【悲報】魔球蔓延る野球が大人気な世界に生まれた俺、魔球が打てないwww 作:門崎タッタ
因みに裏を先に投稿したのは間違いではないです……!
「頑張ってー、響くん!」
「ありがとう!試合中も応援よろしくね!」
「ねぇ、今の聞いた!?私の声、私の声だけに反応してくれた!」
「お前、耳腐ってんのか?私の声に反応してくれたに決まってんだろ!?」
「……何だとコラ。生言ってるとぶっ◯すぞ!」
女の子の黄色い声援?がグラウンドに響き渡り、いけすかないイケメン共は手を振る事で応える。
今回の練習試合の相手は若い女性に大人気なアイドルグループ「base THE ball」の面々。
……なんで、こいつらなのよ。
忌むべき私の初登板の相手が!
観客の殆どが相手を応援してる上に、報道陣らしき人々の姿もあり……プレッシャーが半端ない。
「裏番の野郎、なかなか肝が据わってますね。一切動じてないですよ」
「ふふふ……それでこそ、私のライバルです」
好意的に解釈しているところ申し訳ないけれど、ビビり過ぎて表情筋が死んでいるだけなのよね。
そもそも、ライバルって何なのよ。
この前の勝負はどこからどうみても時雨さんの勝ちだし、実力的にも私の方が劣っている。
私の扱いは路肩の石ころと同じで良いのにライバルだなんて……恐れ多いにも程があるわ。
「あ、アキラくん!何も言わずに居なくなって……どこ行ってたんすか?」
「相手チームのキャプテン、響さんにサインを貰ってたんだよ。母親が大ファンでさ」
「なるほどっす」
「ねぇ、久菜ちゃん。前から思ってたんだけど、そろそろ敬語やめない?……あ、もちろん、嫌なら今のままでも……」
「……う、ううん、全然嫌じゃないよ。なんて言うか、いきなりだったからびっくりしただけで……それじゃあ、敬語やめるね、アキラくん」
「ありがとう。でも、どうせならくん付けもやめて欲しいな。俺も名前で呼ぶから」
「えっと。そういうことなら、これからは名前で呼ぶね……アキラ」
「うん。改めて宜しくね、久菜」
「……えへへ、ちょっとだけ気恥ずかしいな……」
……何イチャイチャしてんのよ、こいつら。
試合前だっていうのに。
状況を考えなさいよ、状況を!
激情に身を任せた私は脇谷と談笑する大川の手を取って、この場を離れる。
後方から突き刺さるような視線を感じるが……きっと気のせいだろう。
事実はどうであれ、少なくとも私はそう思い込む事にする。
「どうしました、周先輩。もしかして、怖気付いたんですか?」
「もしかしなくても、怖気付いているわ……じゃなくて、何であんたは悠長にお喋りしてるのよ。他にやるべきことがあるでしょう?」
「やるべきこと、ですか?」
「すっとぼけないでよ。バッテリー間で作戦会議とか、相手打者の情報の共有とか、如何にもあんたが好きそうな事を一切やってないじゃない」
「成程。でもまぁ、いずれにせよ必要ないです」
「……え?」
「作戦会議とか、必要ないですよ。俺が今日の試合で出すサインはストレートかスプリットか、それだけですから。コースを指定したりはしません。暴投以外は全部取るので、何も考えずに思いっきり腕を振って投げて下さい。そうすれば勝てますよ」
◇
「1番 サード 響くん」
試合が始まってしまった。
たかが練習試合なのにウグイス嬢がいるのはおかしい、だとか突っ込みたい事は山ほどある。
けれど、取り敢えずは勝負に集中。
今すぐ逃げ出したい気持ちやその他の雑念を心の奥底に封じ込めた私は、キャッチャーミットを構える大川を見据える。
サインはストレート。
ただ、それだけ。
ミットは動かさない。
私は首を振る。
サインはスプリット。
ただ、それだけ。
ミットは動かさない。
私は首を振る。
サインはストレート。
ただ、それだけ。
ミットは動かさない……。
……こいつ、本当に球種のサインしか出さないつもりなの……!?
頑なにミットは動かさないし、球種も私が首を振ったら速攻で変えるくらいには適当だし……。
確かに、私はノーコンピッチャーではある。
それは認めざるを得ない。
だけど、ノーコンだからって、ここまで適当なリードはあり得ないでしょう!
