西風騎士団のワーカホリック侍   作:POTROT

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14話

 西風騎士団のワーカホリック侍たる俺は、知っての通り30を超えて未婚である。

 勿論、見合いだとかそう言った話が無かったわけではない……と言うか、璃月では多すぎるそれに随分と苦労させられたくらいだが、それらは全て断っている。

 それは偏に、仕事が忙しかったからだ。

 稲妻では事務作業だけでなく、天領奉行最強の剣士として散々走り回っていたし、璃月では『休みって何?』というレベルの極限状態。

 とてもでは無いが、結婚なんて無理である。

 

 なので、西風騎士団に入って少し経って暇が多くなった時、ようやく世帯が持てるな、なんて考えて大団長に誰か紹介してくれないかと頼みに行った事があるのだが、その場にたまたま居たガイアさんと一緒にそれとなくやめとけと言われたので、やめた。

 そして現在に至るまで、俺は独り身を貫いているわけだ。

 

 で、それが何で綾華嬢と結婚している事になってるんですかねぇ???????

 いや、あり得ない。絶対にあり得ない。

 どうしてそんな事態になっているんだ。

 何だ? もしかして何処かで俺が何かやらかしたのか?

 ……いや、多分それは無い……よな?

 …………何だか不安になって来たな、えーと……何かあったか……?

 

 鍛錬の時はしっかりとある程度の距離は保っていたはずだし、買い物に行ったり祭りに行ったりした時も、下手な物を買わないように買う物は気を付けて選んだし……

 手紙も、内容はそこまで当たり障りの無いものばかり書いてた……はず。

 ……くっ、拙い。付き合いが長い分、もしかしたらと言う可能性が否定出来ない。

 

「……あー……少し大丈夫だろうか?」

 

 こうなったらもう直接聞いてしまえ。

 出来れば知りたくは無いが、それでも知らないよりはマシだ。

 

「ん? どうかしたのか?」

「その、先程言っていた婚姻がどうだの、あれは本当なのか?」

「ああ、本当だとも」

 

 俺の質問に、トーマは力強く首肯する。

 ブン、と言う風を切る音が聞こえるような、本当に力強い頷きだ。

 

「まぁ、信じ難いのは分かるよ。あんなものも建ってるからね」

「……アレを、あんなものと断じれるとはな」

 

 俺がモデルとはいえ、将軍様の命令で建てられたものなのだ。

 ある程度の敬意は払わねば、拙いと思うのだが。

 

「あんなものはあんなものさ。雷電将軍は、どうしても義徳さんを俺達に渡したく無いんだろう」

「と、言うと?」

「義徳さんは文字通り、最強の剣士だ。数々の剣豪達をその圧倒的な剣技で捩じ伏せ、遂には天をも切った、まさに生ける伝説。その実力は、将軍以上とも目されている。抵抗軍も、彼の家の家紋を担ぎ上げているくらいだ。まぁ、梅山家にそんな意思は無かった上に、下っ端の方の暴走だったらしくて、抵抗軍でもすぐに無くなったらしいけど」

「ほう?」

 

 なにやら、無視のできない話がトーマの口から飛び出してきた。

 抵抗軍とやらの存在は知っているが、ウチの家紋だと?

 家紋を担ぎ出す事の意味は、稲妻人ならば重々承知している筈だが?

 

「……それは初耳だな。どう言う事だ?」

 

 できる限り冷静を装い、スケッチを描きながらトーマに質問する。

 

「あーっと……話の途中だから軽くだけ説明するけど、抵抗軍は珊瑚宮心海を中心とした、将軍に抵抗する組織だ。そんな彼らは、詳細は省くけど『梅山義徳謀反説』と言う主張をしていてね。その流れで、梅山家の家紋を担ぎ出しちゃったんじゃないかな?」

「…………成程な。……あー……梅山家は、平気なのか?」

「勿論だとも。今は稲妻幕府が将軍の名の下に保護している」

 

 ……ふぅ、良かった。

 かなり焦ったが、裏切り者として処断とかされていなくて本当に良かった。

 ……しかし、まさか珊瑚宮が抵抗軍の首魁だったとは。

 まぁ、心優しい彼女のことだ。神の目を失ってしまった連中を、見過ごせなかったのだろう。

 それはそれとして、もっと配下の統率はしっかりと取っていて欲しかった。

 

「そうか。それは重畳だな」

「ああ。そうだね。でも、俺たちとしては幕府に家族を人質を取られるような形になってしまった。一応、引き渡しを要求してるんだけど、上手くいってないね」

「………………あー、では、その流れで話を戻すか。そこまでして雷電将軍がヨシノリを渡したくないのは何故だ」

 

 先ほどの発言に色々と言いたい事はあるが、あまり踏み込み過ぎてしまうとどこかでボロが出そうなのでやめておく。

 

「そうだね。そうしよう。まぁ、理由としてはシンプルで、義徳さんが強すぎて国のバランスが壊れるから、色々な手段で幕府に囲い込もうって言う魂胆だ。今はその前準備の段階って所だね。もう少しでもしたら、大陸の方に捜査団が派遣されるんじゃないかな」

「ほう」

 

 ……帰ったら代理団長殿に即報告だな、これは。

 早急に何かしらの対策を講じる必要がある。

 まぁ、全ては無事にここから帰ってからの話ではあるが。

 

「となると、その婚姻は色々とこう……無理があるのでは? 相手は国の頂点だが」

 

 そしてそのために必要なのは、如何に正確な情報を、如何に早く入手できるかの一点だ。

 疑問点は、出来る限り早く解消しておくに限る。

 

