【悲報】魔球蔓延る野球が大人気な世界に生まれた俺、魔球が打てないwww   作:門崎タッタ

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極秘の作戦会議

 

 横並びになって、テレビの前のソファに座る。

 中央に由佳里ちゃんが位置どり、その両隣にアキラと私が座るような配置だ。

 

「ゆかりん。アキラと距離が近いから、もっと私に近寄って。ふしだらなのはダメ!」

 

「これは、地大末学院の2回戦の映像を提供する私の特権です……そうですよね。近い将来に私の旦那様になる、アキラくん」

 

「…‥何でもいいからさ、早く映像を見ようぜ」

 

 呆れている様子のアキラがリモコンを操作すると、テレビに試合映像が映し出される。

 今日、彼が私を家に呼んだ理由はこれ。

 あからさまに緊張している私を落ち着かせるために、相手打者の弱点を解説したいらしい。

 そして、試合映像を用意したのは由佳里ちゃんであるため、彼女も呼んだというわけだ。

 

「地大末学院の先発は2番手だね」

 

「まぁ、中堅校とは言えど、春の大会でシード権を取れない程度の相手ですから。一番手の投手は塵芥戦のために温存する策なのでしょうね」

 

「とは言っても、中堅レベルに一番手を温存するのはリスキーだよな。自らの力に相当な自信がなきゃ出来ないよ」

 

「そう考えると、塵芥高校は投手層が厚いですよね。変則派の望月さんに本格派の周さん。リリーフとして安定感のある久奈ちゃんも居ますし……聖アリーヴェルデナには強豪相手に通用するレベルの投手が私一人しかいないので、羨ましいです」

 

 ゆかりんは自分の事を強豪相手に通用すると断言する。

 本当に、出会った時とは別人みたいだ。

 聖女を演じていた頃の彼女ならば、確実に謙遜していた筈なのに。

 だけど、もちろん不快に思ったりしない。

 寧ろ、ありのままの姿を見せてくれる事がとても嬉しい。

 ……何となく、私やアキラに心を許してくれている気がするから。

 

「お褒め頂き光栄だな。それはそれとして、久奈。試合の映像を見て、思ったことがあれば、何でも聞いて欲しい」

 

「うん、分かったっ」

 

「今回の試合で、注目してほしいのは投手ではなく、野手。その中でも要注意人物として挙げられるのは……キャッチャーだな」

 

 地大末高校の守備。

 登板している2番手投手のピッチングの質は中々のものであるが、特筆すべき長所はない。

 良くも悪くも高校レベルの好投手といった感じであり、攻略するのは難しくないように思える。

 ……だが、それでも、打たれない。

 正確に言うと、何度か打たれてはいるのだが、点が入らないのだ。

 

「キャッチャーのリードが良いから打たれてないって、アキラは考えてるの?」

 

「ええ、そうですよ。地大末のキャッチャー、一年生の橋爪(はしづめ)(こころ)さんはバッティングもフィールディングも地大末高校のレギュラー陣の水準に達していませんが、とある点を評価されて、正捕手の座を手に入れたのです」

 

「……なんで、ゆかりんが答えるの?」

 

「私はアキラくんの嫁です。つまり、実質アキラくんのようなモノなので、問題ないでしょう」

 

「問題大有りだよっ!」

 

 ツッコミを入れながらも、アキラの様子を窺う。

 すると、彼は神妙そうな顔をしながら「後者はともかく、前者の意見は正しい」と口にした。

 ……その事にちょっとだけもやっとしたが、個人的な感情は飲み込んで、言葉を紡ぐ。

 

「とある点、ってなに?」

 

「地大末高校のブレインである刈村沙霧の思考に順応している事。分かりやすく言うと……わざわざ指示しなくても、刈村沙霧が望んでいる行動が取れる、という点ですね」

 

 刈村沙霧。

 一年生でありながら4番打者を務めていると同時に、地大末学院の指揮官を務めている少女。

 彼女の恐ろしさは十分に理解している。

 なにせ、私達は春の大会で地大末学院に負けてしまったから。

 その上、ゆかりんが率いている聖アリーヴェルデナ学園が叩き潰された姿を見てしまったから。

 

 私達と戦った時も、ゆかりんと戦った時も。

 刈村は陰湿な作戦を講じて、試合に臨んでいた。

 そんな彼女の思考に順応している選手。

 ……間違いなく、厄介極まりないだろう。

 

