例えばこんなサンデーサイレンス。   作:にわとり肉

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 主人公の名前が〇〇なのは、固有名詞だとそいつに嫉妬してぶっ〇したくなるからです。


外出

 私があの肉体を再生したのは、丁度一ヶ月前になるか。となれば、私を含めた9人のウマ娘にあった()()()()()()を発見したのは、だいたい半年ぐらい前になるだろう。

 

 ウマ娘の限界、それを見極め突破する。それが私の目的。しかし、我が友人――マンハッタンカフェと激闘を繰り広げた有マ記念から、私の研究は行き詰まっていた。あの時に観測した感覚。アレを超えることができなくなっていた。

 アレこそがウマ娘の限界なのかもしれない。ならば、それを越してやりたくなるのが私なのだ。しかし、それ以上をどうやって求めるのがわからないでいた。

 そこで、私は研究のアプローチを変えた。今までのようにドーピングではない薬理的な肉体強化や感情の研究によるアプローチではなく、分子レベルでウマ娘の肉体そのものの研究をすることにしたのだ。ある意味、初心に立ち返ったとでもいうべきだろう。

 ウマ娘の肉体は現代においても未知の部分が多い。人と同じ姿、体重をしておきながら、常人の数倍の筋力に食欲、走ることへの意欲を兼ね備え、四足歩行動物がごとき尻尾に耳を生やした亜人種。筋肉組織周辺に多く見られる“ウマムスコンドリア”という組織が、怪力や並外れた食欲の源とする研究もあるが、結局真相はわからずじまい。

 それを探るべく、私はさらにミクロな視点――そう、遺伝子の研究に取り掛かった。サンプルはトレセン学園に2000人強在籍しているから困らない。髪の毛や尻尾の毛をこっそり採取し、その遺伝子の特異性からウマ娘の肉体の秘密に迫ったのだ。

 

 結果、全く予想外、予定外の事実が判明した。それが、あの遺伝子。血縁もなく、生まれ育ちも違う9人のウマ娘に共通していた謎の配列であった。

 

 完全な遺伝子に復元するのはそう難しい作業ではなかった。今思えば、そこでやめておけばよかったのだと思うが、……私の悪い癖だ、気になってしまった。

 この遺伝子は未知のウマ娘の遺伝子。であるなら、再生して生まれるウマ娘は、一体何なのか。

 歴史に語られるウマ娘なのかも、それとも、どの話にも出てこない未知のウマ娘なのかもしれない。

 それに、この遺伝子の形質を持っていたウマ娘、私を含めた9人のウマ娘は、皆レースにおいて結果を残している。それがもし、この遺伝子の形質によるものだとしたら。

 優れたスポーツ選手から生まれた子供には優れた形質が受け継がれる場合がある。しかし、得てしてそういう者は()()()()()()()()

 ……とにかく、私は、今ならおかしいと言える使命感に突き動かされ、学園に半年ほど休学する旨を伝え、未知の遺伝子と共に実家へ帰った。学園の設備ではなし得ないことだからだ。

 部屋を一つ潰し、専用の設備を整えた。体細胞クローン、人工子宮のノウハウはすでに確立されている。ことは、恐ろしいほどすんなりと進んだ。

 

 そして、彼女が再生された。今まで私の培った技術を用い、肉体年齢をして12歳にまで復元された彼女は、しかし、意識を得ることなく、人工子宮の中で漂っているばかりであった。

 達成感と失望と、何をしてしまったのか、という我に帰った虚無感。親友マンハッタンカフェとよく似た姿の少女の浮かぶ水槽の前で、私はそんな感覚に襲われた。結局、私はウマ娘の形をした肉塊を作り上げただけだった。

 そう、思っていた。

 

 彼女は目を覚ました。私の目の前で。そして、私に、()は〇〇と名乗った。

 話を聞いている限り、彼はウマ娘を知らない人間、その魂がかの身体に宿ってしまった、ということらしい。

 しかも、それだけではない。彼の身体には()()()()()()が宿っている。名を“サンデーサイレンス”。

 〇〇君とサンデーサイレンス君、2人の魂を得て動くあの身体の外見は、親友とよく似ていて……。それはいい。

 

