【悲報】魔球蔓延る野球が大人気な世界に生まれた俺、魔球が打てないwww   作:門崎タッタ

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第三章 始動
起爆剤どかかかーん!!!


 

 特に理由もなく、周囲を見渡す。

 古びたロッカーに乱雑に置かれた荷物。

 これぞ野球部の部室って感じの内装だ。

 面白みも何もない。

 そして、頬杖をつく私の目の前には、先程提出した入部届に目を通す大川がいる。

 この状況も面白くない。

 

「記入漏れはないですね。これで、(あまね)先輩は正式に野球部の部員です。めでたいですね」

 

「ふん。何一つめでたくないわ」

 

「そうですか。でも、俺にとってはめでたいですよ」

 

「知らないわよ、あんたの都合なんてっ」

 

 私が食ってかかると、大川は心の底から楽しそうにケラケラと笑う。

 こいつは舐め腐っているのだ、私の事を。

 それを改めて自覚して、悔しさと苛立ちが募る……募っているのだが、嘘偽りなく言うと、それ以上に嬉しい。

 気を抜いたら微笑みそうになるくらいには。

 ここ一年間、自らの両親やお店の店員以外の人間と会話する機会に恵まれなかったどころか、私には友達と呼べる存在が一人もいない。

 正確に言うと、親友とも呼べる友達が一人いたのだが……今はいない。

 とにかく、小学校も中学校も同年代の人達と気安く話すことなんてなかった。

 気が強そうな外見に加えて、根暗で口下手な私は他人と仲良くする事が出来なかったのだ。

 ……けれど、大川とは自然体で話せる。

 生意気で物怖じせず、本音をぶつけてくるこいつには、私も遠慮せずに話せるのだ。

 だから、それがとても嬉しい。

 それに、昨日の去り際に私を褒めてくれたし、案外悪いやつではないのかも……。

 

「何考えてるの。ダメよ、私……こんな奴に誑かされちゃダメ……!」

 

 正気に戻るためにぶんぶんと首を振る。

 危ないところだった。

 危うく、心を許しそうになってしまった。

 大川は罪のない私を野球部に引き込んだ正真正銘の悪魔だと言うのに。

 多分、こいつは人たらしだ。

 言葉巧みに好感度を稼ぎ、人の心の隙間に入り込む熟練のホストのような男なのだ。

 野球部の奴らは術中に嵌っているようだが、私は一味も二味も違う。

 そう易々と屈したりはしない。

 

「一人で喋ったり、ぶんぶんと頭を振ったり……大丈夫ですか、先輩」

 

「べ、別に何でもないわ。心配は無用よ」

 

「それなら良かった。今日から早速、練習に参加してもらうので、準備ができたらグラウンドに来てくださいね」

 

 大川は部室を後にする。

 ……そうだった。

 今日から練習開始。

 野球に熱中しているとは言えど、不良なのは間違いない人達と一緒に練習することになる。

 名実ともに塵芥高校の番長であり、犯罪行為を厭わない上級生を仲間と共に叩きのめして、塵芥高校に秩序をもたらした望月時雨。

 そして、純粋な腕っぷしなら学校一と評され、中学時代は喧嘩を売ってきた相手を必ず血祭りにあげた事で有名だった佐々海景。

 この二人も野球部に所属している……。

 

「い、今すぐ帰りたいわ……誰でも良いから助けてぇ……」

 

 脳内で名前を挙げただけ。

 たったそれだけで、ビビってしまう。

 恐怖に耐えかねた私がどんなに助けを求めても、一向に救世主は現れなかった。

 

「あいつが噂の……」

 

「何しに来やがった……」

 

 部室から外に出ると、野球部員が揃いに揃って、私が来るのを待ち構えていた。

 一部の例外を除いて、みーんな厳つい表情でこちらにガンを飛ばしている。

 そんな彼らに対して、私は冷ややかな視線を送るが、内心は怖くて怖くてたまらない。

 なんでこんなに威圧的なの、こいつら……。

 

「裏番が野球部に入部するなんて、どういう風の吹き回しだ」

 

「聞いた話によると、時雨先輩に喧嘩を売りに来たらしいっすよ」

 

「何だと!?そいつは許せねぇぜえええ!」

 

「落ち着いてください、皆さん。自己紹介の妨げになりますよ」

 

 私が望月さんに喧嘩を売りに来たなんて、そのような事実は一切ございません。

 そもそも聞いた話って何なのよ。

 私はそんな事一言も言っていないのに……と、声高々に叫びたいところだが、抑え込む。

 焦りは禁物。

 ひとまず、ここは誤解を解きたい。

 まずは彼らに舐められない程度の態度で自己紹介をする。

 その上で、望月さんが部員を制止してくれている間に敵意がないことを示して、自然な形で練習に参加する。

 これが、今の私がやるべき事。

 

「知らない人はいないと思うけど。私の名前は周十羽よ。これからよろ……」

 

「これからよろしくって……なんですか、その言動。やっぱり周先輩は凡俗で面白みのない人なんですねぇ」

 

