もしも禪院直哉が割と良いやつだったら   作:まつだ

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「真希ちゃんから人の心を奪ってもうたのは俺の弱さや。けれど、柄筆頭としてケジメは付けなあかん」

 

 

 

「真希ちゃんやん!」

「げっ……」

「おかえり! 久しぶりやなぁ! 渋谷、大変やったって聞いたで! せっかくの綺麗な顔が火傷なんて酷いなぁ〜……でも、真希ちゃんが別嬪さんなのは変わらへんで! とりあえず、ここ座りや!」

「……ウス」

「ゆっくりしてってや! せや、なんか飲むか⁉︎  お酒……は未成年やからあかんな! お菓子も用意したるで!」

「……イヤ、イイッス」

「せや、忙しいんやったな! すまんすまんおっさんの長話に付き合わせようとして! 久しぶりに会えたもんでテンション上がってもうてなぁ! 用が済んだら高専に戻るんやろ! 気ぃつけてや! 乙骨君にもよろしく!」

「……ウス」

 

(この人マジで苦手なんだよな……何でこんな家からこんな善人が生まれんだよ……バカ目隠しより特異点だろこの人……)

 

 せっかく帰ってきた真希ちゃんやったけど、さっさとどっか行ってしもうた。なんか用がある言うてたけどなんやろ? まぁ年頃の娘に色々聞くのは良くないしな。

 それにしても、真希ちゃんと昔は良く遊んでたのに、最近はそっけなくなってもうておじさんは寂しいなぁ……

 

 

 

 

「……は? なんて言うたん?」

 

 自室でゆっくりしとった俺は、甚壱君から信じられんことを聞いてもうた。

 

「二度も言わせるな。五条悟解放を企てた謀反者として、伏黒恵、真希、真依を誅殺する」

「言葉の内容ちゃうわッ! 何でんなことするかってちゅうのを聞いとんねんッ‼︎」

 

 甚壱君の胸ぐらを掴み上げ、問い詰める。

 

「五条家との関係修復の契機として、伏黒恵の当主就任を後押しする声も少なくない」

「ならええやんかッ‼︎」

「だが、全財産を譲るというのは俺たちも到底納得できない」

「そんな理由で、子供殺すんかお前らはぁッ‼︎」

 

 すると、甚壱君も、俺の胸ぐらを掴み上げた。

 

「お前がそんな甘い善人だから! 前当主はお前ではなく伏黒恵を推したと何故わからない!」

「なんやと……⁉︎」

「お前は純粋すぎる、そして優しすぎる! しかし、その優しさは呪術師として命取りになる! だからこそ、前当主直毘人は自身の術式を継ぐ息子のお前でなく、伏黒恵を当主としたんだということが!」

「ざけんなや! 子供殺すことが正しい呪術師ってやつなら、今すぐ呪術師なんかやめたるわ! そこ退きぃ! 甚壱君……いや、甚壱ぃッ‼︎」

「お前を真希たちのところへ行かせるわけにはいかん」

 

 言いながら甚壱君が合図すると、女中たちが部屋にぞろぞろと入り込み、俺を取り囲むように周りに立った。

 

「何のつもりや……!」

「お前の術式は、五条悟の術式順転ほどではないにせよ、高速移動による衝撃が周囲に走る。術式での高速移動中、常人程度の身体の強さしかない女中に触れることがあれば、衝撃で無事では済まない。こうすれば、心優しいお前なら力尽くで拘束を突破することはない」

 

 拘束をあえて非術師で固めたのはそういうわけか……!

 流石甚壱君やな。悔しいけど、俺のこと分かっとるやん。

 

「安心しろ。事が済めば晴れてお前が当主だ」

 

 俺は、部屋から去っていく甚壱君を目で追うことしかできんかった。

 俺はここで、真希ちゃんと真依ちゃんが殺されるのを待つしかないんか……?

