【悲報】魔球蔓延る野球が大人気な世界に生まれた俺、魔球が打てないwww 作:門崎タッタ
試合回と言いましたが、真っ赤な嘘です。
申し訳ないです!
神様は残酷だ。
「才能」という天からのギフトは万人に与えられるものではない。
けれど、自分は与えられた側の人間であると信じていた。
「うおおお!! この俺が三者連続三振!?!? 夢じゃないよな、これ!!!」
「夢じゃないッスよ。超現実ッス」
どんなピッチャーであっても、私がリードすれば三振の山を築ける。
どんなピンチであっても、私が機転を利かせれば無失点で抑えられる。
「弱小って馬鹿にされてた俺達が全国大会なんて……明日、隕石が降ってきたり、しねーよな?」
「ないない。あり得ないッスよ……多分」
私にはキャッチャーとしての才能があった。
チームを牽引する扇の要として、要所要所で活躍する事でチームを勝たせる。
その瞬間が、何よりも楽しくて……いつの間にか、野球というスポーツに魅了されていた。
同じ年頃の女の子が学校の勉強をする一方で、私は寝る間も惜しんで、野球の勉強をする。
同じ年頃の女の子がネイルなどを楽しむ一方で、私はマメが潰れても、手の皮が何度も剥けて硬くなっても、気にせずにバットを振る。
同じ年頃の女の子がショッピングを楽しんでいる一方で、私はバッティングセンターで黙々とキャッチングの練習をする。
それが、功を奏して。
中学3年時には全国大会に出場できた。
……野球漬けの毎日が全く苦しくないと言えば嘘になる。
私だって、普通の女の子のように友達と遊んだり、素敵な彼氏を作ったりして、青春を楽しみたかった。
でも、そんな事をする時間なんてない。
サボればサボるほど、下手くそになる。
けど、練習はやればやるほど、上手くなる。
となれば、選択肢は一つしか無かった。
遮二無二、野球の練習をする。
甲子園に出場して、プロになるために。
厳しい道のりとは思うが、不可能とは思わない。
何故なら、私には才能があるから。
キャッチャーとしての才能があるから……と、信じて疑わなかった。
「……ありがとうございました」
「ありがとうございました!」
試合が終わり、挨拶をする。
次いで、ガタイが良い坊主頭の少年、大川アキラと握手をする。
彼が何か話しかけていたような気がするが、内容は頭に入らない。
他人の話を聞く余裕なんてない。
「………」
降り頻る雨に打たれながら、ぼーっとスコアボードを見る。
そこに書いてあるのは、18-0という数字。
とても野球のスコアとは思えない数字。
「ナイスピッチ。今日は調子良さげだったな」
「そんな事ないわ。鶴音を相手にする前にもう少し仕上げないと。あの子は今年も決勝まで勝ち上がるから。何があっても、絶対に」
「その言葉、ちゃんと本人に言ってやれよ……ま、体冷えるから、さっさと引き上げようぜ」
大川アキラと銀髪のエースピッチャー、世良光莉が会話する姿を横目に、ベンチへと向かう。
……シニアの全国大会1回戦。
相手は光ヶ丘ガンバーズ。
試合前には映像も見たし、分析もした。
それでも、想像を遥かに上回っていた。
18-0というスコアが物語っている通り、私達は手も足も出なかった。
彼らには作戦というモノはない。
ただただ圧倒的な実力を振り翳して、弱者を蹂躙するだけの野球。
投げて抑えて、打って点を取れば、試合に勝てる……とでも言いたげなめちゃくちゃな野球。
そんなでも、勝ててしまう。
何故ならば、彼らには才能があって。
……私達には、彼らほどの才能がないから。
私が弄する策、小細工は全て無駄だった。
何もかもが、通用しなかったのだ。
「こんなのって、ないよ……ひどすぎるよ……」
思わず、口から本音が溢れる。
私の今までの人生が、野球に打ち込んできた時間全てが否定されたような気がして。
心の中で何かが折れる音がした。
きっと、私はプロ野球選手にはなれないし、甲子園すらいけないかもしれなくて。
それならば……野球に真剣に取り組む必要なんてない。
もちろん、今までの時間が勿体無いからやめたりはしないけれども。
将来の役に立つ程度。
具体的に言うと、進学や就職活動に有利になる程度に取り組めば良い。
身の丈に合わない夢など、捨てた方が良いのだ。
これ以上、傷つかない為にも。
「……なんか、もう、どうでもいいや」
神様は残酷だ。
「才能」という天からのギフトは万人に与えられるものではない。
けれど、自分は与えられた側の人間であると信じていた。
……それでも、上には上がいて。
自分の才能は、吹けば飛ぶ程度のモノだった。
ただ、それだけの話だったのだ。
◇
私立地大末学院高校。
この学校は、教育機関としてはあまりにも異質な存在だと思う。
全寮制で、外部との連絡が取れない。
何らかの許可を得ない限り、学校の外に出ることが出来ないのだ。
脱走などの行為は禁じられており、そのような行為が確認された場合は即退学で。
監獄と相違ない地獄のような環境。
そんな学校に、私は入学した。
……正確に言うと、入学せざるを得なかった。
