セヴァストポリになったコルセア   作:イエローケーキ兵器設計局

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 沈みゆく船。姿の見えない船員。預けられた小銃の重み。全てが……そう……もどかしい。


三日目 幽霊船

 

 今日は朝から忙しい。早朝の起床ラッパ代わりの砲撃演習作戦中に鎮守府のレーダーサイトが近代的な幽霊船を発見。提督が自ら偵察に行くというので総出で妨害……じゃなくて阻止していた。

「提督?お言葉ですが、こういう時の為に私達、兵士が居るのです。」

「だけど、直接見ないと……!」

『新手の敵だったらどうされるのですか!』

「失礼します!ガングートさん!哨戒機から付近に潜水艦の反応なしとのことです!」

「了解。電ちゃん、ありがとう。引き続き周辺の警戒を続けてもらって。」

「了解なのです!」

 パタパタパタと走り込んできた駆逐艦が笑顔で出ていく……この鎮守府も二日にして復興した……のだろうか。部外者が言うのも何だけれど……。

「隙あり!」

『逃がすなー!』

 

 

 数分後。無事に提督を捕縛した私達は誰が調査に行くのか決めていた。

「とりあえず……私がいくとして……。駆逐艦たちには一緒に乗船してもらって調査してもらうべきか……?」

「お言葉ですが、ガングートさん。電ちゃん達が喜んで入ってくれると思いますか?」

「うーん……そうだよなぁ。加賀さんの言う通りでもあるしなぁ。」

『なら、私と行きます?兄さん。』

「そうだなぁ……駆逐艦たちが入るよりかは安全か……。」

「提督のこと……忘れてない?」

「提督は今回は控えて頂けると、とても助かります。どちらかといえば万が一の事故や襲撃に備えて後方で待機してくれると……。」

「うぐぅ……。」

 提督は捕縛されてピッツァにパイナップルを置かれるイタリア人のような顔をしている……面白い。

 

 

「こちらセヴァストポリ。本艦と僚艦は後尾についた。どうぞ。」

「CP、了解。侵入口を探し突入されたし。」

 

「コルセア、投げ縄の覚えは?」

『あまり無いわね。』

「そうか……。」

 がっかりしないで、兄さん。今、習得するから。

『よいしょっ……兄さん、出来ました。』

「おぉ……ありがとう。」

『えへへ。』

 

 

『こちらセヴァストポリ、乗船しました。』

「CP、了解。逐次連絡せよ。」

 艤装を仕舞って艦尾より乗船。

「副砲のリロードは終わってるな?」

『問題ないわ。』

「よし、突入しよう。」

 兄さんを先頭にドアを開けて艦内へ。

 サビ一つ見当たらない灰色の艦内を進む足音2つ。艦内後部に特に目ぼしいものはない。艦橋に登ったところ、航海日誌らしきものが見つかった。

『SMS……ドイツ帝国海軍?』

「コルセア、これを見てくれ。」

『……S,e,y,d,l,i,t,z……ザイドリッツ?どうしてこんなところに?』

「わからん……が、ここの技術レベルからして……とっくの昔に解体されているはずだ。」

「あとは……。」

『前方の弾薬庫……です。』

「よし、行こう。」

 

 

「……参ったな。」

『ええ。参りましたね。』

 少女が一人。桃色のショートカット娘。軍服のような軍服ではないような服装の少女が弾薬ラックにもたれ掛かって座っている。意識はない……が、死んでもいない。

「こいつを持ってくれ。彼女は私が。」

 小銃(30.5cm)を受け取り、少女を兄さんが背負っている。……傾いた?

『こちらセヴァストポリ、CP、聞こえますか!』

「……。」

 砂嵐、ノイズ。

『急ぎましょう!』

「ああ、そうだな!」

 沈みゆくザイドリッツ。水密扉を開けては閉め、開けては閉めを繰り返し、もう少しで出口だと思ったときだった。

「うわぁっ!」

『兄さん!?』

 激しい振動。後ろからの悲鳴。自分でも不思議なくらい落ち着いている。兄が串刺しになっているというのに。

「先に行ってくれ!」

『嫌です!』

 折れ曲がって鋭利になった鉄板を兄さんの傷口から取り除く。それが最優先。

「皆に逃げるように言え!」

『いや!』

 曲がらない。抜けない。私は取り戻さなくてはいけない。

「逃げるんだ!行け!」

『いやよ!』

 取り戻さなくては。あの日失った全てを。

『3人でここから出る!』

 押してダメなら引いてみろ。昔からよくあることわざである。つまり……引いてもダメなら……。

『ふんっ!』

『行きましょう!兄さん!』

「あ、ああ!」

 銃剣で切断してやれば良い。内部が装甲化されていなくて本当に良かった。

 こうして沈みゆくザイドリッツから這いつくばって出てきた私達3人……だったのだけれど……。

「何も見えんな……すまん、コルセア。周囲はどうなっている?」

『兄さん、今は喋らないで。』

 周辺に味方は……霧?煙幕?のせいか居ない。重油や装甲の破片が漂っていて海面が燃えている。

『こちらセヴァストポリ!CP、聞こえますか!』

 返答はないが、微かに見えた人影が一瞬光った。

『伏せて!』

 ドーンドーンドーン。艦の近くに複数の着弾。

「コルセア、敵か?」

『わからない。けれど……多分、敵。』

「小銃を。2つあっては邪魔だろう?」

『兄さんこそ、その娘を私に任せては?』

「今、一番の戦闘力を持っているのは君だ、コルセア。火力を集中しないと船はなかなか沈まない。さあ、渡してくれ。」

 兄さんに小銃を返し、一挺になった小銃で狙いを付ける。

「目標、捕捉。」

「発射。」

 

 パパパン、パパパン、パパパン。

「着弾数は?」

『うそっ……無しです!速い!来ます!10秒!』

「着剣!」

 銃剣に命を託すしか生き残る道は無い!お願いM6銃剣!

