GATE 狩人 彼の地へと、 導かれし   作:虚無の魔術師

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何ヵ月も開けてすみません………ちょっと展開とかを考えてスランプ気味になったので、他の小説に浮気(力を入れて)しまいました。

少しずつ投稿していこうと考えていますので、どうか宜しくお願いします。


聖域を蝕む悪意

神殿の大広間にて、ハイルダインに逃げられたタスク達の次の行動は自ずと決まっていた。花の都を包む封印結界の核である、愛姫 テレジアの遺骸の元へ向かうこと。

 

ロゥリィにとって、彼女との約束を果たす────未だ朽ちることなく、存在し続ける少女の身体を葬る。それこそが、ロゥリィの彼女への最後のけじめなのだ。

 

地下続く螺旋階段を降りる一行。生命力に満ち足りた空気とは裏腹に、包まれる静寂。その静けさを打ち破るように、テュカが切り出した。

 

 

「ねぇ、タスク」

 

「…………何だ?」

 

「ヒカルって、タスクの大切な人?」

 

「────俺の弟子だ。少し前、ハンターを辞める前に弟子にした…………弟子にして欲しいって頼まれたんだが」

 

 

タスクは語る。

彼女、ヒカルは天真爛漫というよりも不思議な子だった。タスクに一度助けられた日から尊敬していたらしく、彼に弟子入りを求めてハンターに成ったらしい。

 

いつも自分に付き従う彼女に、最初は乗り気ではなかったタスクも諦めたように彼女を弟子に取った。我らの団を離れてから、仲間のように大切に想い、自分の身に付けた全てを叩き込んだ。

 

 

────いつかお師匠と一緒に戦いたい、そう笑った彼女の目標を、タスクは必ず果たせると信じて疑ってなかった。

 

 

「………何か、あったんだよね?」

 

「────悪い。この話はしたくない」

 

 

静かに、タスクは呟いた。その言葉に重苦しい程の拒絶が、どんなことにも寛容なタスクにしては珍しい程、冷たい声だった。

 

俯いた彼は足を止め、頭を抑える。自分の発言を悔いるように噛み締めたタスクが再び口を開く。

 

 

「皆を信用してない訳じゃない。ただ、時間が欲しい……………この話は、あまり気軽にしたくはない」

 

 

彼にとって、重要すぎる過去なのだろう。それこそ、全てを語るには心構えの必要があるくらい。

 

不用意に踏み込むべきではない、伊丹は自分のこともありそう考えていた。大切な仲間といえ、全てを明かすにはそれ相応の覚悟も必要だろう。

 

少なくとも、伊丹以外の皆も同じ考えだった。タスクが話したい時に話せばいい、無理に気を遣う必要もないのだ。

 

そうやって階段を降りていく一行、先導するロゥリィの歩みが止まる。階段が終わった先は、先程の大広間以上の巨大な空間が存在していた。

 

 

────広大な自然に包まれた地下空間。『緑龍』 グラン・ジーヴァの生命力により過剰成長を果たしたこの場所はどんなに小さな微生物すら変容し、異様な植物と変化していた。

 

中央のエリアに、巨大な大樹が連なっている。無数の樹が降り混ざったような大木の胴に、一際異彩なモノがあった。

 

 

 

「…………数百年も待たせたわねぇ、テレジア」

 

 

感慨深そうなロゥリィの目の前には、頭部のない少女の遺骸があった。白と赤、鮮やかなドレスに身を包んだ少女の下半身は巨大な樹木に呑まれ、両手を重ねて祈るように存在している。

 

肌で感じ取れる。それが、この空間に充満する生命力を封鎖する結界の核だ。テレジアと呼ばれる少女が自分の死によって発動させた、永久の封印システム。

 

この花の都に眠る禁忌を封印した、テレジア達の意地の結果が、目の前にある遺骸にあった。

 

 

「ロゥリィ、彼女は────」

 

「これが、テレジアの遺した封印結界。花の都に封印された『緑龍』の生命力を封じる最後の手段。自分自身の亡骸と生命力を利用した、永劫に続く封印よぉ」

 

「…………その結界がもう必要ないってことは」

 

