セヴァストポリになったコルセア   作:イエローケーキ兵器設計局

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 人は私をF2Gスーパーコルセアと呼ぶ……ことはもうない。私はもうコルセアではない。ガングート級4番艦セヴァストポリ、そう名乗っている。もっとも、これは我が主……いや、代理人以外には、ではあるかな。
「同志セヴァストポリ、もうそろそろ出撃の時間だぞ?」
『今行く!我があ……ガングート姉さん。』
 代理人(我が主)がリーダーで、私がその部下なのはいつだって変わらない。いつであってもどこであっても。


1日目 浸透鹵獲戦術

 痛み、ぼんやりする頭。覚えているのは……墜落する飛行船から代理人を引きずり出したことと、退避が間に合わなかったこと。

 太陽の陽が眩しい。

「おーい、起きろ。」

 もう少し寝かせて欲しい。どうせろくなことになってないから。

「起きろ、コルセア、出撃だ。」

 はっ……!飛び起きてしまった。悪い癖だなぁ。

「引っかかったな。おはよう、コルセア。」

 上体を起こして周りを見れば墜落した砂漠ではなく、海岸。波打ち際で、どうにも引き摺られたのか砂に跡がある。白いコート、赤いシャツに黒いスカート……私の制服は何処へ?

「おーい、後ろだ、見えるか?」

 お揃いの白コート+赤シャツ(そして黒スカート)の女性が傍らに座っていた。存在感が有って、しかし無いというか……気が付かなかった……。

「私だ、代理人だよ。信じてくれないだろうがな。」

『……本当に我が主なら今からの問いに答えられるな?』

「ばっちこい。」

『我の登録番号は?』

「14692。」

『……声も容姿も違うが我が主だな。』

「いやー……参ったよ……女の人ってこんなに大変だったんだね……。」

 代理人は男だった。今の代理人はどこからどう見ても女性なのだが。

『……胸がない。』

 私の胸部装甲(それなりに豊満だったと自負している)はどこへ……。

「諦めてくれ。君が海岸に漂着した時点でその胸は小さくなってた。」

 

 

「コルセア、厨二病の設定は剥がしたんだな?」

『我が主と一緒のときは素で居ても良いだろう?』

『それに……』

「それに?」

『どうやら我は違う個体になったのだろう?なら……。』

『設定を引き継ぐ必要なんて、無い、だろう?代理人。』

「ははは、そうだね。そういえば左目は見えるかい?」

『左目……あ。いつもの癖で目を閉じてた。』

 いつも眼帯で隠していた左目。別に負傷したわけでも問題があるわけでもないけれど隠していた。でも、もう設定は要らない。自分を隠す必要は無いんだ。

『見える……。これが両眼視……。』

「おめでとう、コルセア。」

『ありがとう……?』

 

 陽は依然として高い。隣の代理人は呑気に鼻歌を歌いながら拾ったものを弄り回している。銃火器に見えなくもないけれど私には操作がわからない。

『それは?』

「ん?ああ、これか。」

 手の中で遊ばせていたのは自動拳銃。

「多分……M1911だとは思うんだがな……お、弾倉のお出ましだ。」

 慣れた手付きで弾倉から弾を抜いていく。代理人のあまりの順応の速さに感嘆してしまう自分が居た。

「うーん……使えなくはないか……。」

『どこでそれを?』

「んー?拾った場所?それとも知識?」

『両方と言ったら?』

「うーん……そうだなぁ……。」

「拾ったのはすぐそこ。木箱があってその中に。」

 指差す先には壊れた木箱。もしかして私達、力強くなってる?

「そして知識は……まあ、秘密ってことで。」

『秘密?』

「いつかわかる日が来る。」

 にこにこ笑う代理人の笑顔がとても素敵だった。

 

「さて……食料どうするかな。」

『漁でもします?代理人。』

「うーん……そうなぁ……焚き火作るのと獲物を追いかけるのどっちが好き?」

 協議の結果、私が火を起こし、代理人が狩猟を行うことに。

「行ってくるよ。」

『遅くならないでくださいね。』

「ああ、わかってる。」

 それだけ言って海に消えていく代理人。優雅な人は去り際も優雅とは言うけれど……。あ、帽子が……取れた。危ない危ない。

 

 1時間後。焚き火を作ったつもりが、大きなキャンプファイヤーができてしまった。放火魔なんて言われてしまうだろうか?

