【悲報】魔球蔓延る野球が大人気な世界に生まれた俺、魔球が打てないwww   作:門崎タッタ

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 1話で終わらすつもりでしたが、長くなったので分割します!


恋愛心理戦

 

 夏の大会、3回戦の前日。

 試合前という事もあり、今日の練習はミーティングと軽い調整で終わった。

 疲れを残さないためにも、自主練は禁止されているので、今日はこれで解散となる。

 

「お先に失礼しますね、脇谷さん」

 

「お疲れ様です。望月先輩!」

 

 望月先輩が部室から出るのを見届けた私は、荷物を纏めながら物思いに耽る。

 明日の対戦相手は地大末学院。

 県内屈指の強豪校であり、私達が春の大会で敗北を喫した因縁もある高校。

 その実力は翼塚高校に次ぐ、県内No.2。

 紛う事なき格上の相手だ。

 

 ……正直、緊張する。

 望月先輩が先発する予定であるものの、責任投球回は6回。

 そして、それ以降は私が登板する。

 全国レベルの強豪相手に、才能を持たない凡人である私が投げなければならないのだ。

 アキラのリード通りに投げてれば良いと分かってはいるものの、完全に割り切ることは出来ない。

 私は……あの打線に通用するのだろうか。

 

「久奈。この後、時間ある?」

 

「うん。全然暇だよ」

 

「それなら、俺の家に来ない?」

 

「……え」

 

 部室を後にした直後、真っ直ぐにアキラの元に向かった私はフリーズする。

 いつも通り、一緒に帰ろうとしただけなのに。

 まさか……家にお呼ばれする事になるとは。

 想像すらしていなかった。

 驚きすぎて、身動きが取れない。

 

「やっぱ」

 

「行、行く!絶対に、遠慮はしないよっ!」

 

 アキラの口から不穏な言葉が飛び出しそうになったのを察知した私は、ずずいと詰め寄る。

 嫌だなんて、そんな訳ない。

 寧ろ、とても嬉しい事だ。

 これは、ガードが固いアキラと急接近する好機。

 今更ながら言わせてもらうが、私はアキラに好意を抱いている。

 チームメイトとしてではなく、異性として。

 あわよくば付き合いたいとも思っているが、野球に全てを捧げているアキラは告白しても、付き合ってくれないだろう。

 何故なら、彼女を作る事にメリットはないから。

 某野球ゲームのようにデートして野球が上手くなる事がない以上、彼女と遊んだりする事は時間の無駄でしかないと、結論付けているに違いない。

 

 だけど、それは諦める理由にはならない。

 野球の邪魔になるという理由で、アキラが彼女を作らないのであれば……野球の邪魔にならない彼女になれば良いだけの話だ。

 その上で、私を彼女にする事で生じるメリットを提示する。

 具体的に言うと、練習相手になったり、献身的にサポートをしたり、試合に勝つために活躍したり。

 そうすれば必ず、チャンスは生まれる筈。

 鋼の意志を有するアキラが揺らぐ瞬間が、いつの日か訪れるに違いない。

 

 だから、その時が来るまで耐え忍ぶ。

 アキラの側に居て、有用性を証明し続ける。

 この行動はひたすらに地道で、時間がかかるが心配する必要はないと断言できる。

 幸いにも、私が所属する野球部には恋愛的な意味でアキラに好意を寄せている人間はいない。

 望月先輩は、思わせぶりな言動をしているだけで恋愛感情は微塵もない……というか、恋という概念を認識しているかどうかすら怪しい。

 彼女もまた野球星人であり、色恋沙汰には興味がなさそうなのである。

 そして、楠森先輩とアキラは完全な先輩後輩関係で、誰に対しても冷たい周先輩は論外。

 ……つまり、身近に恋敵が一人もいないのだ。

 強いて言うなら、男の子であるにも関わらず、女の子のような顔立ちをしている景くらいだが。

 アキラは同性愛者ではないので平気……だよね。

 そう信じたい。

 

「それじゃあ、帰ろっ。アキラ!」

 

「いつにも増して、元気だな」

 

「……そんなことないよ!」

 

 そんなことはある。

 家でシャワーを浴びて、準備を済ませて。

 少しでも可愛いと思ってもらえるように化粧をして、お気に入りの服も着よう。

 こうして考えているだけでも、ワクワクとドキドキが止まらなくて……いつの間にか、不安はどこかへ吹き飛んでいた。

 

