西風騎士団のワーカホリック侍   作:POTROT

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西風騎士団のワーカホリック侍
1話


 西風騎士団のワーカホリック侍と言う、名誉なのか不名誉なのかよく分からない称号を貰って、もう2年近く経つらしい。

 俺の体感では騎士団に入団してからまだ数ヶ月程度なのだが、時間の流れとは実に早いものだ。

 しかしそれも仕方がないと言うものだろう。思い返してみれば、ここ数年は本当に色々なことがあった。

 

 まず侍とあるように、俺の出身は『永遠』の国たる稲妻である。

 そんな俺が何故『西風騎士団』、つまりモンドの自治組織に所属しているのかと言えば、その稲妻から逃げて来たからに他ならない。

 

 とは言っても、別に向こうでの生活が嫌になったからと言うわけではない。

 と言うか、出来る事ならばあそこに留まっていたかった。

 自分で言うのも何だが、稲妻での俺はまさに出世街道まっしぐらにあったのだ。

 仕事は出来るし、そこそこ良い家柄だし、実力も確か。実際トントン拍子に昇進していた。

 あのままあそこに留まっていれば、今頃は奉行所の重役にでもなっていた事だろう。

 

 しかし、そんな順風満帆だった俺の奉行所生活は、とある知らせを受けて頓挫した。

『鎖国令』並びに『目狩り令』の施行だ。

 その法令の草案にちらりと目を通してすぐに、俺はこの国からの逃亡を決意した。

 

 別に『鎖国令』だけならまだ良かったのだ。

 多少生活は苦しくなるが、耐えられなくは無い。

 それに『永遠』の思想のもと発展して来た稲妻にとって、外部との関係を出来る限り遮断できるその法令は、良いものとすら言えただろう。

 

 だが『目狩り令』だけはどうしても許容するわけにはいかなかった。

 軽く説明すると、『目狩り令』とは神の目──『元素力』を行使するための外部器官──を徴収すると言うもの。

 神の目を持つ者は非常に少ない。だから、神の目を持たない大抵の者達にとってはそこまで関係のない話だが……神の目を持つ我々にとっては、そう易々と受け入れられるものでは無い。

 神の目の所持者にとって、神の目とは自身の存在意義そのもの。神の目を取られると言うことは、自身の存在意義の喪失を意味する。

 

 だから俺は逃げた。

 手紙と引き継ぎの書類を残し、持ち前の神の目で海を凍らせて『契約』の国、璃月まで逃げた。

 臆病者と罵ってくれて結構。俺は自身が今まで目指し続けた夢を、何が何でも成し遂げたかったが故に逃げたのだ。

 だから俺はこの判断を正しいと思っているし、後悔もしていない。

 

 そして、何とか無事に璃月へ辿り着いた俺だったが、海を渡るために最低限の持ち物しか持っていなかった俺はモラをほぼ持っておらず、璃月で働く必要があった。

 なので璃月に着いてから一年半ほどは、日雇いで仕事をしたり、冒険者として幾つか依頼をこなしたりして食い繋いでいた。

 

 その後は色々あって璃月の七星──行政機関──に雇われて、そこで働くことになったのだが、こちらは半年も持たずに辞めた。

 七星の秘書さんの補佐的な感じで働いていたのだが、週休0で二十四時間フル稼働は普通に無理。

 

 流石にこれは死ぬと判断した俺は、七星に辞表を叩きつけて全速力で逃げた。

 勿論、追われはしたが、一応俺も実力は確かであるので、何とか逃げ切った。

 で、その後も色々あってたどり着いたのが『自由』の国モンド。

 今の俺の職場だ。

 

 当初、モンドに辿り着いた時は、仕事に疲れた俺は『自由』の国に来てまで働くつもりなど無かった。

 モンド城に家を買った頃は、適当に冒険者でもやりながら所帯を持って、剣と趣味にでも打ち込もうかな、なんて人生設計を組み立てていたりもした。

 

 だが、ここで俺の想定していなかった事態が起こる。

 突如として仕事がやりたくて堪らなくなったのだ。

 どうやら璃月で過ごした2年間は、俺の魂に『労働』の文字を刻むのに十分過ぎたらしく、俺の体は既に仕事をしていないと落ち着かない体になってしまっていた。

 

 そんな具合で居ても立っても居られずに城内をぶらついていると、たまたま騎士団の入団試験をやっていたので飛び入りで参加。

 そのまま合格をもぎ取って、今に至る。

 

