西風騎士団のワーカホリック侍   作:POTROT

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13話

 西風騎士団のワーカホリック侍との称号を持つ俺は、騎士道と武士道、二つの志を胸に抱く、崇高なる戦士である────なんて思ったら大間違いである。

 正式な『試合』であれば勿論正々堂々と戦うが、普段の任務においてはむしろその逆。

 時と場合によれば罠だって張るし、騙し討ちや闇討ちだってやる。遠距離からの狙撃も毒を盛る事も断然アリだ。

 

 どうにも民衆は騎士団全員が普段の任務にも貴い意識で以て望んでいると勘違いしているようだが、そんな事をしているのは代理団長やアンバー達だけである。

 その裏で俺達のような汚い大人は、汚いやり方で以て民衆を守っているのだ。

 これは稲妻で働いていた時も、璃月で働いていた時も変わらない。 

 民衆からは英雄なんて呼ばれている俺も、結局はただの卑怯者でしかないのだ。

 

 それ故に、俺は自分と同類の人間の考える事がよく分かる。

 そして今まさに俺の隣を歩いているトーマも、そんな俺の同類の一人。

 

「ほら、ここだ! 見てくれ、凄いだろ? 稲妻でも珍しい植物だらけだ!」

 

 などと、人畜無害そうな顔でそう宣うトーマだが、コイツの思惑はすでに透けている。

 確信は無いが、だとしても十中八九(グローム)を旅人の手綱にするつもりだろう。

 俺を神里家の監視下に置き、行動を制御する事で、旅人の動きにもある程度の指向性を持たせる、と。

 或いは(グローム)を人質にする、なんて可能性もあるが……流石に旅人の心象を最悪にするような真似はしないはずだ。

 まぁ、どちらにせよ、俺を神里家の監視下に置いた上で行動を抑制する事がコイツの目的なわけだ。

 

 しかし、(ヨシノリ)はそれを許容するわけにはいかない。

 理由としては色々あるが、正体が露見する可能性が高い、と言うのがやはり一番だろう。

 監視されている時間が数時間程度であれば全然大丈夫なのだが、それ以上となると正体を隠すのが色々厳しくなってしまう。

 

 どれだけ訓練を重ねたとしても、時間が経てば化粧は崩れるし、集中力は切れるものなのだ。

 途中で化粧を直さねばならないし、出来れば休憩も挟みたい。

 だが、それが監視されているとなると、どちらもそうはいかなくなる。

 そうなれば、もはやバレるのは時間の問題だ。

 故に、俺は出来る限り誰かの監視下に長時間いる状況は避けたいのだが……

 

「ふむ、珍しい植物のスケッチを最初に取れるのは良いが、出来れば最初はもっと普通の環境で調べたいのだが」

「まぁまぁ、そう言わずに。最初にこう言う珍しい植物をまとめて観察できるって、俺はお得だと思うんだけどな」

「それはそうだろう。しかし、やはり最初から特殊な環境での調査というのは、気が引ける」

 

 私、不満ですと言う表情を作ってそう言うと、トーマは困ったように頰をかく。

 

「うーん……でも、ここなら魔物だってそうそう出ないし、安全だと思うよ?」

「……まぁ、確かにそうだろうな」

 

 ぐるりと辺りの環境を見渡して、そう嘯く。

 実際、この環境に魔物はそうそう出ないだろう。

 ヒルチャールあたりはたまに来るかもしれんが、スライムやフライム──空を漂う元素生命──が湧くような場所は無いし、トリックフラワー──植物に擬態する魔物ー──が擬態出来そうな植物も無い。

 まさに自然の形成した安全地帯とも言えるような空間だ。

 

「しかし、やはりまず最初は別の所が良いだろう。護衛が付いてくれるのだったら、危険地帯の方からやった方が良いとは思わないか?」

「それもそうだけど……実は、俺ってあんまり強くなくてさ。出来る限り戦いは避けたいんだよね」

 

 おい。

 平然と嘘を吐くんじゃない。

 お前、綾人と綾華には負けるが、その辺の武士どもより圧倒的に強いだろう。

 

「……だったら何故護衛を名乗り出たのだ」

「神の目を持っているのも、槍を使えるのも、嘘じゃあないからね。居ないよりかはマシだろ?」

「……やはり今からでも旅人に……」

「それは危険だ。旅人はもう遠くまで行っちゃっただろうし、追いかけようにも途中には野伏衆が居る。ここは旅人が戻って来るまで、この場所で調査をするのが一番良いと思うんだ」

 

 …………ああ、駄目だ、これは。

 分かっていたがコイツ、何が何でも俺をここに留めておくつもりだ。

 

「……はぁ……まぁ、そうか。では、暫くはここで調査をさせてもらうとしよう」

「ああ、そうした方が良い。じゃあ、まずは何をするのかな? 手伝える事なら、俺も手伝うよ」

 

