界隈ではまた新たな火種が現れ始めましたが、もう何が何だか分からなくなりました。
それではどうぞ
ナインデッドが急接近してきたことで反射的にブレードを振りかざした621だが、それを読んでいたかの如くナインデッドはブレードの当たらない横へとブーストで回避した。ブレードが空ぶった隙を逃さずフィムはパルスライフルによる三点バーストを寸分の狂い無く命中させる。
『AP残り50%』
機体にダメージを負った621だが、すぐさまブーストを吹かしてお返しとばかりにナインデッド目掛けて蹴りを――
「ッ!」
「良い直感だ」
既のところで急速に後方へと方向転換したことで危うく621は反撃とばかりに繰り出されたナインデッドのブレードを回避することに成功した。
あのまま行っていたらナインデッドのブレードの餌食になっていただろう。その事実に冷や汗を流しつつも621は肩に装填された小型2連双対ミサイルのロックを済ませ、速やかに発射した。
左右から挟み込むような軌道で追尾するミサイルはナインデッドの回避する方向を制限する。そして621はミサイルによって塞がれた左右の回避ルートに付け加えるようにナインデッドの真正面目掛けてバズーカの引き金を引いた。
それに対してフィムは着弾までが早いバズーカの回避を優先するために自ら後方へとブーストを吹かし、そのまま横へと逸れた。迫りくる4つのミサイルは回り込むようにして回避、そしてミサイルのロックを意図的に外すようにして動き、621が追撃に放った二連グレネードの二つの弾頭目掛けて同じく自身の二連グレネードを叩き込むのだった。
正確無比に放たれた弾頭同士が着弾、爆風が発生し視界が遮られると、煙幕を裂くようにして621目掛けて轟音と共にフィムの大型グレネードとパルスライフルが放たれた。
『レイヴン!』
視界が遮られている状況にも関わらず、621が咄嗟に回避行動しなければ直撃していた……と思わせるほどの精密な狙いだった。621が大型グレネードが着弾した位置を確認したその刹那の間にもフィムは上空に上がり、追い打ちとばかりにパルスライフルによる追撃を加え始めた。
試作品の改良版とは言え、当たればかなりの威力を発揮するパルスライフルの三点バースト。先程もろに受けただけで621の機体のAPが50%にまで減少していたことからも、621はすかさずブースターの出力を上げて地上を滑走し始める。被弾しないようにフェイントを混ぜつつ、フィムを中心に大きく円を描くようにして回避しつつ、合間合間にミサイルを牽制代わりに放ちながら621は着実にフィムに近づき、バズーカを放った。近くに着弾してフィムも多少のダメージを受けたが、お返しとばかりに放たれたパルスライフルを621は受けてしまった。
『AP残り30%』
『レイヴン! 機体の修復を!』
機体の限界が近づきつつある中、621は冷静にリペアキットを使い機体の修復を試みた。
『リペアキット残数2』
張り詰める空気。緊張がピークに差し迫る中、621はこれまで以上に集中力を高めていた。猟犬のように獲物を着実に追い詰めながら徹底的に食らいつきに行く621の戦闘スタイルとは対照的にフィムは621に対して付かず離れずの距離を取り続け、常に621の上を維持しつつ621が距離を詰めてきた瞬間、フィムはすかさず蹴りとブレードを叩き込む。
互いに地上にいる状態でグレネードを撃つとなると外れた場合爆風にすら巻き込めず、どこか彼方へとグレネードは飛び去ってしまう。しかし地上にいる相手に対して常に上空を取り続けるが出来れば、たとえグレネードが外れたとしても、地面に着弾して近くの標的に爆炎を巻き散らすことで敵ACに副次的な被害を与える。そのことを常に意識してフィムは立ち回っているのだ。
加えてカメラの速度で追いつくのがギリギリな程の速度かつ相手をかく乱させるような動き方は、621の機体のロックオン機能では追い付けない。そのことを悟った621は即AIによるエイムアシストを解除し、マニュアルによるエイムに切り替えた。
『リペアキット残数1』
リペアキットの残りを知らせる音声がまるで死へと誘うカウントのように聞こえ始めた621。
マニュアルに切り替えたことで幾分かマシにはなったものの、それでも戦場を縦横無尽に動き回るナインデッドの動きについていくのは至難の業だ。機動性を活かして時には頭上を通り過ぎるようにして常に自分の優位なポジションを立ち回るフィムの戦闘スタイルは621を苦しめる。またグレネードによる直撃はないものの、地面に着弾した弾丸の爆発による軽微なダメージが徐々に蓄積しつつあり、それが621をより一層焦らせた。
