ナインデッド・ネクストがコーラル特有の真紅の光を発したと共に、その身に真紅のパルスアーマーを纏った。
オールマインドによるコーラルの干渉によってジェネレーターの性質が変化、ナインデッド・ネクストは更なる推進力を獲得するに至り、目元は全体的に紅い光を放ち発光している。
コーラルの指向性を制御するという本来の性質を遺憾なく発揮したオールマインドにとって、これは本来の性質を活かせる初めての機会。これまでの傭兵支援システムの運営やACパーツの作成などと比較してもそれが傍から見て、かなりの難易度を誇るのは間違いない。
――しかし、それは誤った認識だった。
『なるほど。イグアスの言っていたことも分かる気がします……確かにこれは――透明で、気分が良い』
天輪がごとき軌道を描いていたオービット、それが射出された。
621に真紅の残影を置き去りにしながら斬り掛かっている間に射出されたオービット、そしてミサイルに至るまでナインデッド・ネクストの武装一つ一つにはオールマインドの手によって、その一つ一つにコーラルが集まっていた。
ミサイルに至っては着弾地点からコーラルの爆風が発生し、ブレードも621が間一髪躱せただけでブレードが燃えているように膨張、そして刀身そのものが延伸していたのだ。
更にフィム一人で制御していた時のオービットとは明らかに行動が複雑になっており、迎撃のために回避しつつドローンを射出した621もその複雑怪奇といえる程の機動性に少なからず動揺していた。
機体と同様に紅の軌跡を残しつつ、放たれるレーザーにはコーラルが混じっていた。またその機動性は完全にドローンのそれを上回っており、互角だったオービットとドローンの勢力が完全に前者に傾く結果になっていた。
ブレードから放つコーラル光波を621に飛ばしつつ、フィムは僅かに赤みがかったパルスキャノンを浴びせる。
回避しきれず機体にパルスが衝突したことで、衝突した右肩の一部がガラスを砕くように破損してしまう。そして僅かに体勢が崩れた所目掛けてオービットからのレーザーが放たれ、621はそれをブレードで薙ぎ払うことで難を逃れることに成功。再び再装填を済ませたドローンを飛ばし、再びオービットとドローンが銃撃戦を繰り広げることとなった。
全てのスペックをコーラルの指向性制御に総動員したことで、少なくとも傭兵支援システムとして機能していた頃よりもその精度は格段に向上していると言えるだろう。その証拠として高濃度のコーラルで満ちている筈のナインデッド・ネクストのコックピットにいるフィムには、コーラルによってもたらされる副作用の一つも作用していないのである。
『これはどうです?』
「――ッ!」
六つのオービットが空中のナインデッド・ネクストの背部に集まるや否や、急速に回転を始めた。
それに伴いオービットにコーラルの光が宿り始めると、やがてその光がナインデッド・ネクストに接続。ナインデッド・ネクストの胴体にエネルギーが蓄えつつある合図だ。
そしてそれを見た621がブースターを吹かしたと同時だった――真紅の巨光が自分の真横を突き抜けたのは。
「ッ!!?」
機体を覆い隠すほどの太さを誇るアサルトキャノン。
戦場となっているロケーション上の柱が文字通り蒸発していく光景を横目に621はひたすらブースターを吹かしながら、自分を追跡する巨光から逃れようとしていた。まともに食らえば間違いなく機体諸共蒸発するだろうということを嫌と言う程理解させられた621。
そしてナインデッド・ネクストを視界に収めつつ621はそこにドローンによる追撃を行おうとした。
なぜならナインデッド・ネクストの強みであるオービットは、今はナインデッド・ネクストにエネルギーを供給するために総動員されている。そのため、今ナインデッド・ネクストは防御の全てをパルスアーマーに頼っている状況であることに他ならない。
故に621は密かにライフルのチャージを済ませつつ、牽制代わりのドローンを飛ばした。
「アーマーを削りに来たか」
ドローンから放たれたレーザーがパルスアーマーに直撃し、その耐久値を削る。そして丁度アサルトキャノンを打ち終えた瞬間を見計らって放たれたリニアライフルの一撃は、アサルトキャノンを打ち終えた直後のナインデッド・ネクストでは回避できず、そのままアーマーの耐久減少に更に拍車をかける。
「イレギュラー……もっと見せて見ろ。お前の可能性を」
『――では先に私達の可能性を見せて差し上げましょう』
