【悲報】魔球蔓延る野球が大人気な世界に生まれた俺、魔球が打てないwww 作:門崎タッタ
出井田工業高校
データメガネ=堀
黒縁メガネ=南
塵芥高校
大川アキラ=主人公
脇谷久菜=クラスメイト
佐々海景=パーカー
百地=ゲーミングモヒカン
望月時雨=和服美人
楠森雛=なのです先輩
「まず守ります、出井田工業高校のピッチャーは堀くん、キャッチャーは……」
こちらのスタメンの紹介をするウグイス嬢の言葉を耳にしながら、投球練習を始める。
良く整備されたグラウンドに、程々に人が入っている観客席。
そして、三年間も苦楽を共にした相方のミットに向かって黙々と球を投じていると、最後の大会が始まったという実感を覚える。
初戦の相手は塵芥高校。
神皇帝高校に次ぐ、今回の大会のダークホース。
我ら出井田工業高校野球部が100回戦って、99回は負ける相手だ。
要するに、勝てる可能性は0%に等しいと、僕のデータが言っている。
……本音を言えば、これまでの苦労を思い返しながら感傷に浸りたい所だが、そんな時間はない。
「1番 センター 百地くん」
「しゃあっす!」
悲観する人間であっても楽観的な人間であっても、時間は平等に進むのだから。
どんなに力の差があろうと、闘志をなくしたらそこで終わり。
泣いても笑っても、僕はこれが最後の夏。
絶対に勝つ心待ちでマウンドに立つだけだ。
塵芥の1番打者が打席に立ったのと同時に、ブラスバンドによる応援歌が鳴り響く。
その音を皮切りに僕は思考を切り替えた。
塵芥高校で注意すべき打者は1〜5番の5人。
その中でも、特に塁に出してはいけない打者はこの1番バッターと2番バッターの大川だ。
何故なら、他の要注意人物と異なり、1番は持ち前の俊足、そして2番は配球を読む能力を活かす事で、次の塁を盗む事が出来るから。
僕の投げる球は遅い。
先述した2人を塁に出せば、ほぼ確実に盗塁されると考えて良いだろう。
アウトカウント無しでクリーンナップの前にチャンスメイクされるのは、なんとしても相手に先取点を与えたくない僕らにとってあまりにも痛手すぎるし、塁上で圧をかけられると守備陣の動きが鈍る。
とにかく慎重に。
一年もかけて体に染み付かせたフォームで、硬球を投じる。
「らぁっ!」
何やら叫びながら初球に手を出した1番打者の打球は二遊間に向かって転がる。
セカンドの南がそのボールを危なげなく捕球すると一塁に送球し、アウトカウントが一つ増えた。
……それにしても、こんなにも容易く初球に手を出してくれるとは。
まずはじっくりと僕の球筋を見てくるかと思っていたが、予想が外れた。
闘争心に溢れているのか、緊張しているのか。
確証こそないが、後者だろう。
塵芥高校の面々は公式戦での試合経験に乏しい。
試合前のベンチの様子を観察した限りだと、平常心を保っているのは3番打者の脇谷と……。
「2番 キャッチャー 大川くん」
悠然とバットを構える2番打者の大川のみだ。
彼に対して投げる球は決めて……あるのだが、ここは様子見。
「ボール」
ボールゾーンに投げたスライダーを、大川はバットを一切動かさずに目だけで見逃した。
投手にとっては嫌な見逃し方だ。
この見逃し方をされると、打者がどの球を狙っているのか判断出来ない。
研究に研究を重ねたから分かってはいたが……やはり、他の打者とは一線を画しているな。
技術も精神面も頭脳も高校生離れしている。
僕のような才能なしの投手がまともに勝負しても、勝てる相手ではないだろう。
だがしかし、彼は野球選手として致命的な弱点を抱えている。
「ストライク!バッターアウト!」
「…………」
三球続けて魔球を投じる。
すると、呆気なく見逃し三振。
初球のボール球とは違って、大川は目だけで見逃すことはせずに、ただ茫然と立ち尽くしていた。
僕の集めたデータは正確だった。
……彼は魔球が見えない。
エフェクトのみならず、ボールの軌道すら視認することが出来ないのだ。
大川にとってはあらゆる魔球が透明。
バットに掠らせることすら出来ないだろう。
聖アリーヴェルデナとの練習試合では魔球を打っていたようだが、あれは例外中の例外。
相手投手が狙った場所に寸分狂わず投げられる人間離れしたコントロールを有しており、大川がどのコースに投げられるか予測して打った事で生じたイレギュラーだ。
その点、僕は聖アリーヴェルデナの投手程の制球力がないので、魔球を打たれることはない。
11球しか投げられない魔球を削られるのは痛手だが、通常の球で抑えようとすると、無限にカットされる可能性がある。
というか、間違いなくカットしてくるだろう。
出井田工業に塵芥打線を相手できるほどのピッチャーは僕以外いない。
つまり、僕を潰せば勝利が確定するようなものなのだがら、球数を放らせるに越した事はない。
間違いなく、大川もそれを理解している。
彼にはAシードの栄峰実業を2-0で破った神皇帝学園を知略を用いて打ち破った実績があるから。
仮にカットをしなかったとしても、長打を打たれる可能性が高い以上、勝負は避けるに限る。
スレッドの言動を見ていると、とても賢そうには見えないが、それはそれ。
この世界で最も重んじるべきなのは文字や数字として表れるデータだ。
僕が抱いた印象など、判断材料にすらならない。
「3番 セカンド 脇谷さん」
弱小だったボーイズチームをたった1人の力で全国大会まで導いた4番でエース。
それが、3番打者の脇谷久奈。
実績も実力も十分。
あらゆるポジションをこなせる上に希少性の高いサブマリンの彼女が、何で不良高校にいるんだ?