 

 遠くから泳いでくる人影。代理人かな?

「おーい、漂流者を保護したぞー!」

『漂流者?』

「暴れ回るから困ったよー。」ヨシヨシ

 左腕で肌の白い暴れ回る少女を抱えた代理人。

「お、帽子。ありがとう、コルセア。」

 どういたしまして。

 

 

「それで君、名前は?」

「……。」

 大きくし過ぎた焚き火越しに尋問を受ける、明らかに敵意剥き出しのキョンシー風の少女。……黙ってばかりで一向に口を開かない。身長はおよそ160〜170、私達ぐらいなものか。

『一向に口を割りませんね……。』

「まあ、それは想定内。魚でも食うか?」

 首を振って拒否する少女。

「そっかぁ。コルセア、先に食べててくれ。ちょっと考えがある。」

『え、あ……了解。』

 何をするのかわからないけれどとりあえず先に頂いて……おぉ……美味しい。

「まず、これが"あ"。言ってごらん?」

 そこからですか……?

 

 日暮れまでの格闘の末、片言ながら喋るようになった少女。

「カンムス、コワイ。」

「かんむす……?」

 艦娘……聞いたことがある。整備会の特殊部隊("ATLAS大隊"だっけ?)が採用した強化人造人間の一種らしく、海上を走り戦艦クラスの大口径砲を軽々と振り回すとか。でも、私達は……まさか。

『もしかして……。』

「私達は艦娘……というものになったのかもしれないな。」

 DOLLSの私なら兎も角、人間である代理人が艦娘になるなんて……。

「まあ、なってしまったんだ、諦めるしか無い。」

『私達は貴女を傷つけるつもりはない。』

「ホント……?」

『ええ。ね、代理人?』

「ああ、もちろんだ。」

「ワカッタ。フタリハコロサナイ。タスケル。」

 なかなか物騒な……。

「……コルセア、見てみろ。なかなか厄介なことになりそうだ。」

『え?』

 代理人から渡された即席の望遠鏡を覗いてみると海上に浮かぶ人影3つ。血色はとても良い。

『砲塔が……。』

「ああ。どうやら"死ぬには良い日"なのかも知れんな。」

「ナカマデハナイノカ?」

「自分の名前を言えない時点で終わりだ。」

「イイカンガエガ。」

「敵対しない方向で頼む。」

「……うーん……。」

『新型艦として潜り込む?』

「それだ。」

「ダケドワタシハ……。」

「"艦娘"の君に名前をつけようと思うが……何が良い?」

「……"スーチュアン"?」

「スーチュアン(四川)か……コルセア、どう思う?」

『良い名前かと。』

 承認。

「今から君は四川だ。さて……私達は拿捕されるんだろうな。」

『彼我との距離、およそ3km。』

「コロス?」

「極力、殺さない。敵だと思っていなければ良いのだが。」

『彼我との距離、およそ2km。』

「早いな。駆逐艦か、もしくは軽巡クラスか、か。」

「コルセア、名前を変えよう。私がガングート、君がセヴァストポリだ。」

『セヴァストポリ、了解。』

 ガングート級4番艦、了解。貴方の妹に戻ります。

 

