今回はオリジナル要素と独自解釈があるので注意です。
それではどうぞ
暗闇に一筋の閃光が走る。
それはナインデッド・ネクストがブースターを吹かし、両の手に備わったブレードを振りかざしたことで発生したものだ。
「――ッ?!」
間一髪。それを躱せたのは奇跡に等しいことだった。621は機体を斜めに傾けて攻撃を受け流したのだ。
左右から連続して放たれた真紅の光刃が掠った箇所は溶断されたかのように切り裂かれた箇所が熱を帯びていた。そして背後からブレードから放たれた光波がステーション上に備わっていた柱の幾つかを纏めて切り裂いており、621は足の先から背筋に掛けて凍り付く様な感覚を体験していた。
完全な回避が不可能だったことを本能的に察知した621が取った行動は間違いなく最善の行動であり、その選択を取れたのも621だったこそなのだろう。
素早く機体を立て直して空中へ飛び上がり、速やかに右手のリニアライフル――HARRISをナインデッド・ネクストに向けて一発放つ。そしてナインデッド・ネクストは――突如として消失した。
否、消失したのではない。
その場から消えたかと認識する程の速度で621の射程圏内から遠ざかっていたのだ。そして既にナインデッド・ネクストの右手に構えられた銃からは速やかにパルスキャノンが、背中のユニットからは十二門のミサイルが解き放たれる。
しかし621の視点では、ナインデッド・ネクストの姿はない。ナインデッド・ネクストのステルス機能によって621の視界から完全に消え去っているのだ。
『レイヴン! スキャナーを!』
621は極めて冷静にスキャナーを使用し、ステルス状態のナインデッド・ネクストを補足。そして新たに左肩に換装したレーザードローン――Vvc-700LDからドローンを複数体放ちミサイルの相手を任せ、自分はブーストを吹かす。
六機のドローンがユニットから放出されるとすぐさま十二のミサイル目掛けて飛び掛かり、621に着弾する前にレーザーを降らせた。一機で二つのミサイルを墜とすという離れ業を披露する621は、ライフル並みの速度で打ち出されるパルスキャノンの弾幕をブレードで切り払いながらナインデッド・ネクストを射程圏内にまで収める。
『レイヴン!』
『フィム。そこです』
エアの警告とオールマインドの忠言が同じタイミングで行われた。エアはナインデッド・ネクストの背中から放出されたオービットによる砲撃に対する警告を、オールマインドはオービットによる追撃の指示を。
結果的に621はオービットのレーザー照射を間一髪のところで回避することに成功した。
『次が来ます……!』
全六機のオービットが再びナインデッド・ネクストの背部に集合すると、それらは再び621目掛けて飛来してきた。それを見た621も同様にレーザードローンを展開、オービットとレーザードローンは互いに空間を縦横無尽に動き回りながらそれぞれが独立した生物のように、互いを撃ち落とすべくレーザーを放っていた。
オービットとレーザードローンが繰り出す光線と小規模の爆発が飛び交う空間の中を縫うようにナインデッド・ネクストは、再びミサイルとパルスキャノンを混ぜ合わせた攻撃を行い始めた。
それに対してブースターを吹かしながらライフルによる射撃を浴びせつつ、ナインデッド・ネクストの放ったミサイルをクイックブーストと飛び上がっての自由落下を駆使して回避する621。空中落下時の僅かな猶予を使って、右肩のSONGBIRDSによる二連グレネードキャノンを放出。
一瞬でも立ち止まる隙が無いと思わせるような弾幕の嵐を前に、621はナインデッド・ネクストを中心として反時計回りに動く。被弾を最小限に抑えながら、621は絶え間なくドローンを射出しつつライフルで牽制する立ち回りを余儀なくされるのだった。
しかしいかに621といえども、ナインデッド・ネクストの攻撃を完全に避けきれるわけではない。ライフルによる射撃やグレネードの爆風などの小さなダメージをナインデッド・ネクストに与えることは出来ても、決定打となる明確なダメージを与えられていない状況だ。
