GATE 狩人 彼の地へと、 導かれし   作:虚無の魔術師

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前日投稿したこの話は諸事情により、一時削除して今日に再投稿しました。お手数をお掛けして申し訳ありません。


逆鱗に触れる

壮大に広がった皇宮。王族ってのはこういうのが好きなんだな、と呆れながらタスクは階段を登っていく。道中兵士達の姿を目の当たりにしたが、誰も怯えてばかりでマトモに機能している者はいなかった。

 

地震に慣れてない為、彼等からすれば世界の終わりのように感じるのだろう。気持ちは分かるし、馬鹿にする気もない。

 

皇宮の奥へと踏み込んでいると、兵士達の一団が見えた。手にした灯りから此方を視認した兵士が恐怖にひきつった顔で咄嗟に身構える。タスクも大剣に手を添えた瞬間、兵士達の後ろから一人の女性が出てきた。

 

 

「た、タスク殿!?」

 

「…………ピニャ皇女。これは失礼」

 

 

いつしか久しぶりに見たピニャと、その後ろに伊丹たちもいる。情報通りと思いながらも、彼は不安そうなピニャの話を聞く。

 

 

「タスク殿────不躾ながら、何故ここに?」

 

「さっきの地震が気になって────皇女様と伊丹達が一緒に皇宮に向かったと聞いて、心配で来たんだ」

 

「成る程…………タスク殿もいれば、此方も頼りになります」

 

 

そこまで言った所で、ピニャは不安に思った。いや、不味いのではないかと。敵国である日本の自衛隊、そして帝国にとって恐れるべき脅威たるタスク・アイアスを招き入れることは、帝国を滅ぼすことに等しいのではないのかと。

 

だが、ピニャからすればそんなことはどうでもよかった。最早彼女は帝国の勝利よりも講和に至った方がいいと考えてまでいる。だからこそ、日本とタスク、この二つの存在を父親である皇帝に対面させておくのも悪くはないはず………と。

 

 

「や、伊丹、栗林、富田─────菅原さん」

 

「どうも、お久しぶりですね。タスク様」

 

 

礼儀正しく会釈するのはスーツ姿の男性 日本の外交官 菅原浩治(すがわらこうじ)。タスクとしても一度会ったのは一度きりであり、こういう場で再会するとは思わなかった。

 

話しながら歩いていると、ピニャは目的の部屋────皇帝の寝室へと辿り着いた。軽く話した後、皇帝に肩を貸しながら連れ出した彼女が向かうは────謁見の間。

 

玉座に座った皇帝の側で的確な指示を与えるピニャ。彼女に感心した様子のモルト皇帝はその視線を伊丹たちやタスクへと向けた。

 

 

「────紹介いたします! ニホン国使節 スガワラ殿! そして、妾たちの窮地を救って頂いた『銀の英雄』 タスク殿!」

 

 

一礼と敬礼を取る菅原と伊丹たち。その横でタスクは大剣を目の前に置き、ザッ! と跪く。立場的に敵といえど、皇帝という国のトップ相手に礼儀を欠かす訳にはいかない。日本と同盟を結んでいる今、彼等に迷惑をかけるような行動は取らないように心掛けている。

 

 

「………ほう、ニホン国………そして、あの『銀の英雄』か。────して、ピニャ。何故、このような時にお連れした?」

 

 

「申し訳ありません、父上。されどこの者達は地揺れに慣れているそうで…………これより揺れ戻しがあると───」

 

「なっ、なんと!? また────!?」

 

 

再び地震が起きるという話を聞き、青ざめる皇帝。ピニャの話に半ば納得したモルト皇帝は菅原と軽く話し合っていた。口振りからして、日本への敵対する様子は見られない。恐らく、このままいけば講和を果たせることだろう。

 

そう思っていたタスクは背後から新たな気配を感じ取る。

 

 

「────父上!おお、父上ご無事か!」

 

 

言葉からして、皇帝の息子 皇子だろうか。複数の集団を引き連れて現れた男から皇帝へと視線を戻そうとしたタスクは、その後ろにあるものを見て思考が停止した。

 

 

────奴隷の女性たち。首輪を掛けられ、無理矢理引きずられた彼女たちは苦しそうに呻いている。産まれたままの姿である彼女たちは痛々しい傷跡や血が滲み、残酷な扱いをされていたであろうことが目に見えていた。

 

 

 

