西風騎士団のワーカホリック侍   作:POTROT

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17話

 西風騎士団のワーカホリック侍たる俺は、普段から首から上と、肘から先以外を完全にインナーで覆っている。

 理由は、単純に体が引き締まって動きやすくなるのに加えて、任務で変装を解かなければならなくなった時に衣装を脱いでも、辛うじて変態扱いをされて怪しまれないからだ。

 隠さなきゃいけない部分を隠していて、ある程度の布面積があれば常識的。

 これぞテイワットの常識。異論は認めん。

 

 しかし、だからと言って稲妻の常識では無い。

 流石にこの格好で八重宮司様手ずからの歓待を受けると言うのは、かなり気が引ける。

 

「ほれ、粗茶じゃ」

「あ、ありがとうございます……」

 

 化粧を落とし、凍りついた鬘と衣装も脱いで、インナーだけになって座る俺の前に、八重宮司様がお茶を置く。

 早速湯気に立ち上るそれを手に取り、一口飲んでみると、少なくともこの茶が稲妻の中でも最高級のものであると言うことが分かった。

 確かこれ、茶葉10gあたり5万モラとかそのくらいだったはず。

 

「……ふむ、口に合わなかったか?」

 

 湯呑みに口をつけたまま、かつて茶葉屋で見た値段表示を思い出していたのだが、どうやらそれで誤解させてしまったらしく、対面に座った宮司様がそう問いかけてくる。

 

「いえ、滅相もない。とても美味しゅうございます」

「そうか? それは良かった。なにしろ、これは今の稲妻で最も高い茶じゃからのう。これ以上を出せと言われても出せん」

 

 宮司様はそんな事を心底困った風に宣う。

 本当にこのお方は相変わらずだ。何だか安心した。

 

「は、ははは……」

 

 それはそれとして、これにどう反応すれば良いのかさっぱり分からない。

 取り敢えず笑ったが、ここからどうすべきなのだろう。

 驚けば良いのだろうか。それとも畏まってお礼でも言えば良いのだろうか。

 

「……で? 妾に聞きたい事があるのじゃろう?」

 

 そんな事を必死に考えていたが、どうやらそれは要らなかったらしい。

 

「ええ、まぁ。それでは取り敢えず、稲妻の現状を詳しく教えてもらっても?」

「なんじゃ、それが真っ先に聞く事か。坊やらしいと言えば坊やらしいが、何ともつまらん」

「いや、つまらんと言われましても……」

 

 目を細め、何とも微妙な表情になる八重宮司様。

 何やら俺が面白い質問をする事を期待していたらしいが、そんな事を期待されても困るというものだ。

 というか。まず面白い質問が何だと言う話である。

 

「はぁ……まぁ良い。この鳴神大社の宮司たる妾が坊やに教えて進ぜよう。まず現状の稲妻じゃが……ものの見事に割れておる。それはもう本当に見事に」

「……ぬぅ」

 

 トーマの話からある程度は予想はしていたが、そうか。

 

「やはり、神里家が?」

「ほう、その事はもう知っておったか。じゃが、それだけではないぞ?」

「……と言うと?」

「神里家の他にも九条家、柊家がそれぞれ好き勝手に暴れておる。まさに混沌よ」

「…………ファデュイ、ですか」

 

 思わず表情に力が入る。

 離島の腐敗を思い出して、噛み締めるようにそう問いかけると、一拍の間を置いて首肯が返ってきた。

 

「……ッ、馬鹿な!」

 

 稲妻の最上位に位置する家の方々だ。

 ファデュイ共の犯した数々の所業を、知らぬわけではあるまい。

 金が第一……と言うか、既に真っ黒の柊慎介はともかく、あれ程までに忠義に厚かった九条孝行様が連中と結託するなど、信じられん。

 

「落ち着け。そういきり立つでない」

「……申し訳ございません。動転しておりました……しかし、九条孝行様がファデュイと結託したと言うのは……」

「ふぅむ……まぁ、それについては、妾にも原因の一端が無いとも言い切れん。……坊や、『雷切物語』はもう読んでおるか?」

 

 八重宮司様は茶を一口飲むと、後ろの方を向いてからそう聞いて来る。

 

「……ええ、まぁ、一応……」

 

 言いたい事は色々あるが、取り敢えず今は飲み込んで事実のみを伝える。

 

「そうか……読んでおったか……」

「はい……」

「……………」

「……………」

 

 よくわからない無言の時間が訪れる。

 何なのだろうと宮司様の見ている方向を見てみるが、特に何があるわけでもなし。

 であれば、何か考え事でもしているのだろうかと動かない宮司様を見ると、よく見てみれば細かく肩が震えている。

 