この学校にしか、スカウトされなかったから。
「おい、一年! チンタラしてねぇで、さっさと水をかけろ! 砂埃が舞ってんじゃねぇか! こんなんじゃ練習できねぇよ!」
「はい! 今すぐやるッス!」
「グラウンド整備が遅れた罰として、今日はボール磨きしてろ!」
「はい! 了解ッス!」
3年は神様で、2年は平民、1年は奴隷……なんて、冗談だと思っていた。
けれども、冗談ではなく。
少なくとも、この学校においては下級生は上級生の奴隷であり、絶対に逆らってはいけない。
極めて閉鎖的な環境だからこそ、イカれている価値観がまかり通っていて。
推薦をもらったからって、地大末学院に入った事を後悔し始めている私がいた。
「へばるな、一年! 気合いを見せろ!」
「はいッス! いっちにぃ……」
監督に檄を飛ばされながら、ひたすら走る。
馬鹿みたいに声を出しながら。
これで何周目だろうか。
数えていた筈なのに、忘れてしまった。
地大末学院野球部の監督は美人で有名だが、それ以上にスパルタである事が有名だった。
今、私達は一年生の誰かが遅刻してきたって理由で走らされている。
それも、練習を終えた後に。
……この後、片付けや先輩の洗濯物洗いが待っていると考えると、憂鬱で吐きそうになる。
大人しく、適当な公立校に入っておけば良かった……なんて、昔の自分の選択を恨む自分がいた。
「なぁ、〇〇。どうせ今暇だろ? ちょっと付き合ってくれよ」
「あ〜。いや、その……どうしても外せない用事があって。申し訳ないんスけど」
「……なんだよ、イヤなのか?」
「いやいやいや! 嫌な訳無いッス! でも、本当に外せない用事があってぇ」
女子寮に戻っている途中、別に好きでも無い先輩に詰め寄られる。
地大末学院の野球部には、女子の部員が少ない。
それ故なのか、あまりモテなさそうな先輩に絡まれる事が多々ある。
恐らく、先輩後輩の立場を利用して、なんやかんやしようと思っているのだろう。
そういった先輩の大多数が、盛りのついた猿のような視線を向けてきて。
本当に不快で気持ち悪いが、笑顔を貼り付ける。
……昔から、他人の顔色を窺うのが得意だった。
落ち込んでいるピッチャーを励ましたり、動揺している相手を揺さぶったり。
ほんの少しまで、その能力を一人のキャッチャーとして、生かしていたのだけれど。
今は、他人のご機嫌取りに活かしている。
その事実が、何よりも私を苦しめていた。
「嘘、つくなよ。俺は知ってんだぞ。お前はこの後、暇だって事をな」
「あはは。なんで、そう言い切れるんスか、先輩。ウチは本当の本当に……」
「だって、俺はお前のことを愛しているから。どんなパンツを履いているかも、生理周期だって知っているんだ」
「……え?」
「なぁ、なんで嘘つくんだよ。もしかして、俺の事、ウザがってんのか? そんな事、無いよな? 無いって言ってくれよ、頼むからさぁ!!!!」
茹で蛸のように顔面を真っ赤にした先輩が、ジリジリと詰め寄ってくる。
目は血走っていて、鼻息も荒い。
ここは人通りが少なく、周囲には人がいない。
(……あ〜。やばいかも、これ)
そう思ったのも、束の間。
「うっ……」
勢い良く突き飛ばされ、矢継ぎ早に口を手で塞がれる。
抵抗しようにも、無駄にでかい手で押さえ込まれて、上手く噛めない。
そうこうしている内に、ユニフォームの上から身体を弄られる。
まさに、絶体絶命の状況。
だが、それでも私は至極冷静だった。
自分でも、不思議なほどに。
(あ〜あ、本当にやらかしちゃった。こんな風になるんだったら、愛想良くしなければ良かったな〜)
ぼんやりと、そんな事を考える。
本当に、私は何もかも中途半端だ。
野球も、私生活も。
たった一回の挫折で夢を諦めて。
悪意を向けられたくないからって、好きでもない人に無理して笑顔を振り撒いて。
いつだって、私は本当の気持ちを理屈で覆い隠していた。
本当は甲子園に行きたいし、プロ野球選手になりたい。
本当はクソキモい先輩に愛想良くしたくないし、できる事なら関わらないで欲しいと思っている。
それでも、私は本心をひた隠しにした。
気持ちを隠さずにやりたい放題したら……自分の心が傷ついてしまう事が目に見えていたから、嘘をつき続けたのだ。
他の誰でもない自分の気持ちを無視して。
だから、こんな事になったのかな。
何事にもしっかりと向き合えば、別の未来があったのかもしれない。
……まぁ、今となっては後の祭りだけれど。
「あらあら」
不意に耳に届く、鈴の鳴るような声。
「眠る前に、夜風に当たろうと思ったら……とんでもないモノ見てしもうたわぁ」
緊迫した状況に見合わないおっとりとした口調。
月明かりに照らされるのは、艶やかで長い黒髪。
そして、闇をそのまま写したようなハイライトの無い真っ黒な瞳。
「なんで、なんでなんでなんで! お前が、ここにいるんだ……刈村沙霧ぃ!」
クソキモ先輩に、名前を呼ばれた刈村さんは……どことなく楽しそうに口元を歪めた。
前編、後編を予定してますが、中編を挟む可能性も……ほんのちょびっとだけあるかもです。