高校球児のレベルがどれほどのものかは知らないけども、考えなしに投げて抑えられる訳がない。
なので、私なりに考えて投げることにする。
内角はデットボールが怖いので絶対に無し。
ひとまず、ここは外角の低めを狙って投げれば、仮に打たれても長打はないだろう……。
「やったやった、ツーベースヒット!」
「響くん、すごおおおおい!!」
あっさりと打たれてしまった。
それはもう綺麗に弾き返された。
野球とアイドルの二足の草鞋を履いたイケメンは長打を打てないと、高を括った私が馬鹿だった。
一回の表、ノーアウト2塁。
誰がどう見てもピンチである。
場内割れんばかりの大歓声。
それらの声はイケメンアイドルに向けたものであり、誰がどう見てもアウェーである。
……も、もう帰りたい。
今すぐ家に帰って、シャワーを浴びて、パジャマを着て、お布団に入って、お気に入りのぬいぐるみを抱きしめながら、瞳を閉じて眠りたい。
「フォアボール」
弱気な思考はピッチングにも現れて、あっという間に二者連続フォアボール。
細心の注意を払って投げてもストライクゾーンに入らないし、入る気もしない。
これで満塁、次の打者は4番打者。
それでも、大川はコースを指定しない。
淡々とストレートのサインを出すだけ。
タイムを要求する素振りすら見せないし、ベンチも動きを見せない。
もう、訳がわからない。
もはや、何も考えたくない。
何でも良いから、一刻も早く試合が終わって欲しい……その一心で振りかぶって投げる。
「きゃああああああ!!!」
少女達の声が幾重にも重なる様は巨大な怪獣の叫び声のようだ。
ど真ん中に向かっていった棒球はレフトスタンドに運ばれ、スコアボードには4の数字が刻まれる。
満塁ホームランを、打たれた。
そして、ようやく大川がタイムを要求して、こちらに歩み寄ってくる。
文句の一つでも言いたいところだが、一言話す気力すら今の私にはない。
流石に投手交代だろうし、ここは大人しくベンチに引き下がろう。
この試合で炎上したことによって、裏番としてのメッキが完全に剥がれてしまった。
そのため、これから色々と面倒なことが起きるだろうが、今後のことは後で考えることにしよう。
「……期待外れですね、周先輩。試合前に俺が言ったことすら碌にこなせないなんて」
歩み寄ってきた大川は淡々とそう告げる。
失望したような眼差しを私に向けて。
そして、奴がいそいそと元の位置に戻ると……。
「プレイ!」
……試合が、再開した。
バッターが打席に立つ。
大川がミットを構えてサインを出す。
そのサインはストレート。
タイム前と同様に微塵もミットを動かさない。
それを目にした瞬間に、私の中にある何かがぷちんと音を立てて切れた。
私は試合で投げたくなんか無かった。
今のように炎上するのが分かっていたから。
中学校の頃と同じように、私の一人相撲で試合をぶち壊しにするのを誰よりも理解していたから。
それなのに、半ば強制的に試合で投げさせられて、大量失点したら、期待外れ?
勝手に期待して勝手に失望してんじゃないわよ。
本当に何もかも、大川のせいだ。
あいつが居なければ、私は今でも悠々自適な裏番生活を送れていたし、野球部に入らずに済んだし、大衆の前で無様な投球を晒す事もなかった……なんて事を考えていると、良い事を思いつく。
私の人生は今日で終わり。
この試合が終わったら、私の真の姿を知った不良共に袋叩きにされることは目に見えている。
それならば、もう捨てるものはないので、ありのままの姿を見せてしまおう。
次の一球から、手加減抜きの全力で投げて、大川の全てをぐちゃぐちゃにする。
俗に言う、死なば諸共。
地獄に落ちるのは私だけなんて絶対に許さない。
……何が何でも、大川も道連れにしてやるわ。
それからのことはよく覚えていない。
何も考えずにおおきく振りかぶって投げ続けた。
豪速球を受け続けることで、奴の手があざだらけになってしまえば良いと思って。
ストレートと同程度の速度で落ちるSFFをワンバンさせまくる。
幾度となくパスボールして、私のように恥を晒せばいいと思って。
大川への憎しみが力になっているのか、投げても投げても疲れを感じないし、観客の声や視線も気にならなかった。
「ゲームセット!」
気がつけば、試合が終わっていた。
何となく、後ろを振り返る。
スコアボードに刻まれていた数字は13-4。
13点が私達で4点が相手なので、私は初回以降点を取られていない事になる。
「せんぱ、いっ!?」
スコアボードを見ていると、近寄ってくる大川の姿が視界の端に映ったので反射的に胸ぐらを掴む。
「どうだった?私の実力は。この結果を見ても、期待外れだって言える?」
この行動も言葉も、演技では断じてない。
怒りのままに……自らの心が赴くままに動いた結果、生じたもの。
謂わば、自分が知らない未知なる自分だった。
「言え……ません。俺の想像以上、でした。生意気な事言ってすみませんでした……!」
「今日はこれで許してあげるけど……次に舐めた口聞いたら、ただじゃすまないわよ」
「はい。肝に銘じておきます!」
称賛の言葉と心からの謝罪。
それを耳にした事で溜飲が下がり、落ち着いた私は手を離す。
胸ぐらを掴まれて苦しい思いをした筈なのに、大川はニコニコしている。
奴はもしかして、ドMなのだろうか。
「おいおい、大丈夫か兄弟?周先輩もよ、胸ぐらを掴むのは酷いんじゃねーか?」
「先輩に胸ぐらを掴まれた件は完全に俺が悪いから、あまり先輩を悪く言わないでくれ、百地」
「完全に俺が悪いって……お前、周先輩に何したんだ?」
「周先輩は期待外れって言ったんだ」
「そんな事言って、胸ぐらを掴まれるだけで済んだのが奇跡だな……」
虹色のモヒカン頭と女の子のような外見の男の子と話しながらベンチに引き上げていく大川の姿を傍目に、自分の手を握る。
怒りが消えて、私の心に残った感情は達成感。
動機は最悪だったが、脳みそを空っぽにして全力で投げたのは本当に久しぶりで……嘘偽りなく言うと、気持ちがよかった。
過去もトラウマにも縛られずに、思う存分投げる事ができたのはこれが初めてかもしれない。
この気持ちが味わえるのなら、また試合に出るのも悪くはないかもしれない……と、そう思える。
……もしかして、大川はここまで計算して私を怒らせたのだろうか。
「……流石に考えすぎ、よね」
「おい何独り言言ってんだ!!!初回以降ノーヒットに抑えたからって、調子に乗ってんじゃねーぞ、クソアマ!」
「次はあたしらが相手してやるから、覚悟しとけや!」
「…………」
なんというか、良い感じで締めくくれそうだったのに全てが台無しだわ……。