西風騎士団のワーカホリック侍   作:POTROT

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20話

 鳴神島からヤシオリ島に向かう方法は、大まかに二つある。

 

 まず一つ目は、氷元素で海面を凍らせて渡る事。

 稲妻を出る前の俺が取っていた手段だ。

 だが、これは別に見られても問題無い状態だから使えるのであって、今のような状況でそんな事をしようものなら、一瞬で見張りに見つかって詰みだ。

 

 なので、今回はもう一つの手段こと、船での渡航を取る。

 と言っても、正規の方法ではない。幕府の軍船に潜入するのだ。

 勿論、中には大勢の武士達が乗っている事だろう。

 しかし、そんな中でも俺であればバレる事はまず無い。

 万が一バレたとしても、船の中であれば簡単に対処が出来る。

 方法自体は他にも色々とあるのだろうが、恐らくこれが一番安全かつ確実な方法だろう。

 

 そうと決まれば、さっさと目的地に辿り着くに限る。

 滝壺を横切り、川を伝って紺田村の方に向かう。

 既に慣れきった道だ。走り方は体が覚えている。

 しかも、張り出した木の根の位置も、転がっている岩の数も、段差の高さも変わっていないので、それこそ目を瞑ってでも走破できそうだ。

 

 だが、今回はそれに挑戦するわけにはいかない。

 数年前とは違い、今の俺は周囲の目を気にする必要がある。

 いくら俺に索敵能力があると言っても、流石に数十メートル先にいる者の気配は察知できない。

 視線がこちらに向いていれば流石にわかるが、それだともう手遅れである。

 しっかりと、目視で周囲の状況を把握しなくては。

 

「…………ぬぅ」

 

 しっかし、こうやって注視してみるとわかるが、何とまぁ宝盗団や浪人どもの多い事よ。

 まぁ、原因は合戦で天領奉行の主力をヤシオリ島へ送っているからだろうが、それにしたって数が多い。

 こうも数多くの浪人共や宝盗団共を見ていると、俺の中から連中を殲滅してやりたいと言う衝動が生まれてくるが、生憎と今はそんな事をしている場合ではない。

 実に口惜しいが、ここは無視させてもらおう。

 

「……む?」

 

 とは言え、俺を見てしまったならば無視するわけにもいかない。

 夜蘭さんやらガイアさんやら、そいつが覚えてさえいれば幾らでも情報を吸い出せるような人間は、それこそ幾らでも居るのだ。

 今ここで新たに俺の確定した情報を渡すのは、少々いただけない。

 となれば、記憶が定着する前に落とすしかあるまい。

 

「命を捨てに────うぐッ……!?」

 

 俺を見て刀を抜こうとした浪人の側頭部を、強めにぶん殴って気絶させる。

 そして周囲に居た仲間達も、気付かれる前に急所を殴って確実に落とす。

 こうしてやれば、目覚めた時俺の事を覚えている人間は誰も居ないだろう。

 

 ちなみに、ここで注意しなければならないのは、殺さない事だ。

 口封じに一番手っ取り早い手法であるのは間違いないが、俺の場合は殺し方で俺の仕業だと分かってしまう。

 かと言って殺し方を偽装しようにも、無駄な時間がかかってしまう。

 そこで、早さと確実性を両立すべく考えた結果、殴打による気絶に行き着いたわけだ。

 拳に剣気を纏った状態で殴ったりと、そう言った下手を打たなければ特に外傷もないので、水や雷の元素の仕業に見せかけられるのが特に強い。

 

 あ、剣気というのは鋭利さを持った気で、斬撃が剣の大きさに比べて明らかに広かったり、斬撃が飛んだりする正体がこれだ。

 また、これを応用すれば、手刀をまるで包丁と同じように使う事もできる。

 まぁ、俺はそんな事せず普通に包丁を使うが。

 

 と、そんな事はどうでもいいとして、そろそろ紺田村が見えてきた。

 この辺りで一度川沿いを外れて真南に移動し、河口のあたりで白狐の野に直接行くとしよう。

 

「────ん?」

 

 誰かが来たな。

 ここはまず茂みの中でやり過ごすか。

 

 近くにあった手頃な茂みの中に入り、気配を殺す。

 そして、葉の隙間から接近してきた人物の事を観察してみると────

 

「…………誰だ?」

 

 声には出さず、口の中でそう呟く。

 長い白髪、俺のインナーに似た黒い服を着た、長身の女性。

 少なくとも、俺の知っている人間ではない。

 だが、髪色と服の雰囲気から察するに、おそらくは璃月の、それも仙人に近い人物だろう。

 

 しかし、まさか仙人に近しいであろう者を俺探しに使うのか。

 七星の本気度がよくわかるな。捕まったら封印でもされるのではなかろうか。

 やはり絶対に璃月に戻るわけにはいかないな。

 

 ……で、まぁ、取り敢えずはあの女性が見えなくなるまでは身を潜めておくことにしよう。

 あの七星の事だ。一人にでも見つかったら、たちまち捜索に来た全員に知れ渡るような捜査体制を組んでいるに違いない。

 万に一つも見つかる事がないよう、些か慎重に動くべきだ。

 

 気配を完全に殺して自然と同化し、女性が過ぎるのをジッと待つ。

 女性の姿がだんだんと近づいてきて、そして俺のすぐ近くで一度立ち止まり、俺のいる方を軽く見回すと、再び歩き出して行った。

 

「………………は?」

 

 女性が見えなくなった頃、ようやく喉の奥からその一文字が絞り出る。

 これには、流石に戦慄を禁じ得ない。

 

「……え、いや……マジか」

 

 確かに気配を消していたと言うのに、()()()()()()()

 しかもそれだけではない。 

 先程の彼女は()()()()()()()()()()()

 そう、あの女性が近づいてから離れるまで、俺は目でしか彼女を認識できていない。

 彼女の『気配』を、一切感じ取っていないのだ。

 

 確かに『気配を殺す技術』と言うのは確立されている。

 だが、それらはどれも非常に高度なものであり、俺でも今のようにジッと動かない事でしか完全に気配を殺す事はできない。

 恐らくだが、これは将軍様もおおよそ同じだろう。

 

 しかし、彼女はあのように悠然と歩きながらも、完全にその気配を消していた。

 しかも、その完全に消した気配に、ある程度は気付いていた。

 つまり、そこから弾き出される結論は────

 

「俺以上の達人……と言うよりは、レザー君に近い感じ、だろうか」

 

 特殊環境での生育により獲得した、普通の人間にはない特殊能力。

 俺以上の達人と考えるよりは、そのような物を持っている可能性の方が高いだろう。

 しかし、どちらにせよ俺を上回る気配遮断を操れる上、俺の気配遮断を不完全とは言え見破れる……か。

 

「となれば、接触はもう秒読みだな……ここからは、残りの時間でいかに多くの事を済ませられるかの戦いだ」

 

 そう呟いて茂みを飛び出し、白狐の野の方へ走る。

 そろそろ昼だ。暗くなる前にヤシオリ島へ着けるようにするならば、もうじき出航だろう。

 遅れないよう、急いで向かわなくては。

 





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