案の定感想でオールドンマイに言及してて草ですわ
アーキバスがルビコンに密航してから暫く。
フィムはというと主に惑星封鎖機構やルビコン解放戦線を始めとした敵対勢力の戦力をそぎ落としながら、アーキバスの重要物資の護衛任務を日夜行っていた。
解放戦線がフィムに対抗すべく技術格差を目覚ましい速度で縮めたことで、ターニングポイントである『壁越え』以前の解放戦線では考えられないような戦力が揃いつつあった。その影響たるやフィムの知る作中の解放戦線の保持する戦力とはかけ離れており、特に『壁』の戦力には本来一機しか配備されていなかった四脚MTが確認できただけでも三機配備されていることが判明し、更には壁全体に設置された重火器の増強、果ては重装機動砲台ジャガーノートと呼ばれる強力な兵器が4機も確認されたのだ。
もはややけくそとも思える戦力の増強具合だが、それだけ連中のフィム……ひいてはフィムの所属するアーキバスに対する警戒心が強いということだ。アーキバスが壁越えを企むのではないかと解放戦線側が考えた結果、壁に戦力を集中させることを選んだのだろう。
しかし当のフィムはというと、思っていた以上に解放戦線側がたくましいという現状と……もしそれをプレイヤーとして攻略出来たのならどれだけ楽しかったかと考えており、フィムの口角は無意識の内につり上がっていた。
とはいえ今のフィムはアーキバス所属のヴェスパー部隊。独立傭兵と異なりある程度自由に動けないという制約が課せられている。更に言えば長期間にわたるベイラム及び解放戦線、惑星封鎖機構の三大勢力に対する強襲任務を終えたばかりなのでスネイルからも待機命令が出されている。加えて今はフロイトも別件で留守にしている為……要するに暇なのである。
と、そこへ二人分の足音が響き、フィムは振り返る。
「おや、君は……フィム君。長期間の任務お疲れ様」
「これはこれは第九隊長殿。お疲れ様です」
背後を振り向くと、そこには落ち着きのある年配の男ことヴェスパー第五隊長のホーキンスと好青年の印象を与える第八隊長のペイターがいた。
「こうして顔を合わせるのも久しぶりだね。ペイター君との顔合わせ以来じゃないかね?」
ホーキンスの言う通り、彼らと顔を合わせたのはペイターとの顔合わせ以来でありこうして会話をするのも実に数年ぶりのことである。
「そうですね、第九隊長殿とこうして面と向かってお話をするのはこれが二回目ですね」
好青年な印象を思わせるペイターだが、彼は初対面でフィムがなぜ9の番号に固執しているのかを表立って聞いたことのある人間である。
周りがあまり聞こうともしなかったことを本人と周りがいる前で声を上げて尋ねたのは後にも先にも彼一人だけだ。恐れ知らずと言えば聞こえはいいだろうが、彼の性格を知っているフィムからすればそれが最新の手術の後遺症であってくれと何度思ったか。
「……最近使っている独立傭兵についてだが」
「あぁ、あの独立傭兵レイヴンですか。第9隊長殿の耳に入っていましたか」
「確かあのハンドラー・ウォルターの猟犬だそうじゃないかペイター君」
ハンドラー・ウォルター。
ルビコン以前からその悪名を轟かせている人物であり、このルビコンでも彼の猟犬……すなわち独立傭兵レイヴンが猛威を振るっていることはアーキバス内でも周知の事実だが、フィムが求めている情報はそれではない。するとペイターはあることを呟いた。
「そういえばあのレイヴンですけど、どうやらベイラムの依頼を受けたものの途中で解放戦線側に寝返ったとか……」
フィムの動きがピタリと止まった。
「おやおや、大方報酬で裏切ったのかね?」
「恐らくは……万が一と言うこともありますし、リスク管理をしようと思いましてその件についてスネイル第2隊長殿に進言しようと」
