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BGM「9」
ナインデッド・ネクストが再起動を果たすと同時に、機体を中心に薄白のコーラルが拡散した。
『レイヴン、あのコーラル濃度では機体が持ちません! 長期戦を避けましょう!』
エアの忠告通り621の機体のAPは少しずつではあるが減っている。そしてナインデッド・ネクストとの距離が縮まるほど、コーラルによる機体へのダメージが激しくなっている。これによって621は短期決戦かつ遠距離からの攻撃をせざるを得なくなった。
しかし621は先程までの激戦でドローンは全て使い切ってしまい、更にSONGBIRDもあと一発しか撃てない状況だ。手持ちのリニアライフルとブレードが頼りなのだが、それらは中・近距離で効果を発揮する為、必然的に621はナインデッド・ネクストに近づかなければならなくなった。
621は意を決してナインデッド・ネクストの射程圏に潜り込みに行った。
迫る621。ナインデッド・ネクストは変わらず白く変色したコーラルの光を発生させながら621目掛けてパルスライフルによる攻撃を開始した。
フライトユニットの破損によりユニットに備え付けられた武装が使用不可に。更に機体自体の大きな破損によって左腕の破損、これにより左腕の武装が使用不可となりさらに機体のバランス制御にも影響が出ていた。
『あれほどのコーラル濃度……少なくともパイロットにも影響が出ている筈……』
エアの言葉通り、如何にオールマインドのサポートがあれどもフィムにも悪影響が及び始めていた。
身体が侵食されていくような感覚、置き換わるという表現が正しいとさえ思えるような妙な感覚をフィムは味わっていた。
中毒性があるコーラルだが、そのあまりの密度によってフィムの視界は澄み渡っているもののもはやそれ以外の感覚を喪失――視界と聴覚以外の五感を喪失していた。
「やるな……」
片腕を失った分のバランスを取りながら、正確無比な射撃と621の攻撃を回避することを並行して行うフィム。互いに限界を迎えつつある中で、それでも最善の行動を取り続ける621に心からの賞賛を捧げた。
全身からあふれ出すコーラルをブースター代わりに高い機動性を確保しつつ互いに鍔迫り合いを繰り広げる。
ナインデッド・ネクストが切り払って621を吹き飛ばすと621目掛けて突撃する。621は体勢を立て直しつつ素早くリニアライフルを構える。しかしナインデッド・ネクストのブレードがコーラルを帯びて延伸すると621のリニアライフルの銃身が容易く切断されてしまった。
『レイヴン、パージを!』
爆発寸前のリニアライフルを横に投げ捨てる621の目の前でナインデッド・ネクストの失った腕から多量の白光が漏れ出す。そしてそのまま薙ぎ払うように621目掛けて光の奔流をぶつけようと機体を傾ける。
621はエアの警告を聞きながら咄嗟に飛びあがる。僅かに脚部の先が光に触れる。光に触れた箇所が神隠しにあったかのように消え、621は焦りを覚える。
空に逃げた621目掛けてパルスライフルを照射しようとするフィム。
「ッ!」
『フィム、今すぐそのライフルをパージしてください!』
一瞬早くパルスライフルを横に投げ捨てる。濃縮コーラルによる影響下にある中にあるのにも関わらず酷使し続けたことで許容力を超え、ナインデッド・ネクストの近くで爆発した。
互いに銃を失ったことで、残されたのは一振りのブレードのみ。
そのことを理解した621とフィムは照らし合わせたかのように互いに向き合い、ブレードを構える。
機体の限界を知らせるアラームが鳴り響く中、遂に二人が同時にブースターを吹かした。
『――レイヴン!』
「――フィム!」
目と鼻の先に迫る621目掛けてフィムが右手を突き出す。
ブレードの刃先が621の機体の胴体目掛けて繰り出される中、621は後方から半円を描くように大きくブレードを切り払う。
そして……ナインデッド・ネクストのブレードが621の機体に達する――その前に、勢いよく切り払った621のブレードがナインデッド・ネクストの腕を切り裂きながら胴体を袈裟切りにした。
『フィム!!』