ナインデッド・ネクストから紅い粒子が機体の外に漏れ出した。漏れ出した粒子がみるみるうちに形を整えていく。そして数秒も経たない内にナインデッド・ネクストの両横にコーラルで構成された複数体のナインデッドの幻影を形成したのだった。そしてミサイルを621を標的としてロックを済ませると同時にナインデッドの幻影が621に襲い掛かった。
六つの幻影が621目掛けてブレードを振りかざしながら特攻を繰り出す。
621は迫りくる幻影を巧みなブースト捌きを用いて幻影が繰り出す不規則なブレードの連撃とコーラルレーザーを回避する。621はその間も再装填を終えたドローンを次々と飛ばし、その中にライフルの通常射撃を織り交ぜた攻撃を並行して行っていた。
右手のリニアライフルと左手のブレードで応戦しながら621はナインデッド・ネクストのパルスアーマーを削る算段を立てていた。
右の特殊なパルスライフルから繰り出されるコーラル混じりのパルスを回避するために立ち止まることを許さない状況の最中、意識外から繰り出されるオービットによる射撃やミサイル、そして不意に繰り出されるチェーンガンなどの豊富な武装。これらを常に意識しなければならないというのは至難の業だ。
加えてオールマインドのコーラル操作によって強化された武装や先程のような幻影を用いた攻撃にも対応しなければならない為、その難易度は更に困難を極めている。その所為か徐々に被弾も増え始め、機体の装甲が元の面影を辛うじて保っている状態で、加えてリペアキットの残りも心もとなくなってきており、窮地に立たされつつあった。
さらに言えばドローンを始めとした武装の残弾数も心もとない状況にある為、状況は圧倒的に621の不利に傾きつつある。そんなときだった。
『――レイヴン』
621の脳内にエアの声が響き渡る。オールマインド達が反応を返していない為、621の脳内のみに限定して語り掛けているようだ。621は迫りくるミサイルとそれに紛れて迫るナインデッド・ネクストの相手をしながらエアの言葉に耳を傾ける。
『あのパルスアーマーを剥がしてください。私に考えがあります』
□■□■□■□■
『フィム』
「後ろだな」
背後から忍び寄っていたレーザードローンを後ろを見ずに放ったパルスライフルで処理しつつフィムは621を見据えていた。
自分の猛攻を耐え凌ぐだけでなく、自分を出し抜く程の機転の良さ。自分の全てを体現したナインデッド・ネクストでも、いかに621だろうと瞬殺できるとは到底思っていなかった。
決して侮りではなく、フィムとして幾千もの戦場を渡り歩いてきた経験と勘がそう告げていた。
しかし今や、621はナインデッド・ネクストのように機体性能に優れている訳では無いいたって普通のACで自分に食らいついてきている。ここに来てフィムはイレギュラーという言葉の意味を身をもって思い知らされているような気分になった。
それは恐怖と言うより畏怖、畏敬に近い感情だろうか。あるいはその両方か。
「これも躱すか……!」
飛行形態に移行して放たれたミサイルとチェーンガンの包囲網を潜り抜けた621に感嘆の声が漏れる。ナインデッドの幻影による追撃もブーストを吹かしつつ機体の姿勢を傾けるだけで回避をしたのだ。
『接近します。オービットを……』
「いや、ここで迎え撃つ」
幻影の間を縫うようにしてナインデッド・ネクストを視界に収めた621を前にオービットを戻した所で間に合わないと判断したフィムは、ブレードを構える621に対して同じくブレードを展開して迎え撃った。
ブレードを展開しながらアサルトブーストの推進力で迫りくる621。それに両腕からコーラルブレードを展開して621を切り刻もうとした。
互いのブレードの光が衝突する寸前――突如621は機体のブーストを切った。
「これは……!?」
『フィム! 回避を!』
しかしオールマインドの忠告も遅く、機体の推進力をゼロにしたことで自由落下状態に陥った621の機体から繰り出されたSONGBIRDSの二連グレネード攻撃をまともに受けた。
これによって遂にナインデッド・ネクストのパルスアーマーが消失。フィムは621の土壇場での行動に思わず肝を冷やすと共に驚愕した。621の猛攻でパルスアーマーが消失した反動で機体の制御が離れ、機体が無防備に晒されることとなった。
そしてその隙を逃さない存在が遥か彼方にいた。
『レイヴン!』
『――ッ!! フィム! 急いで回避を!』
フィムがオールマインドの発言に気付いて空を見上げると――既に目の前に光が迫っていた。
(衛星……砲……!?)