「大丈夫、社奉行は稲妻の様々な儀式や祭事を担当しているからね。しっかりと証拠の書類はこっちで保管してある」

「……成程」

 

 胸を張ってそう答えるトーマ。

 さも当然であるかのように、堂々とした雰囲気だ。

 にっこりと笑ったその顔は一点の曇りもなく、晴々とした印象を受ける。

 しかし、勿論だが俺はそんな書類を書いてなどいない。

 

 

 

 ────つまり完全に偽造である。

 

 

 

 本当にどうしたらいいでしょう俺は。

 (グローム)は何でも無さげに黙々とスケッチを続けているが、 (ヨシノリ)の感情は既にぐちゃぐちゃである。

 偽造だったと安心すれば良いのか、何やってんだと怒れば良いのか、それとも何この国怖いと恐怖すれば良いのか……まぁどちらにしろ俺の身が危険なのは変わらないのだが。

 

 ………………はぁ、悲観してても何も変わらん。

 まずは現状把握と今後の展望だ。

 

 現状①

 俺は将軍様に刃を向けた大罪人で、今はグロームと言う男に変装して神里家の監視下に置かれている。

 

 現状②

 旅人が『目狩り』撤廃に必要不可欠な存在として、神里家から勧誘を受けている。

 

 現状③

 稲妻の民衆の間で俺は雷電将軍と愛を誓い合った英雄とされている。

 (補足:しかし、万葉少年は大罪人として俺を認識していた)

 (補足:トーマ曰く、俺を囲い込むための策)

 

 現状④

 神里家は俺との結婚を偽造している。

 (補足:書類を偽造できるのは綾人坊だけだが、妹第一主義のため恐らく綾華嬢の意向)

 

 ……こうして並べてみると、本当に情報が錯綜しているな。

 さて、では此処からどうするかについて考えよう。

 とは言っても、もう説得が無理だと分かった以上、正面突破しか無いので、何かしらのアクシデントでも無い限りは、ギリギリまで粘った上で俺の奥の手を使い逃げる事にする。

 

 で、此処から脱出してからの話だが……

 正体を明かすのは論外だ。絶対に。

 現状を鑑みれば、俺の帰還が幕府と社奉行両方に知られた瞬間に稲妻が真っ二つに割れるのは、想像に難くない。

 神里家はもう完全な地雷として、鎌治様や裟羅様、何なら家族達にも晒すリスクはある。

 で、そうなると稲妻を出るまではグロームに限らず、ヨシノリでは無い姿を保つ事にするべきなのだが、社奉行を敵に回す事になる以上、街で寝泊まりする訳にもいかない。

 

 なので、隠れ潜む。

 璃月からの逃亡を成功させた俺だ。既に隠遁しつつ行うサバイバルの技能は十分にある。

 その上、俺は稲妻出身。稲妻の野生の大抵は知り尽くしている。

 実は此処に自生している植物達の生態も、既に把握済みだ。

 まず確実に成功すると、断言しても良いだろう。

 しかし……

 

「へぇ…………」

 

 横目で俺のスケッチを覗き込むトーマを見る。

 そう、懸念点はコイツ……ひいては、神里家の保有する戦力だ。

 正直、社奉行が本気で捜索を行なった場合、逃げ切れはするだろうが、正体を隠し通せる自信は無い。

 

 社奉行は祭事や儀式を担当する所であるが、その保有する人員は稲妻一。

 離島の管理を行う勘定奉行は勿論だが、治安維持を担当する天領奉行よりも人数は多い。

 しかも綾人坊の下、きちんと統率が取れているので、情報伝達も速い。

 見つかった挙句、逃げた先で綾人坊あたりにでも待ち伏せされていれば、刀を抜かずに突破できるとは到底思えん。

 

「…………」

 

 まぁ何にせよ、まだ今は雌伏の時だ。

 タイミングを見極めなければ、いくらでも事態は悪化する。

 じっくりと、慎重に、事に当たらねば。 




 

 脳震盪起こして運動禁止令を喰らってしまった……。



 ヨシノリ:キャラクターストーリー1


 彼が初めて剣を握ったのは、彼が生まれてわずか1分も経っていない時である。
 生まれた直後の彼は湯桶の中からふらふらと立ち上がり、唖然とする産婆から彼の臍の緒を切った短剣を掴み上げたのだ。
 そのまま赤子だった彼は短剣の重さで倒れてしまったのだが、その一件は梅山家の人間に、決して小さくない衝撃を与えた。
 彼は生後数十秒にして、その将来を決定させたのである。
 
 彼の両親は、まだ歯すら生えていない彼に剣を教え、彼もまたその訓練を真っ当にこなしていた。
 その成長は実に目覚ましいもので、彼は1歳で枝を斬り、3歳で竹を切り、5歳になれば石を切り、10歳では人の倍ほどの大きさの岩を両断して、15歳で天領奉行に使え始めた時には、既に滝を切るまでに達していた。

 しかし、それでも彼は一向に満足しようとせず、常に一段上を求め続けた。
 そして迎えた20の誕生日、彼は遂に天を斬ったのだ。
 
 当時の事を書いたとある書物には、この偉業はこう述べられていた。
『空を覆う分厚い雨雲が突如として横一文字にすぱりと割れ、光が差し込んで来た。これは何事かと窓から首を伸ばして見れば、浜辺に一人の青年が陽光を浴びて立っていた。彼の青年こそが、今や名高き『凍剣義徳』である』と。


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