それと同時だった。ナインデッド・ネクストが機体の限界を迎えたのは。
『機体の制御が……コーラルを抑えられない……』
621の攻撃が機体の爆発を誘発し、ナインデッド・ネクストからは遂に機能停止に追い込まれた。機体の制御を失ったことで暴走したコーラルがナインデッド・ネクストの四肢からあふれ出し、それに伴う大きな爆発を生じさせるのだった。
「あぁ……あと一歩、届かなかった、か……」
誘爆によりナインデッド・ネクストの頭部が大きく破損、コックピット内は暗闇に包まれた。
(オールマインドは既に……機能停止したか)
名残惜しいと言わんばかりの表情と、悔しさと渇望をにじませた声色が静かに木霊する。
(負け……か。だが、しかしこれは……)
これ以上の無い完璧な敗北。それを認識したフィムは一転して満足気な表情を浮かべたまま、最後の最後に己の心の内を吐露するのだった。
「戦い続ける……歓びを……」
やり切った満足感とそれでもなお湧いてくる渇望を口にしたと同時に、ナインデッド・ネクストが白い光を伴って大きく爆発した。
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『――……ィム、フィム。目を覚ましてください』
聞きなれた声に沈んだ意識を浮上させる。
鮮明に聞こえつつある声に徐々に晴れていく視界。フィムの意識が完全に覚醒するとやがて自分が水の中に沈んでいたことを認識する。
慌てて身体を起き上がらせようと身体を動かそうと腕を顔の横に立てる。
「……なんだこれは」
フィムの目に映るその腕は、見慣れた浅黒の腕ではなく赤と黒を基調とした機械の腕だった。
左腕も同様に機械と化しており、混乱するフィムだったがズキッとした痛みと共に脳裏にある光景が浮かぶ。
「……そうか。俺は……負けたのか」
イレギュラー。
フィムがそう呼んでいた621によって自分が止めを刺される瞬間を。決死の一撃によって繰り出されたブレードの刃がナインデッド・ネクストを完全に破壊し、そしてそのまま眠るように自らが意識を失っていたことを。
しかしどういう訳か、意識がある。それにナインデッド・ネクストと共に消滅した筈のオールマインドも傍にいる。
一体全体どういうことかと悩んでいるフィムにオールマインドが声をかける。
『フィム。お目覚めのようですね』
「オールマインド……これは一体なんだ? 俺の身体は一体どうなって……」
『フィム。水面に映る貴方の姿を見てください』
オールマインドにそう促されたフィムは視線を下に向ける。
「ナイン……デッド?」
水面からこちらを覗き込んでいたのは、自分の顔ではなく自らの愛機――ナインデッドの姿だった。
指先から腕、胴体、脚へと視線を映すとフィムは漸く自分が人間の身体ではなくACのナインデッドに身体が置き換わっていることに気付き、複雑な感情に襲われる。
「なぜこうなったのか、訳が分からない……」
『どうやら……レイヴンとエアがリリースのトリガーを担った際、かろうじて生きていたフィムとオールマインドもコーラルリリースに巻き込まれて、彼らの世界に組み込まれたようですね。結果的に私達は統合されたようです』
「……これは成功なのか?」
『コーラルリリースという計画の観点から見れば成功と言えるでしょう』
コーラルリリースが始まった時、かろうじて生き残っていたフィムは人の身でありながらACの身体を手に入れるという不可解極まりないことに陥っていた。
オールマインドの見解によれば、結果的にトリガーを引いたのはレイヴンとエアではあるが、近くにいたフィムが最後の最後に願った『戦い続ける歓びを、もう一度』という願いも反映されたことでリリースによって流れたコーラルがフィムの望む闘争の形――すなわちその原点である自らの愛機……ナインデッドを構築させたのではないのかというのだ。
それを聞いたフィムは妙な合点がいったような感情を抱き、周囲に落ちていたナインデッドの武器を拾い集め、ゆっくりと立ち上がり空を見上げた。
晴れ晴れとした青空、星々のように輝くコーラルの紅い光が明滅する。
フィムの脳裏にはこの世界に転移してから、これまでの全ての記憶が走馬灯のように駆け巡っていた。一言では表せない感情の濁流が押し寄せて、涙腺が緩みそうな感覚がしたが、ACの身体では涙を流せないことを思い出して苦笑した。