 

「ブ、ブルジョワだぁ……!」

 

「それは、否定できないな」

 

 ごくりと息を呑む。

 取り囲む外壁は要塞のようで。

 和の雰囲気を感じさせる豪華な外装は現実のものとは思えない。

 この豪邸が……アキラの家なのだ。

 

 近辺に豪邸が存在する事は認識していたものの、アキラが住んでいるとは夢にも思わなかった。

 好奇心が抑えられない私は、都会に初めて来た田舎者のようにキョロキョロしてしまう。

 

「お帰りなさい。兄さん」

 

「ただいま。有紗」

 

「そちらの方は……兄さんのチームメイトの脇谷さん、ですよね。普段から兄さんがお世話になっております」

 

「いえいえ。私が逆にお世話になっていますよ!貴女の、お兄さんに!」

 

 そわそわしながら家の扉を開けると、偶然にもアキラの妹さんに鉢合わせる。

 水色の長い髪を三つ編みにしている彼女は、にこりと微笑みかけた後にお辞儀をした。

 その言動や所作は大人びており、年下の少女であるとは思えない。

 

「私がお茶請けを用意しますので、兄さんや脇谷さんは……」

 

「心遣いは嬉しいけど、気持ちだけ受け取っておくよ。俺が準備するから……行こう。久奈」

 

「う、うん」

 

 二人とも終始笑顔だった。

 だけど、会話の内容は他人行儀というか、何というか。

 そこはかとなく違和感がある気がする。

 アキラと妹さんの顔立ちは似ても似つかないし、もしかして……いや、これ以上はやめよう。

 友達の家庭の事情を詮索するのは良くない。

 そう考えた私が歩みを進めようとすると。

 

「脇谷さんが考えている通り、私と兄さんは血が繋がっていませんよ」

 

 すれ違い様に、妹さんが私の耳元で呟く。

 次いで、彼女は何事も無かったかのように振る舞い、その場を去っていった。

 何故、私の考えている事が読めたのだろうか。

 ……なんて、思ったりはしない。

 恐らく、表情から思考を読んだだけで。

 今更、驚く事はない。

 アキラと妹さんは顔立ちこそ似ていないけれども、性格は酷似していて。

 やっぱり、2人は兄妹なのだと、私は思った。

 

 

 アキラの部屋は掃除が行き届いている。

 家具やカーテンにも清潔感があり、男子高校生の部屋とは思えない。

 強いて言うのなら、異常に物が少ない事が気になるが、それも大したことではない。

 私の目の前にいる少女の存在に比べたら。

 

「久しぶりですね。脇谷久奈さん。私の事を覚えていますか?」

 

「……もちろん、覚えてるっすよ」

 

「そうですか。ですが、改めて自己紹介させて頂きますね。私の名前は聖丘由佳里。別名、アキラくんの将来の嫁です……是非、祝福してくださいね」

 

「結婚する事を確定事項みたいに言わないで欲しいっす。それに、絶対に祝福はしないっす」

 

 アキラの部屋に入ると、先客がいた。

 聖アリーヴェルデナ学園の聖女様が、変わり果てた姿で寛いでいたのだ。

 今の彼女に、聖女としての威厳は皆無。

 アキラの部屋を憩いの場であると言わんばかりに、ベッドの上でゴロゴロしている。

 

「ベッドで転がることで、私の匂いをマーキングします……ふふふ、これでアキラくんも私にメロメロですね」

 

 それに加えて、言動もおかしい。

 私が知る彼女は「アキラくんの将来の嫁」と自らを評する、頭がクルクルパーな人間では無くて。

 もっと威厳があったというか。

 如何にも聖女って感じの振る舞いをしていた。

 だが、それはひとまず置いておいて。

 

「なんで、聖女様がアキラの家に居るんすか?」

 

「ふふふ……愚問ですね。私は未来の伴侶なのですよ?花嫁修行をするために決まっているでしょう」

 

「真面目に答えて欲しいっす」

 

「今日、貴女がアキラくんの家にやって来ると聞いたので……牽制球を投げる為ですよ。泥棒猫さんに盗塁されるのを防ぐ為に」

 

 聖女様は笑みを浮かべているものの、目は笑っていなくて……敵意をひしひしと感じる。

 要するに、彼女は私を厄介だと思っているのだ。

 同じ男の子を狙う、恋のライバルとして。

 ……迂闊にも程がある。

 身近な女子を警戒するあまり、他校の女子についてはノーマークだった。

 まさか、聖アリーヴェルデナの聖女様がアキラを好きになっているなんて。

 

