Advanced New World(仮) 作:ばいどるげん
「…………」
「……君は、一体…………!?」
セムは大木の枝に立つ一人の少女を見る。全体的に白地を用いた服にピンク色のラインが各所にあしらわれている。一言で表すならば「魔法少女」。仄かに神聖さを感じさせるのは背中に生やした光の羽のせいだろうか。
ゲームの衣装としてならば派手さは無いが、少なくとも第三サーバ内では異質な存在だ。服のデザインがどこかセムと似通っている。セムと同年齢程度の少女は、間違いなく彼の探していたANWテスターの一人だった。
(攻撃してきた……!? 俺がボスを倒したために、獲物を横取りされて怒っているのか、それとも別の理由か。とにかくこっちには交戦の意思が無い事を伝えないと)
セムは静かに両手を上へ挙げる。その行為「お手上げ」の意味は人間ならば誰でも理解出来るであろう。これほど分かりやすい意思表示は無いと、セムは少女へともう一度声をかける。
「俺は冒険者のセム! こっちに交戦の意思は無い。君に話が合って此処へ来た! 君はFVTの募集した一般テスターの一人なんだろう!? 俺は今回の企画の責任者に頼まれて君たちを助けに――!!」
「《ホーリーダスト》」
天から差し込んだ無数の光芒がセムを囲み光の粒子が降り注ぐ。危険を感じたセムは急いでその場から飛び退く――そして、爆発。
自分が数瞬前まで立っていた場所が大きく抉れ消し飛んでいた。その威力とありえたかも知れない未来に息を呑む。僅かにタイミングが遅ければ間違いなくセムの意識は閉ざされていた。
(な、何て威力だ!! おかしい、幾らなんでも強すぎる!)
少女は無表情でセムを見つめ続けている。問答無用で攻撃してくる様子からは果たして話を聞く気が無いだけなのか。どこか虚ろな瞳はNPCより遥かに無情に思える。
「くそ……そっちがその気なら俺だって多少無茶はさせてもらうぞ!」
セムは右手を構え応戦の意思表示をする。彼の意思に応えるように《ハックツール》の起動状態を示す紋章が淡く耀いた。
《ハックツール》はGMが使用するものだが、そもそも何故彼らはこれを使用する許されているのか。それはGMの職務である『PK(プレイヤーキラー)』の取り締まりに必要不可欠だからである。
ANWはリアリティを追求するために『フレンドリーファイア』の機能が実装されているのだが、どんなオンラインゲームもそれを悪用し『PK(プレイヤーキル)』を行なうものが一定数存在する。本来の遊び方と異なるPK行為を行なう者は運営側にとって害悪でしかない。
とは言えPK行為を行なう者は相応の実力を持っている。GMの殆どはANWを遊ぶプレイヤーたちとは異なりあくまでシステム管理者としての面が強く、そのため技量に関しては素人と殆ど変わらないのだ。
それでもGMは静定者故に負ける事は許されない。ならば技量差など感じさせ無いほどの圧倒的な能力差があれば良い。《ハックツール》は全ての呪文・技能・アイテム・コマンドを自由に行使し自身のステイタス値を修正する事ができる。
そして何より、《ハックツール》はプレイヤーのコマンドを強制的に起動させる事が可能なのだ。
「悪いけど君じゃ俺には適わないよ! 《ハック ステイタスオープン パブリック》!」
管理者からすればプレイヤーですら操り人形に過ぎない。《ハック》コマンドによって対象のコマンドを強制起動させる。それにより少女のステイタスが頭上へと表示された。
――だが、呼び出されたウインドウに書かれていた内容はセムの予想を大きく裏切る。
「馬鹿な、『No Data』だって!?」
一瞬誤ったウインドウが表示されたのかと思ったがそうでは無いらしい。『No Data』と言うことはデータが存在していない事を意味するのだが、目の前に存在しているのにステイタスが存在しないはずが無い。
「なら、データベースを直接覗けば……」
《Now Access Database, Show target player status all ....The date is locking. Your authority is not permissioned.》
「そ、そんな……!」
もう一度コマンドを実行してみる。が、やはり『No Date』。ウインドウを閉じる事は出来るため権限が上書きされているわけでは無さそうである。
「《ハロ スラッシュ》」
「くっ!」
無数に放たれる円盤を辛くも躱しきる。ダメージは無かったが触れてしまった服の一部がスッパリと裂かれている。先ほどセムの《シールド》を打ち破った事からもこの光輪が相当な攻撃力を持っていると分かる。
冷や汗を流すセムに反し相手の顔は汗一つ見せないほど涼しげだ。何とか反撃を仕掛けていかなければ。セムはどうするべきかを冷静に判断する。
「ならばこれはどうだっ! 《ディテール》!」
セムは両手で三角形の窓を作り少女をその枠内へと収める。セムの手で模られる三角形の中はソラリゼーションのように全ての色が反転していた。少女の体の表面には様々な英文字が浮かび上がり、『Complete』の文字を最後に景色が元に戻る。
(よし、これなら効くみたいだ! コマンドは効かないものがあるようだけど、呪文や
手を解いたセムの目には少女の周りに様々な文字が浮かんで見えていた。コマンドを使用していないにも関わらず少女の各ステイタスが詳らかに表示されているのだ。
これぞ呪文《ディテール》の効果。《スキャン》の上位互換に当たるこの呪文は、対象キャラクターからさらに多くの情報を入手する事が可能である。《スキャン》と異なるのはステイタスを閲覧出来るのが呪文使用者に限られる事と値の表示が異なる事くらいだろう。
(Lv54!? こんな短期間でどうやってそんなレベルまで……! 一週間ずっと戦い続けたってそんなに上昇するはずが無いぞ!)
