【悲報】魔球蔓延る野球が大人気な世界に生まれた俺、魔球が打てないwww   作:門崎タッタ

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またもや、生存報告代わりの番外編です。
いつ、どのタイミングで投稿するべきか迷っていたお話を書き溜めから引っ張ってきました。
本編の進みが遅くて申し訳ありません……!

ちなみに、今回の番外編は小学校三年時のお話になります……!



番外編 飛天 上

 

 野球を始めたきっかけは、些細なものだった。

 リビングのテレビに映っていた甲子園決勝戦。

 双子山(ふたごやま)高校と央坂光耀(おうさかこうよう)高校の試合。

 それを見て何となく……面白そうだと思った。

 ただそれだけ。

  

 翌日から、練習を始めた。

 本や動画を見て、フォームを真似て投げてみる。

 しっくりこないので自分なりにアレンジしてみると、ピッチングのクオリティが上がる。

 違和感を一つ一つ潰していくと、ボールのスピードが上がって、変化球は思う通りに曲がる。

 その工程が何よりも楽しくて……野球に、ピッチャーというポジションに魅せられてしまった。

 ……もっと、上手くなりたい。

 誰にも負けないようなピッチャーになりたい。

 そう思った私はお父さんやお母さんに頼み込んで、野球のチームに入ったけれど……。

 

「……いいよね、貴女は。私と違って、野球の才能があるんだから」

 

「もう一人でやってくれって感じだよな。あいつが1人で打って1人で投げればそれで勝てちゃうんだからさ。俺達、ただの人数合わせじゃん」

 

 チームに入った事を心の底から後悔した。

 野球は一人でやるスポーツではない。

 それは理解していたつもりだったけど、無駄なしがらみが多すぎる。

 私はすぐにチームを辞めた。

 一部のチームメイトからは陰口を言われるし、私の全力投球を捕球できるキャッチャーはいないし。

 県内でもトップクラスのチームでこれならば、他のチームに移籍したって同じだろう。

 足手纏いのお荷物にしかならないのなら、仲間なんて必要ないので、私は一人でいい。

 野球を始めたばかりの頃と同じように、一人で練習すれば上手くなれるのだから。

 ……とは言え、試合ができないのは心苦しいが、いつの日か周りのレベルが私に追いつく時が必ずやってくる。

 その時になったら、チームに入ればいい話だ。

 

 学校が終わるとすぐに家に帰って、球を投げる。

 初めは家の庭でやっていたが、お父さんやお母さんに見られると集中できないので、良さげな場所を探す事にした。

 歩いて歩いて、たくさん歩いて。

 見つけたのは、辺鄙な空き地。

 スペースも十分で、人気もない。

 集中して、練習するのに丁度良い環境だった。

 家から距離があるのが、ネックではあるけど……他に良い場所がないので妥協するしかない。

 ウォーミングアップとして、動的ストレッチなどを行った後に練習を始めようとすると……。

 

「おい、銀髪のお前。ここは俺達が使ってる場所だ。この空き地の地主に許可をもらってな」

 

「そーだそーだ。ここは私のパパが保有してる場所なんだよ〜」

 

 小学生にしては目つきが悪くて図体が大きい坊主頭の少年と、小柄で可愛らしいピンク色の髪を二つ結びにしている少女が声をかけてくる。

 スポーツバックを肩にかけ、バットを手にしている彼らは、ずかずかと私の元に歩み寄ってきた。

 

「悪いけど、ちょっと退いてくれないか。投げるだけなら端っこのスペースでも出来るだろ?」

 

 ……確かに、言い分の正当性は向こうにある。

 態度や発言は気に食わないが、地主の許可を得ていない私には断る権利がない。

 その上、場所に拘りはないので、空き地の隅で練習しても構わないとも思う。

 だがしかし。

 

「嫌よ」

 

 私は、申し出を突っぱねた。

 その理由はただ一つ。

 

「一打席勝負して……貴方達のどちらかが、私に勝ったら退いてあげる」

 

 彼らと勝負してみたいから。

 一目見れば、分かる。

 坊主の少年とピンク色の髪の少女は、上手い。

 それも、今まで相手した人々とは比べ物にならないほど。

 

「……何それ。ぜんぜん意味わかんないっ。こんな勝負、受ける理由なんて」

 

「いいよ。受けて立ってやろうじゃねーか」

 

「ええっ、受けちゃうんだ。まぁ、アキラがそー言うのなら良いけどさ……」

 

 坊主頭の少年は意気揚々と、ピンク色の髪の少女は気怠そうに準備を始める。

 一見すると正反対な二人であるが、それでも共通している点があった。

 ……この二人は、絶対に勝てると確信している。

 見ず知らずのピッチャーなんて、最も容易く打ち崩せると心の底から信じているのだ。

 

「ねぇねぇ、アキラ。私が先でいい?」

 

「絶対にダメ。初見じゃないと面白くねーもん。俺が先、お前が後な」

 

「じゃあさ、じゃんけんしよ。勝った方が先ねっ」

 

 久方ぶりに、胸が躍る。

 もしかしたら、彼らは。

 ずっと待ち望んでいた……私に匹敵する実力の持ち主なのかもしれない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に……私も、アキラも負けちゃったの?……こんなの、嘘。嘘に決まってるっ……」

 

「…………」

 

