GATE 狩人 彼の地へと、 導かれし   作:虚無の魔術師

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原作にもないオリジナルストーリーです。


花の都

帝都での騒動から三日が経ち、伊丹たちはアルヌスの基地から出て、陸将により与えられた派遣任務を受けていた。辺境地域の探査であり、本来であれば他の部隊によって行われるはずだったのだが─────

 

 

「…………花の都 ファーリス。そこが目的地なのか?」

 

「みたいだよな。花の都って言うんだから、随分平和なんだろうなぁ」

 

 

同行していたタスクも、伊丹と同様そんな風に考えていた。だが、それは男二人だけらしい。話を聞いていた女性陣は複雑そうな表情であった。

 

 

「───平和、確かに平和だったかもしれない。けど、それは数百年前。ファーリスは昔に滅んでいる」

 

「…………マジ?」

 

「別名、『神に背いた都市』、『禁足地』。神の怒りによって滅ぼされた都市として、噂になっている。…………今もそこで『禁忌』が彷徨っていると」

 

「………『禁忌』? それはなんだ?」

 

「─────無から、生命(いのち)を生む」

 

 

淡々としたレレイの告げた言葉に、タスクはその恐ろしさを理解する。彼の世界でも、生命を造る技術はあった。しかし、それでも他の生命を集めて造るものであり、ゼロから作り出すことなど不可能だ。

 

 

「神の怒りで滅ぼされた、か。神話でよく聞くけど、ここでもそんなことがあるなんてな」

 

「………気になったんだが、どの神が滅ぼしたってのは明らかになっているのか?」

 

「分からない。その当時は争いも多発していたから、歴史的にも有耶無耶になったらしいけど…………」

 

「────わたしぃが滅ぼしたの」

 

 

一言、さっきまで静かだったロゥリィが告げた。伊丹やタスク、レレイやテュカ、ヤオの全員が沈黙した。いつもより物静かなロゥリィ、彼女の雰囲気に誰もが圧倒されていた。

 

 

「………ロゥリィが?」

 

「そうよぉ。ファーリスは『禁忌』に汚染された。都市の中に広がった『禁忌』を押し止めるためにぃ、わたしはファーリスを滅ぼした。滅ぼすことで、禁忌の封印を確実にしたのぉ」

 

「────封印って、滅ぼしたんだろ?どうしてそれが分かるんだ? そもそも、ロゥリィって封印とか難しいのは出来ないんじゃ…………」

 

「だってぇ、わたしぃファーリスで何年も過ごしたからぁ。封印したのもぉ、わたしの友達よぉ」

 

 

一体何時の話をしているのか、聞こうにも聞き出せない。いつになく黄昏れているロゥリィに皆が気を遣っていると、突如運転が止まった。どうやら目的地に、花の都に着いたらしい。

 

 

────そこは、植物に支配された巨大な町の残骸だった。鬱蒼と豊かに生い茂る草木に蝕まれた建物の数々、巨大な新田のような建物には一際大きな大樹が内側から伸びている。

 

花の都 ファーリス。その町は普通の町とは違い、地面に没落するように存在していた。地盤の形状からして、恐らく意図的に崩落したのだろう。その地面も建物も、地下にまで広がった植物によって補強されていた。

 

 

「………可笑しいわ。こんなに廃れてるのに、生命力に満ちてる。それなのに、精霊すら感じない」

 

「動物もいない…………植物も無理矢理成長させられたような、この生態は」

 

 

街に踏み込んだ途端、エルフ、ダークエルフであるテュカとヤオがその異変に気付いた。周囲の空気が、大気が満ち足りている。生き物が住むには充分すぎる環境であるのに関わらず、生態系が築かれている気配すらない。

 

タスクも、それを感じ取っていた。ここは生のエネルギーが充満し過ぎている、過剰な程に。植物が異常に発達しているように、生物が長時間過ごせば本来とは違う進化を辿ることだろう。ほぼ強制的に。

 

 

「これも『禁忌』の影響なのか? ロゥリィ」

 

「………厳密には、漏れ出してるのよぉ。生命力が」

 

 

