【悲報】魔球蔓延る野球が大人気な世界に生まれた俺、魔球が打てないwww 作:門崎タッタ
前回の話を投稿するときもドキドキしましたが、今回は前回以上にドキドキしています。
私は人に興味がない。
だから、会話が下手くそで、言葉選びも、表情の変化も、何もかもが拙い。
恐らく、私と話して好意的な印象を持つ人間なんて、一人もいないだろう。
私は勉強にも興味がない。
念の為に言っておくが、内容が理解できないとか、そう言う訳ではなく。
授業を聞いていれば、テストで平均点は取れるので、それで良いと思ってしまう。
……総合的に考えて、私は社会に適合できない人間なのだろう。
自分が興味を持つ物事以外、真剣に取り組むことができず、他人と接する事すら碌にできない。
その上で、私は野球以外、興味が持てなかった。
あの時……テレビで甲子園の決勝を見て、野球をやりたいと思ったのが初めての経験で。
特定の誰かと仲良くしたいとか、他の物事を真剣にやってみたいとか、思ったことすらない。
正に、最低最悪の野球マシーン。
だけど、それで構わない。
野球さえあればそれで良い。
永遠に野球をしていれば、私は幸せだから。
……それなのに。
「……うるさい、黙れ。仕事をせずに生活している立場で、ぐちぐちと文句を垂れるな」
「良くそんなこと言えるわね。性欲に塗れたクズ人間が。私、知ってるのよ。あんたが愛人と隠し子を作って……」
今日もお父さんとお母さんが喧嘩をしている。
外にも聞こえるような大きな声で。
「一緒に遊んで、おねぇちゃん」
一つ下の妹が声をかけてくる。
ついさっき、ちょっとだけとは言えど、おままごとに付き合ってあげたばかりなのに。
……煩わしい。
やはり、ここでは集中できない。
練習するなら、他の場所でないと。
「……おねぇちゃん、どこ行くの?」
「秘密」
「待って、私も……」
「付いてこないでね、千景」
荷物を手に取って、家を飛び出す。
そして、走り出す。
私を縛るもの、全てを払い除けるために。
お父さんに隠し子がいるとか、妹が一人ぼっちでいるとか。
お母さんも、実は若い男と付き合っているとか。
はっきり言って、どうでも良い。
ただ、野球の邪魔だけはしないで欲しい。
私の望みはそれだけなのに……なんて事を考えながら、とにかく走って。
辿り着いたのは、辺鄙な空き地。
スペースも十分で、人気もない。
要するに坊主頭の少年とピンク髪の少女と出会った場所だった。
……どうしても忘れられない。
昨日の勝負の高揚感が。
私はあの二人に嫌われた。
坊主頭の少年の方はまだ分からないが……ピンク髪の少女には間違いなく。
それは、他人の感情が汲み取れない私にだって、分かる。
だけれど、まだ一緒に練習できる可能性がほんの少し、残っているかもしれない。
ならば、足を運ぶ価値はある。
「……ねぇ、アキラ。本当に、本当の本当にピッチャー辞めちゃうの?」
「ああ。これ以上続けても無駄だからな」
「それじゃあ……私達の、約束はどうするの!私が四番、アキラがエースになって、甲子園優勝するって約束はっ!」
「諦める。俺には、別の夢が出来た」
……そんな淡い期待を胸に様子を窺うと、見知った少年少女が言い争いをしていた。
坊主頭の少年は無表情であるが、ピンク髪の少女の表情は険しく、辺りには剣呑な雰囲気が漂う。
「……嫌だ、嫌だよ。私は、絶対に認めない。あいつのせいで、私たちの夢が終わるだなんてっ!」
「渚が何て言おうと、俺の意思は変わらないよ」
「……っ、ああ、そう。そうなんだ。それなら、もういいっ!アキラなんてもう、知らないからっ!」
ピンク髪の少女が、走り出す。
涙を流しながら。
最初から最後まで無表情だった坊主頭の少年は、半ば反射的に手を伸ばして。
その状態で僅かに硬直したものの……。
「そこで、見てるよね。世良さん」
……ゆっくりと、手を引っ込めた。
そうして、こっちを向いて。
「良かったら、俺とキャッチボールでもしない?」
先程まで無表情だった人間とは思えないほどの笑顔を見せて、物陰に隠れる私に話しかけた。
そんな姿を見て。
胸の鼓動が早くなる。
体が不自然にポカポカする。
今までにない、不思議な感覚を覚えた。
◇
キャッチボールをして、体を動かす。
軽めに済ませるつもりだったが、想像以上に坊主頭の少年とのキャッチボールが楽しくて、あっという間に時間が過ぎてしまった。
疲労を回復するために二人で並んで座り、お互いのことを話す流れになる。
私は口下手なので聞き役に回り、彼のことをたくさん知ることができた。
坊主頭の少年の名前は大川アキラ。
野球を始めたきっかけは私と同じで、今年の夏の甲子園の決勝の試合を見たから。
チームには所属しておらず、元プロ野球選手が教える野球塾で野球を学んでいる……などなど。
「光莉はどこのチームでプレーしてるの?」
「……無所属よ」
「えっ、マジで。野球塾とかにも入ってない?」
「……ここ最近は、一人で練習してる」
「そうなんだ……なら、これからは一緒に練習しようよ。土日は基本的に野球の練習をしてるからさ」
「別に、いいけど」
