例えばこんなサンデーサイレンス。 作:にわとり肉
前回の後半パートをかなり作り替えてるので、前の話読み直さないと話が繋がらなくなっています。大変申し訳なし……
簡潔に変更内容を表すと、トレセン学園見に行くって流れではなく、単純に当てもなく外出するって感じにかわってます。
絢爛豪華というべき重厚な作りの玄関を出た瞬間、俺の視界に押さえつけられるような痛みが走った。なんだが異様に日差しが眩しく感じる。おまけに、前の方の頭にモヤがかかったような痛みがする。寝不足だからだろうか。
それに、頭の中のアイツが一際騒いでる。でも、これは俺への嫌がらせではない。感覚でわかる。
喜んでる? 久しぶりだから?
____ふと、俺より前を行っていた、大胆に肩を出した紫の服を着てるアグネスタキオンが俺を見上げているのが視界の端にチラついた。
「〇〇……いや、外では君のことをサンデー君としよう。立ち尽くしてるけど平気かい? 辛いなら戻っても……」
「いや、……大丈夫」
慣れない眩しさに目を窄めながら前を見ると、そこに広がっていたのは、西洋風というべき雰囲気の、色とりどりの花々が咲く庭園が広がっていた。家の中がそうなら、外も恐ろしく金持ちって感じだ。
空は雲ひとつない晴天。今の俺にはちょっとうざいぐらいに。
花畑から一直線に門に繋がっている道を歩いていくと、ふと疑問が脳裏をよぎった。
「……そういえば、外行くっていってもどこ行くんだよ」
「行きたい場所ないのかい?」
ノープランで外に飛び出すのは小学生までだろ。
アグネスタキオンは足を止めずにこっちを見て、さも不思議そうに首を傾げている。俺がなんでも決めてると思ってるんだろう。俺が一ヶ月前にここに来たことを覚えているんだろうか。
そんな、行きたい場所なんていったら、思いつくもの、この世界に来て気になったこと……
……
「……ある」
確かめるまでもないと思っていたけど、いざ外に出られるとなってみたら、意外と見に行きたくなってしまった。
この世界は俺がいた世界とそう大差が無い。ただ、ウマ娘が居て、ウマ娘がいるが故の文化があるか無いかの違いだけだ。なら、俺の実家がある場所はどうなっているのか。仮に、この世界がウマ娘が存在しているかしていないか、という並行世界的存在とするなら。
あったとしても、今の俺は俺じゃ無い。ウマ娘の身体になったのだから、母ちゃんは俺に気づかない。
何より、母ちゃんがいたとしても、それは俺の母ちゃんじゃ無い。この世界の俺の母親ってことになる。
でも、俺は実家に行ってみたくなっている。本能というやつなのか、この世界に俺の実家があるか無いかを確認することで、安心したいのか。
身体を同じくしたアイツの返事は頭痛だけ。
◇◇◇
バスに乗り電車を乗り継ぎ、みたことがある路線、馴染みのある路線に入っていく毎に、悪寒が強まっている。
それは、知っている電車内に、あるはずのないウマ娘が普通に座ったり、吊り革につかまっているからなのか、電車の扉の窓に映る自分が、ウマ娘だからか、それとも、睡眠不足の体調不良か。わからない。
確かなのは、後一駅。
電車の外に流れる景色から顔を前へ戻すと、アグネスタキオンが腕を組んで、椅子のしきりに背をつけて立っているのが見える。俺と同じような体勢になっている。
ふと、アイツの目と目が合う。
「嫌なら引き返してもいいよ」
なんて、そんな言葉がふっと口からこぼれた。アイツの赤茶けた目が瞬いた。
「ふぅん、私に罪の意識を再確認させたいんじゃ無いのかい」
「……すまん」
「何故君が私に謝る。何がどうあれ、私が君にしたことはわかっているだろ」
それきりだった。アイツと車内で口を交わしたのは。