「そこの坊主頭。何勘違いしているのかしら。私はこれからよろしくするつもりはない。貴方達は私の足を引っ張らないように精々頑張りなさい……って言おうとしたのよ」

 

「何だとテメェ!」

 

「喧嘩売ってんのか!?」

 

 売り言葉に買い言葉。

 煽ってきたのは大川で、余計なことを口走ったのはお馬鹿な私。

 そして、自己紹介を聞いていた部員の皆さんは怒りを露わにしている。

 ……やってしまった。

 この高校では不良共に舐められたら終わり。

 そのため、常日頃からしかめっ面で過ごす。

 相手を威圧するような言動を心がける。

 その歪みに歪んだ習性が、いつの間にか私の中に染み付いてしまっていた。

 「ぬるぽ」と書かれたら「ガッ」っと即座に書き込むように。

 「たけのこ」か「きのこ」のどちらが好きかと聞かれたら、迷わずに「きのこ」と答えるように。

 反射的に辛辣な言葉が口から出てしまったのだ。

 

「おい、めちゃ舐められているのですよ、時雨。黙ったままでいーんですか?」

 

「…………」

 

 物騒なことを口走る金髪ロリの問いかけに望月さんは答えない。

 黙り込んだまま顎に手を当てて、悩みこむような表情を浮かべている。

 

「思ってたよりも大事になっちゃったっす……!」

 

「どうしてこんなことになったんだろうね」

 

「何惚けてんだよ。お前が煽ったからだろ、アキラ。まぁ、面白くなりそうだからいいけどさっ」

 

 こんな状況にしやがった張本人と奴の友達らしき二人は仲睦まじそうに会話している。

 他人事とでも言いたげに。

 その様子を見ていると無性に腹が立つが、今の私ではどうにもできない。

 

「良い度胸だな、裏番さんよぉ……」

 

「覚悟はできてんだろうな!」

 

 何故なら、鬼のような形相の野球部の人達に取り囲まれているから。

 危険度で言えばビル崩壊事件の方が上回るが、迫力は同程度。

 心臓がバクバクと音を立てているが、それでも動揺を表に出さない私の表情筋は本当に偉い。

 

「あたしらに囲まれても眉一つ動かさない度胸は評価してやるよ」

 

「だがなぁ、時雨さんをコケにされて黙っている俺らじゃねぇ」

 

 野球部員がじりじりと距離を詰めてくる。

 彼らの手には金属バット。

 包囲されているので逃げ場も無いため、絶体絶命という他ない。

 これで、終わりだ。

 金属バットでボコボコのボコ。

 袋叩きにされてゲームオーバー。

 遺体は校舎裏に埋められて、よく分からない草木の養分になってしまうのだ。

 

 ……全てを察した私は祈りを捧げる。

 ああ、お母さんとお父さん。

 先立つ不幸をお許しください。

 それと、神様。

 私を嵌めた大川を地獄に落としてください……。

 

「舐められっぱなしは性に合わねぇからよ……俺達と勝負しやがれ!」

 

「もちろん、野球でな!」

 

 ……え?

 野球で……勝負?

 袋叩きにされないのは嬉しいけれど、一難去ってまた一難じゃないの!

 どうして……どうしてこうなるのよ!!

 

 

「波川中の剣客の異名を持つ俺が、裏番様の実力をテストしてやるぜ〜」

 

 打席に立ち、バットを豪快に振る百地(ももち)くん。

 そんな彼を他所に、長い銀髪が印象に残る少女がマウンドに立ち尽くしていた。

 彼女の名前は(あまね)十羽(とわ)

 アキラくんが連れてきた新入部員であり、塵芥高校の裏番と評されている有名人だ。

 そして、入部して早々、我々を挑発した問題児でもある。

 当然ながら、一部の例外を除く部員は激昂し、なんだかんだで周さんと部員が一打席勝負する流れになった。

 止めようとも思ったが、結局は止めなかった。

 その理由は、好奇心。

 曲がりなりにもエースナンバーを背負う者として、私が最も頼りにしている相棒が連れてきた投手の実力を確かめたかったのだ。

 

「投球練習すらせずに勝負するなんて……やっぱり、私達を舐めてるのですね、あいつは!」

 

 すぐ隣で、雛が怒りを露わにする。

 舐めている……か。

 私はそうは思わない。

 周さんの傲慢な言動に立ち振る舞いは、己の能力を自覚しているが故のもの。

 確固たる自信に裏打ちされているように見える。

 間違いなく、只者ではないだろう。

 ……一体、どのような投球をするのだろうか。

 それを想像するだけで胸が躍る。

 

「よっしゃ、こい!」

 

 気合いを入れた百地くんの言葉を皮切りに、周さんが動き出す。

 周囲の様子を一切気にせずに、体の正面がホームベース側に向くように立つ。

 大きく腕を振りかぶり、ダイナミックなフォームで硬球を投じる。

 アウトローに投じられた渾身のストレート。

 小気味良い音を立てて、大川くんのミットに突き刺さった一球。

 その一連の投球を目にした人々は例外なく口をつぐむ。

 ……目を奪われたのだ。

 想像を遥かに超える速度の直球を前にして。

 

