西風騎士団のワーカホリック侍な俺であるが、その仕事の処理速度は常人の数倍はあると自負している。
とは言っても、当然だが最初からそうと言うわけではない。
稲妻にいた頃も早くはあったが、それでもまだ常識的な速さだった。
しかし、璃月であの秘書さんに振り回されているうちに鍛えられたらしく、気が付いたら今の速度になっていたのだ。
まさに命を削った努力の結果である。
しかし、それでも秘書さんの処理速度の足元にも及ばないのだから、恐ろしいものだ。
とは言っても、常人と比べれば、この処理能力は十分に常軌を逸していると言えるだろう。
今だって、その気になれば1日で騎士団全体の事務仕事を向こう3日分片付けることも可能だ。
流石に俺の一存では処理できないような書類や、機密の類は触れないが、それ以外の雑書類は文字通り一瞬で消える。
そんな俺の事務処理能力が買われ、一時期は騎士団事務仕事の9割を俺一人で回していた事もあるのだが……まぁ、流石にやり過ぎたらしく、代理団長殿や司書殿から、ガイアさんと一緒に怒られてしまった。
それ以降は俺に仕事量の上限が設けられ、それを超すと代理団長殿から直々に仕事禁止令が下りるようになってしまったのだ。
しかし、既に骨の髄まで『労働』と言う言葉が刻み込まれてしまった俺が、そんな程度で止まれる訳がない。
その結果、俺は仕事をする度に止めるタイミングを見失って禁止令を食らい、復帰したらまたすぐに禁止令を食らうというループに囚われてしまったのだ。
「……で、今回で何回目だ?」
「そろそろ50回は超えましたかねぇ……」
「はぁ……お前って本当に仕事が好きだよな」
楽しそうに海へと爆弾を投げ込むクレーを見守りながら、流木に腰掛けて話し合う。
足を組んでスタイリッシュに座るのは、長い青髪を束ね、眼帯を付けた浅黒い肌の男性。
彼こそが俺の直接の上司である、ガイア・アルベリヒ騎兵隊長だ。
彼とは風落ちの谷に向かう途中で任務帰りのところに遭遇し、事情を説明したところ、面白そうだからとそのまま着いて来た。
「どうせ、また歯止めが効かなくなっちまったんだろ?」
「全くもってその通りで……」
「お前のそういうところは実にいいところだと俺は思うが、代理団長の言う通り、やりすぎは良くないぜ? こう言うのは、適度にサボるのが大事なんだ。お前も、たまには昼間から酒場にでも行ってみると良い」
「サボり……サボりですか……」
振り返って見れば、俺は今までで一回も仕事をサボった事が無い。
稲妻にいた時は出世のために真面目にやってたし、璃月はそもそもサボる事を考える暇すらなかった。
「俺はエンジェルズシェアをオススメしよう。ディルックの旦那も、お前のことは気に入ってるしな……っと、アイツが居るのは夜だけだったか。まぁ、アイツじゃなくても、あそこの蒲公英酒は美味い。一度は飲んでみろ」
「そうですね……では、今度行かせてもらいましょう」
エンジェルズシェアはモンド最大の酒造であるアカツキワイナリーが開設した酒場で、ディルックさんはそのオーナー。
ちなみにディルックさんは元西風騎士団所属で、ガイアさんとは義兄弟の関係にあるらしい。
傍目から見る分には、あまり兄弟仲はよろしくないようだが……しかし、かと言って完全に絶縁しているわけでもないので、今はそこまで問題は無いだろう。
「おいおい、お前、この前もそんな事言ったくせに行ってなかったじゃないか。仕方ないな、この後はどうせ暇だろ? 俺がサボりついでに連れて行って────」
「ガイアお兄ちゃん! ヨシノリおじちゃん! 見て見てー!」
クレーがぴょんぴょんと跳びながら、満面の笑顔でこちらに大きく手を振っている。
こっちへ来い、と言う事なのだろう。
「っと。どうやら、元気なお日様が一仕事終えたようだな」
流木から腰を上げ、クレーの立っている岩場まで歩いて行くと、クレーは海の方を指差した。
「ほら! いっぱい!!」
指の差す方を見て見れば、大量に浮かぶ魚と魚の残骸。
確かにこれはとんでもない量だ。流石は海と言ったところだろうか。
「おお、こりゃあ本当に大漁だな。持ち帰るのが大変そうだ」
「流石はクレーだ。これだけあれば、騎士団のみんなに分けてあげられる」
俺たち二人の賞賛を受けて、えへんと鼻を鳴らすクレー。
……しかし、どうやって持ち帰ろう。
この量だと、流石に手持ちで持って帰るのは難しい。
