毎度のことながら高評価と感想ありがとうございます。
前回フロイトのアセンについて質問があったので、補足しておくと――前回のあとがきの変更点以外は、元のゲームと変更はありません。
それではどうぞ
「先は俺が頂こうか」
先手を取ったのはフロイト。ロックスミスの右肩に備え付けられた拡散バズーカの物量に任せた爆撃が621を襲う。フィムを前にして生き残ったという情報がフロイトの耳に入った時から、フロイトは621と戦いたかった。そして今、それが叶った。
621は拡散バズーカの面攻撃を横にステップして躱すと、お返しとばかりにスタンニードルランチャーが発射された。
「ここまでは単純だな」
621と同じようにして弾頭を回避したフロイトは、左肩の三連双対ミサイルを放ち、ショットガンの射程に近づく為に距離を詰めにいった。
ミサイルが621に食らいつくように襲い掛かる。621は両脇から迫りくるミサイル群を正面に突き抜けることで回避した。621の背後ではミサイル同士が正面衝突を起こし、幸運にも残った二つのミサイルも621は背後が見えているかのような的確な動きでその場から更に横に避けることで回避した。
「いいぞ……! 俺が相手していたコイツ等より面白くなりそうだ!」
無人機とは違う、本物の人間が操縦するACを相手にしているフロイトの顔には笑みが溢れていた。まるで玩具を見つけた子供のように破顔すると、速やかに射程内に入った621にショットガンをお見舞いした。
しかし621はショットガンの攻撃に対して咄嗟に後方にブースターを吹かすことで、ショットガンの威力減衰を狙った。アサルトライフル等とは異なり、ショットガンは近距離で効果を発揮する武器種。いくらフロイトの扱うショットガンが他のものと比べて射程距離が長くても威力は下がる。
結果的にフロイトの狙っていたスタッガー状態にはならなかったものの、それでも僅かに621に命中したのは確か。フロイトはすかさずアサルトブーストを吹かし、勢いよく距離を詰める。何度も自分が食らったように、蹴りを繰り出すつもりだ。
当然、621がそれを許すわけも無く右手のLR-037 HARRISの銃口をフロイトに向け、更に再装填が終わったスタンニードルランチャーを放つ。
スタンニードルランチャーを避けなければフロイトは大きなダメージを受ける、そして仮に避けたとしてもチャージの終えたリニアライフルの一撃が避けた先のフロイトに命中するだろう。普通ならスタンニードルランチャーの一撃を回避してやり過ごすだろう。――しかしフロイトは違った。
「この流れは既に体験済みだ!」
「ッ!」
「そしてそれも……避けたッ!」
迫りくるスタンニードルランチャーをフロイトは紙一重で回避し、回避を見越したリニアライフルの弾丸も巧みに避けた。懐に潜り込んだフロイトが蹴りを繰り出す……ではなく左手のブレードで半円を描くようにして前方を切り刻む。
――獲った!
そう思ったフロイトだが、視界の隅で621のACの脚部が迫っていることを認識した。不味い、そう思った瞬間には既にフロイトは蹴飛ばされていた。
「グウゥッ!……やはり、良い動きだ!」
蹴飛ばされ、勢いよく壁に叩きつけられた衝撃で思わずフロイトの脳が揺れる。強化人間でないフロイトは当然ながらダメージや衝撃に対する耐性は強化人間と比べても雲泥の差だ。復帰に時間がかかり、一瞬意識を手放しそうになる。しかしそれでもなおフロイトの口から漏れた一言は、621に対する賞賛の声だった。
一方でフロイトの賞賛に対して聞く耳を持たない様子の621は手早くリニアライフルのチャージを済ませ、ブレードを解放、更にミサイルを放ち、フロイトに向けてスタンニードルランチャーを発射した。ブレードを除くすべての武器を使用した包囲網に流石のフロイトも背筋を凍らせ、機体を動かして上に逃げた。
そしてスタンニードルランチャーの一撃を回避した次に、襲い掛かるミサイルの群れを上空にいたまま最小限ブースターを吹かして器用に避ける。更に機体のENが尽きる瞬間を狙っていた621によるリニアライフルの一撃が見舞われることをフロイトは予測、敢えて僅かな被弾を受けつつENを温存することを狙っていた。そして予想通り621がENギリギリのロックスミス目掛けてチャージ済みのライフルを放った。
「こればかりは避けなければ……なっ、速い……!? ガアッ!?」
フロイトの考えを読み切っていた621はライフルを一撃を放つと共に近づき、無慈悲にもブレードによる一撃を叩き込んだのだった。
ダメージを受けたロックスミスが機体の制御を失いかける。フロイトは冷や汗を流しながらも百戦錬磨の経験から機体の制御を取り戻し、素早く今いる場所から退避する。そうしなければスタンニードルランチャーの餌食になっていたのだから。
「いいぞ……! もっとだ、もっと本気を出させてくれ!」
『レイヴン、やはりV.Ⅰなだけあって彼は相当手強い。私達も急がなければいけません。気を引き締めて!』
フィールド内を駆け巡りながら、621のミサイル群やライフルによる攻撃を避ける。障害物も何もないフィールドをブーストを吹かしながら不規則な軌道で避けるフロイトは、フィールドの端に到達した時点で急旋回、そのまま621に向けてミサイルを放つ。
防戦一方の状況ではあるが、フロイトは心底楽しいとばかりの笑みを浮かべていた。
フィム以来だろうか、フロイトは自らの退屈を壊した二人目の人物に相対できたことを心から喜んでいた。彼の中にある最強の存在――それに匹敵しうる存在と戦うことは彼の中に多大な幸福感をもたらした。