ロゥリィはそう告げるや否や、近くの木をハルバードで斬り払った。綺麗に切断された木が、二つに別れて落下する。しかし次の瞬間、根っこのある方の木の切断面が膨れ上がり、そこから新たな木が生えた─────一瞬で。

 

 

「なッ───」

 

「これが『禁忌』。無制限に溢れる生命力がぁ、周囲の生物に影響を与えるのぉ。………人間は大丈夫、これは人間に影響を与えるものでもない。直接、禁忌に接触しない限りはぁ」

 

 

数百年前に滅んだこの地が、『禁足地』と呼ばれるには充分だ。力が満ち足り過ぎているこの場所は、あらゆる生物にとって害悪でしかない。酸素も適量を超えれば有毒になるように、限度があるのだ。

 

封印されて数百年、街全体を覆う程の濃厚な生命力が溢れている。もし封印されていなければ今頃、世界の生態系は大きく一変し、ある種の地獄となっていただろう。

 

 

「今は大丈夫だけどぉ、中心に進むのは気を付けて。あの時の通りならぁ、きっとアレが彷徨いてるはずだから」

 

「アレ?まさかゾンビみたいなヤツ?」

 

「…………歩く死体だったっけぇ。それの方がまだ良いわよぉ」

 

 

そう告げ、ロゥリィは静かに辺りを見渡す。建物ばかりの街並みと通路。そこは彼女も見覚えのある、忘れられない場所だった。

 

 

『───聖下!聞いてくだせぇよ!うちも子供が産まれたんです!立派に育つように、聖下も抱いてやってくだせぇ!』

 

『ロゥリィって不死身なんだっけ。俺もだよ、同じ不死身同士よろしくね』

 

 

ふと目蓋を閉じれば、懐かしい記憶が甦ってくる。賑やかな日常、平和を謳歌する人々、輝しく満ちた笑顔。しかし、それは数百年の過去に失われた。自分自身の手で、それを奪い去ったのだ。

 

そんな街並みを見渡し、過去に耽るロゥリィ。伊丹やタスクたちは彼女を気遣い、余計なことはしない。そうやって道ある道を歩いていくと、空気がより濃くなると共に大広間へと辿り着いた。

 

 

───かつては商店でも展開されていたであろう大通り。そこに過去のような賑わいは欠片も残っておらず、全てが成長しきった植物によって蹂躙されし尽くしている。

 

唯一無事なのは中央に位置する噴水───そこに立つように配置された石像。外套を広げ、空へと手を伸ばす少女の姿、これだけの年月が経とうとも廃れる様子のない銅像に誰もが見惚れる。タスクはそこで、ロゥリィがその石像に意識を注いでいることに気付いた。

 

 

『ここは、ファーリスは差別もない、人と人が手を取り合う街────花の都になる。何年も何十年もかかろうと、皆の大切な楽園にしてみせる─────ロゥリィ、貴方は見守ってね。私達の花の都を』

 

「……………テレジア」

 

 

無意識に歩みを進めるロゥリィ。凛々しく空を見上げた少女へと手を伸ばした彼女。死神とまで呼ばれた亜神とは見違える程の異様さ。その手が銅像に触れようとした直後、何かを気取ったタスクが彼女を一気に引き寄せた。

 

 

瞬間────無数の矢が、流鏑馬のように降り注ぐ。一発一発が、地面を抉りとる程の威力をしている。何より先の一撃は露骨な手加減があったことを、タスクは感じ取っていた。

 

 

研ぎ澄まされた精確な撃ち方。卓越した技術力。これが並大抵の人間のものではないと、同時にこの攻撃を行ったのが誰なのかもほぼ察知できた。

 

 

 

「────ハイルダインッ! 居るんだろ、出てこい!!」

 

 

タスクの怒号に、全員の気が引き締まる。特地や日本関係なく人間を『竜人(ドラグノート)』という存在に改造し、この世界にディアブロス等のモンスターを持ち込んだ黒幕。タスクが追い求めていた敵が、目の前の銅像の前に降り立った。

 

 

ハイルダイン。青い外套に身を包んだ彼は一際大きな弓を片手で握り締めながら、冷徹な覇気を醸し出していた。

 

 