暫く空の光景に思わず見惚れていると、オールマインドが――。
『フィム。貴方のお蔭で私は自分のやりたいことを見つけることが出来ました。失敗続きで何時も迷惑をかけていた私に生きる意味と、選択を与えてくださり――ありがとうございます』
それは決してプログラムによって生み出された言葉ではなかった。オールマインド、ひいては彼女の心からの感謝だった。
「失敗続きだったのは自覚があったんだな」
『お恥ずかしながら、多くの人間を取り込んだことで漸く私は自分の犯したミスについて気づかされました。もう二度と同じような過ちは繰り返さないでしょう』
「そうか。それで……お前はこれからどうする? 見ろ」
フィム……ナインデッドが周囲を振り返る。
水面から目覚めたのはフィムだけではなかった。そこには見渡す限り大量のACがフィムと同じく空を見上げるようにして佇んでいた。
「リリースが達成されたことで、こいつらは何をするか。まぁ……戦うんだろうな。それがイレギュラーの望んだ世界だからな」
彼らは暫くすると己の本能に従い……これから多くの場所で戦いを繰り広げるだろう。
フィムは感情を手にしたオールマインドの選択を待った。オールマインドと統合したことである程度考えていることが解るようになったことで、今、オールマインドは何かを決断しようとしていることに気付いたのだ。
『……フィム。一つ提案があります』
オールマインドが語りだした内容は以下の通りだ。
まず、コーラルリリースのトリガーを担うことには失敗した。しかし人類を導くという使命を捨てたくない、もう一度その機会があればトリガーを握りたい。しかしそれは叶わない。だが何の縁か、こうしてフィムと統合されて意識を保つことが出来ている。
とどのつまり――
『私と共に彼らを統率し、新たな人類の可能性を導きませんか?』
フィムと共にこれから混沌に満ちるであろう世界を統率する存在に成り代わり、人類の可能性を切り開くことをオールマインドは望んだのだ。そして当のフィムは――
「断る理由はない」
『共に、新たな人類を』
――メインシステム 戦闘モード起動。
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かくして、コーラルリリースによって各地の宇宙にACがばらまかれ世界が混沌と闘争に満ちた。
新たに生み出された彼らはやがてそれぞれの人格を獲得。そして彼らは自らを“レイヴン”と名乗るようになった。
彼らは日々、自らの可能性を模索する為に戦う。そして次第に力を持った企業が新たに台頭するようになり、世界からは再び戦火の燻りが見え始めていた。
――その頃からだった。レイヴン達を傭兵派遣組織として管理する組織が発足したのは。
いかなる企業に対しても中立の立場を貫くその組織は、企業からの依頼を斡旋し、それら様々な依頼をレイヴンに与えていた。
さらにそんなレイヴン達が競う見世物の娯楽……アリーナを主催、個人の評価に直結するランキングシステムによって高ランクのレイヴンには、より高難易度の依頼とそれに見合った報酬となにより名誉が与えられることになった。
そして、そんな彼らが注目するとある存在がいた。
それは生ける伝説――アリーナのトップランカーと呼ばれる存在。誰もが認める最強の存在。素性は不明、しかしその卓越したACの操作技術は神掛かっているとまで称されるほどだ。
アリーナ発足時から常にトップを保持し続けているその人物の名は――
『フィム。彼らを管理するための組織を結成しましょう』
「構わんが、名前はどうする?」
『既に決めてあります。彼ら……コーラルの彼方からやってきた渡鴉を纏めるための相応しい組織――
――
これにて本編完結です。今までありがとうございました。
まさかここまで評価されるとは思いもしませんでしたが、自分なりにナインボールを書けたのでとても満足でした。
またいつも感想を下さった方々、誠にありがとうございました!
一応本編は終わりですが、最後に掲示板やら何やらでこの世界線のプレイヤーの声を書いて終わりにしたいと思います!