【悲報】魔球蔓延る野球が大人気な世界に生まれた俺、魔球が打てないwww   作:門崎タッタ

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登場人物の名称がごちゃごちゃしているので、前書きでまとめておきます。 

塵芥高校
主人公→大川
クラスメイト→脇谷
パーカー→佐々海
ゲーミングモヒカン→百地
和服美人→望月時雨
なのです先輩→楠森雛

天童坂高校
世良光莉→世良光莉
プライド高め→八坂莉央




くだらなくない

 

 練習に身が入らない。

 あれだけ真面目に取り組んでいた素振りも、懸命にボールを追っていたノックも漫然と行うようになってしまった。 

 それは私だけではなく、下位打線の面々も同じ。

 ダラダラダラダラとバットを振って、ボールを追いかける。

 死ぬほど無様で見るに耐えない。

 こんな体たらくな私たちに反して、上位打線の奴らは極めて真剣。

 一つ一つの練習を丁寧にこなし、めきめきと力をつけている。

 そんな彼らが眩く感じるのと同時に羨ましくて妬ましい。

 その才能が私にもあったら……と、僅かでも思ってしまう自分に嫌悪感を覚える。

 一野球人として、一人の人間として私は失格だ。

 これ以上野球を続けても意味はない。

 いっそのこと、辞めてしまおうか……なんて、考えていた日の夜。

 

「197……198……199……200っ!」

 

 あてもなく散歩していると、河川敷の高架下でひたすらに素振りをしている時雨の姿を見つけた。

 その様子をぼーっと眺める。

 すると、私の存在に気がついた時雨がとことこと歩み寄ってきた。

 

「誰かと思ったら……雛ですか。奇遇ですね」

 

「お前はこんな時間まで何やってるのですか?」

 

 無視して帰ることもできた。

 それなのに、言葉を紡いでしまう。

 その理由は自分でも良く分からない。

 ただ……こんな夜遅くにバットを振っている時雨の姿を見て、思うところは多少なりともあった。

 具体的にいうと、苛立ちを覚えたのだ。

 

「ご覧の通り、素振りですよ」

 

「……学校でやりゃいいじゃないですか。わざわざ河川敷でやらなくてもいいのです」

 

「ふふふ……私が居残り練習なんかしたら、私を慕ってる子達も残らざるを得ないじゃないですか。それは本意ではないので」

 

 時雨は悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 慕ってる子達とは私以外の下位打線を始めとした不良達の事だろう。

 野球バカに見える彼女も色々と考えているのだな、と素直に感心した。

 恐らく、この様子だと今のチーム状況も正確に把握している筈。

 今まで知ることの無かった時雨の一面。

 それを垣間見た事で沸々と疑問が湧いてきた。

 

「こんな時間まで練習やってると、いつか体壊すんじゃねーですか?」

 

「問題ありません。睡眠時間は授業中に確保しています。それに、チームで練習している間は投手としての鍛錬に時間を割かなければならないので、バッティングの技術向上に努める暇がないんですよ」

 

「だから、ここで素振りをしてるって事ですか?」

 

「そういう事です。電灯で光源は確保できますし、練習場所として中々悪くないですよ」

 

 本当にストイックな奴だ。

 授業の時間を睡眠に充てると断じているのは、どうかとは思うが。

 ……今思うと、時雨は出会った時から何も変わらない。

 甲子園優勝を掲げて、野球部を一から作って、部員もかき集めて。

 例え自分の球が取れるキャッチャーがいなくても、腐る事なくチームを引っ張って。

 過去に一度、尋ねた事がある。

 そこまで野球に対する熱意があるのに、この学校を選んだ理由は何か……と。

 

「野球部のない高校で野球部を作り、甲子園優勝に導くのを昔からずっと夢見ていたんです。それと、私の学力では塵芥高校しか受からなかったので!」

 

 バカだ。

 時雨は正真正銘のバカ。

 ……でも、誰よりも真っ直ぐで穢れを知らない。

 キラキラと輝いて、とても綺麗に見える。

 だからこそ、不良共はこいつを慕うのだろう。

 まるで、その様は電灯に群がる羽虫のようで、当然ながら私も羽虫の中の一匹にすぎない。

 近づきすぎると焼かれてしまう。

 それでも、手を伸ばす事はやめられない。

 