 うん、まぁ、自分で語っておいて何だが、波瀾万丈が過ぎるな、俺の人生。

 本当に何で死んでいないのかが不思議なくらいだ。

 いや、今ここで俺が満足出来ているのだから、何も文句はないのだが。

 

 しかし、そうは言っても残して来た人達の事は気になってしまう。稲妻のみんなも璃月の方々も今、どうしているのだろうか。

 特に稲妻のみんなは気掛かりだ。神の目を所持していた連中が、目狩りの餌食になっていないと良いのだが……

 

「あー! ヨシノリおじちゃん!」

「ん? おお、クレーか」

 

 後ろから聞こえて来た溌剌な声に振り返ってみると、赤い帽子を被った子供──クレーが元気にこちらへと走って来ていた。

 

「何してるのー?」

 

 クレーは俺に向かって大きくジャンプすると、俺の腕の中へ。

 俺はクレーをしっかりと受け止め、彼女を肩に乗せる。

 

「いや何、ちょっとオジサンのお友達を思い出してたんだ」

「お友達?」

「そう、お友達。あそこのお山が見えるね?」

 

 くるりと体ごと向きを変え、遠くに見える雪山、ドラゴンスパインの方を向く。

 

「あの山の向こう側に、オジサンのお友達はいるんだ」 

「あのお山って、アルベドお兄ちゃんがよく行ってるところ?」

「おお、よく知ってるね。そう、彼がよく行っている山だ」

 

 アルベド君は、西風騎士団の主席錬金術師兼調査小隊長で……まぁ、かなり変わった人だ。

 何でも彼はクレーのお母さんに無理矢理騎士団に入れられて、クレーの世話を頼まれているらしい。

 実際、彼がクレーと一緒にいる光景はかなりの頻度で見かける。

 まるで本当の兄妹のようで、微笑ましいものだ。

 

「お山の向こう側に、おじちゃんのお友達が居るんだよね」

「そうだよ」

「でも、ガイアお兄ちゃんはおじちゃんが海の向こうから来たって言ってたよ?」

 

 ガイアさんは西風騎士団の騎兵隊長。

 俺の直接の上司で、俺と同じ氷元素の神の目を持っている。

 そして、彼もアルベド君と同じくクレーの兄のような存在だ。

 クレーも、彼によく懐いている。

 

「ああ、そうだよ。オジサンは海の向こうから来たんだ」

「じゃあ、なんでお山の向こうにもお友達がいるの?」

「うーんとね……それは海の向こうにいるのがオジサンの家族で、お山の向こうにいるのがお友達だからさ」

「??」

 

 怪訝そうな声を出すクレー。

 角度的には見えないが、首も傾げていることだろう。

 

「ほら、クレーのママは、少し離れたところで旅をしてるよね?」

「うん」

「で、お友達のレザー君は、あっちの方にいるよね?」

 

 体をくるりと回し、奔狼領の方を向く。

 レザー君は、奔狼領で狼に育てられた少年だ。

 クレーとは友達で、クレーもよく遊びに行ったりしている。

 

「うん、いる」

「それと一緒さ。お友達が居るところと、ママが居るところが少し離れてるんだ」

「! クレー、分かった!」

「ふむ、流石はクレーだ」

 

 えへん、と得意げに鼻を鳴らすクレー。

 

「で? そんな流石なクレーは、何をする予定だったのかな?」

「あ! そうだ! 今からね、お魚さんをどかーんしに行くの!」

「ぬぅ、ううーん……」

 

 クレーには、その、何と言うか……困った悪癖がある。

 それは、勝手に爆発物を作っては、それでモンスターや動物、魚を爆破してしまう事だ。

 子供の遊びとは言え流石に色々と危険なので、代理団長達は何とかそれをやめさせようとしているが……まぁ、まだ難しいだろう。

 

「そっか、どかーんしに行くのか……それじゃあ、今日はオジサンと、海の方でどかーんしようか」

「え!? いいの!?」

「ああ、いいとも。星落ちの谷の方だったら人も居ないだろうし、思う存分どかーんできるよ」

 

 うん、あそこであれば人的被害は出ないはずだ。

 生態系も、海ならそこまで影響は無いはず。

 俺も代理団長殿から直々に仕事禁止令が出されていたし、丁度いい。

 

「では、さっそく行こうか。代理団長達に、美味しいお魚を食べさせてあげよう」

「うん! クレー、頑張る!!」

 

 クレーを肩に乗せたままモンド城の門に向けて歩き出す。

 さて、代理団長達に食べさせるとは言ったものの、しっかりその分の魚は取れるだろうか。

 まぁ、いざとなったら俺が買って来るとしよう。

 




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