その光景を目の当たりにしたタスクは、ある記憶がフラッシュバックした。かつての記憶────辺境の領主により奴隷として飼われ、満足に生きることも出来なくなる程衰弱した少女達の姿を。

 

殺して、と言う彼女たちの望みに応え────一人残らず介錯した時の感覚を。

 

 

 

 

「─────ッッ!!!」

 

 

脳が沸騰しかける。激しい怒りに呑まれかけたタスクが足元の大剣に手を伸ばそうとして、栗林と富田の二人に止められた。

 

 

「………離せ、二人ともッ」

 

「落ち着いて、タスク………皇帝の目の前よ」

 

「気持ちは分かりますが、場が場です…………こらえて下さい」

 

 

クソッ! と心の中で吐き捨てるタスク。今ここで無闇に暴れれば、自衛隊が講和を進めた意味がなくなる。我慢するしかないのか、と考えていたタスクはモルト皇帝と皇子 ゾルザルの会話を聞く。

 

その中で一つ、ゾルザルが慌てている様子だった。また地震が起きるから避難しなければ、と叫ぶ彼の姿にタスクは疑問を持つ。何故、現地の人間であるゾルザルがそれを知っているのか。

 

その理由を、タスクは間接的に理解した。

 

 

 

 

「─────ゃ………たす、けっ」

 

 

か細く掠れた声。それが日本語であると気付いたタスクの思考が一気に白熱する。何故なら、声が聞こえたのは男達に引きずられた奴隷達の方から聞こえたのだから。

 

 

 

「ッ!タスク!止めるんだ────」

 

「────違う、富田。栗林。あの中から、奴隷達の方から日本人の声が聞こえた」

 

「…………は?」

 

 

これには、伊丹も菅原も耳を疑った。そんな彼等の目の前で、ゾルザルが男の一人を呼び、一人の奴隷を連れ出した。

 

一気に凍り付いた自衛隊とタスクの目の前で、自慢するような口調でゾルザルは語った。

 

 

 

 

「門の向こうから拐ってきた───ニホン人の奴隷だ。ノリコと言うが、コイツが地揺れのことを教えてくれた」

 

 

 

衰弱し、抵抗する気力すら失せたように項垂れる黒髪の女性。その顔立ちは日本人特有のものであり、かつて名簿で見た銀座事件の前から行方不明になっていた一人だと、誰もが確信する。

 

 

瞬間、二人の男が爆発した。伊丹とタスク。互いの思考を理解し合った二人は衝動的に動き出す。

 

 

 

「────クソ野郎! ブッ殺すぞ!!」

 

 

自国民を奴隷のように扱われた伊丹が走り出し、ゾルザルの頬を殴り飛ばす。自分が殴られたことに気付かず、ゾルザルは勢いよく転倒する。

 

 

そして、タスクは一瞬で飛び出した。奴隷達を鎖で引いていた男の前に立ち、驚く程に冷えきった声で一言。

 

 

「─────どけ」

 

忠告はした。言葉の意味を理解しながらも、従おうとしたなかった男が腰から剣を抜こうとする。その手をタスクは片手で払い除けた。

 

グシャッ! という音が響き、払われただけの男の手首は捥げていた。男がそれに認識するのは当分先にある。それ程までに、異常な出来事だった。

 

 

「…………えっ?」

 

 

直後、唖然と手の先を見つめる男をタスクは躊躇いなく蹴り飛ばした。それだけで、男は即死だった。あばら骨を心臓ごと玉砕され、吹き飛んだ壁の先でピクリとも動かなくなる。

 

静かな怒りを灯すタスクは大剣を軽く振るった。たった一振りで、奴隷達の首輪だけが全て破壊される。当然、日本人女性の首を圧迫していた首輪も。

 

 

「───大丈夫か?」

 

「ひっ………」

 

「安心しろ。俺達は助けに来た………自衛隊の皆も一緒だ」

 

「助けに………来た?────助かるの?」

 

 

安堵からか涙をポロポロと溢れさせる日本人女性 ノリコの背中を撫で、気持ちを落ち着かせるタスク。自分の着ていたパーカーを被せ、裸を隠させる。他の奴隷達の分は近くのカーテンを引きちぎり、それで補った。

 

奴隷にされていた女性達を保護したタスクの目配りを受け、菅原は見たこともない程の険しい顔でモルト皇帝に詰問する。この事を知っていたのかと、ピニャを含め追求した。

 

 