「その心掛けはとてもいいよペイター君。とはいえスネイルに報告するまでもないだろうさ。スネイルからしてみれば今は大忙しだ。壁越えのこともある。木端の独立傭兵に構っていられない、と口にするだろうくらいには今は人手が足りないからね。だから精々レイヴンの動向を纏めた報告書だけ提出すればいいとも」
「なるほど……どうしましたか?」
考える素振りを見せるフィムに声を掛けるペイター。
しかし今の彼が考えているのは、先ほどのペイターの発言――ベイラムを裏切ったという内容である。フィムは口を開きペイターに尋ねる。
「……その任務は解放戦線側の多重ダムをベイラムと共同で襲撃する任務だったか?」
「はい、先日その周辺でAC同士の争いがあったとの報告があり……それは間違いないでしょう」
レイヴンがベイラムを裏切った任務と言うのは“多重ダム襲撃”で間違いないのは確定した。この任務こそ、フィムがこの世界が何週目に値するのかを図る判断材料でもあったのだ。
アーマードコア6というゲーム内において、ミッション中の行動や選ぶミッションによって分岐するルートが存在するのだが、今回のベイラム主導の多重ダム襲撃においてレイヴンが裏切るという場合における分岐先は2つに必然的に絞られる。
考え耽るフィムを傍目にペイターの端末から通信音が鳴り響いた。
「……これは」
「どうしたのかね?」
「あの独立傭兵レイヴンが、技研の遺産を破壊したとの報告が……」
技研。
正式名称をルビコン調査技研とする技術者集団の総称であり、アイビスの火以前に存在していた組織だ。コーラルを利用したC兵器と呼ばれる兵器やACのパーツを生み出していたのだ。
ペイターの報告を聞いたフィムの脳はある結論を出していた。
(間違いない……3周目か!)
本来であればその任務というのはルビコン解放戦線の武装採掘艦を襲撃する任務なのだが、レイヴンが技研の遺産と呼ばれる兵器と遭遇したのであればその前提が覆ることになる。
“武装採掘艦護衛”
既に3周目と呼ばれるルートへ向かいつつあることを確信したフィムはすぐさま行動に移すべく、丁度任務が入ったペイターとホーキンスを見送り、以前から接触のあったある組織と
「……さて、始めるか」
フィムが端末を操作するとすぐにそれは起動して、三角形の中にAMという文字が入ったロゴ……オールマインドのエンブレムが画面いっぱいに広がった。
『――アーキバス所属強化人間部隊V.Ⅸフィム。傭兵支援システム“オールマインド”へようこそ』
フィムがルビコンに来てから最初に手掛けようとしたこと。それこそオールマインドとのコンタクトだ。
フィム自身オールマインドの計画をあらかじめ知っており、そしてオールマインドは自らの計画成就の為に必要な人材を確保しようとしていること、そしてその条件を達成しているフィムにある取引を持ち掛けてくる時をフィムは待っていた。それこそこの3周目と確定するまではアプローチを掛けないつもりではあり、万が一向こうから来ないようであれば自らアプローチを掛けるつもりであったが、それらは杞憂だった。
オールマインドからしてみればアリーナのトップランカーを維持し続けているフィムは紛れもない強者であり、更にいえばオールマインドが求める強化人間の世代――つまるところ旧世代型強化人間という条件に当てはまっており、オールマインドからしてみてもこれ以上ないほどの人材であった。
そしてフィムもこの世界が3周目……オールマインドが暗躍するルートに突入していることが確定したことで本格的にフィム自身の計画を実行に移すべくその第一歩を踏み出した。
しかしヴェスパー部隊であることとオールマインドの計画の協力者であるV.Ⅲオキーフと異なりアーキバスでの重要度が遥かに上であることを踏まえると、オールマインドの計画にフィムを勧誘するのはかなりリスクを負うことである。そういった事情を理解しているオールマインドも大きな動きを見せられずにいた。