何度か621もミサイルによる妨害を駆使して意識的に接近するようにしてはいるが、やはりそれでもナインデッドの機動性やフィム自身の操縦の腕前からもそれを敢行するのは至難の業。しかしそれでも、621のミサイルによる攻撃や621自身が狙い定めて放ったバズーカは間違いなくフィムにも命中しているのだ。
バズーカが命中しナインデッドの視界を奪った刹那の隙を突いて、621はブーストを吹かし蹴りを入れスタッガー状態に持ち込もうとした。
しかしフィムに近寄る為に接近した瞬間、621は自身が蹴りを繰り出す前に先に繰り出されたナインデッドの蹴りを受けてしまった。そしてそのままナインデッドがブレードを構え、621の機体の左腕を切り裂こうとした。
「――ッ!」
咄嗟に621が繰り出したブレードと衝突を起こした。
互いに拮抗し鍔迫り合いを起こすかと思われたが、互いにブレードの出力を高めていたこともあってたちまち反発作用を引き起こして小規模のスパークが発生。両者共に仰け反った。そしてそのまま両者示し合わせたかのように互いの得物を向け、引き金を引いた。
621はバズーカを、フィムはパルスライフルを互いの機体の胴体に向けてすぐさま引き金を引いた。
「クッ……」
「……ッ!」
一方が爆炎に包まれ、もう一方もパルスライフルの直撃を受けたことで両者共にスタッガー状態に陥った。
621の強さは以前より知っていたフィムだったが、実際に対峙したことにより確かに621が“イレギュラー”に事足りる存在であることをより深く認識させられた。
最初の内は自分の機体の動きについていけるのが精いっぱいで被弾も多かったが、徐々に慣れて来たかのように明確に被弾の回数が減っていく様を見せたことで621の成長速度が異常、そしてこれまで出会った敵の中でも屈指の強敵であると確信していた。
そしてそれは621にとっても同様だった。
これまで戦ってきたどんなACと比較しても明確なまでに力の差を感じさせられるその異常なまでの強さ。
あらゆるACに対する完璧なまでの対抗策を打ち出しそれを実行する頭脳と歴戦の腕前。既に自分の手の内は読まれているも同然と621は確信していた。こちら側の攻撃は軒並み回避され、パルスライフルを始めとしたグレネードによる面攻撃は着実に621を追い詰めていた。
ガリア多重ダムで敵対したレッドガンの二名、壁越えで戦わされた二体のジャガーノート、そしてウォッチポイントにて撃破したスッラ。どれも621にとっての乗り越えるべき壁ではあったが、それらと比較しても目の前にいるV.Ⅸフィムはあまりも巨大すぎる壁であると621は感じていた。
――だが621にとって、ここで果てる訳にはいかない理由がある。そしてそれを成し遂げるまで、621は死ねないのだ。
「……成程。中々やる」
『AP残り50%』
フィムは思わずそう口に出した。それは侮りではなくフィムの、心からの本音だった。
『レイヴン、機体のダメージが……!』
『リペアキット残数0』
明確なダメージ。それは621にとってもそうであり、フィムにとってもそうであった。621の攻撃は確かにフィムに届いていた。
しかし最後のリペアキットを使い果たした621。一方フィムは未だにリペアキットを全て保持している。エアが固唾を呑んで見守る中、先手を取ったのは――621だった。
ブーストを吹かしながら放たれたバズーカ。それを見て横に回避するフィムだが、彼の目の前には既に621が迫っていた。
(機体の速度が変わった……バズーカを捨てて殴りに来たか)
フィムの視界に映る621の機体の手には既にバズーカは握られていなかった。
(そして背中のグレネードも捨てて、ブレード一本で来たか)
最後の一発を撃ち終えた瞬間、621は速やかにバズーカ……さらに言えば背中の二連グレネードも捨ててまでフィムに接近するために速度を上げたのだった。
残されたのは左手のブレードのみ。残りの弾薬が少なくなり単なる重しになっていたグレネードなどをパージしたことで目に見えて速度が上がった621の機体はあっという間にフィムの懐に潜り込もうとしていた。
それに対して迎撃を試みたフィム。しかし――
(これは……!)
621の意図に気付いた様子のフィム。瞬間、フィムは急速に背後に向けてブースターを吹かすも621の機体が起こそうとしている “それ”の発生が早かった。
急速接近した621の機体から突如スパークが発生し、瞬く間に機体を取り囲む。フィムが回避し終えるも早く放たれたパルス爆発はすぐさま621の機体を中心にナインデッドを巻き込んだ。
(アサルトアーマー……機体がスタッガーしたか!)