スレでは大川の活躍を実際に目にしたいから、と言っていたが、流石にそれが本当の理由ではないと思いたい。
けれど、彼女が中学三年時にボーイズチームを離れていたのは紛れもない事実……いや、この辺でやめておこう。
瑣末な事に思考を巡らせるのは僕の悪癖だ。
今は試合中で、こちらの守備。
相手打者を討ち取ること以外は考えなくていい。
「ナイバッチ、脇谷!」
「ドンマイドンマイ、切り替えようぜ、キャプテン!」
……あっさりと打たれた。
一球目は内角高めにストレートでファール。
二球目は外角にカーブでボール。
そして三球目、内角にスライダーを投じた所を綺麗に弾き返された。
打球はセンター前にポトリと落ちる。
バットはすんなりと伸びたし、最初からスライダーを狙っていたみたいだ。
僕が塵芥用に用意した作戦は至ってシンプル。
相手の得意なコースはボール球を投げて、苦手なコースで勝負する。
先述した通り、この作戦は至ってシンプルだが、それ故に有用だ。
僕のコントロールがあれば、ストライクゾーンギリギリのボール球を打たせることが出来るし、何よりも打者に心理的な圧をかけられる。
心理的な圧をかければ打者は力み、本来のバッティングができなくなる。
その上、僕の遅くてキレのない球を思ったように打てないと、打者は焦りだし、焦れば焦るほど付け入る隙が生まれて、与しやすくなる。
それでも、3番打者の脇谷には通用しない。
だが、これも計算の内。
ブランクがあるとは言えど、僕が苦手にしている左バッターであり、バットコントロールが上手い彼女を抑えられるなんて思っていない。
シングルで止まっただけ、儲け物だ。
「惜しいのにな……畜生」
4番の佐々海に外角のスライダーを打たせて、ライトフライ……なのだが、外野を後退させてなかったら、外野の頭を越していただろう。
でも、なんだかんだでスリーアウト。
打者の表情は最初から最後まで固かった。
彼は高校から野球を始めた初心者であるために公式戦の経験が少ない上、夏の大会の一回戦の初打席だったので緊張していたのだろう。
まぁ、一年生はそれくらいの方が可愛げがある。
寧ろ、2番の大川と3番の脇谷が一年にしては落ち着きすぎていて、不気味なくらいだ。
「ナイスピーです、先輩!」
「ありがとうございます、南さん」
味方と共にベンチに戻る。
ここまでは、概ねデータの通り。
2回の守備は5番の望月を歩かせて、下位打線でアウトを取る。
要するに上位との勝負を避けて下位を打ち取る、春の大会で地大末が塵芥に行った戦略と同じだ。
塵芥高校の打線は上位は怖いが、下位は良く見積もっても平均的な高校球児と同レベル。
多少打たれはするだろうが、失点はない。
万が一、上位と勝負せざるを得ない状況に陥ったとしても、各打者のデータに基づいた専用の守備シフトを敷く事で、少しでも失点のリスクを減らす。
有用な作戦はとことん使わせてもらって改善すべき点は改善する、といったように守備のプランは固まっているのだが……。
「おおおお、一点入っちまった!」
「ラッキー!」
唯一の懸念点は攻撃、と述べようとした時に一点入ってしまった。
それも、相手のレフトが平凡なフライを取り損ねて、バッターが二塁に進み、そのランナーを次の打者がバントで送って、最後はスクイズ……といった最高の流れで。
喉から手が出るほど欲しかった先取点が、エラーによってもたらされたのは、相手に圧をかけてミスを誘おうとしている僕たちにとってこれ以上ないほどの幸運だ。
これで、より一層相手に負荷がかかる。
対等な立場から追う立場になった事により、相手は打席に立つ時に精神的に追い詰められるだろう。
もしかしたら、守備でもまたミスが生まれるかもしれない。
僕は「流れ」なんて目に見えない概念を信じてはいないが……うっかり信じてしまいそうになるほど、この展開は出来すぎている。
……けど、それでも油断はしない。
というよりも、出来ない。
相手投手の望月は魔球に近しい高速ナックルを投げられるナックルボーラーとして名を馳せているが、ストレートの最高球速は140を超える。
もはや速球派を名乗っていいレベルである、このストレートとナックルを織り交ぜられると、とてもじゃないがウチの打線では打てない。
相手のミスでもない限り、これ以上の得点は期待できないだろう。
それに、僕はサイドスローの投手として致命的な欠陥を抱えているのだから……。