「あー……こちらはガングート級戦艦1番艦、ガングート。我々は貴官たちの敵ではない。」

 想定していなかったものを発見して困惑している艦娘3名、距離およそ3m。

「こちら第二艦隊旗艦、不知火。提督、聞こえますか?不審な艦娘とシンカイセイカンを発見しまして……。」

「えっ…………了解、射殺します。」

 え。

 手に持った武装をこちらに向けるピンク髪少女。

「ほーう……同志を撃つか。」

 武器を向けられていてもなお落ち着いているガングート兄さん。掲げられた両手は震えがまったく見えない。

「残念だ。全くもって残念だ。」

 首を振りながら前に歩く兄さん。

「止まれ!止まりなさい!」

「不知火と言ったか。貴官の主砲は3年式12.7cmかな?」

「な、なぜそれを……!」

 確かに……。

「ルーキー、安全装置がかかってるぞ?」

「え?」

「セヴァストポリ、スーチュアンを頼む!」

 私の返事を待つことなく不知火に飛びつく兄さん。あっという間に不知火の主砲を奪って人質の盾に。

「さて、不知火。残りの2人に関して説明してもらおうか。それとも……ドックタグを回収する方向で行こうか?」

「くっ……。」

「……潜水艦か。味方ごと殺ろうって方向性なのかい?」

 

「セヴァストポリ、コレヲ。」

 背後に居たスーチュアンから、どこで見つけたのかわからない半自動ライフルを差し出される。

 スコープは着いてなくて、アイアンサイトしかないけれどつべこべ言ってられない。

「ありがとう。」

 マガジンを外して弾薬を確認……中身の弾薬も使えそう。

『ガングート、今助けます……。』

 彼我の距離およそ50m。ガングート兄さんに注意が向いている間にここまで来れた。茂みに伏せて息を整える。

「ブソウヲネラッテ。」

『了解。武装を狙う。』

 多砲塔な人達(戦車内デパート)だ……ホント。ポイントは砲塔の下、根っこの部分。

『終わり。』

 タン!と鋭い銃声。ボン!と4つある砲塔の1つが打ち上がる。

「榛名さん!」

「不知火、悪いことは言わない。今のうちに降伏しろ。」

「不知火は……不知火は……!」

「不知火、もう良いのよ。」

「榛名さん……?」

「シンカイセイカンかどうか判別のつかない未確認目標と交戦するのは、愚かな行為、そう思わない?」

「しかし、提督が……!」

「ガングート、こちらがもし攻撃しないと表明したら?」

「仲間に銃を下げるように厳命しよう。それでも下げなかったら……容赦なく撃てば良い。」

『ガングート!』

「セヴァストポリ、命令だ。スーチュアンを頼むと言っただろ?」

 ハッとして後ろを振り向けば歯をむき出しに威嚇するスーチュアンの姿。

「潜水艦の連中にも出てきてもらえないだろうか?」

「……ニム、浮上してください。不知火、電、帰投しましょう。」

 

 

 私達は武装解除(ライフルとピストルはコートの下に隠し持った)の上、彼女たちの基地に連行されることになった。

「榛名、だったか。」

「はい、何でしょう。」

「その……妹がすまない。」

「今更、なんですか?」

「うぐっ……。」

「……冗談ですよ。とても良い妹さんをお持ちのようですね。誇っていいと思います。」

「……。」

「私には姉が居ました。もう行方すらわかりませんが……。」

『一言も発されてないのですが……電さんは話せないのですか?』

「こら、セヴァストポリ。」

「いえ、構いません。彼女は……数日前に作戦中に喉を負傷して……それっきりです。艤装が壊れるまで、いえ、壊れても喉を治す機会は無いでしょう……私達の労働環境は劣悪、それに尽きます。」

『……酷い。』

「一部のエースを除いた駆逐艦達は命が軽い、上層部の一部はそう思っているのかもしれません。」

 榛名さんが不知火をチラリと見ながら言う。

「ほーう……スーチュアン、セヴァストポリ、耳を貸してくれ。不知火さん、榛名さん、ニムさん、そして電さん、もし良かったら、無線を切ったうえで聞いてほしい。」

「「ラジャー。」」

「はい、何でしょう。」

「……。」

「基地にいる艦娘、そして生かすべき人員を外に連れ出してくれ。遠征に向かったら不審な艦娘を発見、捕虜にした後、帰投中に飛行場を発見、砲撃したものの弾薬不足で十分に攻撃を与えられなかった、とでもしておこう。」