「お前は……なんでそこまで頑張れるのですか?」

 

「頑張る理由、ですか……そうですね。私が頑張る理由は野球部のみんなが頑張っているから……なんて、言えたら良かったんですけどね」

 

 柔らかな笑みを浮かべていた時雨の表情が曇る。

 想定外の返答と想定外の表情。

 頑張る理由を尋ねた張本人である私はすっかり黙りこくってしまった。

 

「私が頑張る理由は不甲斐ないから、ですよ。アキラくんや脇谷さんを始めとした野球部のみんなに負担をかけている自分が」

 

「……?」

 

「知っていますか?アキラくんと脇谷さんはオフの日に他校の偵察に行っているんです。データ収集のために、私達が試合で勝つために」

 

 全然知らなかった。

 驚くのと共に得心する。

 大川は対戦相手の泣きどころを的確に叩く作戦を立案していた。

 双子山高校の時も神皇帝(ゴッドエンペラー)学園の時も。

 その背景にあるのが、プライベートな時間を捨てたデータ収集であり、脇谷を連れているのは自分の代わりに投手が投げる魔球を確認してもらうため。

 そう考えると、辻褄が合う。

 ……再度、心がざわつき、無性にイライラする。

 時雨の素振りを見ていた時と同様に。

 なぜ、こんなにも苛立ちが募るのか……その理由を私は気付きつつあった。

 

「彼らがそこまでしなくてはならないのは、ひとえに私が弱いからです。投手としても打者としても、私は弱い。だから、頑張るんです。昨日の自分よりも上手くなるために」

 

 ……ああ、そうか。

 時雨の言葉を聞いて、自分の苛立ちの根幹にあるものがはっきりと分かった。

 私は自分に苛ついているのだ。

 自分より野球が上手い大川や脇谷、そして時雨は私の何倍も努力している。

 だが、私はどうだ?

 たった一年程度しか練習していないのに、すぐに成果を欲しがる。

 失敗したら才能が何だと言い訳ばかりで、努力することから逃げようとする。

 本当に下らない。

 情けなくてどうしようもない。

 時雨達の何倍も努力して、それでスタートラインに立てることをこの時になって漸く理解した。

 このままで良いのか……光に群がる羽虫のままで良いのか、と自分に問いかける。

 

 ……絶対に嫌だ。

 時雨や大川達はくだらなくない。

 そして、私もそんな人間になりたいのだ。

 始めは上手くいかないかもしれない。

 下位打線の一人として狙われて、情けない姿を晒す事になるかもしれない。

 それで、構わない。

 最初から結果を求めずに一歩ずつ前に進めば良い。

 

「……私も素振りするのです」

 

「え?まだ私の話が……」

 

「さぁ、練習再開ですよ。ごちゃごちゃ言わずに私と一緒に素振りするのです!」

 

「い、勢いが。珍しく雛の勢いがすごいです……」

 

 脈絡のない私の発言を聞いた時雨は、状況が掴めないのかあわあわとしている。

 その様子が可笑しく思えて、私は一人でに微笑んだ。

 

 

 天童坂(てんどうざか)高校野球部の2軍との練習試合。

 開始直前に私達は作戦を共有していた。

 

「今回の先発ピッチャー、八坂(やさか)莉央(りお)。彼女の強みは制球力でもシンカーでもありません。並外れた度胸です。例え配球が読まれたりしていても、彼女は動揺しません。配球が読まれているのを逆手に取って敢えてど真ん中に投げたりする事が出来るんです」

 

「それに加えて、状況の変化に対応する能力もあるので、投球パターンを読む事は不可能です。投手としての能力が優れている上に高い確率で上位打線には魔球を多投するため、この試合は一点を争う勝負になるでしょう」

 

「しかし、付け入る隙はあります。八坂の弱点はプライドの高さです。自分が打たれる筈が無いと高を括っている相手に打たれると、露骨に動揺してしまい、ピッチングに綻びが生じます。実力は申し分ないのに、中学時代は三番手投手だった最たる要因はこの悪癖ですね」

