西風騎士団のワーカホリック侍たる俺は、過去に居た3国それぞれにおいて、民衆からは有名人として認識されていた。
しかし、それは断じてそうなろうとしてそうなった訳ではない。
飽くまでも、仕事やら任務やらの副産物として知名度が付いて来ただけだ。
……まぁ、中には知名度を高める事が目的だろう仕事や任務もあったが。
とは言え、それが俺が望んだ事ではない事は確かである。
と言うか、正直な事を言えば、俺はあまり有名になると言う事が好きではない。
有名である事は良い事に繋がる事もあるが、その逆もまた然りなのだ。
その辺については、今の俺を見てくれれば実に分かり易いだろう。
有名であればあるほど、民衆の目から逃げる事は困難になる。
璃月から逃げる時なんて、道を歩けば通行人のほぼ全員が俺の事を知っているので、わざわざ絶対に人が通らないような道無き道を拓かねばならなかったのだ。
だから俺は必死に変装術を勉強したし、今もこれを重宝している。
つまるところ、俺に自己顕示欲と言うものはほぼ皆無であり、それどころか俺は民衆にあまり知られない事を至上とすらしているのだ。
故に、俺が俺自身の像を作るなど、それこそ天地がひっくり返ろうがあり得ない事と言える。
────だから旅人、そしてパイモン。そんな目で俺を見るな。
現在地は建築中の『千手百目神像』…………及び『雷切金剛士像』の前。
片や雷神たる雷電将軍を模した、幾つもの神の目を嵌め込まれた巨大な神像。
そして────
「……なぁ、ヨ……グローム……これ……」
「どう見ても、これは……」
そして、片や確実に俺を模したであろう、神像を守る様にして隣に立つ剣士の像。
もはや言葉も出ない。何がどうしてこうなったと言うのか。
少なくとも、俺がかつての奉行所で目を通した資料では、建てられるのは『千手百目神像』のみだったはずだ。
事前に発注していた材料も『千手百目神像』の分だけだし、手配していた業者だって、『千手百目神像』の分だけ。
それも、工期は丁度今から2週間前。
だと言うのにも関わらず、そこには2体の巨大な像が鎮座している。
一体、どれだけのモラをかけたと言うのだろう。
これだけの巨像、それも神像と同材質なると、材料費だけでも50億モラは下らない。
それに加えて、作業員を増やしたのならば、『千手百目神像』と同人数同賃金と考えて約3億モラ。
つまり……最低でも約53億モラが、この俺の像に注ぎ込まれているわけだ。
その他諸々の費用を考えれば、それ以上の……それこそ、『千住百目神像』以上のモラが動いていてもおかしくはない。
あまりの事態に気が遠くなって来る。
『千手百目神像』ですら稲妻の威信をかけた一大事業として年間予算の3年分をかけたんだぞ。
で、それを更に倍プッシュだと? 国庫の底に穴が開くわ。
……まぁ、稲妻幕府は普通に金持ちなので、このくらいの出費ならまだ軽いのだが。
しかし、もっとこう、他の使い道があったはずだ。
離島から鳴神島までの道の整備、崖崩れの対策、鳴神大社の崩れた参道の修復、宝盗団の処理。
俺が奉行所に居た時から、このような問題はそれこそ山のようにあったぞ。
こんな下らんものにでは無く、もっと別の、民のためになるようなもののために使うべきだ。
つい先程だって、離島と鳴神島間にスライムと宝盗団が湧いていた。
あそこの道をしっかりと整備していれば、十分に避けられた問題だ。
鎖国令を考えると、あそこの間をわざと通りにくくする事に効果はあるだろうが、それで稲妻民の生活に支障が出るのは、流石に違うだろうに。
……とは言え、もう建ってしまったものは仕方ない。
俺が今すべきことは、何故これが建ったのか、何故これを建てる必要があったのか、それを知ることだ。
溜息を一つ吐き、未だに俺へ胡乱げな視線を向ける旅人に向き合う。
「……旅人、今から別行動としよう。私は早急にこの像について調べなくてはならなくなった。暫くはこの近くにいるだろうから、君は木漏茶屋で色々と用を済ましてくると良い」
「うん、わかった。無事でいてね」
