V.Ⅸになったのでナインボールを目指す   作:gnovel

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閲覧ありがとうございます。
まだ発売から1カ月とちょっとしか経ってないのに、ここまで界隈が盛り上がるとは……。

それではどうぞ


集積コーラル地点調査任務

『フィム、フロイト。例の害獣が現れました。よって暫くの待機を命じます』

 

 スネイルからの通信を聞いたフィムとフロイトは、命令通りに既に廃墟と化した技研都市に残されていた建物の陰に隠れる。

 アーキバスがルビコン技研都市にAC部隊を投入して先行調査を引き継いだことで、本来はそこで621達の役目は終わっていた。しかしスネイルからの通信にもあったように621はやってきた。現場に緊張が走る。

 

「独立傭兵レイヴン……お前と同等とか噂されているが、最後に一度戦ってみたかったものだがな」

 

 フロイトが心底勿体無さげな様子でフィムに語り掛けた。

 既にスネイルの案に基づいて構築された作戦の網にまんまとかかった621達は予定通りメーテルリンクと五花海を撃破し、そのままの勢いで道中にのさばる技研の自立兵器を片付けてくれるだろう。その隙を突いてスネイルが621を拘束、そして猟犬の飼い主であるハンドラー・ウォルターに“再教育”を施してアーキバスの手駒にするというのが計画の実態だ。要するに体のいい露払いを621は請負う形になったということだ。

 

 傍に控えるフロイトが退屈そうに周囲を見渡す中、フィムはというとただひたすら無言を貫いていた。

 

 この先予定通りであれば、オールマインドがスネイルの居場所を621に暴露、そして621にスネイルが撃破されるのが流れだが、ここまでオールマインドと関わってきた中でフィムにはやはりどうしても拭いきれない不安感と言うのが少なからずある。

 と、一人悩んでいる所に一本の通信が割り込んできた。通信相手は――メーテルリンクだ。どうやら五花海が撃破されたらしい。通信先からも彼女の焦りが伺える。

 

『フィム第九隊長! 増援を! このままでは……』

「……」

「……スネイルの言いつけの通りだ。スウィンバーンを助けるほどのお人よしなお前に、メーテルリンクを見捨てるという選択肢は辛いだろうが……仕方ない」

 

 メーテルリンクが助けを求めてフィムに救援要請を送るが、無論フィムはそれに応答してはいけない。それはスネイルの命令でもあり、フィムの計画にも支障をきたすからだ。

 

 そして暫くして――

 

『なぜです……スネ……イル、フィム……』

 

 その言葉を最後に通信が途切れ、砂嵐がコックピット内に響く。

 

「やれやれ……ここまでが、スネイルの作戦通りだが、スネイル、スネ……ん? なんだ? 通信が……」

 

 フロイトの言う通り、先ほどまで繋がっていたスネイルとの通信が突然途切れた。フロイトは通信の故障を疑い、フィムにも呼びかける。フィムもスネイルに向けて通信を飛ばそうとしたが、こちらも遮断されていることをフロイトに伝えた。

 

「どういうことだ?」

 

 困惑するフロイトを余所にフィムは基地で控えていたペイターに向けて通信を開始した。

 

「こちらV.Ⅸフィム。聞こえているか」

『こちらペイター! 聞こえています!』

「緊急事態発生だ。スネイル第二隊長との連絡が途絶えた」

『ッ!? それは本当ですか!?』

「本当だ。さっきから俺もスネイルに連絡しようとしているが一向に通信が復旧しない。スネイルの言っていた万が一、が起きたってことだ」

『なんてことだ……!』

 

 フィムとフロイトからの報告に暫く反応を返せずにいたペイター。通信先に控える職員が慌てふためいているような喧騒が聞こえる中、フィムがあることを告げる。

 

「……当初の目的に従い、調査を引き続き進行することを提案する。既に技研の遺産は目の前だ。ここで退いては独立傭兵レイヴンに先を越される」

『し、しかし……』

「――アーキバスの利益の為に、今何をするべきだ」

『……』

 

