V.Ⅸになったのでナインボールを目指す   作:gnovel

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いつも感想と高評価、誤字報告ありがとうございます。
今回は幕間的なやつです。

それではどうぞ


誰も知らぬ視点の物語

 独立傭兵レイヴンがフィムを相手に撤退に成功した。

 

 その報せを聞いたアーキバスを含めたあらゆる陣営は震撼した。相対した者は九回死ぬとまで言われているフィムを相手取って生還したというのは621の名を知らしめるのには充分すぎるほどだったのだ。

 フィムの任務がスウィンバーンの護衛でありその任務が達成されたことで見逃されたという面もあるが、逆にそれはスウィンバーンが援軍を手配するまでの間フィムと戦闘を続けていたことの証明に他ならない。援軍を手配されるまでの間に撃破されるのが周囲の認識だった。しかしあろうことか621はフィムを相手に五分間近く粘った。更にそれだけでなくフィムにも一定のダメージを与えるのに成功しているときたものだ。

 

 そうして図らずも621は、周囲から瞬く間に目を向けられることになった。ルビコン解放戦線は勿論、特にそれが顕著に表れたのは紛れもない――レッドガンだ。

 

 621が撤退し、更にフィムもスウィンバーンも壁から離れたことで惑星封鎖機構が、ルビコン解放戦線と壁に残っていたアーキバスの部隊を執行部隊を以て殲滅し、壁を占領していた。621がベイラムからの依頼でその執行部隊を殲滅した日のことだった。

 

 依頼を終えた後の621の下にG6レッドの代わりにレッドガン総長G1ミシガンから通信が入った。

 いつもと同じような気合の籠った怒鳴り声に加えて、その日はどこか虫の居所がよさそうな声色で621のことを称賛し始めたのだ。

 

『G13! よくあのいけ好かない奴から生き残っただけでなく、あのいけ好かない機体をぶん殴ってくれたな! 貴様のその成果はあのダムでの教育費、いやそれ以上に相当する! だが油断するな、今回の件でアーキバスは貴様のことを評価し姑息な手を使ってでもその寝首を搔っ切ろうと躍起になるだろう! あるいは貴様のことをどんな手段でも使って懐柔しに来るだろうな! あの批評家気取りのインテリ共が考えることは容易に想像がつく! 安っぽい発想だな! もっともそれはこちらの無能な上層部共も同じだがな! これからも使い倒してやるから覚悟しておけ!』

 

 木星戦争においてフィムの手で自分以外の味方を残らず滅ぼされたミシガンも思う所はあったのだろう。彼なりに621を称賛しつつ、今の621の周りを取り囲みつつある状況に警鐘を鳴らしていた。最後にレッドガンの部下達にこれまで以上に厳しい訓練を課すことを告げ、ミシガンは通信を切った。

 

 

 ――同時刻

 

「また貴方ですか? 駄犬の飼い主と違って暇ではないのですよ」

『……ヴェスパー副長ともなれば心労も多いようだ。とりわけ今の状況では』

「何が言いたい」

『惑星封鎖機構に対する急襲作戦。手駒が足りていないのだろう』

「……なるほど。浅ましくも愚かで、実に涙ぐましい営業努力です。いいでしょう、貴方の駄犬も戦力として計算に……」

『もうひとつ。駄犬呼ばわりは止めてもらおう。旧世代型にも尊厳はある』

 

 通信を切ったスネイルは一人毒づく。

 

「……害獣め」

 

 日に日に力を増していくルビコニアンと依然として脅威である惑星封鎖機構、そしてベイラム、果ては無能な上層部との四方八方からの最悪の板挟みに苦悩するスネイルは件の621をついに駆除すべき害獣として認識していた。

 あのフィムに肉薄する勢いを見せた621に対してあらゆる手を使ってでも速やかに処分するようにと計画を立てたスネイルだが、肝心の上層部はどちらかと言えば621の懐柔が多数派であり、更にスネイル本人にはその独立傭兵、及びそれに関する決定権はないとしてスネイルの意見を突っぱねたのだ。

 

 上層部の一部はフィムに匹敵しうる逸材を懐柔すれば益々企業の利益になるだろうという考えを持っているが、それが余計にスネイルの癪に障った。

 自分と真っ向から異なる意見の対立、ひいては621の実績だけを見てリスクを鑑みない姿勢、無能な人間が自分の意見を通す為だけに振りかざす権力という三拍子はスネイルの全てを苛立たせた。

 