「おう! 気を付けろよ!」
二人が手を振って来たので、手を振り返す。
すると旅人は足場を蹴り、風の翼を使って木漏茶屋の方へ滑空して行った。
相変わらず見事な風の翼捌きだ。いくら素質が大事な分野とは言え、数ヶ月前に初めて使ったとは到底思えない。
さて、それでは、俺も早速だが調査に取り組むとしよう。
そして調査と言えば、まず最初に行うのは文献調査……と、言いたいところだが、今の俺の身分でそれは難しい。
ここは手っ取り早く、聞き込み調査といこう。
丁度良い事に、すぐそこには見張りの衛兵が居る。
まず最初は、彼の話を聞いてみる事としよう。
「もし、そこの衛兵殿」
「ん? なんだ、外の者」
足場を歩き、衛兵の隣に立つ。
少々近い距離感に衛兵は軽く顔を顰めるが、文句の類は特に何も言わない。
成程、よく教育されているようだ。
「いや、何。そこの神像の────」
「雷神様の『千手百目神像』に、何か言いたい事でもあるのか? 外の者」
衛兵の目が鋭く細められる。
槍を持つ手には力が込められており、今にも俺に襲いかかって来そうな雰囲気だ。
大方、神像に嵌った神の目について色々と言われるとでも思ったのだろう。
忠誠心が高いのは実に良い事だが、人の話を聞かないのは良くないな。
「そうではない。その隣、あの剣士の像についてだ」
「……ああ、『雷切金剛士像』か」
衛兵の手から力が抜ける。
雰囲気も、先程よりは幾分か緩んだ。
「一体、あの像は何なのだ? 推測するに、雷電将軍の眷属か何かだとは思うのだが」
「……まぁ、概ね間違ってはいない。あの『雷切金剛士像』の原型となったのは、将軍様の家臣たる雷切様……梅山義徳様のものだ」
「……ここに来るまでに何度か聞いてはいたが、やはり本当に雷切の名を冠しているのか……」
まるで頭痛を抑えるかのように、目元を手で覆う。
「その事を話すとなると、かなり長くなるな……今は任務中故、それは難しい。由来が知りたくば、他の者に聞け。稲妻において、雷切様の名を知らぬ者は、赤子くらいのものだろう」
「……そうか。では、後でそうさせて貰うとしよう……で、だ。彼の者が雷電将軍の家臣だと言う事は理解したが、それが何故あそこに?」
「それも話せば長くなるな。しかし、そちらも大抵の稲妻人は知っている。他の者に聞け」
「……ふむ」
俺の像の建設理由について、民衆は既に把握済みか。
民衆が知っている情報は幕府の上層部が出したカバーストーリー、と言う可能性も考えられなくは無いが、仮にそうであったとして、こんな木端の衛兵がそんな事を知っているはずも無し。
であれば、もうこの衛兵に聞く事は何も無いな。
「わかった。では、私はこれで失礼させて貰うとしよう。仕事中にすまなかったな」
「うむ」
衛兵に情報料として100モラ程を弾いて渡し、橋の向こうの商業区域の方へ。
先程は俺の像ばかりに目が行っていて、あまりよく見ずに通り抜けてしまったが、こちらの方は変わりないだろうか。
こちらでも雷切様雷切様と、変な事になっていないだろうか。
璃月程ではないものの、商機を逃さないのが稲妻人だ。
その辺で『雷切饅頭』なんてものが売られていても、何らおかしくは無い。
そんな一抹の心配を胸に足を踏み入れてみるが、見たところそのような事は無いようだ。
流石に5年前にもなると朧げではあるものの、俺の記憶にある稲妻の景色と変わりはないし、俺を商業利用している物は、今の所見られない。
「さぁさ『雷切物語』! 待望の『雷切物語』新刊が入ったよ!」
なんて思った側からこれだよ。
どこかから響いて来たその呼び声に、その辺りに居た民衆がワッと動き出す。
連中が向かっている方向は……『八重堂』?
何事かと誰かに話を聞いてみようと思ったが、誰も彼も話を聞けるような雰囲気ではない。
……仕方ない。これなら実際に行って見た方が手っ取り早いか。
……しかし、嗚呼……嫌な予感がする…………
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