 

「あなたの身を妨げることをお許しください。しかし、私たちは……伏黒恵ではなく直哉様が当主になるべきだと思っています……」

 

 すると、女中の一人が口を開いた。

 

「あなたは禪院家の希望。ここは屈辱を耐え、此処で大人しくしていてください。お願いします……!」

 

 そうか……この女中さんたちは、俺のためにこんなことしとるんか。甚壱君も、当主は俺言うとったな。

 でもあかん。たとえ俺が当主になれたところで、俺の守りたかった人たちが殺されるんじゃ意味が無いんや。

 

「……御免なぁ」

 

 拘束を振り払い、女中さんたちを気絶させて、甚壱君たちの元へ向かう。

 真希ちゃんと真依ちゃんは、そして恵君も、俺が守らなあかん。

 俺が……俺が────

 

「……は?」

 

 そう思いながら向かった庭先に立っとったのは、返り血に塗れた真希ちゃんやった。

 そして、その手が握るのは、甚壱君の髪とその先にある首。

 

「真希……ちゃん……?」

「直哉さん……」

「真希ちゃんが……やったんか……?」

「あぁ……私がやった」

 

 真希ちゃんからは呪力が感じられへん。

 今までほんの僅かに感じられた呪力が、全く。

 これはまるで……

 いや、そんなことより……

 

「直哉さん。真依が死んだ」

「真依ちゃんが……っ⁉︎」

「その反応だと、やっぱりあんたは何も知らされてなかったらしいな」

「……恥ずかしい限りや」

 

 真依ちゃんが殺されたっちゅうことは、禪院家に帰ってきてたいうことやな。なんで俺に会ってくれへんかったんやろ。

 

「あんたは……あんただけは、真依の言う『全部』の中に入ってない。だから、どっか行ってくれないか?」

「真希ちゃんと真依ちゃんが、この禪院の家でどんだけ辛い思いしてきたかは知っとる。知っとるくせに、何もできんかったのは俺で、真希ちゃんから人の心を奪ってもうたのは俺の弱さや。けれど、柄筆頭としてケジメは付けなあかん」

「……あんたならそう言うよな」

 

 そう言って、真希ちゃんは俺に剣を向ける。

 その剣からは、そこはかとなく真依ちゃんを感じた。

 

「いや、やめとく。真依にあんたを斬らせたくはない」

 

 真希ちゃんは剣を地面に刺した。

 

「真依ちゃん……?」

 

 そうか、真依ちゃんは命を使ってその剣を作って、その時に真希ちゃんの呪力を全部持って行ったんやな。

 だから真希ちゃんは……甚爾君に近づいてもうたんか。

 

「こんだけのことをした真希ちゃんを、禪院家として、柄筆頭として許すわけにはいかんのや。だから……倒させてもらうで!」

 

 けど、甚爾君にはさせん……!

 

 

 

 

 

『また来たのかよお前』

『だってみんなつまらん話しかせえへんもん。甚爾君とおしゃべりしてる方が楽しいわ』

『……俺のとこなんか来て怒られても知らねーぞ』

『俺のこと怒る大人なんかおらへんから大丈夫や。みんな次期当主やと甘やかしてくれとるもん』

『そうかよ』

『なぁなぁ甚爾君』

『あん?』

『俺が禪院家当主になったら、禪院家変えたるわ。甚爾君が呪力がないからっていじめる奴らみんな黙らせて、甚爾君が堂々と歩けるようにしたる!』

『お前……』

『だから、そん時は、俺のこともいろいろ助けてくれや』

『……はっ、考えといてやるよ』

 

 

『甚爾君のあほ……なんで出てってしもうたん……助けてくれ言うたやん……』

 

 

『甚爾君が……死んだ? 五条の……あぁ、悟君が殺ったんか。じゃあ、甚爾君悪いことしてたんやな……ていうか、甚爾君息子おったんか。その子、禪院家で引き取るんか? あぁ、それも悟君がなんとかするんやね。まぁ、それならそれでええんちゃう?』

 

 

 

 

 

 俺は何度も間違えた。俺がアホやったから、甚爾君も、真依ちゃんも、扇のおじちゃんも、甚壱君も、蘭太君も、長寿郎のじいちゃんも、信朗君も、他のみんなも死んでしもうた。

 俺がもっと強ければ、上手く動ければ、みんな死なずに済んだかもしれんのに。

 だからこそ、真希ちゃんを……甚爾君にはさせん! 俺がここで、止める!

 

 

 

 





 この物語の真依は直哉のことかなり好きです。
 しかし真依が直哉に会いたくなかったのは、直哉に会うと自分が真希のために死ぬ覚悟が揺らいてしまうからみたいなことにしといてください。


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