何かソリのようなものがあってくれれば楽なんだが……何処かにそれっぽいもの……
「…………ん?」
崖の上に、ゆらりと動く何かが見えた。
よく目を凝らすと、崖の上に生えている木の一部が柔らかいオレンジ色の光に照らされ、そこに幾つかの影が揺らめいているのが見える。
「あれは……」
「お? どうかしたか?」
「いえ、すみません。ちょっと良いものを見つけたので、クレーと一緒に魚を集めてもらって良いですか?」
「ああ、構わないぜ。よーしクレー、話は聞いてたな? おじちゃんが帰ってくる前に魚を全部集めて、驚かせちまおう」
「うん! クレー頑張る!」
そう言って元気に駆け出すクレーを尻目に、浜辺を戻って谷の上へと走る。
俺の視覚が確かならば、この辺に…… おお、いたいた。
焚き木を囲い、仮面をつけた人型生物達が座っている。
テイワット大陸中に存在する、モンスター、ヒルチャールだ。
「ya!」
「ya!?」
俺が近づくとヒルチャール達はこちらに気付き、各々の武器を取って立ち上がる。
その中でも一匹、明らかに他のヒルチャールとは異なるヒルチャールが居た。
「Kundala muhe!?」
見上げるような大きな体躯に、これまた大きな盾を持っている。ヒルチャールはヒルチャールでも、暴徒の名を冠する強力なヒルチャールだ。
「いきなりで悪いが、その盾に入り用でな」
腰に下げた剣の柄に手をかけ、腰を深く落とす。
「切り捨て、御免!」
居合一閃。
棍棒を振り回しながら迫って来ていたヒルチャールの首を、まとめて一気に刎ねる。
そのまま前へと踏み込み、返す刀で弓持ちの首も刎ねれば、残りは盾を持った暴徒だけだ。
「biadam!!」
盾を構えた暴徒は、土埃を上げながらこちらへと迫って来る。
最も単純にして最も恐ろしい、巨大な質量による突進だ。
まともに食らえば、少なくともタダでは済まないだろう。
「ならば、食らわなければ良いだけの話だが」
腰に下げた神の目が光を放つ。
すると、俺の体から冷気が迸り、周辺の地面を凍りつかせた。
暴徒は突然凍った地面に対応できず足を取られ、盛大に転んでしまう。
無論、その隙を見逃す理由は無い。
「南無三!」
冷気を纏った刀に首を刎ねられ、暴徒は絶命した。
後に残ったのはお目当ての盾と、首のなくなった死体のみ。
さて、それでは早めにクレーの所に戻るとしよう。
あまり時間は経っていないはずだが、子供は待つのが苦手だからな。
暴徒の持っていた盾を背負い、坂を下って浜辺へ降りる。
見たところ、丁度魚を集め終えたところだったようだ。
「……っと、丁度良いタイミングだ。しかし、随分と良いものを持って来たな」
「暴徒が近くにいてくれて助かりましたよ。……クレー、オジサンがこれにロープを付けている間に、お魚さん達をここにきれいに並べてくれ」」
「うん! クレーに任せて!」
両手に魚を持ち、張り切って魚を並べ始めるクレー。
そんなクレーを横目に見守りつつ、盾に穴を開けてロープを通す。
ロープを通したら、それぞれの先端の方を結べば、簡易ソリの完成だ。
これは本来なら犯人確保用のロープなのだが…………まぁ、勤務時間外だし、この面子なら犯罪者が来ても大丈夫だろう。
「ここは、こーして、ここは、こうで……出来た!」
「どれどれ……んん?」
クレーが並べ終えた魚を見て見る……が、何が何だかわからない。
何かを表現しようとしている事は読み取れるが、それが何かはさっぱりだ。
えーと……多分これは……剣……だよな?
で、これが……
「おお、俺とおじちゃんか。よく出来てるな」
「!?」
「ガイアお兄ちゃん当たり!」
えぇ…………何でわかったんだガイアさん……
畏怖を込めた視線をガイアさんに送るが、帰って来たのはニヒルな笑み。
……まぁ、うん。この人育ち良いし、そう言う感覚が優れているんだろう。多分。
「よーし、それじゃあ帰るとするか。代理団長達に、早くこの魚を届けてやらないとな」
「うん!」
「わかりました……よっ、と」
魚を凍らせて盾に固定してから、ロープを肩にかけて歩き出す。
さて、帰りはモンスターに遭遇しなければ良いんだが……
主人公プロフィール
名前 梅山 義徳 (うめやま よしのり)
誕生日 4月20日
神の目 氷
命ノ星座 灯火座
西風騎士団のワーカホリック侍。こと居合に関して、彼以上の使い手は存在しない。
感想、評価求む!