しかし、ピニャは何も知らなかったらしく、困惑を隠せないばかりだ。彼女はこの場を何とか収めようと周囲の兵たちに呼び掛けるが、口から垂れる血を拭ったゾルザルがそれを遮った。

 

 

「───何を考えての蛮行かは知らぬが、貴様らの命運は決まった。皇子たる俺を殴ったのだ、今更許しを乞おうとも聞かぬぞ─────貴様らの国を焼き尽くし、全て奪い、全て犯し尽くしてくれよう! 貴様らの罪深さを、死ぬまで呪うがいい」

 

 

反省の色すらない。なんなら自分がまだ上の立場にいると思い上がった口調だ。怒りを通り越して笑えてくる。タスクは笑みすら浮かべず、胸に沸き上がる熱を沸々と感じ取る。熔岩(マグマ)の如く、全てを呑み込み、融かし尽くす程の怒りが、彼の全身を支配していた。

 

此方を囲む帝国の兵士達。その前に立ったタスクと栗林、二人に伊丹が淡々と命令する。

 

 

「タスク、栗林。そちらは任せた。俺は皇子の方を抑えておく」

 

「………了解」

 

「────応ッ」

 

 

二人は短く応えた。栗林も少なからず怒りを覚えているようで、やる気が満ち溢れている。右側の兵士達の相手をしようとする栗林に、タスクは左側の兵士達をやることにした。

 

 

数十人の兵士達。距離を取りながら構える彼等に、タスクは胸に溜め込んだ怒りを更に溜め込みながら、告げた。

 

 

「────戦う気のないヤツは下がれ。それ以外は全員殺す」

 

「ッ」

 

「……………忠告はした」

 

 

手加減など出来ない。今のままでやれば、怒りのあまり目の前にいる敵を確実に殺してしまう。だからこそ、皇子のやり方とは無縁の兵士達には選択を与えた。しかし、彼等の中で背を向ける者は誰一人としていなかった。

 

 

「─────なら、死ね」

 

 

告げ、タスクは前へと踏み込む。瞬間、彼の姿は兵士達の前まで近付いていた。認識した時には目の前まで近付いたタスクに、一人の兵士が剣を振るう。

 

 

ザンッ!!! と、タスクが振るった大剣の斬撃が兵士の姿を消す。剣圧だけで、一人の人間が鎧ごと消滅した。振るおうとした手首とそれが握る剣だけが、床に転がる。

 

 

理解も出来ず、立ち尽くした兵士達。彼等が恐怖のままにタスクに襲いかかった直後に、返り討ちにあった。

 

或る者は大剣による斬撃で胴体も腕も容易く切り落とされ、絶命。或る者はタスクの胸ぐらを掴み剣を突き立てようとして彼の頭突きを受け、頭蓋骨を粉砕され絶命。或る者は真後ろから斬りかかり、皮膚を切り裂くはずの剣が折れたことに唖然とした所を折れた刃で顔から胸を切り裂かれ、絶命。

 

 

そして、或る者は盾を構えて突進する。しかしタスクは小細工を弄することもなく─────拳でぶち抜いた。

 

 

「ォ、ごッ」

 

 

剣を受け止めるはずの盾は容易く貫通され、拳は男の胸を打ち抜いていた。胸甲や骨も紙細工のように脆く、タスクの拳によって心臓を潰され、絶命する。

 

そして、ようやく陣を組み始めた兵士達。盾で身を隠しながらも壁のように固まりながら、タスクへと突撃する。その行動にタスクは呆れも侮蔑も感じない。ただ怒りのままに、ヘビィボウガンの銃口を向け、引き金を引いた。

 

盾を破砕する程の徹甲弾が、男達の顔を抉る。続け様に装填した炸裂弾が、盾を貫き、構えていた兵士達に破片をばらまく。

 

 

こうして、時間にして一分も満たない程で、その場にいた帝国の兵士数十人は全滅した。モルト皇帝やゾルザル、事前にその強さを知っていたピニャすらも戦慄する程の圧倒的な力の差が、そこにあった。

 

 

 

「─────さて、皇子陛下」

 

 

一発殴ったことで冷静になれた伊丹は拳銃を向けながらゾルザルを問い詰める。だが、怒りはまだ覚めていない。知りたいことが他にあるからこそ、感情的にならず淡々と事を進める。

 

 

「貴方はあの女性を門の向こうから拐ったと言った。私達の国では、彼女のように行方不明になっている人が何人もいる。─────他の方が何処にいるのか、話して貰いましょうか」

 