「────テレジアの肉体を殺して、結界を崩壊させる。その役目は、わたしに任せて」

 

 

ハルバードを下ろしたロゥリィはそれを引きずりながら、大樹の元へと歩み寄る。より正確には、テレジアの亡骸に。

 

頭部を失いながらも、この空間の生命力を吸収し封印を保ち続けている。彼女の肉体は、既に数百年も昔のものだ。あらゆる生物すら変化させる程の生命力に触れても変化しないのは、既に死んだ状態だからなのだろう。

 

 

「…………」

 

「レレイ………? どうした?」

 

「………別に、この封印結界の魔法を見ていた。凄い魔法。複雑で外部からの解除は難しい。私でも、百年は掛かる────だから、納得できない」

 

 

無表情ながら、レレイは封印結界の術式を認識していた。その緻密さと膨大さ、全てが繋ぎ合わされた巨大な結界と、それを構成する一つの魔法と言う事実にレレイは純粋にこの魔法の開発者────テレジアに敬意を示す。

 

その上で、レレイは己の中にある懐疑を口に出した。

 

 

「納得できないって、何が?」

 

「───この封印結界があったのに、何故花の都の街に生命力が漏れ出したのか。この結界に、そんな不備はないはず」

 

それもそうだ。テレジアの結界はグラン・ジーヴァの生命力を外部に、世界に放出させないためのものだ。それなのに、今この地はグラン・ジーヴァの生命力に大きな影響を受けている。

 

間違いなく、グラン・ジーヴァの生命力が花の都をここまで変化させた。それはつまり、ヤツの生命力が外に漏れ出していることを意味する。だが、レレイが確認した通り、この結界にはそのようなミスはない。完全に封印を果たせたはずなのだ。

 

それならば、一体何故生命力が漏れ出したのか。

 

 

(…………まさか、ハイルダインが? いや、違う。奴はロゥリィのかつての仲間で、テレジアを大切に想っていた。そんな奴が、大切な人の遺したものを悪意的に利用する訳がない)

 

 

神聖な場所、聖域とハイルダインは口にしていた。彼にとってこの地は自分が生きた故郷であり、仲間達の眠る地なのだ。あそこまで過剰に反応していた奴が、何かを企んでいたとは思えない。それどころか、彼の言葉に嘘がなければ────

 

 

(アイツはここを、花の都を護っていた…………一体誰から?)

 

 

ロゥリィや自分達か、そう考えてすぐに違うと確信した。もしそうであったら、ハイルダインが自分達を通す理由にはならない。そこで伊丹は、ハイルダインの言葉を思い出した。

 

 

 

────彼女の墓標に、土足で踏み込んだ害獣がいる。訳合って奴は仕留められなかった。

 

「ッ!ロゥリィ─────」

 

 

慌てて叫んだ伊丹、その直後だった。

 

 

テレジアの下半身が埋まった大樹が、突然脈動したかと思えば、大樹の根が槍のように伸びたのだ。まるで触手のように迫る複数の槍を、ロゥリィは咄嗟に回避してみせた。

 

間違いない、大樹が攻撃してきた。その事実に驚く伊丹、タスクたち。彼等の目の前で、突如大樹の全体が震え出す。

 

ミキミキ、と盛り上がる大樹の幹。テレジアの遺体のほぼ近くが、内側から破裂する。這い出るように現れたのは、木で構成された巨大な龍の頭部であった。

 

 

『────ギャハハハ!もう時間切れか、仕方ねぇかぁ!』

 

「─────な、なんだ………コイツ」

 

 

伊丹はおろか、タスクすらも唖然とする。この龍は、喋っている。自我を、知性を有した生物。樹木の龍は流暢に人の言葉を口にしながら、此方を見下ろす。

 

 

『あァ? 俺様が誰だか知りてぇか? ギャハハ! 良いぜ、今はいい気分だからなぁ! 一から全部答えてやるよ!』

 

 

下卑た笑みを浮かべる巨龍。混乱する一同を前に、悦に浸りながら木龍は語り始めた。

 

 

『────この地に眠っていた古龍の生命エネルギーを爆発させ、生態系を狂わせようとした奴等がいた。その目論みは人間どもに防がれたわけだが、奴等はそう簡単には諦めなかった……………生命エネルギーを得るために、一体の龍を送り込んだ。それが、俺様だ』

