もしも禪院直哉が割と良いやつだったら   作:まつだ

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「真希ちゃんの敗因は俺を仕留めるのに真依ちゃんの剣を使わんかったことと、首を斬らんかったことや」

 

 

 

 俺の敗因は、勝負を焦ったこと、それに加えて真希ちゃんが俺の術式を看破したことに気づかへんやったことや。

 結果、置いてあった真希ちゃんの拳に突っ込んでもうて、このザマや。

 完全体の天与呪縛-フィジカルギフテッドの強さはよく知っとる筈やった。何せ、この家で甚爾君と一番言葉を交わしたのは俺や。超越的な視力相手に俺の術式をどれだけ見せればタネがバレるか、ということも計算した上で戦っとった。

 しかし、俺が見落としていたのは、真希ちゃんが渋谷で父-直毘人の術式を見ていたことや。俺の中での『術式がバレるタイミング』より、真希ちゃんの方が早かったちゅうことやな。

 

「……」

 

 あかん、意識が朦朧としてきた。加速に加えてフィジギフの拳に突っ込んだせいで、頭が潰れてるかもしれへん。

 これが死ぬっちゅうことか? 嫌やなぁ……

 術師として死ぬことは覚悟しとったつもりやけど、やっぱ怖いや。

 でも、それよりも嫌なのが……

 

「悪いな……直哉さん。さよなら」

 

 真希ちゃんを止めることも救うこともできずに終わることや。

 結局何もできひんかったわ。甚壱君が言ったように、俺の優しさじゃ、何もできひんかったってことやな……

 誰かが言っとったな、呪術師に後悔しない死はない、って。ほんまその通りや……後悔まみれの人生やで、全く……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ……?

 なんや?

 死んだはずなのに、なんか感じる……

 なんやろこれ……

 言葉にすんなら……まるで……

 『呪力の核心』っちゅうやつか?

 なら、まだいけるで!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(結局……直哉さんまで手にかけちまった。あの人は強いから手加減できなかった。真依に申し訳ないな。アイツ、直哉さんのこと好きだったから……)

 

(私も苦手だったけど良くは思ってた……だけど、あの人が近くにいると、自分のことがもっと嫌いになるんだ。強えくせに善人だから、自分の弱さが余計浮き彫りになる……)

 

(んなことより……残りの『禪院』だ)

 

 スタ……スタ……

 

(足音……? 待てよ、この呪力……っ!)

 

「マジか……!」

「大マジや、元気ピンピンやで」

「……『反転術式』!」

「正解や」

 

 俺は、死に際で掴んだ『呪力の核心』で、反転術式を習得した。

 昔から練習しとったんやけど、センスなくてできひんかった。けど、ようやく掴めたってわけや。

 

「死に際になると、呪力の核心を掴みやすいってのはホンマやったんやな。真希ちゃんの敗因は俺を仕留めるのに真依ちゃんの剣を使わんかったことと、首を斬らんかったことや」

 

 まぁ、真希ちゃんは無意識に俺にトドメを刺さんかっただけかもしれんけどな。

 

「さて、戦う前に一つ約束しよや」

「約束……?」

「この際、真希ちゃんが禪院家のみんなを殺したことは不問にしたる。みんな好きやったし、思うことがないわけやないけど、家のみんなで真依ちゃん真希ちゃん殺そうとして、逆に殺されたっちゅうのは、ある意味因果応報やしな。けど、もうええやろ。これ以上殺すんは、応報やなくて虐殺や」

「……断る」

「そう言うやろな。だから約束や。俺が勝ったら真希ちゃんは禪院殺すんをやめる」

「なら、私が勝ったら、もう私の前に現れんなよ」

「そりゃ無理や。生きてる限り、俺はどんだけ負けても何度でも立ち上がって、同じ条件で真希ちゃんに勝負を挑むで」

「そうかよ」

 

 術師の戦いに、ゴングみたいな分かりやすい合図はあらへん。戦う気になったその瞬間に始まるのが、術師同士の戦いや。

 

(速い……っ⁉︎ まだ速くなれんのかこの人……!)

 

 投射呪法の弱点は、物理法則を無視できんことやが、今の俺は反転術式を使える。つまり、物理法則を超えた動きをして身体が壊れようが直ぐに治すことができて、その結果術式の解釈が広がり、今まで以上に自由に速く動けるってことや。

 真希ちゃんに術式のタネは割れとるから、フリーズの方はもう使えん。

 けど、術式の解釈を広げればこんなこともできるんやで!

 

(これは……空気をフリーズさせて弾けさせたのか!)

 

 それと、この戦いの目的はもう一つある。それは、俺が真希ちゃんを鍛えて『完成』させること。

 真希ちゃんを甚爾君にはさせん、とは言った。それは精神的な問題で、全てに心を閉ざした呪詛師にはしないっちゅうことや。

 けど、強さそのものは甚爾君に近づける。真依ちゃんが呪力を全て持って逝き、身体だけは同じになったいうても、真希ちゃんはまだ甚爾君の強さには届いてへん。

 

「……そうやないで、真希ちゃん」

「は……?」

 

 甚爾君なら、俺の今の速さにも対応できる。

 甚爾君なら、空間を面で捉えられる。

 

「モノの見方がちゃうんや。真希ちゃんは呪力が無くなったから俺らと同じ視野でモノを見れるようなった。けどな、今の真希ちゃんはその先を見れるんや」

「その先……?」

 

 だから、俺との戦いで、俺が知ってる分の甚爾君の強さを教えたる。真希ちゃんを甚爾君並みに強くしたる。

 その上で俺が勝って、真希ちゃんを止めて、残りの禪院も守る。俺はもう命を取りこぼさん。

 

 

 

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