◇
「すみません、時雨さん。俺、こんな大事な試合でとんでもないエラーを……」
「私は全然気にしてないですよ……ほら、ここで弱音を吐くくらいなら打席で誠意を示して下さい」
「……はいっ!任せてくださいっ!」
第三者目線から聞くと、厳しく聞こえる時雨さんの言葉。
それでも、レフトの城之内さんが闘志を燃え上がらせて返事をするのは、2人の間に確かな関係性が築かれている何よりの証拠だろう。
……もちろん、番長とその下の不良として。
どっからどう見ても色恋的なアレではない筈だ。
とは言っても、俺は誰かを好きになった事とかねーから分からないけど。
「バッターアウト!チェンジ!」
2回の表、俺達塵芥高校の攻撃は瞬く間に終わってしまう。
5番の望月先輩は敬遠されて、6.7.8番と連続でアウト。
試合前のミーティングでアキラが言っていたように、相手投手は徹底してこちらの打者が苦手にしているコースで勝負していた。
「舐められたまま終わった……ああもうっ、不甲斐ない自分が許せねーのですよ……!」
「時雨さんの期待に応えられないなんて……俺は雑魚だ……どうしようもないバカだ……クソレフトだ……生きる価値のない無能なんだ……」
「き、切り替えましょう、雛も城之内も……」
先程、奮起したばかりだった7番の城之内先輩も、望月先輩が自分の目の前で敬遠されて怒っていた楠森先輩も呆気なく打ち取られてしまったし、何というか嫌な予感がする。
1回の打席で、4番である俺の打球が外野の頭を抜けてたら……いや、場外に飛ばすくらいの打球が打ててたら、こんな事にはならなかったのに。
ビデオで見た球筋よりもスライダーが変化しているように見えて、臆したのがダメだった。
そんな気持ちで胸が埋め尽くされて、無性に悔しくなる。
「景、ちょっと防具つけるの手伝って貰ってもいいか?」
「お、おっけー」
アキラに呼ばれた俺はすぐに駆け寄る。
ついこの間まで、アキラは俺のことを「佐々海」って苗字で呼んでいたのに、最近は「景」って名前で呼んでくれるようになった。
それが、結構嬉しい。
距離が縮まった気がして、胸がほっこりする。
親しみを込めて名前を呼んでくれる奴なんて、塵芥高校に入るまで居なかったから。
「景にだけ話があるんだ。他の人には聞かれたくないから、声の大きさは控えめにしてくれ」
「お、おっけー」
さっきと同じ返事を繰り返す。
アキラは神妙な顔をしてるから、ほんの少しだけ動揺しているのだ。
……まさかこいつ、初めて会った時みたいに告白するつもりじゃないだろうな。
俺は至ってノーマルだ。
アキラは友達としては大好きで親友になりたいって思ってるけど、恋愛的な意味じゃあ……。
「試合前に話した相手投手の弱点は頭に入ってるよな」
「お……おう。もちろんばっちりだ」
……って、馬鹿か俺は。
この状況で告白するわけないだろうが。
アキラはおちゃらけた訳わかんねー奴だけど、野球に関してはチームの誰よりも真剣で真面目だ。
試合中にふざけるような奴じゃない。
「それなら、景に頼みたいことがあるんだ。聞いてくれるか?」
「もちろん、聞くけど……その前に一つだけいいか?」
「……?」
「アキラはさ……この試合、勝てると思う?」
「勝てる。絶対に勝てる。何なら5回コールドで勝てると思ってるよ。俺とお前がいれば」
迷いのない即答だった。
……勝利への執着でギラギラしたアキラの目を見ながら、その言葉を耳にした瞬間に胸が熱くなる。
正直、俺はついさっきまで不安だった。
もしかしたら、この試合負けちまうんじゃないかって思っていた。
何というか……言葉にはできない嫌な予感が、強いていうなら「流れ」が悪いように感じたから。
でも、その不安は全部吹っ飛んだ。
アキラは絶対に勝てると思っていて、勝つためには俺の存在が必要だと思ってくれているから。
何度でもいうが、アキラは俺の初めての友達で、野球部に誘ってくれた恩人だ。
だから、アキラが俺を頼ってくれるのなら、絶対にその期待に応えたい。
一人の友達として。
新キャラが登場なので、一応後書きに……。
不良A=城之内
大会期間中は地の文での試合描写が以前と比較すると長ったらしくなりますが、気長にお付き合い頂けると嬉しいです……!
因みに、塵芥高校以外の試合描写などもする予定です。(これはそこそこ手短に済ます予定です)