『突撃!』

 黒いパーカーを着込んだ海を滑る青白い少女(艤装が見えたが、艦娘ではなさそう)に対して銃剣突撃!

「オイッ!ナニシヤガル!ボクノ16インチガ!」

 3連装砲の砲身を衝撃で押し曲げて発砲不可に。

「デモダイジョウブ!ボクニハマダマダアルカラネ!」

『うっ!』

『痛い……!』

 下腹部に二発貰ったものの……出血は幸い、無い。

「フフフハハハ!ツヨイ!ツヨイネ!イイヨ!ソノムダナツヨサ!」

「黙れ。」

 1発の銃声。

 大きく吹き飛ぶ敵艦。2mは飛んだだろうか。

「コル……セヴァストポリ!」

 後ろを振り返ると兄さんが少女を背負ったまま欄干にM14を乗せて支えていた。沈みつつある船からよく当ててくれたものだと思う。

「コンノォ……オコッタ……オコッタゾォ!オマエ、コロス!」

 あちゃぁ……怒らせてしまったか……!

「繧ォ繧ィ繝ャ」

『え?』

「ヒィッ……イイイ、イノチダケハァッ!」

 さっきまでの威勢はどこかへ行ってしまったのか急に怯えて逃げ帰られてしまった。うーん逃げ足も速い。

「……今のは一体?」

『え、え?』

 何が起きているの?人の言語とは思えない言葉を急に兄さんが言ったかと思えば怯えて逃げ帰っていくなんて……。

 

 

 少女を今度は私が背負い、兄さんに肩を貸して鎮守府に帰還した。

『以上が今回の報告となります。』

「了解。入渠してきて。解散。」

 私達が遭遇したのは戦艦レ級と符合される深海棲艦。彼女に遭遇した場合は基本的に退避することが当鎮守府においては許可されているという。提督は退避命令を艦内に居る私達にも発信したものの……ジャミングによって届かなかったらしい。被害の拡大を避けるために戦力を撤退させ、戦艦榛名が遅滞戦闘を行ったものの……結果的には……。

「あっ……どうも……ガングートさんに、セヴァストポリさん……お先に入らせていただいています……。」

 整備ドックの一時的な番人になってしまったらしい。

 

「拡張マガジンが必要か……。」

 兄さんは仕事をしていない時も仕事のことばかり考えている。

「12発では足らない……せめて15……いや、敢えて弾数を減らすべきか?」

「ふむ……なるほど、そういう考え方もあるのか。」

 二頭身の妖精さんと筆談を声に出して交わしながらマガジンか何かを考えているみたい。

「セヴァストポリさん、ちょっと良いですか?」

『何でしょう。』

「いえ、ちょっと……妬いてしまうな……と。」

『嫉妬?』

「お恥ずかしながら……はい。セヴァストポリさんみたいに兄妹間の仲がよろしいのはちょっと妬いてしまうんです。」

『そっか……。金剛さん……。』

「金剛お姉様は今は本土でリハビリ中とお聞きしています。もしセヴァストポリさん、そしてガングートさんが居なかったら……金剛お姉様に会う前に沈んでいたかもしれません。」

 しばらく少しシリアスな話をして過ごした。

 

 

『スー、言いたいことはわかるわよね?』

「……。」コクコク

「まあまあ……誰にだって失敗は有るだろう?」

『ですが……。』

「スー、持ち主に返すよ。」

「はーい……。」

『まったくもう……兄さんは甘いんですから。』

 帰室したら、スーチュアンが弓掛け……だったかな、日本の弓道用の手袋を干していた。しかし私達は弓道を嗜んではいない。問い詰めようにも「これは預かったの。」としか言わないときた。

「多分、加賀さんの弓掛けだと思うが……聞いてみよう。」

 

 

 兄さんが加賀さんを連れて戻ってきた。時刻は……2214。

「……土佐の弓掛けね。どこでこれを?」

「預かったの。本人から。」

「……。」

 少し沈黙。のち、涙がほろり。

「スーチュアン、その弓掛けは貴女にあげるわ。持っておきなさい。ガングートさんに、セヴァストポリさん……土佐が迷惑をかけたわね。……少し一人にさせて頂戴。」

 そう言って走るように去っていった。

 

 

 




人物紹介3
 デストロイヤーズ
 駆逐の六人衆(暁、響、雷、電、陽炎、不知火)を指す言葉。かつては発声機能を喪失していたり精神的肉体的に疲労していたりしたが、(セヴァストポリ等による提督の排除及び)妖精さんと食事のおかげで三日目にはもう回復していた。恐るべし……。
 個艦の戦闘能力は駆逐艦そのものだが、本来のところ潜水艦で行う群狼戦術を指示すると、いつの間にか居なくなっていて……しばらく後に戦果と共に帰って来る。
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