 フィムがやや圧を込めて、さらに念を押すようにして言い聞かせること数秒。ペイターは沈黙を破った。

 

『了解。これよりアーキバス先行調査を続行することを決定しました!』

「決まりだな」

『二人には技研都市の奥深くにあるコーラルを目指して進んでもらいます!』

「さて、と漸く俺達の出番だなフィム。……フィム? どうした?」

「……何でもない。行くぞ」

 

 作戦指揮をペイターに変更し、隠れ潜んでいた地点から抜け出した二人はそのままコーラルが眠る場所にして、アイビスの火を起こした罪人の墓標――バスキュラープラントへ向けてブースターを吹かした。

 

 

 

 

 ……と、ここまでの流れの中でフィムは一つ嘘を吐いていた。

 

『――ッ! ――!!』

 

 先程フィムはスネイルとの連絡が途絶えたと周りに伝えていたが、今フィムの耳元だけで流れている通信の声の主は――紛れもなくスネイルだ。周りには一切聞こえていない。

 

『害獣に狂犬め! 私の手を煩わせるな!』

 

 通話越しに聞こえるスネイルの様子は、621――とオールマインドの手駒の一つであるG5イグアスを罵倒しながら戦闘している最中のようだ。

 スネイルは通信妨害がまさかオールマインドの仕業であるとは露知らず、そのような状況の中でまさかフィムが盗聴しているとは微塵も思っていない様子だ。

 

 戦いは終始621のペースにスネイルとイグアスが翻弄されている様子で、スネイルのくぐもった声が聞こえる。

 

『クッ……どこまでも鬱陶しい害獣共め……!』

『鬱陶しい……! まずはてめぇからだ!!』

『ええい! 狂犬め!』

 

 621との間に確執があるイグアスが標的をスネイルに定めたことで、戦況は一気に劣勢へ追い込まれた。そのことが通信先のスネイルの唸り声から伝わってくるようだ。イグアスと621の猛攻を受けきるスネイルの機体オープンフェイスは防御面に関しては中々の性能だが、流石に二機同時の攻撃には耐えられない様子だ。徐々にスネイルが追い詰められている。

 

 そして621の攻撃と思しきバズーカがオープンフェイスの装甲に着弾したかのような爆音と通信越しでも分かるような振動が聞こえたかと思うと、通信先からバチバチという音と共に大きな爆発音が鳴り響いた。

 

『馬鹿な……この私が……そんな!?』

『次はてめぇだ。野良犬』

「……終わったか」

 

 スネイルが撃破された。まだ通信先ではイグアスと621が張り合っているようだが、直ぐにでもその決着はつくだろう。621はちゃっかりスネイルを狙うついでにイグアスにも攻撃を加えていた為、ダメージレースでも621が優勢なのは間違いない。

 

 スネイルが撃破されてから数分が経過してイグアスが撃破されたと報告を受けたフィムは密かにとある回線を開いた。その瞬間フロイトを始めとしたアーキバスを含む周囲全てとの通信を一切遮断し、誰からも介入が出来なくなったタイミングでその通信相手が応答。その相手は無論オールマインドだ。

 

『聞こえるかオールマインド。念には念を入れて()()を投入しろ』

『かしこまりました。フィム』

『データとして取り込むのは……最悪脳に酸素が行き渡っていれば十分だったか』

『えぇ。そのようにするように指示を出しておきます』

 

 

 

 

 

「クッ……この私がこんなところで……!」

 

 地べたを這いつくばりながら、何とか崩壊寸前のACから離脱していたスネイル。汚水に塗れ、先の戦闘での疲れから生じた荒い息を漏らしながら、息を整えるスネイルの耳に聞きなれた通信音が鳴り響く。

 

『……るか、こ……ち……フィ……』

「これは……フィム! 応答しなさい! フィム!」

『聞こえ……ている。こち……らV.Ⅸ……フィム。今漸く終わっ……た所だ。直ぐに……そちらに……を向かわせる』

 