 しかし当のフィムに誤りがあったかといえばそうでない。

 フィムはスウィンバーン救出という任務をこなし、621との交戦後スウィンバーンが抜けた穴を埋める援軍が来るまでの間、壁周辺を警備していたのだ。……とはいえ援軍が到着し、フィムが撤退したすぐ後に惑星封鎖機構が制圧しに来たのは些か誤算でもあった。しかしそれもフィムの咎ではない。

 

 そして現在フィムはというと、ヴェスパー部隊の鎮圧担当としてルビコン解放戦線と惑星封鎖機構の一部戦力を制圧中である為、これから行う予定の惑星封鎖機構に対する急襲作戦に参加することが出来ない状況下にある。ウォルターの発言も間違いではなく、現状フロイトを始めとした他のヴェスパー部隊も他の任務に当たっているので人手が不足しているのは紛れもない事実だった。

 

「フィムを戻すか……? いや、今フィムを戻した所で状況は変わらない……」

 

 なおスネイルが知る由ではないが、フィムは敵対勢力の鎮圧だけでなく同時並行してオールマインドの計画と自身の計画を進めている為、当分は拠点に戻らない予定だ。というより戻れない、のが正しいだろう。

 

「……全く、害獣も、その飼い主も、何かもが癪でしかない」

 

 眉間にしわを寄せながらスネイルは心底面倒臭そうに息を吐いた。

 

「……とはいえあの害獣と飼い主にはまだ利用価値がある……一先ずは、まだ泳がせるとしましょう」

 

 

 

 

□■□■□■□■

 

 

 

「これで最後……か」

 

 フィムはエンゲブレト坑道で機体の残骸からデータを回収しつつ旧時代のACからパーツを抜き取る作業をしていた。本来であれば621がエアの個人的な依頼こと“旧時代データ回収”で訪れる場所だが、今はオールマインドの依頼で生憎別の場所にいる為、代わりにフィムがカタフラクト2体及び執行部隊の鎮圧作戦を終えた帰りにデータを回収しに来ているのだ。

 

 しかしデータはあれど、肝心のパーツの損傷が激しく、到底再利用できない状態であった為かあまり成果は芳しくない状況であった。念には念をいれて文字通り坑道内を隅から隅まで探索し尽くしたが、それでも見つからず精々あと数発撃てるか撃てないかという状態のリニアライフル一つが見つかるだけだった。

 

 流石に諦めたフィムが坑道から出て、ブースターを吹かそうとしているとレーダーに映る機影を捉えた。

 

「ん? なんだあれは……」

 

 白く染まった視界の先から何か黒い物体が飛来してくるのを目撃したフィムは崖際から身を隠すとナインデッドのカメラを向け、レーダーを張り巡らせた。

 

「……輸送ヘリ?」

 

 それはアーキバスの輸送ヘリだった。

 

「なんで輸送ヘリがこの地域に………………あっ」

 

 坑道の先に見えるのはヨルゲン燃料基地と呼ばれる施設で、今はアーキバスが掌握している場所だ。ふと徐に下を見下ろすとアーキバスの輸送ヘリがACらしき存在から攻撃を受けているのが見えた。しかしACの健闘虚しく数機のヘリがヨルゲン燃料基地を脱出しようとしていた。よく見ると奥の方にもACが見えるが、そちらはそちらで迫りくる輸送ヘリを撃墜させようとしている最中。傍目から見てもフィムはその機体が621が駆るACであると分かった。

 

 そして、健闘虚しくヘリに逃げられそうになっている方のACを見る。

 どこぞの傭兵支援システムが設計したような『人体感覚の拡張』をテーマとしたようなパーツ、そしてその武器。フィムにはその全てに見覚えしかなかった。

 

 何か途轍もなく嫌な予感がする、そんな得体のしれない悪寒に苛まれていると、突然一本の通信が入った。通信相手は――。

 

『フィム』

 

 オールマインドだった。

 

『単刀直入に言います。貴方の力を貸していただけないでしょうか』

「……具体的には」

『今、フィムの視線の先にあるコーラルの輸送ヘリを全て残らず撃墜させてもらいたいのです』

「……あれはアーキバスのヘリだが?」

『オールマインドがフィムの識別信号を変更します。そこでフィムは遠距離からの狙撃を』

「……」

『事態は一刻を争います。どうか』

「……………………了解した」

 