近づけばあの二つのブレードで容易くバラバラにされるのは目に見えている。かといって中・遠距離になれば反則級の射程距離と威力を持つパルスキャノンとミサイルが即座に飛来する。更に言えば621が射撃を当てられているのもそのほとんどが通常形態、すなわちナインデッド・ネクストが飛行形態となった時には全く命中させられていない状況が続いているのだ。
『このままではレイヴンが……!』
そんな状況を鑑みて思わずエアが呟く。
これまでのどんな敵よりも強くて、厄介極まりない。そう思った621の視線は僅かにナインデッド・ネクストの背中のフライトユニットに向けられた。ナインデッド・ネクストの強みがその武装にあるのは間違いない。
そしてそれを駆使するフィムの卓越した操縦技術はもっと危険。その認識自体は621も抱いていた。
しかし621が何よりも危険視したのは背中のフライトユニットから繰り出される機動力だ。あれがある限り、自分の攻撃は回避される上にたちまちフィムにとって優位な立ち回りをこちらに押し付けられる形になる。
だからこそ621の狙いはフライトユニットを優先することに切り替わり、接近戦以外の手段、すなわち狙撃によるフライトユニットの破損を狙うべくこれまで以上に集中力を高める。先のオールマインド……イグアスとは比べ物にならない
『レイヴン……どうにかしてサポートする手段を探してみます。どうかそれまで……!』
『エア。残念ながら、貴女にとれる手段はありません』
絶え間なくオービットとレーザードローンが行き交う戦場の最中、オールマインドはエアに全てを諦めるよう告げる。
『機体は先の闘いで動けず……どうすれば……』
先のオールマインドもといイグアスとの戦いではエアは旧世代ACに乗って621を援護していた。
しかしイグアスの起こした特殊な電磁波によってACとの接続を絶たれ、ACが機能停止に追い込まれていた。そのことからエアは、今苦戦している621の手助けが何一つ出来ないことに歯痒い思いを抱いていた。
どうにか621を助けることは出来ないか、隣で立って戦うことが出来るのが最善ではあるが、それすら出来ない状況であのナインデッド・ネクストの力を削ぎ落せないかと試行錯誤を繰り返す最中も621は徐々に追いつめられていた。
――と、その時。
『……あれは』
不意にエアが呟いた。
『レイヴン、少々お待ちを……どうかそれまで生き残ってください』
エアの見つめる先にはルビコンを覆うように広がる屑星と、一際目立つある
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――やはり手ごわい。
621と対峙するフィムは図らずも621と同じような結論に至っていた。
自分が取れる最善かつ最強の戦術と機体を持ち合わせてもなお、今だに決定打となる一撃を与えられていないのだ。
慢心でもなんでもなく。急加速したナインデッド・ネクストから繰り出されるブレードの連撃を避けられるものはいないと考えていた。しかし621は回避して見せた。完璧までとはいかないまでも、確実に致命打となる一撃を避け、反撃に転じて見せた。
オービットによる攻撃もレーザードローンによって阻まれ、ミサイルも巧みな操作技術で回避されるか出力を制御したブレードで薙ぎ払われる。フロイトとの戦闘で消耗した武装を交換し、対応力が極めて高いアセンブルにしたことが功を奏したのか、フィムの攻撃に対応できているようだ。
ナインデッド・ネクストの武器に対して完璧な対処を繰り返す621に対してフィムは改めて621を倒すべき最後の障害――イレギュラーとして見なし、これまで以上の集中力を高めるのだった。
「これならどうだ」
予めミサイルで粗方の逃げ道を塞いだ上で、上空のナインデッド・ネクストのブレードから放たれた真紅の光波を二つぶつける。
「――ッ!!」
十字を刻むように飛来する光波を前に、621は四方八方から迫りくるミサイルの中僅かに見えた隙間に目掛けてブーストを吹かす。到底普通のACでは通り抜けられないような隙間でしかない筈だが、621は今もオービットと撃ち合っているタレットの幾つかを操作し、自身の近くのミサイルにレーザーを射出させ、ミサイルを撃墜させた。それによって621は包囲網を回避することに成功したのだ。
――やってくれる……!