 

 大川の話を黙って聞く。

 そして、その内容は大体理解した。

 要するに、この試合に勝つためには下位打線でチャンスを作るか、得点を奪わなければならない、と奴は言いたいのだろう。

 恐れを覚えないと言えば嘘になる。

 地大末(じだいまつ)の4番の私を嘲笑うような笑顔は、いまだに脳裏にこびりついて離れない。

 けれど、私はもう逃げないと決めた。

 プライドを捨て去って、惨めだろうが何だろうが死ぬ気で喰らい付いてやる。

 

「大丈夫、みんななら打てますよ。一年前からずっと練習を見てきた私が断言します」

 

 時雨は暗い表情を浮かべている下位打線の面々に声をかける。

 恐らく、私のような不安を抱いている彼らの感情を汲み取ったのだろう。

 その声かけによって、全ての恐怖が払拭される訳ではないが、確実に心は軽くなっている。

 ……地大末の4番が私達にかけた呪いを解けるかどうかはこの試合にかかっている。

 2軍とはいえ、名門天童坂の投手を下位打線が打ち崩す事ができれば、失われた自信を取り戻す事が出来る筈だから。

 下位打線のトップバッターである6番打者の私。

 私が出塁できるか否かはチームの士気に関わるため、その責任は重大だ。

 

「プレイボール!」

 

 審判によって、試合開始の合図が出される。

 案の定、試合は投手戦の様相を呈した。

 両者共にランナーを出すものの無失点。

 時雨は高速ナックルが、相手ピッチャーの八坂は魔球が冴えており、バットに掠らせもしない。

 両者ともに一巡目は様子見していたこともあり、試合はじっくりと進んでいった。

 

 5回の裏、先頭打者は私。

 ほぼ間違いなく、この回で八坂は降板する。

 何故なら、現時点で彼女が投じた魔球の数は14で、後一回しか魔球を投げる事が出来ないから。

 ……叩くなら今だ。

 魔球が来る可能性が限りなく低い今しか、私が打てるチャンスはない。

 グッとバットを握りしめて、グラウンドへ向かおうとすると、大川に声をかけられた。

 

「雛先輩。一つだけ、アドバイスを。あいつはツーストライクになったらシンカーを投げてきます。それを狙い打って下さい」

 

「何で、そう言い切れるのですか?」

 

「俺、八坂と3年間一緒のチームで球を受けたこともあるんですよ。だから、考えてる事は大体分かります。あいつは少しでも良い所を見せたいと思っている筈です。天童坂の監督とベンチにいる光莉に」

 

「だから、アピールのために決め球のシンカーで三振を狙ってくると」

 

「そういう事です。練習で久菜ちゃんのシンカーを打ってる先輩なら、ちょちょいのちょいですよ」

 

「……了解なのです。ありがとうです、大川」

 

 大川の助言を背に私は歩みを進める。

 ……ちょちょいのちょい、か。

 簡単に言ってくれる。

 練習と試合は違う。

 プレッシャーのかかり具合も、そして打たなかった時の責任の重さも。

 ただでさえ変化球打ちが苦手な私にはかなりハードルが高い……が、頼られるのは悪い気がしない。

 私なんかを信じてくれる後輩の為に、かっこいい所を見せてみたいな。

 

「…………」

 

 打席に立った私はマウンドに立つ八坂の様子を確認する。

 表情には緊張の色が見えるが、険しさはない。

 ……上位打線に比べれば私は取るに足らない打者であると、思っているのだろう。

 いざという時の保険である魔球を一球しか残してない事もあり、舐め腐っているのが丸わかりだ。

 だが、不思議と怒りは湧いてこない。

 この好機を逃さず、チームのためにヒットを打つことしか私の頭になかった。

 インハイにストレート、アウトローにカーブ。

 これであっという間にツーストライク。

 こちらに振る気が無いのを察しているのか、ぽんぽんとストライクゾーンに入れてくる。

 随分と強気な投球だ。

 大川の助言がなければ、気力で押されて呆気なく三振していただろう。

 だが、今の私には迷いがない。

 