 

 

数百年前のあの日、世界全体の生態系を変化させようとした者達の陰謀は、テレジアの秘策によって打ち砕かれた。しかし、彼等は諦めなかった。

 

テレジアのもたらした永久に朽ちることない封印結界を、突破できる存在が居たのだ。

 

 

『だが、俺様は他の龍とは違ってなぁ。強くもなければ、世界を壊す程の力もねぇ。その代わり、俺様はあらゆるものに寄生し、吸収する力を持っていた。だからこそ、人間どもに封印されたこの土地に侵入するのは難しくはなかった。数百年は掛かっちまったが…………まぁ、龍の俺様には大した問題でもねぇ』

 

 

微弱、脆弱、そう言えるほど小さな龍。しかし、その龍には自身が最も信ずる絶対的な能力があった。その力があったからこそ、テレジアの仕掛けた封印結界────生命エネルギーだけを封印し、外界からの破壊を不可能とした複雑なシステムをすり抜けることが出来たのだ。

 

 

『そしてぇ!この封印された結界の中に充満したエネルギーを少しずつ吸い上げて、俺様は進化した!他の奴等のように、強靭な肉体も力も手に入れたァ!!』

 

 

ブチブチブチ! と、大樹を突き破り、龍は地面に着地した。異様な程に胴体だけが膨張した巨体。全身を樹木という樹木、植物で構成した二足歩行の龍。

 

胴体の部分に突き刺さったテレジアの遺骸を内側に取り込み、巨龍は大樹から這い出り、ゆっくりと立ち上がった。

 

 

『────悪いが、結界は壊させねぇ。まだ生命エネルギーが山程あるんだ。コイツをたらふく戴くまでは、誰にも邪魔させるわけにはいかねぇんだよ!』

 

「お前ッ………!」

 

『俺様は、グラン・ヴェーバ。偉大なる「龍皇」に選ばれた、新たなる「龍皇」の器』

 

 

二足歩行の龍、グラン・ヴェーバが告げると出口の扉が樹木によって無理矢理塞がれた。身構えるタスク達の姿を睥睨し、樹木の龍は悦に浸ったように首を回す。

 

『─────数百年掛けて得たァ、俺様の新たな体ァ。その調子はァ! テメェらで試してやるよォ!!』

 

 

花の都に巣食い、先人達が封じた禁忌を貪った悪意が、牙を剥いた。

 

 

◇◆◇

 

 

大樹で構成された龍、グラン・ヴェーバ。その強さは炎龍程理不尽ではなくとも、規格外と呼べる部類のものではあった。

 

 

『─────ギャハハ! ギャハハハハハッ!!』

 

 

膨大な生命力を吸い上げた影響か、樹木の姿を有するグラン・ヴェーバは植物や樹木を操って襲いかかる。鋭利に尖った根の先が、柔らかい人肉を引き裂いて、グチャグチャにかき混ぜようとする。

 

 

────しかし、そうやって操った植物の触手は、一瞬で切り伏せられた。

 

 

「────」

 

 

タンッ、と前に踏み込んだタスクの姿が消える。背丈サイズの大剣を軽々しく片手で振るい、巨大な樹木の塊を一閃した。

 

大木から生えた枝に実る赤く熟れた果実。それが震えた瞬間、タスクの扱うヘビィボウガンによって全て撃ち落とされ、起爆する。手榴弾を思わせる小規模の爆発の連鎖が、爆炎となって周囲を飲み込む。爆炎を直接浴びたはずのタスクが、そこから勢い良く飛び退く。

 

 

「────ッ!」

 

「大丈夫かしらぁ、タスク。直撃したみたいだけどぉ」

 

「平気だ。大したダメージじゃない…………だが、少し厄介だな」

 

 

タスクとロゥリィは先程与えた傷が、一瞬で消えていく様を見る。再生、そう言っても遜色無い程の光景。しかしそれが再生ではなく、修復に近いものだと二人は感じていた。

 

植物、樹木の肉体を有するグラン・ヴェーバにダメージは届いていない。ゴーレムのような物に近い為、痛覚すら存在していないのか。或いはヤツにダメージを与えるには肉体の深部、コアを破壊せねばいけないのだろう。