 ――無茶を言ってくれる。

 フィムの機体は当然ながらナインデッド。つまり真紅の機体だ。中央氷原は全体的に白く、霧のような雪で視界が覆われる。しかしそれでもナインデッドの色合いは全体的に目立つ。当然フィムがやったとバレるに決まっている。そうなればフィムはヴェスパーから去らなくてはならなくなる。まだとある目的を達成するためにヴェスパーに所属しなければならない中、まさかここに来てアーキバスの輸送ヘリを落とすことになるとは思いもしなかった。

 

 だからこそオールマインドはフィムの識別信号を一時的に変更して、その上でフィムは機体が認識されない距離からの狙撃を行うことになったのだ。

 

「……仕方ない。たまたま拾ったこのリニアライフルで狙撃するか……」

 

 やむを得ずフィムは整備されずに放置されていたリニアライフルを用いて狙撃することにした。パルスライフルではギリギリ射程が届かず、更にはパルスライフルを好んで使う人物が限られている中で特定されかねない。また、グレネードでは発射時の音で特定されかねない他、弾速が遅く、更には先のカタフラクト二体との激闘で残弾が心もとない。

 そうした理由から現時点では粗悪な状態に陥っているリニアライフルを使わざるを得ない。早速フィムはオールマインドから提示されたポイントに向かうと、輸送ヘリがギリギリ見える地点まで遠ざかって身を隠し、輸送ヘリが通るのを待った。

 

 数分が経過したころ、オールマインドからの合図があると共に視線の端にあの輸送ヘリが三機、見えた。

 

「一発外したら即終わりか……」

 

 粗悪なリニアライフルを軽く整備していると、カートリッジに込められた弾体の三発を除いた殆どが元の持ち主のACの爆発に伴って使えなくなっていたことが判明し、更にはリニアライフルの真価を発揮するためのチャージも軽く整備した時に精々数回しか行えないことも判明したのだ。

 

「文句を言っても仕方ない」

 

 そう言ってフィムはマニュアルエイムに切り替え、視界の中心に輸送ヘリの一機を捉えたままリニアライフルのチャージを開始した。

 

 電磁気力が溜まると共に鳴り響く電磁音を聞きながら、フィムはリニアライフルがギリギリ効果を発揮する距離で絶対に外せないという状況の中でまずは一発……当ててみせた。

 

「次」

 

 オールマインドによって傍受された輸送ヘリ内の混乱の様子を聞き流しながら、すかさず二度目のチャージに入る。既にフルチャージをするだけで銃自体がガタガタと震え始めるレベルだ。もはやいつ壊れてもおかしくないと感じるフィムは更にもう一発――命中させた。

 

 コーラルの爆発を伴いながら落ちていく輸送ヘリをカメラの端で認識しながら続けて撃とうとした時のことだった。

 

「クソ……あと一発、あと一発だけもってくれ……」

 

 本格的に銃身が音を立てて軋みはじめ、最後の一発を撃てるかどうか怪しくなってきたのだ。それどころかチャージできるかすら怪しいほどだ。

 

「銃自体が震え始めて狙いが……!?」

 

 ナインデッドは銃の反動を制御する能力が高いが、それでも肝心のリニアライフル自体のチャージ時のブレが酷く、補正してもなお確実に当てられるか難しいほどだった。安定させるためにもう片方の腕で銃自体を抑える必要が出てきてしまった。

 

「こういうのは俺の役目ではないんだが……」

 

 思わず口から愚痴が飛び出たフィム。フィムはすぅっと一つ深呼吸をして、不規則に震える銃を抑え、輸送ヘリを狙うことにのみ集中した。

 

 そして視界の中心に最後の輸送ヘリを捉えると、すぐさま引き金を引いた。

 凄まじい音と共に射出された弾体は瞬く間に輸送ヘリの表面へと着弾し、コーラルの爆発と共に落ちていったのだった。

 

「クッ!? リニアライフルが……!?」

 

 リニアライフルは役目を果たしたかのように全ての弾体を撃ち終えたタイミングでナインデッドの手元で爆発を起こした。オールマインドから基地から出る輸送ヘリがないことを確認したフィムはため息をついた。

 

『フィム。ありがとうございます』

「……ちなみに聞くが、レイヴンの他にいたあのAC乗りは?」

『彼女は独立傭兵ケイト・マークソンです。彼女が何か?』

「……いや、何でもない」

 

 フィムは、必死に言葉を飲み込んだ。




なおこの世界線では本来の輸送ヘリよりも多数のヘリがいます。でもオールマインドは変わらず5機しか落とせません。
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