「─────ハッ!何を言うかと思えば!誰が貴様らのような野蛮な者どもに!頭を垂れて頼み込めば、話してやらんこともないがな!」

 

「あっそ。なら自分達にも考えがあります─────タスク、栗林」

 

 

突如呼ばれる二人。屈強な兵士達を蹂躙し終えた二人は息もあがっておらず、むしろ余裕に満ち溢れている。傲慢な態度を崩さないゾルザルの表情を凍りつかせる言葉を、伊丹は告げた。

 

 

「やっちゃって、二人とも─────喋る気になるまでね」

 

 

亜神にも劣らぬ二人の超人が、静かに皇子を見下ろす。その瞬間、無慈悲な程のリンチが始まった。

 

 

「ふんッ!」

 

「ぶごっ─────だ、誰か止めさせ────あがッ」

 

 

栗林のストレートを何発も受け、地に転がるゾルザル。必死に這い上がろうとするゾルザルの髪を掴んだタスクが拳を握り締める。そして、頬に一撃叩き込んだ。

 

 

「ば、ぶぉ────」

 

「────答えろ、他の日本人は何処だ」

 

「お゛、おれはじら─────」

 

 

バギッ!!と、ゾルザルが砲弾のように近くの壁に叩きつけられる。これでも手加減しているくらいだ。本気ならば既に死んでいる。

 

情けない声でのたうち回るゾルザルに、タスクと栗林は顔を見合わせる。殴るのも悪くはないが、死ぬかもしれない。二人はやり方を変えた。

 

ふと、タスクがゾルザルの小指を掴む。青ざめ、次に起こることを理解したゾルザル。彼が許しを乞うも、

 

 

ブチッ、と。

へし折る為に力を込めた小指は限界に耐え兼ね、千切れた。

 

 

「あ゛あ゛あ゛あああああああっっ!! 指がッ、指がぁっ!!!」

 

「────クソッ、力加減を間違えたな」

 

「まぁ指を折るなんて繊細ですしね────次は脚でも折りますか」

 

 

淡々と話し、やり方を変えていく二人。端から見れば残酷だが、彼等としても怒りを堪えてやってるので無理はない。本心で言えば、今すぐ殺してやりたいくらいなのに。

 

 

「────そろそろ答えて貰いたいんですがねぇ」

 

 

中々口を割ろうとしないゾルザルに苛立ちを覚える伊丹。脚を折ろうとする栗林を制止し、拳銃を突きつけて脅す。息絶え絶えになりながらも、ゾルザルは口を開かない。

 

地獄のような空気を破ったのは、扉を開け放った一人の兵士の声だった。

 

 

「へ、陛下!!大変ですッ!! 皇宮に、皇宮に化け物が───」

 

 

謁見の間に広がる惨状すら目に入らぬ程狼狽した兵士。彼が広間に踏み込もうとした瞬間、鋭い爪のような槍に貫かれた。

 

誰もが、意識をそちらに集中させる。伊丹も、ゾルザルすらも、誰もが扉の向こうにいるソレの存在に気付いた。

 

 

「─────グギャっ」

 

 

ズン、とソレは広間に踏み込んだ。龍のように見えるが、龍ではないモノ。背中から手のような翼を生やし、膨張した肉体を有する怪物。いましがた殺したばかりの兵士の肉を頬張り、噛み砕き、呑み込むソレは────顔の半分をトゲに覆われ、視力すら失っていた。

 

口から大量の血を滴しながら、怪物は悪魔のような唸り声を響かせる。

 

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァァァアアアアアアアアアッッッッ!!!!」

 

 

ノワールだった、『竜人(ドラグノート)』。既に息絶えたはずの彼は、命を貪りながら帝都へと辿り着いた。ただ一つ、助けると誓った誰かを救うために。

 

 

◇◆◇

 

 

数分前。

地震から立ち直った兵士達は皇帝のいる謁見の間へと集まろうとしていた。急ぎ駆け出す彼等であったが、突如空から何かが飛来する。

 

隕石のように、皇宮を破壊しながら着地した黒い影。集合しようとした兵士達が不安そうに身構える中、ソレは躊躇なく兵士達を襲った。

 

 

「な、なんだコイツ────が」

 

「ひぎ、ひぎゃぁっ! 痛、痛いッ!喰わっ、喰われるッ!助け─────」

 

 

竜人(ドラグノート)』は、瀕死だった。龍の力も失いかけ、再生もままならない。食べたとこで力が取り戻せるわけではない。それでも、ソレは生命を喰らい続けた。少しでも、自分の生命を長引かせたかったから。