「貴女、楠森(くすもり)(ひな)さんですよね……私と一緒に野球をやりませんか?甲子園優勝を目指して、共に練習に励みましょう!」

 

 時雨と初めて会った時に彼女が発した言葉が不意に脳裏をよぎる。

 あの頃の私は答えられなかったけれど。

 今なら胸を張って言える。

 

「時雨や野球部のみんなと一緒に、私も甲子園優勝を目指したいのです!」

 

 そう心の中で叫んだ私はバットを全力で振る。

 芯に当たった打球は勢いが衰えることなく、ぐんぐんと伸びていった。

 ……けれど、そのままホームランとはならず、左中間の深いところに落ちる。

 内野にボールが戻った頃、私は二塁に到達していた。

 チラリとベンチを見ると、てんやわんやの大はしゃぎ。

 時雨や大川、佐々海や百地などの脳みそお花畑組はもちろん、普段は冷静な脇谷でさえ自分のことのように喜んでいた。

 それは下位打線組も同じ。

 試合前の鬱屈とした雰囲気は立ち消え、気合いは十分で声も出ている。

 一番槍としての役割は果たせた。

 そう実感すると、胸が熱くなる。

 短絡的な考えで野球を辞めないで良かった……と、心の底から思った。

 

「やった!!!」

 

 グラウンドに9番打者の喜びの声が響き渡る。

 私のヒットによって、緊張の糸が切れてしまったのか、八坂は大きく崩れてしまった。

 ベンチをチラチラ確認しては甘い球を打たれる。

 バッターのことなんか見ていない一人相撲。

 均衡は破られて、瞬く間に2点追加。

 

「タイム!」

 

 敵の監督がタイムを要求する。

 投手を交代するのだろう。

 俗に言うノックアウトって奴だ。

 

「…………」

 

 しかし、八坂はマウンドから降りようとしない。

 ボールを握りしめて、俯きながらその場に立ち尽くしており、チームメイトの声にも反応しない。

 ……その気持ちは理解できる。

 悔しくて悔しくて、堪らないのだろう。

 意固地になっている彼女の立ち姿が、地大末戦で三振した時の私と重なって見えた。

 

「今すぐマウンドから降りなさい」

 

 ざわついていたグラウンドがしんと静まりかえる。

 先程の声の主は世良(せら)光莉(ひかり)

 誰もが知る天才ピッチャーその人だ。

 無表情のままマウンドに向かった世良は、グラブを差し出してボールを受け取ろうとする。

 だが、八坂はそれでもマウンドから離れない。

 断固として交代を拒否する彼女の目から、一筋の涙がこぼれ落ちる。

 

「光莉……私はっ」

 

「そういうの良いから、さっさと退いて。貴女が今するべき事は私に感情を吐き出す事じゃないわ。私にボールを渡して、直ちにベンチに向かう事よ」

 

「……ッ」

 

 正に有無を言わせない。

 能面のような表情のまま淡々と紡がれる言葉を前に、何も言えない八坂は重い足取りでベンチに向かっていった。

 代わりにマウンドに上がるのは世良光莉。

 艶やかで長い銀髪に透き通るような紫色の瞳。

 表情の変化が乏しい事も相まって、その容姿は極めて出来の良い人形のよう。

 だがしかし、投球練習を見てみると、その印象は大きく変わる。

 150キロを優に超えるストレートに、野球ゲームのように真横に曲がるスライダー。

 落差が大きくブレーキのかかったカーブに、ストレート並みのスピードで落ちるSFF。

 ……世良光莉は人形などではない。

 野球をするためだけに作られたロボット。

 そう言われても、信じてしまうほどに彼女の投げる球は完成されていた。

 敵も味方も関係なく、固唾を飲んで見守る。

 ……そんな中で、なんか喋ってる人がいた。

 それも、私のすぐ側に。

 

「八坂には申し訳ないけど……やっぱり出てくるよな、光莉は。またとない機会だし、現在地の把握を最優先に……」

 

 ぶつぶつと独り言を呟く人間の名は大川アキラ。

 かつて、世良光莉とバッテリーを組んでいた過去を持つ私の後輩だった。

 





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