 

だが、その為にはあの肉体を完全に破壊し切らなければならない。アレだけの修復力を突破するにはどうするべきか。

 

 

そう思っていると、パリィンと何かがグラン・ヴェーバの頭部に当たった。何らかのビンだろうか、割れた中から出てきた液体がヴェーバの顔には浴びせられる。

 

 

「…………伊丹?」

 

 

思わず、ビンを投げたであろう仲間に目を向ける。視線の先で伊丹は此方を視認すると、何も言わずにアイコンタクトを取った。その意図を理解すると、ロゥリィと共に何処かへと駆けていく。

 

当然、グラン・ヴェーバの意識も伊丹へ向けられる。

 

 

『────なんだァ? ひ弱な人間が、俺様に何か用かァ?』

 

「………やっぱ異世界でも酒があるんだなって思ったな。振る舞ってみたんだ。どうだ? やっぱり美味いか?」

 

『特殊な心掛けだなァ、人間。………あァ、確かに美味いぜェ──────少しツマミが欲しい気分だなァ!?』

 

「そうかい。遠慮無く腹に入れてくれ─────最後の晩餐になるだろうからな」

 

 

あァ? と怪訝そうに見下ろす巨大な樹木の龍に、伊丹は挑発的な笑みを浮かべたまま後ろにあった木箱────そこに入っていた酒の入ったビンを手に取る。

 

大昔の物だから呑めたものではないが、中身から香る液体の存在だけはよく理解できた。

 

 

「お前の体、見て分かったよ。植物みたいなもんだろ? だから食べる必要もなければ、排泄の必要もない。ただ必要なのは日光と水────だから液体を摂取すれば、即座に体内に循環されるはずだ」

 

『…………だから、何だってんだ?』

 

「お前みたいなドラゴンは知らないだろうが、お酒の大半はアルコールって液体が含まれてるんだ。消毒にも使えて、引火すると良く燃えるヤツがさ」

 

『─────ッ!テメ────』

 

 

魂胆を理解したグラン・ヴェーバが腕を振り上げる。だが、その拳が叩きつけられる直前に─────詠唱する声と共に、数発の火炎がグラン・ヴェーバの口へと撃ち込まれた。

 

口内にまで届いた火炎の火花は、肉体を構成する樹木へと接触し、内部に行き渡っていたアルコールへと引火したいく。直後に、巨龍の全身が燃え上がった。

 

 

 

『ぎ、ギ ィ ア ア ア ア ア ア ア ッ ッ ! ! ! ? ア、アチ゛いィィィィィィッ!!!!』

 

 

今まで攻撃が通じなかったグラン・ヴェーバが、絶叫を上げて悶え始めた。全身を焼かれれば、流石にダメージは通る。それどころか、燃えやすい樹木の肉体には炎は相性が悪すぎる。どれだけ再生、修復しようと、補われた樹木に火が移り、グラン・ヴェーバの肉体を焼き続けていく。

 

 

「………まさか、伊丹殿の言う通りになるとは」

 

「────運頼みだったが、うまくいって良かったよ」

 

 

ゲームや漫画で学んだ知識、植物の相手は燃やせばいいという戦法が通じたことに伊丹の方が驚きすら感じる。炎の魔法を放ったレレイやテュカ、ヤオが駆け寄ってくるが、伊丹は全員を話しながら近くの酒ビンを手に取る。

 

 

「このまま燃えてくれることを祈るけど、念を入れてまだアルコールを追加しとこうか」

 

「よ、容赦ないのね、パパ」

 

 

そんな最中、龍の怒声が響く。伊丹、自分をこうも追い込んだ人間への激しい怒りと憎悪の声を。

 

 

『────テメェ!人間ン!!絶対許さねェ!!喰イ殺してやるッ! 生きたまま、手足を千切って、頭を引き抜いて喰ってやるゥゥゥゥゥ!!!!!!』

 

「………………」

 

 

余計な真似は止めよう、と真っ青になった伊丹はビンを握る手を下ろした。下手したらビンの投げられた方に突っ込んできかねない。何より、こうも殺意剥き出しで吼えられて、肝っ玉が凍えてしまったのも事実だが。

