Advanced New World(仮) 作:ばいどるげん
「《ホーリー ショット》」
「《ダークウォール》!」
少女から放たれた光の矢はセムに到達する前に黒霧の壁に阻まれる。しかしそれも一方的に防いでいるわけではなく、矢が衝突した箇所は幾分か削られてしまっている。
呪文や
少女の使用する『光属性』の呪文は『闇属性』に大して打ち消しあう性質を持つ。セムの使用した《ダークウォール》の呪文は闇属性のため、お互いの攻撃が中和され消滅してしまっているのである。
(守ってばかりじゃどうにもならない……。考えろ! 考えるんだっ!!)
「《ハロ スラッシュ》」
「うわっ!?」
光矢の雨が止んだかと思うと穴だらけの霧を円盤が突っ切って来る。何とか腕を盾に防御を試みるもここに来て手痛いダメージを受けてしまう。《ウォール》系の呪文は防御には適しているが使用者の視界を奪うためそれが仇となった。
(痛みは少ないけどダメージはかなり受けてしまった……。幾ら色んな能力が使えても幾らステイタスを強化しても、そもそもの戦闘技術に差がありすぎる……)
ANWは戦闘技術が無くとも「使いたい」と思った時点でそれらの動きを補佐するシステムが存在している。先ほどから剣術・弓術の経験が無いセムが熟練者のようにこなせているのはそれが理由だ。
セムと少女の剣士としての技量はほぼ互角。唯一のアドバンテージである腕力の差も
「《ホーリー エッジ》、《ハロ スラッシュ》」
「ス、《スティールウォール》!」
少女は剣を振り回し光刃を飛ばす。放たれた刃は光輪と異なり地面に触れても消えず這うようにしてセムへと襲い掛かる。大地すら裂いて進む耀くヒレが地上に出現した海のギャングを連想させる。
鋼の壁は斬撃に立ちはだかるも地上と上空からの同時攻撃には悲鳴を上げていた。防ぎきれなかった余波が少しずつセムの命を奪わんとする。
「ぐあぁっ!! くそぉ! どうすれば良い!? どうすれば!!」
止まぬ攻撃の雨に集中が乱される。痛みは増し、心なしか目の前が少しずつ歪んできたようだ。
セムはここに来てあの少女に対して攻撃する事に躊躇いを持っていた。元来争いごとの好まない彼はPK行為と言う考えすら及ばなかったほどだ。
相手は
(た、体力が持たない。回復する暇すら無い。もう、これ以上は……)
光の刃の斬撃に意思が挫けそうになったとき、ふと少女の首元で何かが光るのが見えた。
(……!? あ、あれは――)
決死の思いでその場から飛び退く。激しい音と土煙が舞い、鉄壁は見る影も無いほど無残に破壊しつくされていた。煙が晴れると地面が盛大に抉れている。偶然とはいえ、どうやら瞬時の判断が彼の命を救ったようだ。
今一度少女の首元へと目を凝らすと、ファンタジックな少女の格好に似つかわしく無い、赤い宝石を中心に嵌めた機械仕掛けの首輪が見えた。
「もしかすると……」全ての違和感に直結する半ば確信に近い憶測。思うが速いか、彼は最後の賭けに出る事を決めた。とにかく駆け、駆け、駆け。少しでも少女に近づくために、呪文を唱える事すら忘れて走る。
(彼女の武器も、防具も、ステイタスも判別できる。《ディテール》は効いてるはずなのにあの異質な首輪に関しての情報が一切表示されない。幾らなんでも怪しすぎる!)
《ディテール》は高Lv呪文故に信頼性は高く、一度かかれば対象のあらゆる情報が手に取るように分かる。
確かに装備の効果には特定の呪文を無効化するアイテムも存在するが、特定のアイテムだけに作用する効果は存在しない。もしあの首輪が《ディテール》を無効化するアイテムだとするならば、少女自身に関する一切合財の情報は読み取ることが出来ないはず。
(あの首輪が元凶だと言うのならば、あれさえ何とかすれば……!)