「……生きている艦娘を囮にするかもしれません。」

「そこで、だ。」

「私達が誘導する。君たちは対空砲撃に参加してくれ。」

「ですが……。」

『了解。殺ってやりましょう。』

 

「スーチュアン、どれくらい動員できる?」

「……。」

 私たちから見えないように自分達の背中で隠して話し合うガングートとスーチュアンが少し恨ましい。機密事項を私も知りたい。

 

 

 

 数時間後。

「鎮守府まであと10分です。」

「あれか。潤沢な予算をどこに注ぎ込んでるのやら。」

 護身の為のレーダーと高射砲のハリネズミ、そういう印象。

「……実は大部分がハリボテなんです。戦績悪化による予算不足で……。」

「憲兵も大部分が提督の腹心で固められていて、派閥争いが起きています。」

「なるほどなぁ……では先に行ってて。スーチュアン、セヴァストポリ、こっちだ。」

『了解。』

「ご武運を。」

「テイトク、コロス。」

「殺しちゃ駄目だよ?」

『え?』

「あくまで不慮の事故に巻き込まれてもらうんだ。」

『……それって結局……。』

「まあ、どっちにしろ死んでもらう。」

 

「作戦概要を説明する。と言ってもまあ、軽いブリーフィングだ。」

「目標は6.2km先の鎮守府にある提督室。ここに急降下爆撃と水平爆撃を仕掛ける。」

「最も、あの対空レーダーの数を見るに……生きているレーダーに直ぐに発見されるだろうから逃走を図られる可能性は高い。それに人質の盾を使う可能性もある。」

「そこで、だ。セヴァストポリ、君には捕虜を装って鎮守府に侵入、提督の命を狙う敵性勢力……うーん……まあシンカイセイカンとかそのあたりだな、この侵攻から逃がすために派遣された特殊部隊として活動してもらう。」

『浸透戦術……偽旗作戦、と?』

「そうだ。」

『了解。』

「スーチュアン、君はこの位置から艦上機で攻撃を仕掛けてくれ。爆撃目標は私が指示する。急降下爆撃は指示された場所の屋根を破壊するだけでいい。水平爆撃は照明弾と発煙弾を頼む。」

「リョウカイシタ。カンムス、コロサナイ。テイトク、コロサナイ。」

「その調子で頼むよ。」

「では、作戦開始だ。」

 

『お待たせしました。』

「セヴァストポリさん、遠慮は不要です。あの男を……。」

『ええ。わかっています。これ、ロープです。』

「え、ええ。」

 後ろ手に手を縛られる。非常に不快だがコレも仕事。

『この作戦が終わったら……ふへへ……。』

 明らかにドン引きした様子の周囲。確かに縛られて悦んでいるように見えなくもない。

『ご、誤解です!』

「ガングートさんとは仲がとってもよろしいんですね。」

『え、ええ。まあ……。』

「陽炎姉さん……。」

「提督を始末したら一緒に探しましょう。」

「はい……。」

「結び終わりました。腕を左右に強く引っ張ると切れるよう調整してます。提督の"護衛"作戦、よろしくお願いいたします。」

『ありがとうございます。ご武運を。』

 

 

 ドッグに到着。装備を外して上陸していく艦娘達。私は特に外すものはないので……どうにも自分で仕舞えるようだし……。

 提督室は3階。ノックも3回。

「失礼します。不知火です、遠征の報告に参りました。」

「入れ。」

「失礼します。」

 重厚な観音開きのドアが開かれる。中央には……おーう……見たことを後悔したくなるような醜悪な男。別に服装そのものに問題はないが、人間ってあそこまで落ちぶれることができるのか?

