体に響き渡った。

 

 

「キャーッ!!」

 

「た、タスク殿ぉーーッ!!?」

 

「落ち着け、ヤオ。ここなら安全だ、崩落にも巻き込まれない」

 

 

他の自衛官たち同様、冷静な対応を取るタスク。ヤオや他の娼婦がくっつく中、彼はいつもより冷静でいられた。ハンターとして地震を何度か経験したことがあるため、あまり動じなくなったのだ。

 

 

「…………収まりましたね」

 

「震源地は何処だ?無線によると他の地域も酷かったらしい……………地面全体が揺れたようだ」

 

「そんなことがあるのか?普通に考えて可笑しいと思うんだが」

 

 

やはり、何か可笑しいとタスクは感じていた。アルヌスの方でも同じ揺れ方だったらしい。普通地震とは震源地から全方位に広がる形で弱まっていくのだが、今回は違う。

 

遠くまで離れたアルヌスと帝都が同じ震度、それはこの世界全体が震源地と言っても過言ではない。ハッキリ言って、異常現象としか捉えようがない。

 

 

「───タスク、少しいい?」

 

「黒川、どうしたんだ?」

 

「隊長達が皇女様と皇宮に行くみたい………大丈夫かもしれないけど、不安だから同行してくれないかしら」

 

 

流石のタスクも驚きを隠せなかった。伊丹達がピニャと一緒に、帝国の中心に向かう────場合によっては皇帝と対面することになるかもしれない。下手したら何か起こるかもしれない。

 

考えた結果、タスクは黒川の頼みの通り、合流することにした。

 

 

「────ヤオは黒川たちも一緒に行動してくれ。俺は伊丹たちの助けに行くから、その間は頼む」

 

「た、タスク殿…………ま、任されましたッ」

 

「頼む、それじゃあ行ってくる」

 

短く告げ、タスクは悪所を飛び越えていく。地震の騒ぎに混乱した帝都を通り抜け、彼は皇宮の方へと向かうのだった。

 

 

◇◆◇

 

 

一方、深い崖の下。数日前タスクとの戦いに破れ、己の意思で落下したノワールがそこに転がっていた。地面に頭を打ち付け、頭部を損傷した彼は本来であれば死んでいた。いや、今も死んでいるはすだった。

 

 

「─────ァ、ア」

 

 

ビクンッ、と死体が跳ねた。大地全体を揺らす地震に反応するように、その亡骸が動き始める。血に濡れた身体を起こし、ソレはゆっくりと歩み出した。

 

 

「そ、だ────俺は、まだ───死ね、な」

 

 

再生を行おうとして、失敗する。魔力を失い、体力も失いかけた今、肉体を修復する力は残っていない。ボロボロになった身体のまま、彼は割れた頭部から血をドバドバと溢れさせながら、呟く。

 

 

「かえ、る───んだ────一緒、に」

 

 

ブチブチと肉体が変化を始める。背中から龍の槍翼を生やし、肉体を変質させ、龍化するノワール。ヒビの入ったバイザーで顔を覆いながら、口をあんぐりと開き、血を滴し、彼は必死に進む。

 

 

「■■を────あいつ、を───助け、る………だ」

 

 

大切な人のいる場所へと。翼を広げ、瀕死の『竜人(ドラグノート)』は空へと飛び立つ。目指す先は帝国────帝都。

 

 

一際大きな波乱と衝撃が、帝国に迫る─────

 

 

 




一際大きな波乱(自業自得)と衝撃(自業自得)が帝国に迫る────


今作ではテューレはハイルダインと仲良くなってます。まぁ二人とも境遇も似てるから、互いを想うのも当然と言うか。

ヤオは原作みたいなことしてないから伊丹たちの評価は低くないです。当然ハーディから別の神を信仰するでしょうけど、何にするかは現段階では悩んでます。

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