19話
祭りが終わり、二日が経った。
八重宮司様の式神よりもたらされた情報によれば、大陸の面々も本島へと到着して、俺の捜索を開始しているらしい。
未だに鳴神大社に来た者はいないが、いずれここに誰かが来るのは時間の問題だろう。
出来る事ならモンド勢の誰かが来るのを待って、合流したいところだが────
「喜ぶがいい、坊や。お待ちかねじゃ」
式神との記憶共有を終えたらしい宮司様が、不敵な笑みを浮かべている。
どうやら、とうとう俺の出番が来てしまったようだ。
「……ええ、待ちくたびれましたよ。……して、俺は何をすればいいので?」
「すまぬが少々時間が惜しくてのう。説明は支度をしながらじゃ。まずこれを着よ」
坐禅を解いて立ち上がると、宮司様が俺に衣装を押し付ける。
見たところ紺色の着物に、黒い袴のようだ。
まぁ取り敢えず着るか、と広げてみると、カランカランと何かが落ちた音がする。
一体何だと床を見てみれば、落ちていたのは無骨な面頬と一対の手甲。
「……
「うむ、その通りじゃ」
着物に袖を通しながら聞いてみれば、宮司様はそれに首肯する。
「抵抗軍の事は、もう知っておろう?」
「ええ、珊瑚宮が率いているとか」
「うむ。そして祭りが終わった今、幕府軍は主力を前線に集めておる。どうやら大規模な攻撃を行おうとしておるらしい」
成程、祭りにより兵士の士気が高まった状態で、一気に攻めるつもりか。
となると、まず俺の元同僚達は確実に出て来るだろうな。
それと、政仁様と裟羅様のどちらか、或いはお二方も。
抵抗軍の勢力がどのようなものかは分からないが、海祇島の環境と幕府軍の質が俺の居た当時と大差無ければ、まず間違いなく幕府軍が勝つだろう。
何しろ兵站の強さが段違いだ。それこそ何処かの支援でも無ければ、抵抗軍に勝ち目は無いだろう。
と、言う事は、だ。
「……つまり抵抗軍を守れと」
「結果的にはそうなるじゃろうが、そうではない。膠着状態を作るのじゃ」
「ふむ? というと────うわぷっ」
袴を穿き、帯を閉めて宮司様の方を向くと、いきなり何かが顔に張り付いた。
取ってそれを確認してみれば、何やら黒い長方形の布。
一見すると手拭いのようではあるが、それにしては大きい。
「これは……?」
「頭巾じゃ。これで顔を隠し、その上から面頬を付けよ」
そう言われたので、取り敢えず顔に巻いて面頬を付けてみる。
しかし、この格好だと明らかに不審者でしかないのではなかろうか。
いつの間にか宮司様が持っていた鏡を覗いてみれば、予想通り完全な不審者がそこに居た。
「ふふ、よく似合っておるぞ」
「この状態でそれを言われても全く嬉しく無いです。……しかし、何故このような?」
「顔を隠すために決まっておろう。何を言っておる」
俺の質問に宮司様が呆れたような声色でそう答える。
ああ、そうだった。最近は割と素直だったからすっかり忘れていたが、この人はこう言う人だった。
「はぁ……わざわざ顔を隠してまで、そのような目立つような事をする意味はあるのです?」
「無論、ある」
俺が質問し直すと、宮司様はそのように一言だけ答えた。
そして、ヤシオリ島の方を向いてから再び口を開く。
「言ってしまえば、狼煙じゃな。元よりあの合戦自体が良くないものであると言うのもあるが、謎の剣豪が合戦を無理矢理止めたと言う事実さえあれば、後は勝手に事が動く。そうすれば、隠れていた物事も自ずと見えて来ると言うものよ」
「……ふむ」
手甲を着けながら、成程なと感心した。
俺は確かに現在の稲妻にとって最大規模の地雷ではあるが、それが起爆
となれば……そうだな。
「やり方については、こちらで決めて大丈夫ですね?」
「随分とやる気じゃのう。何、好きにやるが良い」
確認を取ってみれば、宮司様は鷹揚に頷く。
「わかりました。それでは行って参ります」
「うむ」
宮司様に一礼してから、柵を飛び越えて神櫻の横を抜けて崖の下へ。
そして落下の衝撃を消して着地し、ヤシオリ島の方角目掛けて走って行く。
ただ、顔を隠しているとは言え、何処に誰が居るのかは分からない。
出来る限り誰の目に映る事もないよう、十分に気をつけなければ。
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