「あの、笑わないでいただきたいのですが」

 

 つい反射的にそう言うと肩の震えがさらに大きくなる。

 一体何が面白いと言うのだろう。

 

「いや、貴方様でしょう、あれを書いたのは。俺、叫びたくなるのを我慢しながら読み切ったのですが?」

「……ッ! ッ!!」

「考えた事ありますか? いつの間にか自国の主人と自分が相思相愛とか言う設定を作られた上、それでラブロマンス小説を書かれて。その上それを読んだ事を伝えたら爆笑された人の気持ち。どうです、考えた事あります?」

「ッ! 〜〜〜ッ! 〜〜〜〜〜ッ!」

 

 そしてついでとばかりにそう伝えると、何やらツボに入ってしまったらしく、腹を抱えて蹲ってしまった。

 その様子を、俺は自分でも驚くくらいの冷ややかな気持ちで見下ろす。

 

「あの」

「ッ、待っ、やめ、やめんか! こッ、これ以上何も言うでない! 妾を殺す気か!?」

「そんな事は無いですが、今は説明を……」

「〜〜〜〜ッ! 待っ、待て! 待て! もう少し待つのじゃ!」

「……はぁ」

 

 言われるがままに押し黙り、稲妻の景色を見下ろしながら茶を飲む。

 ようやく宮司様が復活したのは、それから5分ほど経ってからのことだった。

 

「────ふぅ、ふぅ……はぁ。それで、確か『雷切物語』の話じゃったな」

「はい、お願いします」

「坊やにはわかる事じゃろうが、アレは坊やの事をかなり美化して……ッ……書いておる」

 

 一瞬怪しかったが、しっかりと立て直して八重宮司様はそう白状する

 

「まぁ、そうですね」

「何故かわかるか?」

「……俺が稲妻に帰還した際、それを民衆に好意的に受け取ってもらうため……と言った所でしょうか」

「うむ、その通りじゃ。まさにそうなるよう、雷電将軍に依頼されてな」

「将軍様が、直々にですか……」

 

 そうなのではないかと思ってはいたが、やはりそうだったのか。

 しかし、そうなると将軍様は何故そこまでして俺を……?

 トーマは国のバランスが崩れるため、幕府に引き込みたいから、と言っていた。

 しかし、それにしてはやり方があまりにも回りくどすぎる。

 となると……俺と将軍が恋仲であるという事に意味があるのか? 何故?

 

「────これ、自分の世界に入るでない。しっかり話は最後まで聞かんか」

「……ああ、も、申し訳ございません」

「よし。……さて、国の主人にそう依頼されては、流石の妾も書かぬ訳には行かぬ。そうして出来上がったのが、『妾が考えた最強の坊や』というわけじゃ」

「……それが、どのように九条孝行様に関係するので?」

「そう急かすでない。……と、言いたい所じゃが、結論から言った方が早かろう。簡単に言えば、『調子に乗せてしまった』のじゃ」

「……ふむ」

 

 ……成程、見えてきたぞ。

 

「『無想の一太刀』は最強の一撃である。稲妻では常識じゃな?」

「ええ」

「即ち、雷電将軍は最強の存在である。そうじゃな?」

「ええ」

「そうなれば、そんな将軍が伴侶に選ぶ男は、それと同等とまでは行かずとも、匹敵する強さを持つ」

「そう考えるでしょうね」

「後はわかるな?」

「……つまり、ファデュイなんぞ敵ではない、と」

「確証は無いがのう。しかし、様々な事を整理して考えてみれば、こうとしか思えん」

「……言われてみればそうですね。確かに思い返してみれば、孝行様は将軍様と言うより、将軍様の持つ武力を崇拝していたようにも取れる」

 

 ……ああ、嫌な目から鱗だ。そういう事だったのか。

 そう考えれば、孝行様がファデュイと結託していても、そこまでおかしいとは感じない。

 

「……はぁ……」

「何じゃ、辛気臭いのう」

「久々に帰った故郷が、こうも荒れていたのです。溜め息の一つくらい出ましょう」

「ふむ……まぁ良い。どうせ機が来るまでする事も無いしのう。それ、坊や。気分転換と思って、旅先であった事を話してみよ」

「ああ、はい、わかりました」

 

 宮司様に勧められるまま、大陸であった事を語り始める。

 さて、満足していただけると良いのだが。

 





 誤字報告毎回マジで助かってるんですわ……これからもお願いしますわ……

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