「……とは言いましたが、私は貴女と険悪な関係になりたい訳ではありません。寧ろ、仲良くしたいのです」

 

「それは、私も同じ気持ちっすよ。同じ男の子を好きだからって、ギスギスするのは良くないっす」

 

「それなら、親睦を深めるために……二人でアキラくんのベッドの下でも捜索しましょうか」

 

「ちょ、ちょっと!なんで、そうなるのっ!」

 

 躊躇う事なく、アキラくんのベッドの下を覗き込もうとする聖女様を全力で止める。

 発言が突飛すぎる上に訳も分からない。

 今現在、アキラくんが下の階でお茶を用意しているからって、部屋をマジマジと観察する事ですら非常識なのに。

 ベッドの下を見るのは許される事ではない。

 

「随分と常識人ぶっていますね。ですが、聖女である私には本音が分かります。貴女だって、気になってはいるでしょう?……アキラくんにそういった欲求が存在するか否か、を」

 

 聖女様が口にしている欲求とは食欲や睡眠欲ではなく、性欲だろう。

 確かに、アキラに性欲があるかどうか、気にならないと言えば嘘になる。

 アキラは常に紳士的で、私を含めた女子の部員をえっちな目で見ることは一切ない。

 純粋無垢な景を除いた男子の部員から、えっちな目で見られる事はあるが、アキラからえっちな感情を向けられた事は一度たりともないのだ。

 だからこそ、興味がある。

 アキラにも性欲があるか否かを。

 そして、仮に性欲があるとしたら、どんな女の子に劣情を抱くのかを。

 ほんの少しでも、私の事を好きになって欲しいからこそ、アキラの趣味嗜好を知り、彼が理想とする女の子に近づきたい。

 だが、それでも。

 

「やっぱり、良くないよ……アキラのプライバシーを侵害するのは」

 

 はっきりと自分の意見を口にする。

 嫌われたくないだとか、アキラの秘密が気になるとか、そういう感情を抜きにして。

 すると、聖女様は唖然と……する事はなく、楽しげに笑った。

 

「脇谷さんは、純粋でまっすぐな方なんですね。アキラくんが信頼を置く理由が分かります」

 

「もしかして、冗談だったの?……えっと、その……アキラの部屋でえっちな本を探すって話は」

 

「もちろん、冗談ですよ。これまでのやりとりは俗に言う、アイスブレイクって奴です」

 

 あっけらかんとしている聖女様を見ていると、動揺している私が馬鹿みたい。

 元より、彼女はベッドの下を確認するつもりなんて一切無かった。

 易々と心を開かない私の警戒を解くために、道化を演じただけだったのだ。

 そうして、実際、私は心を許しつつある。

 自分でも知らず知らずのうちに、砕けた口調で話している程度には。

 

「それに、私はえっちな本を探すだなんて、一言も言っていませんよ?」

 

「うぐっ……でも、それは……」

 

「あれ?二人とも、随分と打ち解けてるね」

 

 反論しようとした瞬間に、お茶とお菓子が乗っているお盆を手にするアキラが部屋に入ってくる。

 なんというか、タイミングが絶妙だ。

 聖女様にとって、都合が良すぎる。

 

「ふふっ……脇谷さんはお可愛い方ですね」

 

 口元に手を当てながら、聖女様はそう告げる。

 ムキになりつつある私をからかうように。

 ……認めざるを得ない。

 今回の駆け引きは私の負けであると。

 だがしかし。

 

「次は、絶対に負けないからね……!」

 

「挑戦はいつでも、お待ちしていますよ」

 

「……二人は一体、何の勝負をしてるんだ?」

 

 困惑するアキラを他所に、聖女様と握手する。

 彼女は単なる恋敵ではない。

 野球でも恋愛でも、鎬を削る好敵手であるのだ。

 





 テストが終わりました!
 なので、投稿を再開します!
 
 あらすじにも書いてある通り、カクヨムと小説家になろうに投稿し始めました!
 コピペしている訳ではなく、加筆修正等を行っているので、そちらの方もよろしくお願いします!
 具体的に言うと、評価や感想などを頂けると、嬉しいです!!!
 ですが、最新話の投稿はハーメルンになります……!
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