「随分と大所帯だな。神聖なるこの領域に何の用だ?言っておくが、ここはお前達のような奴等が土足で踏み込んでいい場所ではない」

 

「………アンタこそ、一体何を探してるんだ? 『禁忌』ってものを狙って、廃墟漁りで──────」

 

 

無音の矢が、伊丹の真横を過ぎ去った。風を切るような一撃が、背後の建物を粉々に吹き飛ばす。能面のような顔で、ハイルダインは伊丹を睨んだ。

 

 

「────一度の無知は許す。次似たようなことを吐けば、その脳天をぶち抜く。二度はないぞ、イタミ・ヨウジ」

 

 

有無を言わさぬ殺意に、顔をひきつらせた伊丹は即座に首を縦に振る。ハイルダインの機嫌を損ねるつもりもなく、目的を探ろうとしたが、彼はここを廃墟と呼んだことに怒りを覚えたみたいだった。

 

 

(…………神聖なる場所って、言ったよな。ハイルダインにとってここはそれほど重要────個人として大切な場所なのか)

 

「ハイルダイン!聞きたいことがある!」

 

「何だ、俺は暇じゃない。計画の進行に時間も資源も浪費しているんだ。つまらない質問に答える気は────」

 

「────何故野上裕樹(のがみひろき)を『竜人(ドラグノート)』にした!?答えろッ!!」

 

 

大剣の剣先を向けるタスク。凄まじい剣幕で問い詰める彼の勢いに、ハイルダインは狼狽えることすらない。野上裕樹の名前に一瞬顔をしかめたが、すぐに誰のことかを理解する。

 

 

「…………勘違いを一つ、訂正しよう。野上裕樹を『竜人(ドラグノート)』にしたのは、彼を救うためだ」

 

「救うため、だと?」

 

「彼は奴隷として酷使され、俺が彼を探し出した時も炭鉱の崩落に巻き込まれ死にかけていた。酷い暴行を受け、片眼を奪われ弱りきっていたヤツは─────生を渇望した。力を求めた。だから、それに伴う力と生命を与えた」

 

「それが救いだと!?彼があんな風になるのが幸せだったと言う気か!?」

 

「部外者の言葉はいつもり他人事だ。此方としても無償で人助けなど出来ないし、する意味もない。救ったからこそ、彼には働いて貰った─────ギブアンドテイク。他人を利用し、利用されることが人間の本質だ。違うか?」

 

 

彼も望んだことだ、とハイルダインは淡々と告げる。考え方が違う。あまりにも冷淡な、無機質過ぎる思考。人間は他者を利用し、己の利益を高める。だからこそ、利用し、利用されることこそが人間という種族の最適な在り方と語る。

 

故に、タスクも理解を諦めた。そんな冷たい価値観など、理解したくもない。

 

 

「ああ、もう充分だ─────話は不要だ。お前を斬り伏せる、そして彼女の前で謝らせる」

 

「………血気盛んだな。だが、此方としては素直に相手してやる気はない」

 

 

今すぐにでも戦いを始められる程に落ち着いたタスク。最強のハンターの殺気を感じ取っても、ハイルダインは余裕を崩さない。本気で戦うつもりはないのか、弓を下げたまま静かに歩く。

 

 

「今日、俺がここに来たのは計画のために必要なものを回収するためでもあり─────敵を見ておくため、そして旧友と会うためだ」

 

「………旧友」

 

 

その単語に誰も心当たりはなかった。人のいないこの場所に彼の言う『旧友』が何処にいるのか。そう思った伊丹やタスク達であったが、ハイルダインの視線が誰かに向けられていることに気付いた。

 

 

「懐かしいな、ここは何一つ変わらない────お前も、あの時と全然変わっていないな。ロゥリィ」

 

「…………何ですってぇ?」

 

「忘れたか?酷いな、俺は少なくともお前のことを忘れたことはないぞ。まぁ、お前にとっては無理もない────俺達は神の背いた無法者、死んで当然の奴等なんて覚える価値もない…………そういうことかな?」

 

 

ロゥリィは怪訝そうな顔を隠さない。彼女はハイルダインという男を知らない、知っていたとすれば彼のような悪人をエムロイの使徒として断罪していることだろう。だから彼女に心当たりなど─────一つを除いて、なかった。