「もっとだ……もっと行けるはずだろうロックスミス!」
621の近く、ショットガンの距離にまで接近したフロイトは速やかに射撃――ではなくフェイントを行い、肩の拡散バズーカを放った。
思わずショットガンを握る手に視線が行っていた621はバズーカの範囲からギリギリ逃れられず、遂に被弾。そして衝撃が蓄積したことでスタッガー状態に陥ってしまう。スタッガー状態に陥った621目掛けて今度こそショットガンの引き金を引いた。
『レイヴン!』
瞬間――621の機体からスパークが生じ始めた。フロイトはその前兆を見るや否や血相を変えて後方へとブースターを吹かす。
「アサルトアーマーか!」
一瞬早く回復した621は速やかにアサルトアーマーを起動させた。機体から発せられたパルス爆発は爆音と共にフロイトの撒き散らした散弾とミサイルをかき消し、ダメージと衝撃をロックスミスに与えた。唸り声をあげるフロイトと対照的に621は涼し気な顔をしつつ、僅かに焦りを滲ませている。
621は機体の損傷から来る焦りやフロイトに対する危機感を持ちつつも、それ以外の要因――すなわちザイレム緊急停止までの時間制限から来る焦りがほとんどを占める。621とエアにとってここで時間をかける訳にはいかないのである。
しかし当然ながらそんな思惑をフロイトは知らない。さらに言えば今のフロイトの頭には本来の任務であるザイレム撃墜の任など頭の片隅に追いやられている状況だ。本格的にアドレナリンが分泌し始めたことで完全に目の前のことにしか目が行っていないフロイトを止められるのは、今は亡きスネイルと――真っ向から打ち破れるフィムと、そのフィムに迫る実力を付けた621だけだ。
「お前もヴェスパーにいたら、もっと楽しくなっただろうな。……まぁいい、続けようか」
ありもしない筈の幻想に思いを馳せながら、フロイトは目の前の621に再び襲い掛かった。
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『ウォルター! 右舷ブロックの状況は!?』
「無人ACが6機。いずれもヴェスパーのデッドコピーだ」
『そっちもかい……こっちを急いで片付けて、V.Ⅰを片付けなきゃいけないってのに……笑えないねえウォルター!』
621達が中枢ブロック付近で衝突している中、カーラとウォルターはザイレムの防衛を行っていた。
ウォルターはヴェスパー部隊のAC、そのコピー六体を相手取っており、カーラもハッキングした無人機を使いながら同じくヴェスパーのデッドコピーを相手取っていた。
カーラがハッキングした無人機は言うまでも無くオールマインドの機体だ。フィムから提供されたデータによる強化が施されたことも相まって、それぞれが単独でヴェスパーのデッドコピーと互角の領域にまで昇華していた。しかしその事実を責めることは出来ないだろう。オールマインドの予想をカーラが上回っただけに過ぎないのだから。
とはいえカーラ自身もヴェスパーのデッドコピー二体を相手取っている現状、その顔色は決して優れない。油断すれば死ぬ、そうなれば本来の目的を果たせないという状況の中でカーラは笑みを浮かべずにいた。
『旗色が悪いね……こんなときにビジターがいれば……』
「621は死んでなどいない」
『……あんたもそう考えていたかい』
「ザイレムをブロックする準備をしておけ。あいつは選択した。今や俺達にとって最大の脅威だ……。そして今、間違いなくV.Ⅰを相手取っているのは621だ」
ヴェスパーのデッドコピー6体を単独で相手取り、四体目を撃破し終えたウォルターは力強く断言する。
「621は必ずV.Ⅰを撃破し、あいつの選択したことをやり遂げようとする。その前に――俺達は621を止める」
増幅制御されたコーラルブレードで薙ぎ払い、五体目を撃破したウォルターは決意を遂に最後のデッドコピーに目を向けた。
一方カーラの方もヴェスパーのデッドコピーに取りつかせた無人機を自爆させることでそれぞれ相打ちさせ、同じく最後に残された一体を正面に見据えていた。
『ようやく……笑えそうだね!』
――同時刻。
ウォッチポイント・アルファの封鎖されていた入り口が、突如何の前触れも無く独りでに開いた。
まるで地上に空いた深淵へと続く大穴のように開いたウォッチポイント・アルファ。その中心から徐々にリフトに乗ってせり上がる真紅のそれがいよいよ地上に表れようとしていた。
見るもの全てを圧倒させるその機体はまるで戦闘機のような形状をしていた。
背中に取り付けられた二つの巨大なユニットは既存のACはおろか、現存するあらゆる兵器を超える規格外の推進力を秘めているだろう。
やがてそれが、完全に地上に這い上がってくると徐々にフライトユニットに熱が籠り始める。
“最強”の具現たる存在。
フィムの全てが詰められた真紅の機体が深淵から這い上がり、今――空へと羽ばたこうとしていた。
『――ナインデッド・ネクスト起動』
瞬き程の刹那で、ナインデッド・ネクストの姿は既に地上から消え去っていた。
※尚タイミング的にはギリギリ。
ナインデッド・ネクストのネーミングにはフィムの“最強たるナインボールを倒したイレギュラーに並び立つ”という意味合いが込められています。⑨(ナインボール)→10(イレギュラー)
掲示板形式か配信者形式で、この世界線のプレイヤーの反応を書こうかなと思ってます。