 

 

だが、悶える樹龍に対する好機を────二人の最強が見逃さない。

 

 

「────ロゥリィ!」

 

「───任せなさぁい!!」

 

 

燃える龍の足元へと滑り込んだロゥリィが、ハルバードを大きく一閃。一振の斬撃は龍の脚を切断し、そのまま上半身を地面へと転落させる。

 

ズシンという轟音と共に倒れ込んだグラン・ヴェーバ。炎が消え始めた所での攻撃に、再生が追い付かない。背中へと刃を突き立て、そのまま引き裂くタスク。バックリと開いた肉体に、タスクは特殊な弾丸を装填したヘビィボウガンの銃口を─────肉体に開いた穴へと押し込んだ。

 

 

『ま、まさか────』

 

「ゼロ距離だ───穿て」

 

 

直後、吹き飛んだタスクの目の前で、龍が大きな爆炎に呑まれた。灼熱と業火の爆裂、スーパーノヴァの炸裂。それに耐えきれるはずもなく、龍の肉体は一瞬でチリとなり、消し飛んだ。

 

 

「や、やったのですか………!?」

 

「────いや、まだだ」

 

 

フラグのような発言をするヤオの前に、タスクが歩み出る。彼の目の前には、焼き焦がれたまま手足もなくなり這いずるしかない、瀕死となった龍の残骸があった。 全身を構成する植物が焼き尽くされ、コアと思われる部位が露出している。明らかに瀕死であったが、誰も気を抜くことはなかった。

 

 

『───が、グ………グぉ』

 

「トドメは私が差すわぁ………それでいいわよねぇ?」

 

「………ああ、任せた。だが、油断はするなよ」

 

「しないわよぉ、そんなこと」

 

 

淡々としながらも、笑みを深めながら歩み寄るロゥリィ。ハルバードを引き摺りながら近付く彼女に、瀕死のグラン・ヴェーバは怯えながら─────内側に取り込んでいたものを、彼女に見せ付けた。

 

 

『────動くんじゃねェ!! これがどうなってもいいのか!?』

 

「─────ッ!あの野郎!」

 

 

グラン・ヴェーバの胴体から覗くそれは、頭部のない女性の遺体。祈るように手を握ったまま死んだ、テレジアの亡骸をロゥリィへと見せつける。まるで脅すように、それを盾にするように。

 

 

「……………」

 

『………へへっ、やっぱりな。何も出来ねぇ、何も出来ねェだろ! この女がお前らにとってどれだけ大切な存在かは知らねぇが、大事なモンだってのは分かるぜ! なんせあの弓使いの男も、これを見たら手を止めて何も出来なかったからなァ!!』

 

 

ハイルダインが殺せなかったのもそれが理由か、とタスクは納得しながらもグラン・ヴェーバのやり方に嫌悪感を隠さない。人間のような俗的な知性を持たぬ龍とは思えない悪辣さ。喋れることも合間って、人間を相手にしているような気味の悪さだ。

 

握ったハルバードをゆっくりと下ろすロゥリィにグラン・ヴェーバは腹の底から笑う。人質を使えばマトモに動けない人間風情、と笑っているのだろうか。それならば、大きな勘違いをしている。

 

 

人質を使えば、亡骸を盾にすれば止まると思っているのなら、それは──────ロゥリィ・マーキュリーを大きく図り損ねた考えだ。

 

 

 

 

 

直後、ロゥリィの放った斬撃がグラン・ヴェーバの身体を真っ二つにする。人質にしていたテレジアの遺骸ごと。それには思わず、龍の方が唖然としていた。

 

 

『……………は、ぁ?』

 

「────大切な存在、ねぇ。確かにそうだけどぉ、それで何も出来ないと思ってるのなら、舐められたものよね」

 

 

彼女は亜神だ。人の肉体を捨て、正神の眷属として生きる半不死の神。数百年という長い時を過ごしてきた彼女の思考は、常人のそれとは大きく解離している。何より、彼女の前にテレジアの遺骸を出したのは、ミスでもあった。

 

 

「死ぬ直前に教えてあげるわ─────その子を殺したのは、私なのよ」

 