 

 

『────どうして俺達を、テレジアを裏切った!?俺達は、仲間じゃなかったのか!?』

 

 

それは、ロゥリィが花の都を滅ぼしたあの日。『禁忌』を封印するべく都の中心部に歩みを進める彼女の前に、彼は現れた。嘗ては肩を並べた同じ仲間同士であり、今は敵。

 

当然殺し合った。ロゥリィは使徒として責務を果たすべく、彼を含める大勢の仲間を斬り殺した。この都を守ろうとする者を、全員殺した。

 

神殿の前で姿を現した彼は、返り血に浴びたロゥリィに叫び続けていた。本当に心から信じていたであろう彼をも、ロゥリィは斬り伏せた。

 

 

『信じて、たのに………お前は、テレジアを裏切らないって、俺達の仲間って────信じてたのにっ』

 

 

首を斬られ、崩落に巻き込まれた青年。ロゥリィはその最期を見ていた。だからこそ、目の前の男が─────あの時の青年と類似して見えたことが、信じられなかったのだ。

 

 

「………………ハイル?」

 

 

嘗て自分が殺したはずの、花の都の人間であり同士。不死身を自称していた、穏やかで気の静かな青年。花の都の指導者 テレジアを敬愛し、ロゥリィとは同じ不死身同士と言って仲良くしていた。

 

嘗て自分の手で殺したはずの青年が、人が変わったように目の前に立っていた。

 

 

「ウソ、なんで………貴方は────」

 

「言っただろ、不死身だって」

 

 

淡白に答え、ハイルダインは自分の首に残った傷痕を撫でる。次の瞬間、傷痕が内側から蠢いた皮膚と皮膚が結合し、修復が終える。自己再生、とは桁違いの何かが作用しているようだった。

 

滅びる前のファーリスで、ハイルダインと交流していたらしい。その事実に驚きを隠せないのは、ほぼ全員だった。

 

 

(ロゥリィと知り合い………この花の都の当時の住人ってことか?いや、 待て待て!何百年前も前の話だろ!?何歳なんだアイツ!?)

 

(じゃあアイツはこの世界の人間?────だが、ヤツは彼方側ではギルドナイトだったはずだ!一体どういうことなんだ!?)

 

 

情報が不一致する。ハイルダインが言う通り、数百年前に花の都にいたとして、何故数ヵ月前にタスクの世界にてギルドナイトとして暗躍していたのか。

 

少なくとも、ヤツに異世界を渡る手段があるのは明確だ。問題は、本当に数百年も生きているということになる。亜神ならばまだしも、彼の再生の仕方はロゥリィとは明らかに違う何かがあった。

 

驚愕しながらも意識を損なうことはなく、目の前の男への警戒を緩めないタスク達。ハルバードを強く握り締めたロゥリィは、複雑そうにハイルダインを見据えていた。

 

 

「────一度は見逃してやる。ここから去れ、お前にとって最早居場所でもないはずだ、ここは。テレジアの意思に背いたお前にこの地を歩む資格はない」

 

「…………ッ」

 

「この先に来るのなら、それ相応の覚悟をしろ。その時は望み通り、殺し尽くしてやる」

 

 

そう告げた直後、ハイルダインが懐から取り出した何かを放り投げる。空中で破裂した閃光玉が強烈な光を辺り一帯に撒き散らす。視界から光が戻った時には、ハイルダインの姿は広場から消えていた。

 

 

「…………ロゥリィ」

 

 

死神とまで呼ばれた亜神の少女は立ち尽くしていた。テレジアと呼ばれた少女の銅像の前で、一言も発することなく像を見上げる。何時ものような雰囲気もなく、彼女はただ過去の情景に思い馳せていた。

 

 




花の都 ファーリス

かつて栄えていた、王のいない国。『愛姫』テレジアにより建国された異種族達と人の共存する楽園。ある事件を境に『禁忌』に汚染され、信託を受けたロゥリィによって滅ぼされた。


ロゥリィとハイルダイン、実は知り合いという事実が判明。オマケにハイルダインが不老不死であることも。色々と気になるところはあると思いますが、ちゃんと補完していくつもりですので。

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