「不知火、そいつは?」

「遠征中に捕縛した捕虜です。」

「射殺するように命じたはずだが?」

「申し訳ありません。」

「もういい。今すぐここで殺せ。」

「ですが……。」

「聞こえただろ!今!ここで!殺せ!」

 わーお、強火。良いのかなー殺しちゃって。

『提督……。』

「何だ?捕虜如きが提督様に口利きか?」

『30秒後に敵襲があると言ったら驚きますか?』

「は?」

『私は貴方様を保護するために参りました。』

「それを早く言え!」

 ん?廊下を走る足音。

「失礼します!」

「ノックを忘れたか!脳無しめ!」

「対空電探に数百の反応が!」

「なん……だと……!不知火!」

「はい、何でしょう。」

「遠征に出ていたくせに見えなかったのか!」

「雲が濃く、見えなかったものかと。」

「口答えは良い!空母共は!」

「既に戦闘機を発艦させていますが……。」

 窓から海を見やれば多数の水柱。あまり上手くはいってなさそうだ。

『逃げましょう、提督!今すぐに!』

「わ、わかった!不知火!お前らは殿を勤めろ!」

「了解しました。提督。」

「不知火、ロープを解いてやれ。」

 助かりますわ。不知火さん、作戦開始です。

 廊下に急いで出る。それを見計らってか、廊下の屋根を爆撃機が一箇所破壊していった。

「あわわ……!屋根が……!屋根が……!」

「落ち着いてください!」

「あ、あぁ。」

 隠していたピストルを取り出して対空砲火を試みる。勿論、曳光弾による誘導のため。意図が伝わったのか、上空の急降下爆撃機が旋回、急降下を開始する。

『危ない!』

 "護衛対象"を蹴り飛ばす。じゃあね、"提督"。

「うわっ!何をs」

 爆弾がまだ無事だった屋根を破壊し、瓦礫によって提督を圧死に追い込んだ。

『行きましょう、不知火。』

「さようなら、提督。」

 死亡確認をしておこう……うん、しようと思った私が馬鹿だったよ。これはミンチより酷い。

「作戦成功を伝える手段はあるのですか?」

『うーん……無い。そもそも提督の暗殺以外にもやることはあるし。』

「……!約束が違う!」

『違わないよ。貴女達に損害は出さない。あくまでこの鎮守府を破壊する為に爆撃機隊が来たことを装わないといけない。だから……適度に爆撃するの。この鎮守府に地下室はある?』

「地下室…………もしかしたらあそこ、かも。」

『了解。案内して。もしかしたら貴女や榛名さんのお姉さんが居るかもしれない。約束はできないけれど。』

 大昔に代理人の指示で敵対勢力のアジトの捜索を行った事がある。

 地下室は凄惨な状況。血と排泄物の匂いで充満した暗室。血だらけの生存者……それでもここの人間は猿ではなかったらしい。栗の花の匂いはしない。それだけが救い、だろうか。

「しらぬ……い?」

「陽炎姉さん……?」

「陽炎姉さん!」

 

「遅いと思って来てみれば……これは酷いな。」

『とりあえず治療のできる場所を探して治療を依頼しました。』

「資材は?」

『前提督のへそくりが。』

「……了解。」

 伊号第19号潜水艦(以下伊19)、金剛型1番艦金剛、陽炎型駆逐艦1番艦陽炎、その他……どうにも歯向かったものを海軍歩兵として売り込むつもりだったらしい。どう間違えたらこんな士気の低いヘロヘロ海軍歩兵ができるのか。

「艦娘たちのメンタルケアが必要だ……参ったな……こういう訓練は受けていないんだ……。」

『手探りで始めるしかありませんね、兄さん。』

「ああ、そうだな。セヴァストポリ。」

 

 ご褒美に頭を撫でてもらえたので身体が変わっても個人的には満足です。

 

「あ、憲兵たちも明日、更迭の予定だからその情報は共有しておく。」

 そう言って医務室に兄さんは消えていった。

「オシゴト、ウマクデキタ?」

 いつの間にか戻ってきていたスーチュアンの頭をご褒美代わりに撫でて(意外にもご満悦な笑顔をした彼女は崩壊した屋根の片付けに行った)、執務室の床に座ってうたた寝する。