私は他人と話すことが嫌いだが、アキラと話すのは楽しいし、名前呼びされても不快じゃない。
更に、こうやって言葉を交わすことで、彼に話しかけられた時。
キャッチボールをやろうと声をかけられた時に、胸の鼓動が早くなった理由がわかった気がする。
アキラは才能があるだけの人間だったり、無我夢中で練習をしてるだけの人間とは違う。
それしか、頭にない人間。
他の物事には興味が持てず、野球で一番になるためならば、あらゆる物を捨てることができる。
仲睦まじい間柄の人間であっても。
大切にしていた夢や目標であっても。
切り捨てることが出来てしまう……純然たる野球マシーン。
だからこそ、私は彼に惹かれた。
仲の良い友人である筈のピンク髪の少女よりも、顔見知り程度の関係性である私を優先した瞬間に。
一目惚れのような形で、彼に興味を抱いたのだ。
間違いなく私と同類であると、認識したから。
「私のキャッチャーになって欲しい。他の誰でもないアキラに」
人としてどうかと思う考えが脳裏をよぎる。
この考えを言葉にしたら、アキラは傷つく。
ピッチャーとしてのプライドをズタズタにした張本人にこんな事を言われて、怒らない人はいない。
「どうしてもキャッチャーになって欲しい。アキラとバッテリーを組めば、私はもっと上手くなれる」
それでも、アキラは受け入れてくれる。
私と彼は同じだから、分かる。
けれど、この言葉を口にしたら、最後。
私とアキラは、相容れなくなる。
絶対に修復できない亀裂が入ってしまう。
こんなの、私に服従しろ……と言っているようなものだ。
だが、それでも。
私は……野球が全てだから。
「アキラは、投手、辞めるの?」
「……うん」
「それなら、私だけの捕手になって。これからずっと、未来永劫、私とバッテリーを組みましょう」
目と目をしっかり合わせて、私は膨れ上がる欲望を解き放った。
脈絡も何もない突拍子のない発言。
それを耳にしたアキラの表情が、僅かに歪む……なんて、ことはなく。
「うん、いいよ。元からそのつもりだったし」
あっけらかんと、彼はそう告げる。
「バッテリー、組もうぜ。俺とずっと、未来永劫」
良かった。
アキラも私と同じ考えだった。
予想が的中した私は、ほっと胸を撫で下ろす。
……これで、私は一人の投手としてもっと、レベルアップできる。
アキラは野球IQが高い。
それは先日の一打席勝負や、これまでの会話などを通して、分かった。
そんな彼とバッテリーを組む事で、学べる事が沢山あるだろう。
また、アキラには野球センスがある。
しっかりと練習すれば、全力投球を受け止められると断言できる。
そうすれば、私は遠慮する事なく投げれるし、試合などに出場して実戦の空気感を味わい、経験値を得られる。
そして、アキラも野球選手として、成長できる。
私と組めば全国各地にいる強敵と戦える上に、常日頃から私が投げる球を打てるから。
つまり、互いにメリットがあるのだ。
野球選手として上を目指すアキラが、この提案を断る道理が無い。
「よし、そうと決まれば練習だ。最強バッテリー結成記念として、早速……投球練習しよう」
「……防具をつけないと、危ないわ。それにキャッチャー用のミットでもないし」
「大丈夫。どんな球でも受け止めてみせる!」
そう言って、アキラは豪快に笑う。
けれど、目には光がない。
握りしめている左手が微かに震えている。
……私は未来永劫と言って。
彼はそれに頷いたけれど。
こんなのは所詮、口約束だ。
きっと、いつか。
必ず、アキラは私の元から離れる。
その上で、私の目の前に立ち塞がって、首元に刃を突きつけてくる。
頂に立つ私を滅多刺しにして、引き摺り下ろして。
自分が野球選手として頂点に立つために……。
「……ふふふ」
その時の情景を想像すると、胸が躍る。
自然と口元が綻ぶ。
それは、今まで体験したことのない。
……素晴らしい試合になるだろう。
そして、私の前に立ち塞がったアキラと正々堂々勝負して、勝利した時。
私はまだ見ぬ次のステージへ。
野球選手として、また一つ成長する。
世界一のピッチャーへと、近づくのだ。
「おいおい、何笑ってるんだよ……まさか、本気にしてる訳じゃないよな。さっきの発言は冗談だぞ」
「ふふふ……ふ、ふふっ……ふふ」
「……あらら。完全に自分の世界に入ってる……つーか、光莉の笑い方って不気味で、面白いな」
私達以外、誰もいない空き地で。
二人揃って、笑いだす。
……まだ見ぬ未来の自分達の姿を夢想して。
……だけど、私は考えもしてなかったのだ。
私も、彼も、想像すらしなかった未来が。
アキラが崩落事故に巻き込まれて、魔球が見えなくなってしまう未来が。
数年後に、訪れてしまう事を。
補足しておくと、出会ったばかりの頃の天才ちゃんはこんなんですが、主人公と接したり、色々と経験したことで、割と心境が変化しています。
その過程もチラ見せしたいな……と思ってはいるのですが、本編との兼ね合いもあり、今回のような番外編としてお出しするのは結構後になりそうです。
個人的には、天才ちゃんだけではなく、他のキャラの番外編も描きたいので……!
因みに、次のお話は番外編ではなく、本編の続きです!