 勝負は、私が勝利した。

 それも、両者共に空振り三振で。

 因みに、坊主頭の少年のポジションはピッチャーだったらしく、立場を逆転させて勝負したが……初球のストレートを遥か彼方までかっ飛ばしたので、私の勝利だと言って良いだろう。

 ……それにしても、彼らは本当に上手かった。

 私の見立て通り、今まで勝負した人たちとは比べ物にならないほどに。

 ピンク髪の少女はバットコントロールが巧みで、坊主頭の少年は選球眼が良くて……何もかもが素晴らしい。

 ここまで、手に汗握る勝負をしたのは、生まれて初めて。

 この場所で出会えたのは運命としか、思えない。

 

「ねぇ」

 

 ……感謝の気持ちを伝えたい。

 無理を言って、勝負をしてくれた二人に。

 そして、あわよくば練習に混ぜて貰いたい。

 野球の才能がある彼らと共に練習すれば、私は今よりもっと上手くなれる筈だから。

 

「坊主の人」

 

「……何、だよ」

 

 直接、感謝を伝えるのは気恥ずかしい。

 なので、僭越ながらアドバイスを送る事にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「投手、辞めた方がいいわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ありのままの助言を坊主頭の少年に伝えた。

 間違いなく、彼は野手に転向したら……打者に専念したら、一野球選手として大成する。

 投手としての彼は全くもって脅威に感じなかったが、野手としての彼は本当に脅威だった。

 並外れて選球眼が良いのか、際どいボール球やあからさまな釣り球には手を出さない。

 10球も粘られたのは初めての体験だったし、最後に空振りを取れたのも運が良かっただけ。

 彼が投手としてではなく、野手として練習を積み重ねていたら……私は間違いなく負けていた。

 絶対に、野手に専念した方が良いと思う。

 もちろん、転向するかどうかは自由だけれど。

 

「……けんな」

 

 それを言葉にして伝えようとすると、ピンク髪の少女がゆっくりと立ち上がり……。

 

「ふざけないでよ、クソ女っ!……取り消して、その言葉っ、今すぐにっ!」

 

 目にも止まらぬ速さで詰め寄って、力強く私の肩を掴む。

 彼女の表情は、怒りで染まっていた。

 ……訳がわからない。

 私の脳内は半ばパニック状態に陥った。

 何故?どうして?……といった困惑もある。

 だが、それ以上に()()()()()()()()()という事実が全てを上回った。

 私はピンク髪の少女の手を掴み、口を開く。

 

「気安く、私の肩に触れないでもらえる?」

 

「……ああ、そう。もう分かった……殺す。今すぐ、私が貴女を殺してあげる。そうすれば、アキラはこれ以上不快な思いをしなくて」

 

「止めろ、渚」

 

「でも、アキラっ。こいつは……っ」

 

「止めろっつってんだよ!!!」

 

 坊主頭の少年の怒声が響き渡る。

 すると、空き地に静寂が訪れて、ゆっくりと時間が過ぎていくのと同時に私の頭も冷えていく。

 冷静に考えたら、私、とんでもないこと言ってない?

 投手を辞めろだなんて……自分が言われたら、絶対に許せない。

 それは当然、坊主頭の少年も同じ訳で。

 もしかして、私は投手に向かって、絶対に言ってはいけない事を口にしてしまったのでは……。

 

「ごめん。渚が、連れが殺すとか言って、それといきなり怒鳴っちゃって……怖かったよな」

 

「別に、どうということはないわ。それよりも、えと……こちらこそごめ……」

 

「さっきの件だけど、謝る必要なんてない。君は事実を言っただけで、こいつが過剰に反応しちゃっただけだから……ほら、お前も謝れよ」

 

「絶対にやだ。なんでこんな奴に……」

 

 ピンク色の髪の少女はぷいっとそっぽを向く。

 そんな彼女に対して、坊主頭の少年はすぐさま言葉を返した。

 

「謝らないと絶交な。二度と口聞かねぇ」

 

 淡々と底冷えするような声で。

 

「……………ごめん、なさい」

 

 急変した少年に怯えながらもピンク髪の少女は頭を下げたが、依然として私の事を睨みつけている。

 坊主頭の少年に、悟られぬように。

 確かな殺意を込めて。

 ……少し引っかかる所は、ある。 

 本当に私は悪くないのだろうか。

 やはり、悪い発言をしたのではないだろうか。

 謝ろうとしたけれど、謝れなかった。

 心なしか、坊主頭の少年の言葉や表情が出会った時よりも柔らかい気がする。

 一度考え始めると、疑念が次々と湧いてくるが……わざわざ掘り返す必要もない。

 ここは何事も無かったように自然に振る舞って、荷物をまとめて家に帰ろう。

 折角、切磋琢磨できる人達と知り合ったのに、こんな形でお別れするのは……少し悲しいけれど。

 

「それじゃ、私はこれで……」

 

「あっ、ちょっと待って。最後に君の名前を、教えてくれ」

 

「……世良よ。世良光莉」

 

「世良光莉、ね。その名前、覚えておくよ……絶対に、忘れない」

 

 坊主頭の少年はにこりと微笑む。

 彼の笑顔は優しく、温かみのある表情だけれども……その裏に何かを隠しているような。

 形容し難い違和感を感じさせるものだった。





このお話の主人公視点も投稿する予定です。
ほんのちょっとだけ、先になりますが……。
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