フィムの口角は無意識に上がっていた。
自分の期待を常に思わぬ角度から超えていく621にフィムは思わず畏敬の念を込めるのだった。一連の行動に僅かに見惚れていたからだろうか……遂に爆炎の中から撃ち込んできたリニアライフルの一撃がナインデッド・ネクストに命中した。
『フィム、対処を』
(集中し直さなければな……)
ナインデッドの頃よりかは装甲は分厚くなったものの、それでも防御は比較的弱いナインデッド・ネクストにとって高威力のリニアライフルの一撃はスタッガー状態を誘発させるのには充分な威力だった。速やかに621が接近してくる。
「なるほど……!」
『フィム、オービットで防御を……』
オールマインドが直ちにオービットを招集させて621を妨害しようと目論むも、すかさず621もレーザードローンを用いてオービットを阻害し、遂にナインデッド・ネクストの懐に潜り込んだ。
『対処を!』
「言われずとも」
スパークが生じ、一瞬早くナインデッド・ネクストをパルスアーマーが守る。621の攻撃は防がれたが、それを見た621はすかさずグレネードによる一撃とブレードを叩き込む。狙いはパルスアーマーの速やかな解除、せっかく手に入れた接近の機会を逃さぬべく食らいつくその姿は猟犬そのものだろう。……もっとも、もはやその手綱を握る者はいないのだが。
621のそうした行動によって、パルスアーマーは621の機体から離れる頃には既に解除寸前まで追い込まれていた。いかに高性能なナインデッド・ネクストであろうと、流石に武装や推進力に力を注いだこともあって、常時パルスアーマーを張り巡らせることは不可能だった。それは技研の技術をもってしても不可能なことであった。
621から離れ、距離を取ろうとしたフィムの背後に突如外部から衝撃が加わった。
「ッ!? 何を食らった!」
『背後からのレーザードローン……!?』
「……ッ! あの時か!」
そう、621はオービットとレーザードローンがそれぞれ撃ち合っている最中、幾つかのドローンを敢えて何もない方向へと誘導していた。621としてもフィムがそう易々と接近を許すような人物でないことは初めて対峙した時から実感していた。
故に621は待った。
ナインデッド・ネクストがパルスアーマーを身にまとい、そして解除されるその時を。
本来であれば自動で行われるレーザーによる支援攻撃であるが、621はそれを自ら操作できるようにマニュアルに切り替えていた。そうしなければ隙を作り出すことはできないと踏んでいたからだ。
結果としてナインデッド・ネクストは無防備な背後から接近してきたドローンのレーザー攻撃をまともに受け、更に僅かに動揺した隙を見計らって撃ったリニアライフルのチャージ射撃を受けることになった。
「グッ……!」
フィムの唸り声と共にナインデッド・ネクストから僅かに爆炎が生じる。パルスアーマーの使用と不意を突いたドローンとリニアライフルの攻撃を受けてたまらず地に足を突き、621とさらに距離を取る。
「やってくれる……」
それはフィムの心からの賞賛であり――
「ここからが本番だ」
『ジェネレーター出力再上昇。コーラルの指向性を制御。ナインデッド・ネクストに集結』
さらなる闘争の始まりでもあった。それを告げるかのようにナインデッド・ネクストにコーラルの紅い光が集まり始めていた。
『――オールマインドは知りました。自らの出生、自らの生まれた意味を』
それはフィムが技研の工房内にてデータを閲覧していた時のことだ。
ナインデッド・ネクストを制作するにあたって技研内のコンピューターを復旧させた後、フィムはそのコンピューター内にある記述を目撃した。
――“コーラル指向性制御サポートAI”
コーラルの制御方法を模索していた技研の研究者がある時、とある発想に基づいてそれを造り上げたそれは酷くオールマインドの性質に合点が行く代物だった。
その内容は、今の人間では制御が出来ないコーラルを制御するにはどうすれば良いか、という問いかけであり、そしてそれに対する回答こそ――
普通のAIにしては明らかに人間よりも感情が込められている。そして機械に干渉することが出来る性質と合わせて考えると、オールマインドが一般的なAIと似ている様で違うのも当然。なぜならそもそもの基盤にコーラルが用いられていたのだから。
621に対して様々な感情を向けるエア、そして解放戦線の指導者であるサム・ドルマヤンとかつて交信していたと思われる同じく変位波形のセリア。彼女達はいずれも感情を持ち、そして人との共生を夢見ていた。
だがオールマインドはコーラルを基盤にしつつも、人間の手で制作されたAI。感情こそあれど、共生という考えが根本的になくただただ “コーラルを制御する” という目的の為に作られ、そしてそれが暴走しただけのAIに過ぎないのだ。
「『……イレギュラー』」
「『お前の生きる意味を、そしてそれに至るまでの選択を……私に見せてみろ』」
真紅の光を放ちながら再びナインデッド・ネクストが立ちはだかった。
※あくまで作者の考察兼オリジナル要素です。
コーラル変異波形:感情がある。共生を考えている
AI:感情が無い。あくまで作り手の目的重視。
↓
・オールマインド:感情がある? あくまで作り手の目的を重視している(オールマインド自身のものではない可能性)
・コーラルは万能物質
→じゃあコーラルを使ってAI作れんじゃね?
というガバガバ考察なのでお許しを。
ナインデッド・ネクストの見せ場的にも、展開的にも美味しい状況にする為のオリジナル要素ですハイ。