「《ホーリー ウェーブ》」
「《
少女の背後に光の扉が召喚される。開かれた先から止め処なく流れる光の奔流。今のセムが飲まれようものならば間違いなく、自身もあの光と同化する一途を辿っていただろう。
セムは
しかし逃げ場の無い空中では対空呪文を唱える少女には格好の餌食。何より彼女はセムがダンジョンのボスと戦う場面を見ている。セムの攻撃パターンも既に把握してしまっているのだ。
「《ホーリー グラーバル》」
「《ダーククロージング》!!」
少女は空へと光の
「《ホーリー エッジ》」
天使の裁きと言わんばかりに淀んだ闇を浄化し、続いて下すは断罪の刃。黒く柔い外套は光の雨に流されたが、その飛沫が一面に広がり少女の視界からセムの姿を奪い去る。
だが既に次の攻撃は放たれた後だ。次に映る彼の姿はズタズタに引き裂かれた哀れな襤褸に違いない。
「《マジックパリィ》!」
ガラスが弾ける様な音と共に――黒霧より姿を現したのは先ほどと何ら変わりの無いセムの姿だった。奇しくも《マジックパリィ》は少女の職業である
それでも少女は攻撃の手を止めはしない。敵がまだ無事でいると判明するなり次なる一手を繰り出してくる。実体を持たない攻撃が効かぬのならば、大質量を以ってして押しつぶすまで。
「《アイス ピラー》」
少女の手から空へと伸びる巨大な氷柱。明らかに一人の人間相手に放つ物ではなく、古代の蹂躙者である恐竜ですら刺されば体躯の芯から氷河期へと誘える。先端が鋭角を成す氷のオベリスクは太陽神さえも震え上がるだろう。
そんな凶悪極まりない得物を、あろう事か身動きの取れないセムへと投げつけた。当たれば串刺しなどと言う生易しい物では済まない。これが現実世界であれば轢死に近い凄惨さを見せ付けるに違いない。
「《メテオ、フォール》!!」
氷柱を投げられる間際にセムもまた
融解の過程を忘れ去られた水蒸気はセムの全身を白に染め上げていた。少女の視界から彼の姿は見えないが、焼鏝に中てられた爛れゆく柱が敵を仕留めきれていないことを知らしめる。
「オオオォッ!!」
猛々しき怒声に氷柱はメリメリと鳴く。氷を一瞬で溶かすほどの火力は失われ、今は
間もなく青白い景色が終わる。既に蹴りの威力も半減した。たった数十秒のうちにもたらされた情報量はセムに数時間経過したかのような錯覚を抱かせていた。
超常なる攻防の連続に精神は磨耗仕切った。突き破るか突き飛ばされるか――全身全霊を賭けた互いの一撃の結末は、
「オオオオオオオォォォッ!!!」
――――セムが氷柱を制した!
姿を現した彼の全身には幾つか
完全に鎮火し蹴りの威力も失われたセムに成す術は無いように思われた。《メテオフォール》は高威力の
セムは少女に対して技を放った。そのため氷柱とぶつかろうと、どれだけ威力が失われようと、セムの攻撃は未だ継続する。
「《スペルソード フリージング》」
少女もまたそれを理解していた。冷酷な瞳を剥き緩やかに落ち往くセムの姿を中心に捉える。魔力篭った剣を両手に握り、セムの落下にあわせて切り伏せる算段だ。
霜を煌かせ空気を凍らし目的物を粉砕する。慈悲無き剣に反射した少女の横姿は、光を纏った凍土を統べる女王の様。少女の目には迫る敵との距離が表示されていた。ただ機械的にただ無情に。逆袈裟斬りの要領で剣を振り上げ――「《ハック スキルキャンセル》!!」――る直前、セムが《ハック》コマンドを使用した!
流石の少女も一瞬驚く様を見せた。しかし、だからどうした? 揺るがぬ賽は投げられた。今更どうあがこうともこの一瞬で少女の体力を削りきる程の攻撃は不可能だった。
それでもセムは止まらない。「《デフォルム
尖鋭剣と細身剣が互いの体に触れんとした……否、僅差でセムの剣が少女の
同時に大きな衝撃が放たれ二人の体を吹き飛ばす。バラバラに砕けた機械製の首飾りは空に舞い、その欠片を一つも残さずに虚空へと消えていった。