『─────ッ!?』

 

 

愕然とする龍にトドメの一撃。コアごと頭蓋を砕かれ、グラン・ヴェーバはそのままチリとなって消滅した。それは、龍に取り込まれ、ロゥリィに真っ二つに切り裂かれた少女の肉体も同じだった。

 

数百年、普通ならば肉体が朽ち果てる時まで、その遺骸は封印を維持してきた。生きていた少女の意思と決意によって。そして、龍の生命力が失われた今、少女の肉体も光となって消え去るのだった。

 

 

「────お疲れ様、テレジア」

 

 

そんな少女の光の粒子、残滓に触れ、ロゥリィは懐かしむように告げる。かつて共に生き、夢を持ち、自分自身の手で殺した親友。その消滅の最後を、ロゥリィは亜神としではなく、一人の少女として見届けた。

 

それは、もう一人も同じだった。

 

 

「─────逝ったか、テレジア」

 

 

複雑な感情の籠った視線で、上空を見上げるはハイルダイン。いつの間に現れたのか、それを聞くのも無駄だろう。彼は虚空へと消えた光の粒子を見届けると、その視線をロゥリィへと向ける。

 

 

「見ただろう。あの龍を」

 

「………アレは何なの?普通の竜でも古代龍でもない、あんなの龍ですらないわぁ」

 

「龍さ、ただし災害としてのな。アレは、あらゆる生命体の天敵、世界を喰らう災厄。お前が相手したのは、その端末に過ぎない」

 

「端末? いや、そもそも、何を話している? アレとは、なんだ?」

 

「────タスク・アイアス、お前達が古龍と呼ぶ存在。それとは別の進化を遂げた、厄災だ」

 

 

憎いもののように口にするハイルダイン。嫌悪と侮蔑、それ以上の憎悪を剥き出しにするのは、龍という存在に人生を奪われたことへの憎しみからか。

 

 

「奴等は侵略種だ。人類との調和を望んだ祖龍達と対立し、その結果別世界へと追放された太古の龍。だが奴等は別世界の壁を破り、多くの世界に干渉────そして、捕食した。いずれはこの世界にも到達し、全てを捕食するだろう。

 

 

 

その為に、俺達は竜人(ドラグノート)を作った。奴等に対抗し、殲滅するために」

 

 

ハイルダインだけではない、何人もの人間がドラグノートの開発に関わっている。恐らくは、組織的な犯行だろうが、それ以上の勢力の影が見えてくるのも、感覚的なものだ。

 

 

「────俺の目的はこの世界を、テレジアの夢の残された世界を守ることだ。邪魔をするのなら、お前であろうと殺すぞ。ロゥリィ」

 

「……………そうねぇ、やり過ぎなければ何もしないわよぉ。けど、時が来たら─────また、私が殺すわぁ」

 

 

フン、と鼻で笑うハイルダイン。侮蔑ではなく、やってみろ、という対等な立場での態度。挑戦的過ぎるその立ち振舞いをした後、ハイルダインはその場から歩いていく。

 

立ち去ろうとする彼の背を、皆が警戒する。同じように警戒を緩めないタスクの真横を通った瞬間、ハイルダインが何かを口走った。

 

 

「────────」

 

「っ!どういうことだ!?お前は何を─────」

 

 

その内容に、タスクが飛び付く。ハイルダインを問い詰めようと振り返るが、そこに彼の姿はなかった。何らかの術を使って離脱したのだろう。何かの話を聞いたタスクはその事実を口の中で噛み砕き、訳が分からないといった様子で頭をかきしむった。

 

花の都 ファーリスの一件はこれで一段落着いた。しかし、彼等は知らない。これから、世界を大きく揺るがす事件が起こることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全竜人(ドラグノート)に告ぐ。時が来た、計画を次の段階へ移行。これより、俺達は本当の意味で動き出す。総員準備を終え、明日に備えよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

明日の正午、俺達は─────帝国を掌握する」

 




帝国制圧宣言。皇帝やゾルザルの運命は如何に!?

まぁ、既に自衛隊相手にガタガタだからね、乗っ取られるのも仕方ないというか。というか、乗っ取るのが最初から目的だったというか。
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