 微睡んで崩れ行く視界。ライフルを抱き締めたまま私の意識は落ちていった。

 

 

 1時間たったくらいだろうか、頬をつつかれる感触で目を覚ますとさっきドックで艦娘の治療を依頼した二頭身の小人……"妖精"なんて呼ばれていただろうか?が恐る恐るレンチでつついている。

『ん……。』

 私が目を覚ましたことにようやく気がついたのか急いで逃げて物陰に隠れる妖精達。一匹隠れきれてないのだけれど……。

『何か用ですか?』

 隠れきれなかった妖精がおずおずと後ずさり。口を小さく開けて何か話そうとしているが聞こえない。耳がおかしくなったかと思って壁を軽くノックしたが耳は正常なようだ。(なお妖精はまた引っ込んだ。)

 

 ペンと紙を差し出し、声が聞き取れない旨を伝えると話し合いが始まり、10秒後には筆談に移行していた。

『電の修復が完了、電は再び話せるようになった。凄いね、君たち。』

 帽子を脱いで頭を差し出すつなぎ姿の妖精。これは……つまり……。

『ありがとうね、みんな。』

 頭を撫でると次は私、と交代で撫でられに来る。可愛い。

 ただ、芳しくない報告もあるわけで。

『弾薬が枯渇、燃料、ボーキサイトも残り僅か……鋼材は幸いにも在庫あり、と。』

 そうなぁ……なんでアルミニウムじゃなくてボーキサイト?

『工廠へ案内してくださる?』

 妖精達が顔を見合わせる。流石に彼女(彼?違うか。)達の根城かもしれない場所へ案内してくれは急すぎたかな。

『なになに…………あら、良いの?』

 コクコクと頷く妖精。妖精が見えて頭を撫でる事ができる存在に悪いものは居ない……らしい。

 

 秘書艦(×秘書官)代理として装備製造を行うことになった。イヤ、ホント……何で?

 素材を過去の提督及び秘書艦達の経験則から得られたレシピを下に指定して放り込んでいく。

『製造開始、と。』

 10分後。で、なんでコレができたんです?

『さあ?って……。』

 戦艦が装備を開発すると基本的には大口径砲等ができるらしく、レシピもそれを指定したつもりであった。が、結果はどうだ?見覚えのある逆ガル翼に長い機首。おまけにバブルキャノピーと来れば……選択肢は1つしか無い。

『ようこそ、父島鎮守府へ。』

 自分(F2G)を二頭身(妖精化)にするとこんな感じなんですね……ちょっと前までの自分とは言え……可愛い……。

「おやおや、これはこれは。」

 振り向けばガングート兄さん。流れるように妖精の私の頭を撫でている。いい〜な〜!じとー。

「お前もか。」

『えへへ〜。』

 周りの妖精が撫でられ待ちの姿勢を取ると左手で次々と撫でられていく。早業だ……。

 それはそうと、誰が運用するんです?この試作艦上戦闘機。量産の方は問題ないとは聞いたけれど……。

「お呼びかしら、提督代理?」

「ああ、呼んだ。加賀さん、人間嫌いの君に頼みたい。」

 青い袴風のスカート、極東重鋼学連(日本等に相当)で見た弓道着に似た姿。この艦娘が加賀……。

「新型機のテストベッドになってくれ。」

「はぁ……わかりました。」

 あ、引き受けるんだ。人間嫌いなのに。

 

 

 

 演習を明日の1100に行う。それまで各自休養に努めよ。それが提督代理の今日最後の指示。

「提督、本当に死んだのね。」

 加賀さんが静かにポロッと独り言を漏らす。そう言えばなんで弓道場に居るんだろう?

『ええ。』

「昔は情熱的でこんな人ではなかったのに、何が彼を変えてしまったのかしら……。」

『さぁ……。』

 悪いが兄さん以外の男女に興味はない。加賀さんがあのクズの何が良かったのか知らないが。

「私には妹が居たの。」

 ほう。ガングート兄さんにとっての私みたいな存在。

「名前は土佐。」

 加賀型戦艦2番艦、土佐。人によって建造され、人の勝手によって沈んだ標的艦。

『標的艦の……。』

「外部へ流布された噂では、ね。」

「でも実際はここに居た。艦娘として。」

 標的艦になったはずが生きていた?

