もしも禪院直哉が割と良いやつだったら 作:まつだ
「父が死んで悲しいけど、禪院家のみんなで力を合わせて頑張るで!」
「真依ちゃ〜んッ‼ なんで死んでしもうたんや〜ッ‼︎」
真依ちゃんが死んだ、と聞かされた俺は、急いで家に戻り、年甲斐もなく泣いた。
天与呪縛に苦しめられながらも術師として実力を付け、いつか禪院家の当主になると息巻いた勇敢な真希ちゃんと違い、真依ちゃんは術師としてのモチベーションがなかった。だから俺は、真依ちゃんを自分の小間使いという名目で手元に置き、面倒を見て、術師としての戦いの世界から遠ざけてた。
しかし、そんな真依ちゃんを、父は高専に入れた。最初は俺も反対はしたが、この家の小間使いとして生きるより、同世代の若モンと青春を過ごす方が本人にとっても良いと思うて送り出した。
その結果がこれや。俺は選択を間違えたんや。甚爾君の時と同じや。泣いて縋ってでも引き留めておけば、違った未来があったかもしれんのに。
「俺が守る言うたのに……真依ちゃんが戦わなくても済むような……辛い思いをしなくても済むようにしたるって言っとったのに……! なんで……っ! うぅ……っ!」
「うっわ、ガチ泣きだよこの人(落ち着いてください)」
「逆になっとるやん」
「申し訳ありません。それに、死んだのは真希です。いや、そもそも死んでいませんし、それよりも今は当主の心配を」
……というのは、どうやら俺の勘違いだった。
真希ちゃんは重傷を負いながらも高専で治療を受け一命を取り留めとったそうだ。
そして、そもそも真依ちゃんには怪我はなかったらしい。
それはそれで良かったと心から安心したわ。
「……あのなぁ」
それよりも、真希ちゃんと真依ちゃんの母親である筈のこの人が、娘より当主の心配をしろ言うたことに俺は少し憤りを感じ文句を言いたい……
「どうしました……?」
「いや、なんでもないわ」
……けど、真希ちゃんと真依ちゃんが親と仲が良くないのは俺でも知っとるし、よその親子の関係に土足で踏み入るのも良くないな、と思い何も言わんことにした。
俺はこの禪院家も、一族みんなのことも愛してる。でも正直、この家のこういうとこは好きやない。
男尊女卑とか、『禪院家にあらずは術師にあらず、術師にあらずは人にあらず』みたいな風潮とか、同じ尊い命なのに優劣をつける必要あるんか、と思う。
当然、父親のことは愛しとった。けれど、父は術師や。術師として呪霊や呪詛師と戦い、相手の方が強ければ負けて死ぬことも当然あり得るわけで、突然の死による別れは覚悟しとる。そして、悟君すらも封印されたような魔境の渋谷にて、術師として最期まで戦った父のことを、俺は心から尊敬する。
「来たか」
奥の部屋に入ると、扇のおじちゃんと甚壱君が既に待っておった。
扇のおじちゃんは、いつも厳格な態度を崩さない真面目な人や。秘伝『落花の情』を自分の術式と組み合わせた居合い術は、禪院家の中でもトップクラスの戦闘力を誇る。
甚壱君は、面倒みが良く、皆から慕われとる禪院家のまとめ役。術式と俺にはないパワータイプで頼りになる男や。
二人とも俺の尊敬する先輩術師やな。
「待たせて申し訳ないわ」
「問題ない。俺たちも今来たところだ」
「……皆さんおそろいで。たった今、禪院家ご当主、禪院直毘人様が亡くなられました」
やはり、ダメだったか。
覚悟しとると言うたけど、やはり愛する父の死は辛いな。
けれど俺はもう泣かへんで。父のように、世のため人のため呪いと戦い続けると誓うわ。
そして、当主の父が亡くなったということは、おそらく父の遺言状によって、扇のおじちゃんか甚壱君が次期当主になるわけやな。
俺? ないない。俺みたいな若造が当主なんかやれるわけないやん。それに、実力的にも人間的にもこの二人よりも優れとるわけやないし。
「一つ、禪院家27代目当主を禪院直哉とす」
……え? お、俺? 俺が当主なん? 扇のおじちゃんと甚壱君を差し置いて……?
「やはり直哉か」
「まぁ、良いだろう」
まぁ……なんか二人も納得しとるし、任されたからには、当主として禪院家を引っ張ってったるわ。父が死んで悲しいけど、禪院家のみんなで力を合わせて頑張るで! それに、当主になれば、真希ちゃんと真依ちゃんの居場所を作るという目的も近くなるしな。
「ただし、なんらかの理由で五条悟が死亡、または意思能力を喪失した場合、伏黒甚爾との誓約状を履行し、伏黒恵を禪院家に迎え、同人を禪院家当主とし、全財産を譲るものとする」
ほー、恵君か。ええんちゃう?
確か術式は『十種影法術』、禪院家の由緒正しき相伝術式やろ? 一応相伝とはいえ歴史の浅い俺の術式より良いと思うで。
とはいえ、まだ若いから色々大変やろうし、俺がサポートしてやらんとな。
それに、恵君のこと十年ぐらい見とらんからな。どんだけ大きくなったんやろ。楽しみや。
*
「あの二人、反対しとったなぁ。よぉ知らん子が当主になるからって気持ちは理解できるけどな。それで、恵君って今東京おるんやろ?」
「東京で虎杖悠仁捜索の任に当たっているそうです」
「虎杖君……て、あの宿儺の器の子やったっけ?」
「はい」
「なるほどな。とりあえず俺今から恵君に禪院家当主任命おめでとうて言いに行くわ」
「は……?」
「ついでに虎杖君を助けたるわ」
「え、助ける……?」
「虎杖君もまだ若いのに宿儺の器なんちゅう運命を背負わされて可哀想すぎるやろ。俺に助けられることがある筈や」
「は、はぁ……」
「それに、虎杖くんだけやない。今の東京は魔境や。人がいつどう死んでもおかしくあらへんから、助けを求める人たちがぎょーさんおる。たとえ少しでも祓って数を減らせば、それで救える命もあるやろ。ちゅうわけで、行ってくるわ」
「そ、そうですか……では、お気をつけて」
「よっしゃ行くで! 東京! 待っとれよ恵君! 直哉おじちゃんが会いに行くで〜!」
・キャラクター紹介
禪院直哉
善人。
良いやつすぎて逆に禪院家で浮いている。善人ではあるが無鉄砲ではなく、いつか禪院家を改革したいと思っていてもそれができるだけの力と人徳がまだ自分に無いことも理解している。
術式がなくとも武器を手に取り頑張る兄たちを心から尊敬している。いとこである真希と真衣を溺愛しているが、真希からは禪院家らしからぬ善人ぶりを気味悪がられていて、真依には自分を引き止めず高専に送り出したことに複雑な感情を抱かれている。しかし嫌われてはいない。
趣味は人助け。
続きは気が向いたら書きます。