 ……まぁ、ハイリスクハイリターンの賭けに失敗したのだ、仕方ないと割り切ろう。

 正体がまだバレていないと知れた分、むしろ幸運とすら言えるかも知れない。

 当然、抜け出せる時には抜け出させてもらうが。

 

「最初はスケッチだ。特にやる事はない」

「わかった」

 

 手頃な植物の近くに座り込み、メモとペンを取り出してスケッチを始める。

 トーマは俺の隣に座って、スケッチに感心している。

 

 ……さて、それではどうやってコイツを出し抜こうか。

 一番手っ取り早いのは、勿論だが実力行使だ。

 刀を使えば文字通り一瞬で片がつくし、俺の元素力であれば、この空間に居る全員を纏めて凍らせてやる事も難しい事ではない。

 だが、間違いなくそれは悪手だろう。

 その場しのぎにはなるが、その後が面倒になる未来しか見えない。

 同じ理由で、連中の目を盗んで逃げ出すのも無しだ。

 

 そうなると、話し合いでここを切り抜ける必要があるわけだが……無理だな。

 先程と同じようにのらりくらりと躱されて、結局留まらなくてはならなくなるのがオチだ。

 ……ぬぅ、やはり、逃げ出すしかないのか?

 

「なぁ、ちょっと質問いいかな?」

「む…………まぁ、構わんが」

 

 などと考えていると、スケッチが終わったタイミングを見計らって、トーマが声をかけて来る。

 

「ああ、まだ途中だったかな。終わったところで声をかけるつもりだったんだ、申し訳ない」

「いや、終わりで合っているとも。で、その質問とは何だ」

「本当にちょっと聞きたいだけなんだけど……梅山義徳という名前に、聞き覚えはあるかい?」

 

 ……ここで聞いて来たか。

 まぁ、いつかは来ると思っていたので、そう驚きはしなかったが。

 

「あるな」

 

 そう答えると、トーマの目付きが変わる。

 どうやら本人は隠しているつもりのようだが、俺からすれば一目瞭然である。

 先程までの目が優しさを湛えた、穏やかな鳩のような目だとしたら、今は獲物を見つめる飢えた鷹、と言ったところか。

 

「……本当に?」

「本当だとも。あの……『雷切金剛士像』だったか? のモデルだろう? それに、この本にもその名は載っている」

 

 そう言って、徐に懐から『雷切物語』を一冊取り出す。

 

「ああ、それか……成程、確かについさっき新刊が出たと大騒ぎになっていたな」

「私もそれが気になってな。全五巻という事で、纏めて買ってみた。流石は彼の八重堂編集長と言った面白さだったな。これならどの国に出しても売れるだろう」

「……そうかな……いや、まぁ、そうか」

 

 俺がパラパラとページを捲ると、トーマの顔が一瞬、苦しげに歪んだ。

 ……まぁ、稲妻を出る時、コイツにも手紙を書いたからな。

 この物語が虚構だと知っているのだろう。

 

「何やら物言いたげだな」

 

 しかし、(グローム)がそんな事を知る由はない。

 一応指摘しておいた方が、違和感は無いはずだ。

 

「実は俺、義徳さんとは知り合いだったんだ。義徳さんは一時期、神里家の剣術指南役として働いてた時期があってね。その時、まだ当主じゃ無かった若と、お嬢と一緒に稽古をつけて貰ってたんだ」

「ほう、そうなのか」

「ああ……とても強く、優しい人だったんだ。彼以上の人間は、まず居ないだろう」

「それは、本を読めばある程度は伝わってきたな」

 

 ちなみにその本に書かれていた俺だが、ちゃっかりかなり美化されて書かれている。

 まぁ、俺だったらそうするだろうなという場面も何度かあったが、基本的には俺であって俺でない人物だった。

 

「そう、本題はその本だ。実はその本、殆どが嘘で書かれているんだ」

「ほう? それはまた、信じがたい話だな。して、実際に虚実であったとして、本当のところはどうなっているのだ」

「そもそも、前提が違うんだ。彼は雷電将軍を愛していない」

「ふむ」

「何と言っても、彼はお嬢と婚姻を結んでいるからね」

「ほう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

 え?

 おや?

 

 事実無根だが?

 婚姻なんて結んでないが?

 家柄が釣り合ってないが?

 

「っと、申し訳ない。関係ない話をしすぎてしまった。まぁ、知らないようだったらいいんだ。ただ、大陸の方で稲妻人っぽい人を見かけたら、お嬢が待っていると伝えてくれ」

「あ、え、あ、ああ……」

 

 な、何という事だ……

 いくら何でも、情報が錯綜し過ぎているぞ…………





 トーマ:ヨシノリについて

 義徳さん? ああっと、その話はまた今度にしてくれないか? 俺が彼について話し始めてしまったら、自分でも止められないんだ。



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