 彼、〇〇君に対して、私は大罪を犯したと自覚している。彼はおそらく、死んだとしても元の肉体に帰ることはできないだろうからだ。その償いというわけではないが、彼の身辺、精神的安全を保証してやることは責務と感じている。

 だが、だが、だ。

 

 あの肉体の潜在能力。それが、私は気になって仕方がない。もしかしたら、彼女こそ限界を突破できるウマ娘なのかも、しれない。

 ……

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 鳥の囀りが聞こえる。冷たい朝日がカーテンの隙間から漏れている。そこに、扉の開く軋み音が割り込んでくる。

 

 「……あまり、眠れていないようだねえ」

 

 無遠慮に部屋に入り込んできたのは、赤茶色の目をしたアグネスタキオン。俺をこんなことにしてくれた張本人。頭のイかれたウマ娘。

 ベッドの隅で布団にくるまっていた俺は、結局ろくに眠れず一ヶ月間、頭に響く声にイラつきながらぼうっと過ごしている。この部屋から出るのはトイレと風呂の時ぐらい。ご飯はアグネスタキオンが運んできてくれる。そして、何故かアイツと一緒に食う。

 お陰でもう、俺はこの女にそんなに悪感情を抱いてない。

 

 「〇〇君、朗報だよ。君の外出が許された」

 「あっそう……」

 「アグネス家に引き取られてきた孤児のウマ娘、サンデーサイレンスという筋書きだ。つまり、君は私の家柄になったってことになる」

 「へー」

 

 布団から這い出て、ベッドを背もたれに、床にあぐらをかいて、アイツが持ってきた食パンに目玉焼きに、と普通の朝飯にありつく。最近、眠れなくなったからか腹が減って仕方がない。

 なんか高そうなイチゴジャムをたっぷり乗せた食パンに齧り付きながら対面のあいつを見ると、角砂糖で埋まったティーカップを口元に運んでいる。

 

 「あんまり嬉しそうじゃないねえ」

 「嬉しいもクソも、ぼうっとしてて反応できないよ」

 「……今、サンデーサイレンスは?」

 「脳みその皺蹴飛ばしてる」

 

 短い朝飯が終わると、食器を下げに行ったアグネスタキオンが色々衣服を持ってきた。なんでも外に出ようって魂胆らしい。

 ……なんだが、俺は男だ。ひらひらしたスカートなり、ワンピースってやつなり、……そもそも服に興味ないし。

 

 「何着りゃいいかわかんないよ」

 「えー? じゃあ…… これなんかどうだい?」

 「ひらひらはやだ」

 

 結局、一回着て着なくなったというお下がりの灰色パーカーにジーンズと、男だった時に着てたような構成の服にした。

 

 「部屋から出てけ」

 「気にしなくてもいいよ? 私としては君が元男とか、そういう実感はあまり湧いてないのだから」

 「俺が嫌なの!」

 

 やけに部屋から出るのを渋るアイツに、精一杯眉間に皺を寄せてやったら、ぴゃーと逃げ出すように部屋の外に行った。よくわかんないが、俺の顔を変に怖がっているらしい。

 ともあれ、嫌な目線も消えたところで、俺はアイツから借りた部屋着を脱いで、パーカーをかぶってジーンズを履いた。

 

 「……」

 

 アイツのサイズだからか、いや、それでも説明できないぐらいパーカーがデカい。手が完全に隠れるぐらいにはデカい。ズボンはピッタリでベルトもいらなかったが……。

 

 あの化粧台の鏡の前に行って屈むと、腹回りがダボって膨れた俺が見える。黒い前髪に分けられた顔の赤い目の下は隈があって、男だった時に比べて不健康そう。

 男だった時よりは美人だが____

 

 「おーい、もういいだろ…… 」

 「……」

 「……まあ。元男性ならね。気になるよね、女の顔」

 「……」

 

 

 ともかく、俺は外に出ることができた。

 一月ぶりの青空は、やけに眩しく感じて、頭の鈍い痛みがジクジクするようだった。




 主人公がブラをしている、していない、どちらが良い?
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