 通話の主はフィムだった。

 通信環境の所為か聞こえる声も途絶えている部分もあるが、フィムの口から救援を向かわせる旨を聞いたスネイルは621と乱入者であるイグアスに向けて有り余るほどの憎悪を向けていた。

 

「あの害獣どもめ……! 再教育など生ぬるい……すぐにでも駆除しなければ……!」

 

 思わず歯ぎしりをするスネイルの耳に上空から来ているであろう救援機が接近するようなブースター音が入り、スネイルは釣られて上を見上げて……思わず絶句してしまった。

 

「ええい! 遅い! 今すぐ私を救助し……ッ!?」

『や……はり……生きていたか。念のために要請しておいた甲斐があった』

 

 愚痴をこぼしつつ次の事を考えていた筈のスネイルの優秀な脳は、目の前に広がる異様な光景にその機能を一瞬停止させてしまった。それもその筈。上空には――

 

『悪いがここで……確実に死んでもらう』

 

 

 

 

「馬鹿な!? 二機のナインデッド!?」

 

 フィムの駆るナインデッドと全く同じ外見、全く同じアセンブルの二機のナインデッドがスネイルを見下ろしていたからだ。

 そしてそれぞれが生身のスネイルに対して銃口を向けていた。それを目の当たりにしたスネイルがただただ困惑した様子でフィムに疑問を投げかけていた。

 

「なんのつもりですかフィム!?」

『スネイル。お前が俺……を利用していたのと……同様に、俺も……利用していただけだ……昔からな』

「一体、何が目的だ!?」

『……知る……必要は……無い。……言って……おくが、懐に隠し持ってい……る通信機は……もちろん使えない』

「ッ?!」

 

 フィムの指摘通り、スネイルのパイロットスーツの内側に隠していた通信機の機能は完全に失われていた。思わず懐から取り出して確認するスネイルだが、通信途絶の事実が延々と並べられているだけで本来の役割を果たせない状況にあった。それだけでなく通信機に備えられていた録音機能のデータさえも全て消失。スネイルの生存を予期していたフィムが予めスネイルを始めとしたヴェスパー全部隊及びアーキバスの端末全てにオールマインドを忍ばせていたのだ。

 

 ――全ては“最強”となる為。

 

 計画を破綻させない為に、何重にも策を張り巡らせていたのはスネイルもフィムも同様だった。しかしこと今回に限っては、フィムの数年間に渡る途方もない事前準備が上回ったのだ。

 

 こうして己の目論見が看破されただけでなく、考え得る限り全ての手が潰され、更には通信越しではあるがスネイルも聞いたことが無い程の無機質かつ冷徹な声色にスネイルも思わずたじろいだ。

 

『さらばだ、スネイル』

 

 瞬間、けたたましい銃声と微かに聞こえる断末魔がフィムの耳をつんざいた。

 

「どうしたフィム?」

「……気にするな。まだ通信が安定しないようだが問題ない。続けるぞ」

 

 

 

□■□■□■□■

 

 

 

 こうしてアーキバスはフィムとフロイトが技研の遺産――通称アイビスシリーズを撃破したことを皮切りに、瞬く間にその勢力を伸ばすこととなった。発見された遺産は多岐に渡り、その中には人の手に余るとして隠蔽されていた実験兵器も含まれていた。

 

 そしてアーキバスはかつてのアイビスの火より遺棄されていたコーラル吸上機構『バスキュラープラント』を利用してコーラルを星外に持ち出すべく、バスキュラープラントの修繕及び大気圏外への延伸計画に着手し始めていた。

 

 アーキバスの戦力はもはや解放戦線では届かない領域にまで達していた。

 

 

 ――しかし、ある噂がアーキバス内で流れ始める。

 

「よぉペイター。昇進おめでとう」

「フロイトさん! いえ、とんでもないです……」

「全く……まさかヴェスパーの半数がいなくなるとは……」

 

 ブリーフィングルームにてフロイト、ペイターそしてスウィンバーンが集まっていた。ペイターとスウィンバーンはアーキバスのこれからについて話し合おうと集まり、フロイトは暇を持て余していた為、たまたまブリーフィングルームに来ただけだった。