とにかく、腹の底が熱くて気持ち悪かった。
最寄駅。特急電車が通り過ぎるような、二車線しかない、普通の駅。
ホームに降り立った瞬間感じたのは、帰ってきたとか、懐かしいとか、そんなことではなく、違和感。
いつもの風景に異物が混じっているのだから当然なのかもしれない。
ホームからの道は自然と俺が先導して行った。後ろからついてくる音だけが、アグネスタキオンの存在を俺に教えてくれた。とてもじゃないけど、振り返る勇気は無かった。
本当に、嫌がらせでやっているとか、そんなことじゃないんだ。
でも、本当はどうなんだろうか。
駅からすぐに小さな病院、内科と眼科とがあってそこ沿いに細路が続いている。その先の路地をいくとスーパーマーケットがあって、直進すれば広い道路にでる。広い道路を右に行くと交差点があって、道沿いにスーパーマーケットがある道は、その奥に踏切があって、車の出入りが複雑だからいつも渋滞になっていて、母ちゃんがよく怒っていた。
信号を渡ってすぐにファストフード店とコンビニがある。よく買いに行かされていた。お釣は俺の小遣いになるから、律儀に買いに行っていた。コンビニは、そこには行かなかった。何せ、この辺にはコンビニが道沿いに三つも連なっていて、その真ん中のコンビニが一番近くだったから。
ファストフード店とコンビニを通り過ぎると、すぐ左手に畑が広がっている。よく肥料臭くて嫌だった。今も僅かに肥料っぽい臭いを感じるのは、ウマ娘になったからかも。
少し進むと、道路を挟んで向いに整骨院がある。通っていたことが一回だけ、小学2年生から6年生まで無理やり同じ靴を履いていたせいで、外反母趾になった時に通っていた。あれは痛かった。
そう。この信号で曲がって、広い道があって、貸し駐車場を抜けて行って。
……
家の目と鼻の先にあった児童公園。よく遊んだ場所。何も変わっていない。ただ、そこにウマ娘の子供たちがいる。
そして、左を向けば、俺の家がある。
「……」
ここまで来たんだから、ためらう理由がない。
俺は左を向いた。
ちょうど、太陽が一番上に登っていたと思う。今日は土日だから、俺が俺だった時なら部活から帰ってくる頃だろう。
だから、俺はそれを見つけた時、妙に納得してしまった。
自転車に乗ってるワイシャツに黒いズボンを履いた奴が見えた。
そのことを、俺は生涯誰にも言わないと思う。
◇◇◇
「……」
ぎい、ぎい。サビサビのブランコ、気を抜いてると鎖に肉を挟むブランコが揺れる音。
横を見ると左右にゆったりと揺れ動く視界に、ベンチにかけたアグネスタキオンが見える。
子供の泣き声が響く、大きな幹の木が2本立つ公園で、俺たちの周りの雰囲気は多分終わっているだろう。
「……」
どう話を切り出したものか。何せ、この状況を招いたのはこの俺なのだから。俺は、底意地の悪いことをしたのかも、しれない。
どうしよう。
「すまない。〇〇君」
もう一度アイツの方を見ると、項垂れていた。
「すまない」
この一ヶ月、アイツをみてきたから少しはわかる。惜しみない懺悔。それがひしひしと伝わってくる。
ブランコの軋み音が緩やかになって、視界の揺れもおさまってきた。
そして、完全に止まった。
心の奥底で、やっぱり俺はアグネスタキオンをこうしてやりたかったのか。
だからか。今俺はすっきりしている。
これで、俺と
「タキオン」
俺の声の後、恐る恐るといった様相でタキオンの首がもたげた。
あの太々しいような顔に覆い隠されてたのか、今そうなったのか。今のタキオンの顔はまるで、親の大事なものをぶっ壊した子供みたいで。
俺より年上とは思えない焦りっぷりで。
「帰ろう」
そういった後の変わりようが面白くて、久しぶりに心の底から笑った。