とはいえ何もしてこなかった訳ではなく、非常に遠回しではあるがコーラルの危険性についてとそれを制御することがオールマインドには出来るということを伝えてはいた。当人のコーラルに対する危険性を煽ることでオールマインドに協力させるということをやろうとした訳だが、むしろそれぐらいしか出来ない状況でも必死にフィムを懐柔しようとするオールマインドの涙ぐましい努力にフィムは脳裏に両手を合わせて祈りを捧げているスーツ姿の女性が思い浮かんだ。
ひとえにそれは前世の記憶に過ぎないが、何となく……日々自分にアプローチを掛けているオールマインドの様子を浮かべるとそうとしか思えないが故の妄想の産物である。
「取引の答えを持ち合わせてきた。……計画に協力するとしよう」
『フィム。貴方の協力にオールマインドは感謝します』
誰もが予期しない水面下で、フィムは己の計画を一手進め始めた。全ては“最強”に至る為、そして挑むために。
□■□■□■□■
「貴方ですか? レイヴンとかいう独立傭兵の代理人は?」
「ヴェスパー第二隊長スネイル、知己を得て光栄だ」
通話の主はハンドラー・ウォルター。
スネイルはウォルターが提案してきたある一件についてウォルターに確認と――拒否の旨を伝えようとしていた。
「『壁越え』に参画したいということでしたね? 技研の遺産を潰したそうですがそれが何だというのです。駄犬の飼い主ごときが厚かましいにもほどがある。お断りです」
「今回も第一隊長と、そして――第九隊長が出ると聞いているが……頼れる人材が他にないとは、不幸なことだ。頼みの綱が、それしかないというのも考えものだがな」
ウォルターは言外にフロイトとフィムに頼り放しであるということを告げていた。
それを受けたスネイルは、しばし間を空けた後、再び高圧的な態度をウォルターに向けた。言葉にはしないものの現状フロイトとフィムを頼りにしている場面が多く目立ち、更にフィム自身も長期間の任務を終えた直後、更に壁越えにおいてもフィムには別の任務に当たってもらうことを計画していたスネイルにとって、ウォルターの指摘は耳に痛い指摘だった。
「……ほう。貴方の駄犬にフロイトとフィムの代わりが務まるとでも? フロイトはともかくフィムの代わりを果たせるとは到底思えませんね。世迷言をほざくのも程々にしていただきたい」
「駄犬がどうかは試してみれば分かる。たとえそれがV.Ⅸであろうともな」
「ほう、大きく出ましたね……まぁいいでしょう。今回はV.Ⅳも出ることですし……あれも調子に乗っているようだ。併せてお手並み拝見としましょう」
通話を切ったウォルターは杖を突きながら己の猟犬である強化人間C4-621の下へと向かっていた。
「……ヴェスパー第九隊長、フィム……か」
己の行動次第ではアーキバスと対峙し、あのフィムを相手取らなくてはならない。そうなれば今の621は果たして生き残れるだろうか、そのことばかりが頭に浮かぶウォルターの足取りは酷く重い。
ベイラムが率いるレッドガン、その総長であるミシガン一人を除いて全滅させられた木星戦争、その惨状を作り出した元凶たるフィム。最強の座を欲しいままにするそれと対峙して生き残ったミシガンは、そのことを教訓として他のレッドガンメンバーに日々、最後まで
一秒につき九人の命が奪われているとまで言わしめた木星戦争。
そんな中で歩く地獄とも言われ、敵味方から恐れられた全盛のミシガンが手も足も出せずに負けた相手であるフィムを前にして自分は何が出来るのだろうか。自分は……621に対して何が出来るだろうか。
結論が出せないまま、やがて一つの部屋の前にたどり着くと、ドアが静かに開きウォルターは部屋の中に足を踏み入れる。ウォルターは部屋の中心で様々な機器に繋がれた車椅子に座る一人の少女に声を掛けた。
「621、仕事だ」
この世界線では周回する度に壁越えの難易度が跳ね上がっているソウル方式となっております。MTは勿論周辺設備も増強。非常に歯ごたえのある()難易度になりました。
⑨・熾天使「ステンバーイ……ステンバーイ」
621に関しては……趣味です。