「提督と結婚して、毎日のように惚気話を聞いて……。」

 ……私は何を聞かされているのだろう。仲間が装備を整備しているときに話す愚痴なんて今まで聞いてこなかった。でも、今は耳を傾けている。環境の変化とは不思議な力を持つものだなぁ。

「でも1ヶ月前の今日、沈んだの。」

「最期まで提督の身の回りの事を気にしてた。あの馬鹿ったら……。」

 ……まるで飛行船の撃墜を依頼した私が馬鹿みたいじゃないですか。……この艦娘は知らない。知らないから言えるのだろう。私が兄殺しだと知らないから。

「あれから提督は変わってしまった。穏健派が強硬派に変わるきっかけは大事な存在の喪失にあるのでしょう。でなければあれだけ可愛がっていた駆逐艦達を捨て駒にするようなことはしなかったはず。」

 ……怒ってますよね。義理の兄弟を殺したこと。

「これで、ようやく散っていった皆に顔向けができる。ありがとう、セヴァストポリさん。」

『……。』

 月光に照らされる無表情の加賀さんから感情を読み取ることはできなかった。

 

 ここは戦艦寮の空き部屋。兄さんと二人部屋に割り振られた。幸いにも。

『兄さん。』

「んー?どうした?」

『ぎゅーっと、して?』

「もう、しょうがないなぁ。」

 暖かい。このまま立って寝てしまいたい。

「こらこら、ベッドで寝るぞ?」

 二段ベッド。子供だった頃が懐かしい。あの頃の家は今はもう跡形も無いだろうなぁ。

 昔から私が上で兄さんが下。何かあったときにすぐに反応できるように、だった。あの頃の治安が良くなかった地域ではよくある話。でも、今は上がりたくない。

「おやすみ、コルセア。」

『兄さん……。』

「どうした?」

『そっちで眠っても良い?』

 消灯。

 

 




人物紹介 No.1:F2G スーパーコルセア
登録番号:14692(訂正線)抹消済み
全備重量:N/Akg〜N/Akg
主武装:12.7mmM2×6(史実武装)もしくは,23mmNR-23×4もしくは30mm MK108×2
副武装:1600lbまでの爆装が可能
 アッシュアームズ本編のF4U-1 コルセアとは容姿が似ているが性格は多少異なる。これは人間がベースとなった数少ない旧式のDOLLSだからである。なお、代理人の妹が志願してDOLLSになったとする噂があるが……噂は誇張されることが常であり、廃都における戦禍に巻き込まれて行方不明となったのが現在の整備会及び灰燼教会の見解である。

 ガングート級4番艦セヴァストポリになった理由は不明だが、代理人と代理人の妹は赤色十月同盟学連(ソ連等に相当)の出身である。

 整備会もとい特殊部隊ATLASに所属するF4G"スーパーコルセア"とは血縁関係は無い。

 兄殺しの負の側面を持つ。ヤンデレブラコンによる独占の為の強硬手段だったのでしょうけれど……うまくいきました?


人物紹介 No.1:セヴァストポリ
登録番号:14692(F2Gのものを流用)
全備重量:計測不可
主武装:30.5cm砲相当 半自動小銃(12発マガジン)
副武装:12cm速射砲相当 自動拳銃(12発マガジン)
 艦これ本編のガングート(現状、1番艦ガングートのみ実装)の姉妹艦……ではあるが、容姿がよく似ている程度に留まる。
 コルセアの転生先にしてある意味苦労人。ガングート(姉)があれなのは目を瞑るしかあるまい。
 妖精には怖がられる体質。艦娘達の治療を依頼したときもかなり警戒され、一部の妖精は工具で武装していた。それでも説得には成功したらしく武装解除の上で艦娘達の治療を依頼できた模様。
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