物理的にありえない予想を遥かに超えた数値。この第三サーバ内ではLvの高いモンスターはあまり出現せず、その為高Lvに達するにはより強い敵が出現する別サーバへと赴く必要がある。
だが現在は試運転中と言う事もあり別サーバへのアクセスは不可能だ。かといって取得できる経験値が低いこの大陸のモンスターを狩り続けてそのLvへ達するなど非現実的だ。
コマンドが働かない事も相まりセムは得体の知れない不信感を募らせていた。しかし今は目の前の相手をどう鎮めるかを模索しなければならない。詮索は後回しに、目の前に集中するために意識を切り替える。
(とにかく今は止まっては駄目だ。相手をかく乱して隙を作る!)
セムが動くのに合わせ少女が無数の光輪を放ってくる。セムも負けじと《アロー ショット》の
ならばと少女自身に向けて放つものの少女は余裕綽々と躱してしまう。敵の攻撃も打ち落とせなければ敵に攻撃を当てる事すらままならない。
(駄目だ、弓矢じゃかすりもしないっ! 遠射戦は不利だ!)
《ディテール》により相手の職業は判明している。少女の職業は『
Lvが低いうちはこれと言い特徴的な能力が無く、近接戦闘は
呪文戦闘に置いては敵に一日の長があるだろう。だが格闘戦においてはそうとも限らない。魔法剣士では近接戦闘に特化した戦士職のステイタスを超える事ができないため、純粋な力のぶつかり合いとなると打たれ弱いのだ。
(いくらLvが高くても近接戦に持ち込めばこっちが圧倒的に有利だ!)
「《クイック ムーブ》!」
速度を上げて一気に接近を試みる。光輪は相変わらずセムを付けねらうも切り裂いたのは全て残像。セムは少女の元へと駆けながら右手を伸ばし虚空より剣を召喚した。
「《スロー ムーブ》」
(やっぱり対抗呪文を唱えたか。だけど……!)
相手が対抗呪文を使用する事は予想していた。対人戦闘ではモンスター戦と異なり如何に相手から優位性を得るかが決め手となる。相手の強化を解こうとするのは常識だ。
しかし速度上昇はあくまで敵に近づくまでの手段に過ぎない。呪文使いは近づかれる事を何よりも恐れ、戦士職は距離を取られる事を何よりも拒む。セムからすれば近づけた時点で自身の優位性は保たれる。
「呪文さえ使わせなければっ!!」
右手の両刃剣を両手で握り直し、上段から振り下ろす――! 少女も細身の剣を虚空より召喚し防御する。剣と剣がかち合い金属の弾ける音が響く。セムはそのまま鍔迫り合いへと持ち込んだ。
「……」
「はぁっ!」
無言で押し返してくる少女の剣を弾き、続けて何度も剣を振り下ろす。少女は打ち返してくる事はせずセムの重い一打一打を流している。流石に力の差があるのか、初めのかち合い以降は真っ向から剣戟を受け止める事は避けていた。
(良し、これならば……!)
「《
「うっ!?」
少女の剣から伝わる衝撃に重さが増す。まるで壁に思い切り斬り付けたかのような感覚に後ろへとよろけてしまう。
それを皮切りに攻勢が一転、今度は少女自らセムへと剣戟を浴びせに掛かる。先ほどの往なし方からは想像も付かないほど力任せな太刀筋。まるで大男が無骨に剣を振るうかのようだ。
(お、重い……! な、何て攻撃だ……さっきとはまるで違うぞ!?)
「《スペルソード フリージング》」
少女が
「しまった、凍結攻撃か!!」
剣と両腕を氷に覆われてしまったセムは防御もままならぬまま少女に蹴飛ばされてしまう。バウンドもせず大木に激突し思わず息が漏れる。高Lvだけあって純粋な体術ですら相当の威力だった。
「がは……っ。く……そ、《コンディションキュア》!」
両腕の凍結を治癒呪文により解除する。だが敵の剣には未だ
(どうすれば良い……!? 強力な技を使って力ずくで倒すか? けれど大技となると隙が大きい。相対している場で使わせてくれるほど彼女は易しくは無い)
痛みに顔を歪ませながらセムは少女の顔を見る。始終無表情な瞳の奥からは何を考えているのか汲む事が出来ない。妖精の様な美しい羽を生やした彼女はしかし魔獣よりも恐ろしく、凍てつく刃を振りかざす姿は断罪者の如く冷徹だった。