ナインデッド・ネクストの機体制御の復帰を待たずして、エアがハッキングした衛星砲から放たれた一撃は、ナインデッド・ネクストのフライトユニットに直撃した。
「フライトユニットが損傷……地上に激突する……!」
『フィム!』
さしものナインデッド・ネクストでもフライトユニットに衛星砲並みの一撃を与えられたことで損傷を免れず大きな爆発を生じさせた。それに伴いスタッガー状態に陥ってしまう。そしてエアの合図を聞いていた621はチャージ済みのリニアライフルの一撃とSONGBIRDSの二連グレネードの一斉掃射を敢行。それだけにとどまらず、621は最大出力のブレードを叩きこもうとしていた。
「グアッ……!」
『オービットを招集して防御を……!』
『レイヴン! オールマインドの妨害は私が!』
オールマインドの健闘虚しく、立て続けに放たれた衛星砲の正確無比な狙撃によってオービットは瞬く間に機能を喪失してしまい、フィムにもオールマインドにも取れる術は消えた。
「やってくれる……!」
間一髪スタッガー状態から復帰を果たしたフィムが621目掛けてブレードと光波を叩きこもうとするも、621の方が一手早く胴体から左手にかけて切断したのだった。
『フィム!!』
「……なる、ほど……」
瞬間、ナインデッド・ネクストから爆炎が生じた。
□■□■□■□■
『レイヴン……これで、漸く……』
爆炎に包まれていくナインデッド・ネクストを見てエアがそう呟く。
これまでの数々の妨害を潜り抜け、本来の目的を果たそうと621と共にリリースのトリガーを引こうとバスキュラープラントに目を向ける。
『レイヴン。共に新たな時代を……』
「――まだだ」
聞こえるはずがないその声にエアと621は思わず声の発生源――ナインデッド・ネクストの方を振り返る。
「まだ負けていない」
機体からはコーラルの光が破損した箇所から漏れ出しており、更には胴体には斬撃痕、極めつけはナインデッド・ネクストの左腕が欠損していた。
そのような状態であるのにも関わらず、目の前のナインデッド・ネクストからはフィムの力強い声が響いていた。その執念に思わずエアも息を呑んだ。
『なんという執念……! レイヴン!』
『エア。我々は、まだ負けていないのです』
スパークを生じさせながらゆっくりと立ち上がるナインデッド・ネクストの姿はもはや元の面影はなく、まるでふらふらとこの世にしがみつく幽鬼のようだ。
「『――コーラルの指向性を、再びナインデッド・ネクストに』」
ナインデッド・ネクストから散らばった筈のコーラルの光が再び戻りつつある中、ふとコーラルの光が元の赤い光から、まるで色が抜け落ちたかのような灰色に近しい白へと変色を遂げていた。
『高濃度のコーラル反応……!? この濃度は……危険です! 近づくだけでも……!』
「もういい、ここにおいて建前も本音ももはや価値を失った」
ガシャンと音を立てながら半壊したナインデッド・ネクストの目が621を見つめる。
「イレギュラー」
「――私はお前を倒す」
※と言う訳で第三形態です。
イメージとしてはナインボール・セラフ撃破時に流れるムービーのような状態(全身破損、フライトユニット爆発、左腕欠損)でコーラルの白い光に包まれての戦闘再開です。
Q.なぜ白色?
A.サンゴ礁(コーラル)の白化現象 がモチーフです