「地大末学院の選手の殆どが、刈村の操り人形と化している状況で、キャッチャーの橋爪だけが明らかに浮いている。彼女の思考回路は刈村と同じだと言っても、過言ではない」

 

「そうなると、面倒ですよね。人の心を読める私がキャッチャーをやっているような……もっと言うと、アキラくんが敵にいるようなものです」

 

 アキラが敵……か。

 

「私はそうは思わないけどな。橋爪なんかよりもアキラの方がずっとすごいよ。魔球は見えないけれど、それでも自分にできる事を考えて、実行してチームに貢献しているし。フィールディングやリードだってアキラの方が千倍優れているし。しかも、刈村よりもアキラの方が頭が良いんだから、刈村と同じ思考の橋爪よりも、アキラの方が頭が良いって事になるし!」

 

「ちょっと、久奈ちゃん!ここぞとばかりにアピールしないで下さい!あざとい上に卑怯ですよ、積極的にアピールするのは私の特権なのに!」

 

「あの……試合を見てくれ、お二人さん」

 

 そう告げるアキラを見た私とゆかりんは、すぐさま口を閉じて居住まいを正す。

 ……なんというか、私達は自分達で思っているよりも、似た者同士なのかもしれない。

 

『3回戦に駒を進めたのは地大末学院高校……』

 

 結局、試合は地大末学院の勝利で終わった。

 結果だけ見れば順当と言える。

 けれども、試合の内容に着目すると、やはり異常としか言いようが無かった。

 ……地大末学院は2回までに10点を取り、それ以降は1点も取らずに終わった。

 最終的なスコアは10-0で五回コールド。

 地大末学院の相手である設楽東高校は最後まで点を取る事が出来なかった。

 

「……相変わらず、性格が悪いですね。もっと点が取れる筈なのに、敢えて10点で止めて、相手に闘志を抱かせる。その上で1点も取らせない事で、相手選手の心をへし折る……本当に、反吐が出ます」

 

 希望をちらつかせた後に、希望を摘み取る。

 刈村に同じような手口を使われた張本人であるゆかりんは、眉を顰める。

 恐らく、設楽東の選手達の姿が自分と重なったのだろう。

 

「気をつけてくださいね、二人とも。刈村沙霧は人の心を折るために野球をやっている人間。相手を絶望させるためなら、手段を選びません」

 

 その言葉は実感がこもっていて、とても重い。

 ゆかりんは人の心が読める。

 これは超能力的なモノではなく、過去などを分析して、人柄をプロファイリングする事によって、その人の考えを読み取るそうだ。

 そんな彼女が口にしているのだから、疑う余地なんてない。

 

 刈村沙霧は本当に酷い人間だ。

 野球というスポーツを、人の心を折るための道具として用いている。

 だからこそ、怖い。

 もしかしたら、私も……ゆかりんと同じ目に遭うかもしれないと考えると、恐ろしくて堪らない。

 打たれて打たれて打たれまくって。

 ……アキラに失望されてしまったら。

 私はきっと生きてはいけない。

 

「大丈夫。久奈が打たれる事も、俺達が負ける事も絶対に無い。このビデオを見て……改めてそう思ったね、俺は」

 

「まぁ……そうでしょうね。まず負けないと思いますよ、塵芥高校は。なので、安心してください。久奈ちゃん」

 

 アキラとゆかりんは、笑みを浮かべる。

 その笑顔は、見るからに動揺している私を安心させるためのものではなく……確固たる自信の表れ。

 本当に、塵芥高校が勝てると信じているのだ。

 

「なんで、そう言い切れるの……?」

 

「「刈村(沙霧)は相手の心をへし折るためだけに野球をやっているから」」

 

 二人揃って、そう告げる。

 正直に言うと、まだいまいちピンと来ていない。

 ……でも、私はすぐに二人の言葉の意味を理解する事になる。

 

「それじゃあ、さっき見た試合映像と刈村が野球をやる理由を踏まえて……作戦会議を始めようぜ」

 

 こうして、幕が開けた。

 3回戦に向けての……私とアキラとゆかりんの3人による他のチームメイトには極秘の作戦会議が。





 次回、地大末学院との試合開始です!
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