 

 

「たす────け、なきゃ────っ」

 

 

ズルズル、と死体を貪り、引きずりながらソレは進む。消えかけた生命、狂いかけた意識の中で、生きる動力源になった誰かの姿を、思い出せぬ人の笑顔を思い浮かべて。

 

 

「お、れ────いっしょ、に────かえ、るん……だッ」

 

 

◇◆◇

 

 

「コイツ─────まさか、ノワールか!?」

 

 

謁見の間に踏み込んだ怪物の正体に気付き、タスクは後悔した。あの時トドメを差しておけば、こんな事態にはならなかった。しかし、後悔しても遅い。今はヤツを止めなければならない。

 

 

「あがッ────ぶぎゅ、ぐぎ────が、がえ───る、るる、だ─────」

 

 

よろよろ、とふらつく巨体。正気ではない目の前の怪物が、死体を喰らいながら前へと進む。その姿に、誰もが恐怖にひきつる。

 

 

「────ヒッ」

 

 

その怪物の目の当たりにした日本人女性が、悲鳴を漏らした。直後、ソレは首を向けた。漆黒の怪物になりかけたソレはズルズルと這いずり、女性の方へと向かう。

 

栗林も富田も、タスクも構える。何時でも排除出来る体勢の彼等を制止したのは、伊丹だった。

 

 

「隊長!?何で────」

 

「────アイツは、もう手遅れだ」

 

 

ブチブチ、と身体が千切れる。手足も翼を捥げながら、ソレは膨張した龍の身体から剥がれる。痛々しい傷跡の目立つ四肢で立ち上がり、顔を覆うバイザーから血を溢れさせながら、彼は手を伸ばす。

 

 

「い、いっしょ────に゛────に、ほ────え、、が────え──────ッ」

 

「──────」

 

「────のぉ、り────ごぉ─────」

 

 

彼女の目の前で近付いた瞬間、ソレは力なく倒れ込んだ。血の海の中で沈む彼は誰もが見て絶命している。そのことな安堵する一方で、タスクはあることに気付いてしまった。

 

 

「…………今、彼女の名前を─────ッ!」

 

 

思わず飛び出したタスクはその亡骸へと駆け寄る。砕けたバイザーを引き剥がし、その素顔を確認したタスクは────全てを理解した。

 

不安そうに駆け寄る伊丹。彼はか細く震えたタスクの声を耳にし、己の心にあった不安の正体を確信する。

 

 

「─────彼も、日本人だ」

 

 

ノリコと同じく、行方不明になっていた日本人。その一人が『竜人(ドラグノート)』だったと理解した瞬間、伊丹の脳が怒りに染まった。唖然としていたゾルザルの胸ぐらを掴み、壁に叩きつける。

 

 

「あぎぃッ」

 

「お前達はッ!! 彼等に何をした!!?」

 

 

躊躇なく、殴り付ける伊丹。自国の人間を改造され、戦いの道具に使われたという事実が伊丹の思考を怒りに染め上げる。拳銃を口に押し込むと、ゾルザルは思い出したように叫んだ。

 

 

「はっ、ハイルダインだぁ!ハイルダインが全てをじってる!!」

 

「…………ハイルダイン?」

 

「ぞうだっ!ヤツが、ニホン人を欲しがっていだのを、前に聞いだ!! そうだ!ヤツは他にもう一人、ニホン人の『竜人(ドラグノート)』を手に入れだと話しでだ!ボンドだ!!嘘じゃな゛いっ!!」

 

 

必死に喚き立てるゾルザルを投げ飛ばし、銃口を向ける伊丹。それだけかと叫ぼうとした彼を、タスクが静かに呼び止めた。

 

 

「よせ、伊丹」

 

「タスクッ!どうして─────」

 

「今は彼を、連れて帰ろう」

 

タスクが見下ろす、『竜人(ドラグノート)』だった日本人。彼は息絶えた今も、切れたネックレスを大事そうに握り締めていた。

 

伊丹も言葉の返しようもなく、怒りが鎮まる。皇帝と言葉を交わした菅原と共に彼等は帝都から離れ、二人の日本人を連れて帰る。最悪の気分だった。幸いなのは、今は二人が関係者と知らずに済んだことくらいだ。

 

こうして、帝国を揺るがした衝撃は一夜にして消え去った。少なからずの遺恨を刻み込む形で。

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