「なんだよ、あの球!」

 

「速すぎンだろ……」

 

 先程のストレートの球速は恐らく、150前半。

 だがしかし、スピードだけではない。

 ノビも申し分なく、浮き上がってくるように見えるあの球を低めに集められたら、並の高校生では歯が立たないだろう。

 実際、百地くんは振り遅れた上に、ボールの下を振らされている。

 あれほどの直球を一打席で攻略するのは難しい。

 

「馬鹿な!波川中の剣客の異名を持つ俺が、三球三振だなんて!」

 

「ぐわー!」

 

「やられたー!」

 

「畜生!手も足も出なかったのです……」

 

 百地くんやその他の部員は三振。

 雛はバットに当てたものの、打ち損じのゴロ。

 そこまでしても、周さんは変わらない。

 勝利を喜ぶのでもなく、己の実力に酔いしれるのでもなく。

 

「これが貴方達の実力?……口程にもないわね」

 

 この結果が当然だと言わんばかりに、我々の力不足を嘲笑うかのように口元を歪めている。

 

「うぐぐ……何も言い返せねえ!脇谷〜佐々海〜、俺たちの仇を取ってくれえ〜」

 

「うーん。そうしたいのは山々なんすけど、今日は調子が悪いんすよねー」

 

「俺も俺も!」

 

「それなら、時雨!私達の無念を晴らして欲しいのです!」

 

「……分かりました。私に任せてください」

 

 雛に背中を押された私は歩みを進める。

 そんな私を周さんは口を開かずにじっと見ていた。

 ……品定めをするかのように。

 正直に言うが、私が勝つ可能性は限りなく低い。

 周さんの実力もさる事ながら、彼女の球を受けている大川くんの存在を忘れてはならない。

 ここまで、周さんが投じた球は全てストレート。

 変化球を一球も投げていないのだ。

 間違いなく、この配球は意図的なものであり、変化球を奥の手として用いようとしている。

 ストレートを打つだけでも困難なのに変化球まで織り交ぜられたら、勝機はなくなるだろう……。

 

「それならば、私に出来るのは一つだけですね」

 

 打席に立ち、バットを構えて、心に決める。

 ごちゃごちゃと考えるのはやめる……と。

 読み合いでアキラくんに勝てるとは思えない。

 ただただストレートを打つ。

 変化球が来てもお構いなし。

 自分に出来る最高のスイングで迎え打つ。

 然程賢くない私に出来るのはそれだけだ。

 

 ……そんな事を考えていると、周さんが投球動作に入り、瞬く間に一球目が投じられる。

 それを認識した時点で思考は断ち切る。

 とにかく、無我夢中でバットを振った。

 

「……ッ」

 

 外角低めに投じられた球を捉える。

 結局、最後の最後まで変化球ではなく、周さんが投じたのは種も仕掛けもないストレート。

 力と力の勝負。

 勝ったのは……。

 

「センターまで飛んだ!時雨さんの勝ちだ!」

 

「流石、時雨!すごいのです!」

 

 打球はセンター前に落ちる。

 それと同時に部員のみんなが駆け寄ってきた。

 彼らは口々に私を褒めてくれるが、その言葉は頭に入らない。

 ……手応えはあった。

 外野の頭は超えると思っていた。

 けれど、結果はセンター前。

 要するに、詰まらされたのだ。

 力と力の勝負で……私は負けた。

 結果だけ見れば勝ったように思えるが、こんなのは運が良かっただけだ。

 

「中々やるわね、貴女。私の球を外野に運ぶなんて、認めてあげなくもないわ」

 

 周さんは笑みを浮かべる。

 その笑みは百地くんや雛に向けたものと同じ。

 恐らく、彼女も理解しているのだ。

 この勝負の勝者は私ではなく、自分であると。

 

「私の、負けですよ。完敗です」

 

「…………」

 

「ですが、あくまで打者として……です。投手としては負けていないと自負していますし、一人の打者として、いつの日か超えてみせますから。首を洗って待っていてください」

 

「……そう。期待せずに待っておくわ。首を洗って、ね」

 

 身を翻した周さんはグラウンドを後にする。

 その後ろ姿を見ているだけでも、悔しい。

 悔しい悔しい悔しい……が。

 

「悪い気分では、ないですね」

 

 塵芥高校のエースである私の地位を脅かす投手。

 切磋琢磨できる相手が登場した事は良い事だ。

 周さんには負けたくないと思えば思うほど、より一層、野球の練習に打ち込む事が出来るから。

 この悔しさを糧に、成長してみせる。

 塵芥高校のエースは私であると、胸を張って言えるような投手になってみせる……と、心に誓った。




不幸は不幸ではなく、不孝です。
しかし、プリンちゃんは間違って覚えています。
お馬鹿なので……!
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