 

 元々フィムを除いてヴェスパーの末座に位置していたペイターだが、遂にこの度ホーキンスを始めとしたヴェスパー部隊の喪失および功績に伴いV.Ⅲに昇格したのだった。

 

「このルビコン進駐……想像以上の被害を受けたが、ともあれ大量のコーラルが手に入った! これで更なる利益が見込めるぞ!」

「スウィンバーンは相変わらずだな」

「命あってのものだ、これもフィムのお蔭……む? そう言えばフィムはどうした? ここ最近姿を見せていないが……」

 

 ルビコン進駐における功労者の一人に数えられるフィム。その姿を最近目にしていないことに疑問を口にしたスウィンバーン。それに同調するかのようにペイターとフロイトもそれぞれ意見を述べた。

 

「確かに、技研都市から帰ってからフィムの姿を見ていない……」

「あれ? やっぱり皆同じ考えか? 俺も最近フィムの姿を見てないんだよな……せっかくまたアセンブルを考えなおしたってのに。スウィンバーン、最後にフィムを見たのはいつだ?」

「……確か、君たちがアイビスシリーズの一機を撃破して……それから技研都市内部の本格的調査を始めた頃……だったか?」

 

 コーラル集積地を守るように立ち塞がったアイビスシリーズの一体、CEL240。それを撃破した後、フィムとフロイトは周囲の探索を行っていた。

 

「んで、その時どっちも特にめぼしい物はなかったと報告していた気がするが……」

「はい、確かに記録には何も無かったと……」

「……何やらきな臭いな。ん? そういえばスネイル閣下が失踪した地点を担当していたのは……」

「俺だが……確かに妙な無人機とぶつかって……戦闘になった。あぁ、やけに強かった気がしたがまぁ何てことは無かった。なんかスネイルの機体を回収してはいたが……んで、確かそいつはフィムがまとめて処分しておくと言っていたが――」

 

 

「……え? そんな報告、僕は聞いていませんよ?」

 

 瞬間、場が凍り付いた。

 

「……は?」

「……何か、胸騒ぎがする」

 

 胸騒ぎを覚えたスウィンバーンは、フィムの行動記録を残した端末を操作し始めた。しかしブリーフィングルームの扉がいきなり開かれた。

 

「た、大変です!」

 

 入ってきたのはアーキバスの職員の一人だった。酷く慌てた様子で落ち着きを微塵も感じられない様子だ。

 

「どうしたのかね!?」

「さ、先ほどウォッチポイント・アルファにて未確認の兵器が突如として現れ、我々アーキバスに攻撃を……!」

「状況は!?」

「既にウォッチポイントの深度2まで進行し、このままでは深度1に到達するのも時間の問題です!」

「分かった! このV.Ⅲペイターが向かう! LCに乗っていく! 準備を!」

「りょ、了解しました!」

「俺も一応待機しておくか」

 

 慌てた様子でブリーフィングルームを後にするペイター。フロイトも自らの愛機をいつでも出撃させられるようにガレージへと向かうためブリーフィングルームを後にした。

 

「一体どこにいるんだ……む? この座標は技研都市の……フィムが担当していた場所?」

 

 一人残されたスウィンバーンは端末を操作していると、フィムの現在地の座標がとある地点にずっと固定されていることに気付く。

 

「……む、招集か。仕方ない、これはまた後で精査するとしよう」

 

 徐々に高まる不安感を余所にひとまず今の緊急事態に対応するための人員として呼ばれたスウィンバーンは頭を切り替えて現場へ赴くのだった。

 

 

 

 

 

 

『――修正プログラム 最終レベル』

 

 

 




フィム「あれ作るのにアーキバスの工房じゃあ無理だし、他でも無理やな……せや! 技研都市にある工房をオールマインドと協力して工房を改装して作ったろ!」



フィム「……念のためにオールマインドが完成させた設計図に目を通しておいて良かった……(色々と)修正が必要だ」
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