もしも禪院直哉が割と良いやつだったら   作:まつだ

5 / 6
「まだ生きとる俺とみんなで、これから先はもう誰も泣かん家にするぞ」

 

 

『はい俺の勝ちな』

『くぅ、勝てへん! 俺の方が速いのに、なんで甚爾君を捉えられんのや!』

『はっ、直毘人ならまだしも、まだ術式を使いこなせてねえお前には負けねーよ。それに、俺とお前とでは見えてるもんが違え』

『もう一回や!』

『やだよ。これ以上やると家のクソどもにお前とつるんでんのバレちまうからな』

『俺は気にせーへんけど』

『お前は、な。俺はそうじゃねーんだよ』

 

 それが甚爾君とした最後の会話やったかな。その次の日に甚爾君が家出てったて聞かされて、その後十年近く会うこともなく、そして死んだって聞かされた。

 当時の俺はアホなガキやったから、甚爾君の孤独に寄り添えてるつもりなだけで、そんなことはなかった。

 今の俺でも甚爾君と同じ視点でモノは見れん。けど、死に際で呪力の核心を掴んだからか、甚爾君がどういう視野で世界を見てたか、というのを、なんとなく推測して理解できた。

 

(直哉さんは、私に何を伝えようとしてるんだ……?)

 

「俺たちと同じで満足したらあかんで!」

「何……?」

「よく見てみぃ! 周りを! 世界を!」

 

 全てを言葉にはせえへんで。さぁ、早く気づけよ、真希ちゃん! 気づかんと今の俺とは勝負にならへんで!

 

(周り……? 世界……?)

 

 わざとらしく術式で空を駆け、あえて大回りに動き、真希ちゃんの視点を広げさせる。

 ここまでする必要もないかもしれへんが、可愛いいとこには世話を焼くもんや。

 

(……そういうことか!)

 

 あの表情、気付き始めたようやな。

 

(直哉さんがどう動くか、私の周りの全てが教えてくれる)

 

 ええな。さっきまでとは違って晴れやかな表情や。

 真依ちゃんが殺されたっちゅうのに笑えって言うのは酷やが、それでも真希ちゃんは笑ってる方がええ。

 

(私にしか見えないもの、あの人にしか見えていないものがあったんだ……! なんてことない私たちを取り巻く空気にも、温度や密度の違いで"面"が点在していたんだ。"面"を……捉える!)

 

 やるな真希ちゃん……

 遂に『完成』しおったな……! 

 俺の方が速いのに捉えられん、俺の方が速いのに攻撃を避け切れん。

 ピンチとはいえ、そうや、これでこそや!

 

「……良いのかよ直哉さん。敵に塩を送るってレベルじゃねーぞ」

「ええんやで」

「なら、終わりにしてやるよ」

 

 けど、勝ちまではやらん。これ以上俺の家族を殺させん。そして、まきちゃんも止める。

 真希ちゃんが強くなったみたいに、俺もその先に到達しとるんやで。

 今の俺なら……やれるんや!

 

「……領域展開‼︎」

「……っ⁉︎」

「『時胞月宮殿』!」

 

 呪力の塊がドーム状に展開され、俺と真希ちゃんを包み込む。

 確かに、呪力がない真希ちゃんを領域に閉じ込めることはできん。昔甚爾君に聞いたからな。

 

『甚爾君って呪力ゼロやんか? それって領域みたいな食ろうたらどうなるん?』

『あー? 領域の種類によるな。領域内効果そのものが必殺だったりすると詰みだが、相手を領域内に入れて更に術式を発動させるタイプだと俺に対しては必中にならねーからその隙に殺せば割といける。俺を領域に閉じ込めることもできねーからな』

『ほ〜ん』

『後は……領域内の生物無生物問わず全てを対象にするタイプとかでも無理だな。ま、そんな領域使う奴なんて、伝承上にしかいねーけど』

『伝承上?』

『千年前にいた宿儺っていうやべーやつがそういうタイプだったらしいぜ』

『なら、俺も甚爾君と戦う時はそういう領域にした方がええっちゅうことか』

『はっ、領域ができないどころか、まだ術式も使いこなせてねーガキがよく言う』

 

 なら、領域の解釈を弄ればええ。

 今の俺の領域内の効果の適用先は、領域内に存在する生物無生物関係無しや。

 

(ぐ……動けない……っ!)

 

 領域内の効果は、全ての物体は俺がイメージした動きをトレースせんと()()()フリーズする、これを突破できるのは俺の脳みそでも覗かんと不可能や。

 

(手詰まりか……)

 

 ほんとは細胞一つ一つにそれを課して、相手の対組織をズラして肉体を破壊するってこともできるんやけど、殺傷力が高すぎて俺は好かん。

 まぁ、なんにせよ……

 

「これで、俺の勝ちや。約束、守ってもらうで」

 

(でも、真依には申し訳ないけど……負けてよかったって思っちまってる私もいるんだ……)

 

「……あぁ、私の負けだ、直哉さん」

 

 そして、決着の合図として、真希ちゃんに思い切り拳骨を叩き込んだ。

 これは暴力ちゃう。愛の鉄拳や。今回の件は、一先ずこれで終わりにする。お互い思うことはあるやろうけど、どこかで振り上げた拳を引っ込めなあかん。

 だから、これで終わりや。

 

 

 

 

『死滅回游、俺も行くで、真希ちゃん』

『いや、やめてくれ。今さっき憲紀から連絡があった。加茂家がもう敵の手に落ちてる』

『ほんまか……』

『五条家と加茂家がダメな今、禪院のあんたしか御三家でまともなのがいねーんだよ』

『悟君が復活すればなんとかなるんちゃうん?』

『そういけばいいが……とにかく、あんたまで死なれると困る。だからあんたは死滅回游には行くな』

『そういうわけにはいか……痛ぁっ⁉︎ なんやこの刀⁉︎ 急に飛んできて俺をチクっと刺したんやけど⁉︎』

『真依もやめろって言ってるってことだよ』

『ぐ……しゃあない。二人にそう言われんならやめとくわ。その代わり絶対死ぬんやないで真希ちゃん』

 

 その後、死滅回游対策のために仲間の元に向かう真希ちゃんを送り出し、禪院家の死んでしもうた家族たちを弔うことにした。

 

「ずいぶん減ってもうた。けど、まだ生きとる俺とみんなで、これから先はもう誰も泣かん家にするぞ。前時代的な風習も廃止や」

 

 そして、残った禪院家たちを集め、禪院家再興に向けて集会を開いた。

 どうやら、恵君は禪院家の当主をやる気なんてなかったようで、俺に全部譲ってきた。その前に、禪院家に保管された呪具を取りに来た真希ちゃんを狙ってこの事件が起きたいうことや。

 

「それと、今回の件はもう手打ちにするで。真希ちゃんを誅殺することは俺が許さん。高専にいる恵君から書状が届いたんや。禪院家の一部呪具と引き換えに、当主の座を俺に譲るてな。これからは俺が当主や。だから、今のも当主命令や」

 

 これで、俺が禪院家27代当主やな。とりあえず、新体制の禪院家を率いて、やれることをやるで。

 まずは、死滅回游のコロニーの影響で家を失った人たちの保護と支援からやな。

 





 第一部完です。
 この先を一旦番外編(昔の直哉と真依の話)にするか、普通に原作の続きやるかは考え中です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。