『レイヴン! 追撃を!』
エアの声に従うように621は残された最後のブレードの出力を高め、スタッガー状態に陥っているナインデッドに叩き込もうとした。
「そうはさせん」
一瞬早くアサルトアーマーの効果範囲内から距離を置いたことで、パルスによるスタッガー状態からいち早く復帰したフィムは接近してくる621に対してパルスライフルの銃口を向けた。621のブレードが届くのが先か、フィムが引き金を引くのが先か。
二人の距離が急速に接近する中――突如通信が入った。
『フィム! こちらは既に退避し終えた! 不要かもしれんが私の方から援軍を手配した!』
『独立傭兵レイヴン! アーキバスの部隊がそちらに向かっている! 流石の貴方でもV.Ⅸフィムとやり合った直後では……! 速やかに撤退を!』
両者の動きがピタリと止まる。
気付けば既にスウィンバーンはこの場から逃走し終え、フィムの下に援軍を派遣していたようだ。レーダーは確かにアーキバスの識別反応を持つ複数のMTやAC――V.Ⅰフロイトの反応を捉えていた。
「……ここまでか」
『レイヴン……! ここは撤退を!』
621もルビコン解放戦線からの撤退を促す連絡が入り、エアもアーキバスの援軍を感知したことで621に撤退を促していた。しかし目の前にはまだ戦闘状態を維持できる状態のナインデッドとフィムが。621とエアに緊張が走る中、フィムが呟いた。
「目的は既に達成した。今は見逃す」
スウィンバーンの救出。それこそフィムが
そしてフィムが継戦状態を解除した瞬間を見計らって621の駆る機体がアサルトブーストで撤退し始めた。その後姿に向けてフィムが背を向けたまま言葉を言い放った。
「レイヴン」
通信越しではあるがフィムの無機質な声が響く。
「――いずれ見えるだろう」
□■□■□■□■
621との交戦を終え、帰還したフィム。
肝心のスウィンバーンはヴェスパー部隊の品位を下げるような発言をしたことをスネイル直々に叱責されたものの、621が取引を拒否したことが幸いとなり特にお咎めは無く終わった。スウィンバーンはフィムに心からの感謝を述べると共にフィムの機体の修繕費と弾薬費を肩代わりするのを約束した。
またオールマインドの伝手によると、あの後621はルビコン解放戦線からフィムとの交戦データを買い取ってもらったことで、本来の金額より少ない報酬ではあるがしっかり報酬を得たという。
解放戦線もフィムの乱入に関しては完全に予想外だったようで、ましてや赤い悪夢を前にして生き残ったのはレッドガンの総長ミシガン以来。そんな621が記録した戦闘データは彼らにとって買い取る価値がある重要なデータだったのだろう。
そしてそれは――フィムにとっても同様だった。
『強化人間C4-621レイヴンとの交戦データ。確かに受け取りました。オールマインドは貴方に感謝します』
フィムがあの場所に訪れたもう一つの理由。
それはオールマインドに621との戦闘データを提供する為である。
スッラが撃破されたことで一時期は計画の破棄を考慮していたオールマインドだったが、流石にそれは自分の計画実現においても困ると判断したフィムが、621を主軸としたコーラルリリースを打診したことでオールマインドはすぐさま行動に移したのだ。
しかしオールマインドの持ち駒であるC兵器は全て621の手によって破壊され、計画の主軸であったスッラも同様に撃破され、その他ゴーストも危険因子と見なしたオールマインドがその場に居合わせたレッドガンのイグアスと621諸共オールマインドが敵とみなして排除しようとしてまとめて撃破。
……そう、今オールマインドの命令で動ける明確な戦力はフィムしかいないのである。
ゴーストも621によって粗方撃破され、再び数をそろえるのには時間がかかる。そしてそんな状況で何が起こるか、無論フィムへのしわ寄せである。フィムはスウィンバーン救出以前からずっと合間を縫って、オールマインドの計画に必要なコーラルを大量に抽出しようとする解放戦線などを秘密裏に襲撃していた。
そんなフィムにとって幸いだったのはヴェスパー部隊におけるフィムが敵対勢力の鎮圧担当だったことだ。
普段はスネイルやアーキバスからの依頼でしか動けないヴェスパー部隊の中でも比較的自由に動けるのがフィムであり、オールマインドの依頼も適当にでっち上げるのではなく、彼の役職としての立場を利用して動いているのだ。フィムとしても無断での出撃をしたり、適当な依頼をでっち上げた時点であのスネイルの目を出し抜けるとは到底思っていない。フィムとしても疑われることは避けたいのである。
『それと一つ。今回のデータを用いてパルスライフルの改良を進める中で、何かご要望はありますか?』
「……そうだな。まずはオーバーヒートするまでが早すぎた。そしてリロード時間の短縮。それらを改良してくれ」
『分かりました』
するとフィムは端末を操作し、ある一枚の設計図を開いた。
一見ACのように見えるそれは、既存のACはおろかあらゆる兵器の概念を覆す設計であり、それこそがフィムの計画の最終段階そのものだ。
フィムの発想と蓄積された戦闘データにより設計が始まったそれはオールマインドをもってしても時間がかかる代物のようで、フィムがオールマインドと契約を結んだ時から始めて漸く今、進捗率が63%に到達したのだ。
『現在の設計図の完成度は63%。しかしフィムが工房を見つけるまでには完成し、我々の計画の最終段階までに間に合わせることが出来るでしょう』
「……それまでは変わらず、といった所か」
不確定要素が多いと感じる中、それでもフィムは己の計画を次の段階に進めるべく再び動く、その時を待ち続けることを決めた。
※なおオールマインドとの共同改修の下、ナインデッドは中量級でありながら軽量級並の速度で動き回り、リロードの早いグレネードをバカスカ撃ちまくるものとする。
ナインデッドのAPが50%になった時点でムービーが入ります。